王女と男爵令嬢

青の雀

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14.エレノア日記

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 将来、アクエリアスのことで、王位継承権に問題が起こった時のために記しておきたいことがございます。

 その書き出しで始まったエレノアの日記帳なるものが発見された。

 アクエリアスは、国王ユリウスと王妃エレノアとの間の子ではございません。ですが、間違いなく父親は国王ユリウスであることをここに証言致します。

 私が産んだ本当の娘は死産でした。そして私も余命いくばくもないカラダになってしまいました。

 娘が死産だとわかった時、私は人払いをして、こっそりリリアーヌの分娩室に行きました。

 リリアーヌは、まだ分娩の最中だった。どうやら多胎妊娠をしていたという噂が本当だったことを知りました。

 多胎妊娠というのは、双子以上の子供を妊娠した時に与えられる言葉です。

 産湯を遣ったばかりの可愛らしい赤子がスヤスヤと眠っているのを見た時、無性に、この娘を奪ってやりたいという衝撃に駆られ、ついに実行してしまいました。

 それはまもなくユリウス陛下が私の部屋にお見舞いに来られると聞いていたので、どうしても私が死産だったと知られたくないとの一心から、出来心でリリアーヌの赤子を奪ってしまったのです。

 そのことは、反省しております。

 一瞬の出来事だったけど、私の腕の中で眠っている赤子が目を覚まし、私に向かってニッコリと微笑んでくれた時は、嬉しかった。涙が出るほど嬉しくて、それに抱いている赤子の体温が伝わってきて、思わず優しい気持ちになれたことも覚えています。

 陛下との面会が終われば、こっそり返しに行こうと思っていたのに、返しに行ったときには、すでにリリアーヌの分娩が終わっていた。

 リリアーヌが双子の女の子を産んだことは、産婆をしていたシャーロット・ホームズをおいては誰もいない。

 それをいいことに、アクエリアスを私が産んだ娘として、王家の籍に入れることにした。

 私はシャーロットに固く口止めをして、口止め料として、いくつかの金貨と宝石を渡した。シャーロットは私との約束を守ってくれたようで、陛下にも口裏を合わせてくれた。

 厳密に言えば、私の侍女だったリリアーヌも、陛下のお手付きとなり妊娠してからは、リリアーヌが産んだ子は庶子ではなく、腹違いの姉妹となり、王女となるべく生まれてきたのだが、私はそれを恐れた。

 なぜなら成長していくに従い、同じ遺伝子を持った姉妹が似てくるのは必定の話で、アクエリアスの出生の秘密がバレてしまうことは怖かった。と同時に、私の娘が死産ということになれば、陛下の寵愛が私からリリアーヌニ移ってしまうのではないかと恐れたからです。
 それでバレないように、リリアーヌを敢えて執拗にイジメ、リリアーヌを城から追い出すことに成功した。

 世間では、きっと私の嫉妬からリリアーヌを追い出したと思っているでしょうが、それは事実ではありません。

 リリアーヌの娘が双子だということと、アクエリアスが成長後、その姉妹と顔を合わせた時、あまりにも似ていたら、それだけで疑念や誤解が生じてしまうことを恐れたからです。

 すべてはアクエリアスを護るため、私が仕組んだことです。

 それについては、リリアーヌに申し訳ないことをしてしまったと深くお詫びします。

 リリアーヌのことを本当に嫉妬していたのなら、妊娠が分かった直後にお城から追い出してしまっているはずです。

 それを出産後追い出したのは、まぎれもなくアクエリアスともう一人の姉妹の存在を隠したかった他ならないのです。

 ご迷惑をおかけすることになり申し訳ございません。

 ですがあの時抱いたアクエリアスの温かい体温が忘れられずに、罪を犯してしまいました。

 最後にアクエリアスが、ストックホルム国の王女として立派に務めを果たすことを願ってやみません。

 日付と王妃のサインが遺されていた。

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