王女と男爵令嬢

青の雀

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9.孫

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 アクエリアス王女殿下と愚息ハロルドが王都へ戻ってきた、とベンジャミン家から王家に連絡があった。

「今夜は、ベンジャミン家でもてなしをして、明朝にでも王城に登城させるべく手配をした」

 これを見たユリウスが激怒したことは言うまでもない。先触れも出さずに、いきなりベンジャミン家を訪れるというひと悶着があったばかり。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 アクエリアスは、どうしてもお城に帰りたくはなかったので、先に夫の公爵邸に転移魔法でテレポートしたのだ。

 一度、行ったことがある場所には、簡単にテレポートできるから、子供2人を連れて、ベンジャミン家を訪れた。

 どやされるかと思っていたら、意外にも公爵夫妻に歓迎された。王女と駆け落ちした息子が、孫を2人連れて帰ってきてくれたことを大喜びしている。

 今も2歳になる王子ヘミングウエイをあやしているベンジャミン公爵様は、ヘミングウエイに「じいじ」と呼ばれて喜び、重いのに無理して「高い高い」を何度もやっている。

 公爵夫人は王女のリブラ(てんびん座)の世話を自らせっせと焼き。
「わたくし、女の子が欲しかったのよ。産んでくれてありがとう。それにヘミングウエイちゃんは、ハロルドの小さい頃に瓜二つだわ」

 なんとか受け入れてもらえて、ホっと胸を撫でおろす。

 そこへドタドタという足音が近づいてきて、いきなり扉がバンッ!と音を立てて開く。

 父ユリウスが鬼の形相になって、突っ立っているではないか!

 あ、これ、怒られるやつだ。

 咄嗟に身をかがめると、父は、形相とは態度が違い、いきなりアクエリアスを抱きしめてくる。

「今まで、どこをほっつき歩いていたんだ。どれだけ心配したかわかるか?アクエリアス、顔を見せておくれ。少し太ったのではないか?」

 産後太りよ。悪かったわね!

 キっと睨みつけ、
「陛下もご機嫌麗しゅう……、何よりでございます」
 わざとそっけなく言ってやったのに、涙はおろか鼻水まで垂らして、グチョグチョに顔を濡らしている。

 未だかつて見たことのないユリウスの顔に、良心がチクリと痛む。でも、そんな顔で抱き着いてこられ、少々気味が悪いのも確か。

 だって「偽王女」が帰ってきたのだもの、これから処刑するようには、とても見えない。もう処刑は、やめて、円満にベンジャミン家に嫁にやるでいいのでは……?淡い期待を寄せるも、ユリウスは、孫の存在に気づくと

「その子供たちは、アクエリアスの子供か!?それならば、儂の孫ではないか、よーしよし。お祖父ちゃんだよぉ、こっちへおいで」

 だがベンジャミン公爵夫妻は、頑として孫たちを渡さない。そればかりか孫二人を抱っこして、別室に消えていった。

「おい!待て!どこへ行く?不敬なるぞ!」

「陛下、いい加減にしてよ。明日、お城に行くって伝令を出したでしょ」
「名前は付けたか?」

 当たり前でしょ。名無しでいられるわけがないもの。ハァっとため息を吐きながら

「上が息子で2歳になるヘミングウエイ、下が娘でリブラ。まだ0歳よ」
「王子と王女か、早速、城に部屋とオモチャと乳母の手配をせねばならんの」
「必要ないわ。どうせ、すぐ帰るのだもの」
「帰るのは、城だ!アクエリアスに他の居場所は必要ない!」
「そんなこと言わないでよ。こっちにはこっちの生活があるのよ」
「アクエリアスこそ、何を言っている!?大事な世継ぎが世継ぎを産んで戻ってきたというのに、他に誰が儂の後を継ぐというのだ?」
「……」

 フローラルがいるくせに!辛うじて、その言葉を飲み込んだアクエリアスは自分で自分を褒めてあげたくなった。

 なんでいつまで、構うの?ほっといてよ。もう、やっとの思いで掴んだ幸せなんだから、このままそっとしておいて。

 結局、その夜はベンジャミン家で一夜を明かすことになるが、なぜかユリウスも城へ帰らずベンジャミン家の客間を利用した。

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