15 / 15
15.審判の日
しおりを挟む
アクエリアスが3人目を懐妊したことがわかってから3日目、王妃エレノアの日記が公開された。
それと同時に地下牢のメス豚が暴れているという知らせを受け取った。なんと探していたヒロインが地下牢に投獄されていたとは知る由もないことで、それで急遽、あのメス豚も陛下の種である可能性が浮上してきて、男爵未亡人のリリアーヌと共に審問の場が用意されることになった。
アクエリアスは、およそ3年半ぶりに目をするヒロインの姿に愕然とした。双子だと言われてもにわかに信じがたいぐらい3年半前と容姿が変貌している。
3年半前、確かに顔は似ていたけど、身長の差があったので、さほど危機感は持っていなかったのだが、今はある意味、その時よりもひどく動揺している。
アクエリアスは12歳になってから急激に背が伸び始め、15歳になる時には慎重166センチ、体重53キロのスレンダーボディだった。
今の身長は当時とかわらないものの3人目の懐妊を果たし、産後太りも相まって57キロまで太ってしまった。
標準体重のうちでも、ハロルドに愛想を尽かされないかと心配で必死にダイエットに励んでいる。
なんせフローラルはメス豚と形容されてもおかしくないぐらいドラム缶体型が良く似合っていた。身長の差も体重の差も予想をはるかに上回る姿にビックリしてしまい、言葉を失う。
「私が真の王女フローラルよ!この偽物風情が何、偉そうに王女面しているのよ!」
「お黙りなさい。エレノア王妃の日記帳が出てきた今、そなたもエレノア妃の娘ではないということは明白になっておる」
宰相のアムンゼンが一喝する。
「え……でも、乙女ゲームの中での設定が……」
「何、訳の分からぬことを呟いておる。男爵未亡人リリアーヌ、前へ」
「はい」
リリアーヌが宰相アムンゼンと共に、ユリウスの御前に進み出る。
「久しいのぉ、リリアーヌ。そなたが城を去ったいきさつを初めて知った。今まで苦労を掛けてすまない」
「いいえ。滅相もございません」
「産婆の婆さんが、証言してくれた。リリアーヌは儂の娘を二人も産んでくれたそうだな?」
「あの時は、初産で痛くて、何が何だかわからないまま出産していました」
「アクエリアスは、もうこんなに立派な娘となってくれて、王女として活躍している。もしよければ、リリアーヌよ。またこの城へ戻ってきて、側妃として儂に仕えてはもらえぬだろうか?」
「えっ!?ですが……頭の緩い娘が一人おりますので……」
「かまわん今のままではどうしようもないが立派なレディとなる日まで教育させてもらおう。さすれば、嫁の貰い手ぐらいあるかもしれん」
「ありがたき幸せに存じます」
こうして、正式にリリアーヌはユリウスの側妃として仕えることが決まったのだが、……どうしようもない頭の緩い娘はというと、厳しいお姫様教育に2日で音を上げ、隙を見ては逃げ出す始末に周りが苦笑している。
生まれも血筋も同じでも、その後にどう考え、成長したかによって、まったく違う人生が待っている。
フローラルの訓練メニューは、騎士団の訓練場の走り込みから始まる。もちろん他の訓練生と同じ内容だが、フローラルは10週走らなければならないところを1周でダウンして、息も上がっている。
「もう、ダメ休ませてよ」
「甘ったれるな!それでもアクエリアス様の姉か!」
勉強メニューをさせたら、悉く赤点だったので、カラダを遣うことの方が向いていると思われて、騎士団に体験入団させられたのだ。
その後、二人一組で模擬試合の手合わせをして、その後、腕立て伏せと腹筋が100回ずつ、そして模擬刀の素振りをしてから朝食が始まる。
朝食後は乗馬だが、まず厩舎で馬の世話から始める。馬に蹄鉄を嵌め、轡を噛ませて鞍を載せる。
満足にできなければ、馬からバカにされ、二度と乗せてもらえなくなる。
「もう自転車があるでしょ!自転車なら乗れるわっ!」
「偉そうに言うな!自転車もアクエリアス様が考案されたのだぞ!貴様は妹の手柄を横取りしたいのかっ!?バカ者目が!」
「ぅぐっ!」
何かといえば、アクエリアスばかりが目立って、高い評価を得ている。私だって、王女として生まれていたなら、アクエリアスぐらいのこと……いや、無理だっただろうな。なんてったって、私はズボラ姫だもの。怠け者でごろごろするしか能がない。
それならば、いっそのこと娼館で働くか!?と思い直し、父に願い出たところ、
「女として魅力がなさすぎる」
一言でまたもや切り捨てられてしまった。仕方なく妹に相談してみると、
「もう一度、学園に入りなおしたらどう?フローラルのことを可愛いと思ってくれる殿方だっているはずよ」
父よりはマシな助言に目を輝かすものの3歳も4歳も年上女を可愛いと評する男性がいるのだろうか?と疑問に感じてしまう。
仕方なく訓練場のランニングに勤しむ。あまりにも何もできない自分がイヤになる。当然、ゲームの攻略対象者のハロルドには見向きもされない。
可愛くもなければ、美人でもないし、賢くもない。さりとて何か特別な才能があるわけでもないし、魔法も使えない。努力するのは大嫌いな性格と来ている。アクエリアスのことを愚痴って、うらやましがるだけの自分にほとほと嫌気がさすが、実母のように権力者に愛されもしない。
たぶん19年前に、最初に生まれたのがフローラルだったとしても、絶対エレノア王妃様は選んでくれなかったと確信している。
可愛気がない。
その一言を言われると、ちっぽけな自分がますます嫌いになる。
そんな時、庭師のオジサンと仲良くなった。そう言えば、前世の自分は農家の娘だった。当時は土いじりが大嫌いだったけど、この世界に転生してからは、土があるところをが妙に居心地がいいし、落ち着くことに気づいた。
それで庭師のオジサンを通じて、農家のお孫さんを紹介してもらい、今は着実に農家のお嫁さんになれるように頑張っている。
庭師のオジサンもお孫さんも、フローラルのことを
「お姫様に来ていただくような家ではございません」と、固辞されていたけど、もうフローラルには行き場所がない。
だから必死に縋りついて、やっとお嫁に行くことが決まった時には心底ホッとした。妹にも祝辞をもらって、両親に見送ってもらった。
これからは、文字通り「地に足をつけて」生きていきます!
それと同時に地下牢のメス豚が暴れているという知らせを受け取った。なんと探していたヒロインが地下牢に投獄されていたとは知る由もないことで、それで急遽、あのメス豚も陛下の種である可能性が浮上してきて、男爵未亡人のリリアーヌと共に審問の場が用意されることになった。
アクエリアスは、およそ3年半ぶりに目をするヒロインの姿に愕然とした。双子だと言われてもにわかに信じがたいぐらい3年半前と容姿が変貌している。
3年半前、確かに顔は似ていたけど、身長の差があったので、さほど危機感は持っていなかったのだが、今はある意味、その時よりもひどく動揺している。
アクエリアスは12歳になってから急激に背が伸び始め、15歳になる時には慎重166センチ、体重53キロのスレンダーボディだった。
今の身長は当時とかわらないものの3人目の懐妊を果たし、産後太りも相まって57キロまで太ってしまった。
標準体重のうちでも、ハロルドに愛想を尽かされないかと心配で必死にダイエットに励んでいる。
なんせフローラルはメス豚と形容されてもおかしくないぐらいドラム缶体型が良く似合っていた。身長の差も体重の差も予想をはるかに上回る姿にビックリしてしまい、言葉を失う。
「私が真の王女フローラルよ!この偽物風情が何、偉そうに王女面しているのよ!」
「お黙りなさい。エレノア王妃の日記帳が出てきた今、そなたもエレノア妃の娘ではないということは明白になっておる」
宰相のアムンゼンが一喝する。
「え……でも、乙女ゲームの中での設定が……」
「何、訳の分からぬことを呟いておる。男爵未亡人リリアーヌ、前へ」
「はい」
リリアーヌが宰相アムンゼンと共に、ユリウスの御前に進み出る。
「久しいのぉ、リリアーヌ。そなたが城を去ったいきさつを初めて知った。今まで苦労を掛けてすまない」
「いいえ。滅相もございません」
「産婆の婆さんが、証言してくれた。リリアーヌは儂の娘を二人も産んでくれたそうだな?」
「あの時は、初産で痛くて、何が何だかわからないまま出産していました」
「アクエリアスは、もうこんなに立派な娘となってくれて、王女として活躍している。もしよければ、リリアーヌよ。またこの城へ戻ってきて、側妃として儂に仕えてはもらえぬだろうか?」
「えっ!?ですが……頭の緩い娘が一人おりますので……」
「かまわん今のままではどうしようもないが立派なレディとなる日まで教育させてもらおう。さすれば、嫁の貰い手ぐらいあるかもしれん」
「ありがたき幸せに存じます」
こうして、正式にリリアーヌはユリウスの側妃として仕えることが決まったのだが、……どうしようもない頭の緩い娘はというと、厳しいお姫様教育に2日で音を上げ、隙を見ては逃げ出す始末に周りが苦笑している。
生まれも血筋も同じでも、その後にどう考え、成長したかによって、まったく違う人生が待っている。
フローラルの訓練メニューは、騎士団の訓練場の走り込みから始まる。もちろん他の訓練生と同じ内容だが、フローラルは10週走らなければならないところを1周でダウンして、息も上がっている。
「もう、ダメ休ませてよ」
「甘ったれるな!それでもアクエリアス様の姉か!」
勉強メニューをさせたら、悉く赤点だったので、カラダを遣うことの方が向いていると思われて、騎士団に体験入団させられたのだ。
その後、二人一組で模擬試合の手合わせをして、その後、腕立て伏せと腹筋が100回ずつ、そして模擬刀の素振りをしてから朝食が始まる。
朝食後は乗馬だが、まず厩舎で馬の世話から始める。馬に蹄鉄を嵌め、轡を噛ませて鞍を載せる。
満足にできなければ、馬からバカにされ、二度と乗せてもらえなくなる。
「もう自転車があるでしょ!自転車なら乗れるわっ!」
「偉そうに言うな!自転車もアクエリアス様が考案されたのだぞ!貴様は妹の手柄を横取りしたいのかっ!?バカ者目が!」
「ぅぐっ!」
何かといえば、アクエリアスばかりが目立って、高い評価を得ている。私だって、王女として生まれていたなら、アクエリアスぐらいのこと……いや、無理だっただろうな。なんてったって、私はズボラ姫だもの。怠け者でごろごろするしか能がない。
それならば、いっそのこと娼館で働くか!?と思い直し、父に願い出たところ、
「女として魅力がなさすぎる」
一言でまたもや切り捨てられてしまった。仕方なく妹に相談してみると、
「もう一度、学園に入りなおしたらどう?フローラルのことを可愛いと思ってくれる殿方だっているはずよ」
父よりはマシな助言に目を輝かすものの3歳も4歳も年上女を可愛いと評する男性がいるのだろうか?と疑問に感じてしまう。
仕方なく訓練場のランニングに勤しむ。あまりにも何もできない自分がイヤになる。当然、ゲームの攻略対象者のハロルドには見向きもされない。
可愛くもなければ、美人でもないし、賢くもない。さりとて何か特別な才能があるわけでもないし、魔法も使えない。努力するのは大嫌いな性格と来ている。アクエリアスのことを愚痴って、うらやましがるだけの自分にほとほと嫌気がさすが、実母のように権力者に愛されもしない。
たぶん19年前に、最初に生まれたのがフローラルだったとしても、絶対エレノア王妃様は選んでくれなかったと確信している。
可愛気がない。
その一言を言われると、ちっぽけな自分がますます嫌いになる。
そんな時、庭師のオジサンと仲良くなった。そう言えば、前世の自分は農家の娘だった。当時は土いじりが大嫌いだったけど、この世界に転生してからは、土があるところをが妙に居心地がいいし、落ち着くことに気づいた。
それで庭師のオジサンを通じて、農家のお孫さんを紹介してもらい、今は着実に農家のお嫁さんになれるように頑張っている。
庭師のオジサンもお孫さんも、フローラルのことを
「お姫様に来ていただくような家ではございません」と、固辞されていたけど、もうフローラルには行き場所がない。
だから必死に縋りついて、やっとお嫁に行くことが決まった時には心底ホッとした。妹にも祝辞をもらって、両親に見送ってもらった。
これからは、文字通り「地に足をつけて」生きていきます!
164
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【短編】男爵令嬢のマネをして「で〜んかっ♡」と侯爵令嬢が婚約者の王子に呼びかけた結果
あまぞらりゅう
恋愛
「で〜んかっ♡」
シャルロッテ侯爵令嬢は婚約者であるエドゥアルト王子をローゼ男爵令嬢に奪われてしまった。
下位貴族に無様に敗北した惨めな彼女が起死回生を賭けて起こした行動は……?
★他サイト様にも投稿しています!
★2022.8.9小説家になろう様にて日間総合1位を頂きました! ありがとうございます!!
【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。
まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。
私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。
お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。
けれど、彼に言われましたの。
「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」
そうですか。男に二言はありませんね?
読んでいただけたら嬉しいです。
攻略対象の王子様は放置されました
蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら
雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」
「え?」
伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。
しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。
その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。
機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。
そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。
しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。
*他サイトでも公開しております。
公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。
それは確かに真実の愛
宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。
そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。
そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。
そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
私との婚約は、選択ミスだったらしい
柚木ゆず
恋愛
※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。
幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。
ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。
この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。
貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。
だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる