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マザコン
3.
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案の定、月曜日に出社しても、いつもと何も変わっていなかった。
ゴっとして、秘書室の定位置に座り、パソコンを開くと専務からメッセージが入っていて、週末の非礼を詫びた内容だった。
とかった。案外、まともな人で。胸をなでおろしていると、少し空いたドアから専務が顔を出し、呼ばれる。
「瀬田さん、ちょっと。」
メモと筆記具を持って、専務室に行くと、いきなりカギをかけられる。
「?」
何か秘密の話だろうか?
「筆記具は、その辺に置いといて。」
「はい。」
専務は背広の上着を脱ぎ、コート掛けにハンガーでつるす。ネクタイを無造作に緩め、智子に近寄ってくる。
そして、いきなりともこの腰を抱き寄せ、唇を奪おうとしてきたので、慌てて専務の肩のあたりを押す。
「付き合いたいって言ったの、そっちだろ?」
「え?覚えていらしたんですか?」
「当たり前だ。俺は狙った獲物は逃さない。いいから黙って俺を受け入れろ。」
「いやいや。無理です。」
「なんだと?お前、俺を振る気か?」
専務は、よほど驚いたのか、目を見開いたまま微動だにしない。
「あはは。気に入ったぜ。俺はお前を絶対あきらめない。必ず落としてみせる。」
言いながら、右手で智子の顎を持ち上げ、無理やりキスをしてきた。噛みついてやろうかとも思ったが、言っている割には、優しいキスだったので、それを受け入れた。
それからというもの、毎日恋の駆け引きが始まる。専務は押しては引き、引いては押すを繰り返し、なんとか智子を懐柔しようとしている。
智子も絶対、落ちてやんない!つもりだったが、ある日を境に態度を少し改める。
それは、会社帰り、いつもの道を通らずに少し遠回りして、買い物でも、というより買い物の下調べをしようとぶらついていると、ウインドウに見知ったカップルの姿が写り込んでしまうのを見つけたからだ。
元恋人と給料ドロボーの浮気相手の姿だった。それを見た途端、たとえ相手が意に沿わない奴(専務の久志のこと)でも、当てつけ婚をしてやろうかと思ったのだ。まあ、すべてはこれが間違いの元だったんだけどね。
それで試しに、専務の方へ智子が少し歩み寄り姿勢を見せたら、久志は喜び勇んで、智子にダイブしてきやがった。
押し倒してきたのだ。イヤな奴だと思っていても、力では男にかなわない。あっという間に組み伏せられてしまって。股間を蹴り上げようかとも思ったけど、そこまでするよりは、味見をした方が美味しいかも?と思ってしまったのだ。
俎上の鯉よろしく久志の愛撫に身を任せることにした。久志は女慣れしているかのような手つきで、俎上の智子を優しく激しく翻弄していく。
次第にお互いがお互いを求め合うようになり、夢中で貪り合うまでになっていく。セフレとしては最高の相手かも?と思ったことは今でも失敗だったと思う。
久志は久志でやっと手に入れた掌中の珠を逃してなるものかと必死になり、夢中になり過ぎてしまったのだ。
一度、肌を重ねる関係になると、もう次からはいくら取り繕っても無駄なことはよくよく承知しているのだが、それでもささやかな抵抗を試みる。
もうどちらが年上で、どちらが年下の関係かわからなくなるほど、じゃれあって、その場、その時を楽しむ関係になってしまう。
久志は智子に夢中になり、智子もまたしかり。
当てつけ婚だと思ったことさえ、嘘のように今は久志が欲しい。もう元恋人なんか、どこかへ行ってしまった。給料ドロボーの存在も、今は別会社だし、関係ないと思ってしまえる。
嘘から出た実で、二人が本当の恋人関係になっていく様を憎々しげに眺めていた人物がいたが、二人は幸せすぎて、そのことに気づかないでいる。
結婚式の日取りが近づくにつれ、周囲の人にでもいら立ちがハッキリわかるようになるのだが、何に対してのいら立ちかわからないまま、二人は挙式し、そのまま新婚旅行へ行く。
ゴっとして、秘書室の定位置に座り、パソコンを開くと専務からメッセージが入っていて、週末の非礼を詫びた内容だった。
とかった。案外、まともな人で。胸をなでおろしていると、少し空いたドアから専務が顔を出し、呼ばれる。
「瀬田さん、ちょっと。」
メモと筆記具を持って、専務室に行くと、いきなりカギをかけられる。
「?」
何か秘密の話だろうか?
「筆記具は、その辺に置いといて。」
「はい。」
専務は背広の上着を脱ぎ、コート掛けにハンガーでつるす。ネクタイを無造作に緩め、智子に近寄ってくる。
そして、いきなりともこの腰を抱き寄せ、唇を奪おうとしてきたので、慌てて専務の肩のあたりを押す。
「付き合いたいって言ったの、そっちだろ?」
「え?覚えていらしたんですか?」
「当たり前だ。俺は狙った獲物は逃さない。いいから黙って俺を受け入れろ。」
「いやいや。無理です。」
「なんだと?お前、俺を振る気か?」
専務は、よほど驚いたのか、目を見開いたまま微動だにしない。
「あはは。気に入ったぜ。俺はお前を絶対あきらめない。必ず落としてみせる。」
言いながら、右手で智子の顎を持ち上げ、無理やりキスをしてきた。噛みついてやろうかとも思ったが、言っている割には、優しいキスだったので、それを受け入れた。
それからというもの、毎日恋の駆け引きが始まる。専務は押しては引き、引いては押すを繰り返し、なんとか智子を懐柔しようとしている。
智子も絶対、落ちてやんない!つもりだったが、ある日を境に態度を少し改める。
それは、会社帰り、いつもの道を通らずに少し遠回りして、買い物でも、というより買い物の下調べをしようとぶらついていると、ウインドウに見知ったカップルの姿が写り込んでしまうのを見つけたからだ。
元恋人と給料ドロボーの浮気相手の姿だった。それを見た途端、たとえ相手が意に沿わない奴(専務の久志のこと)でも、当てつけ婚をしてやろうかと思ったのだ。まあ、すべてはこれが間違いの元だったんだけどね。
それで試しに、専務の方へ智子が少し歩み寄り姿勢を見せたら、久志は喜び勇んで、智子にダイブしてきやがった。
押し倒してきたのだ。イヤな奴だと思っていても、力では男にかなわない。あっという間に組み伏せられてしまって。股間を蹴り上げようかとも思ったけど、そこまでするよりは、味見をした方が美味しいかも?と思ってしまったのだ。
俎上の鯉よろしく久志の愛撫に身を任せることにした。久志は女慣れしているかのような手つきで、俎上の智子を優しく激しく翻弄していく。
次第にお互いがお互いを求め合うようになり、夢中で貪り合うまでになっていく。セフレとしては最高の相手かも?と思ったことは今でも失敗だったと思う。
久志は久志でやっと手に入れた掌中の珠を逃してなるものかと必死になり、夢中になり過ぎてしまったのだ。
一度、肌を重ねる関係になると、もう次からはいくら取り繕っても無駄なことはよくよく承知しているのだが、それでもささやかな抵抗を試みる。
もうどちらが年上で、どちらが年下の関係かわからなくなるほど、じゃれあって、その場、その時を楽しむ関係になってしまう。
久志は智子に夢中になり、智子もまたしかり。
当てつけ婚だと思ったことさえ、嘘のように今は久志が欲しい。もう元恋人なんか、どこかへ行ってしまった。給料ドロボーの存在も、今は別会社だし、関係ないと思ってしまえる。
嘘から出た実で、二人が本当の恋人関係になっていく様を憎々しげに眺めていた人物がいたが、二人は幸せすぎて、そのことに気づかないでいる。
結婚式の日取りが近づくにつれ、周囲の人にでもいら立ちがハッキリわかるようになるのだが、何に対してのいら立ちかわからないまま、二人は挙式し、そのまま新婚旅行へ行く。
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