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「はじめまして、私が藤堂加奈子さんから数えて、おそらく6代目転生者のクリスティーヌ・アントワネット、サンドラ王国の公爵令嬢でございます。」
「そ、それはどうも、ご丁寧なごあいさついたみ入ります。私は、中里潤東京大学医学部の6年生です。」
「では、本題に入りましょうか?クリスティーヌちゃん、未来を回避する方法を考えてくれた?」
「いろいろ考えたのですけれど、未来を変えず、過去を変えてみませんか?」
「え?どういうこと?」
「だから元の旦那さんと結婚する前にです。ナカジュンさんと6歳差だから、大学に入った直後に藤堂家へ婿養子に入るというのは、どうですか?そしたら、今いるお腹の中の子供は紛れもなくナカジュンさんとの子供だということになり、笹崎麗華に殺されることはない。」
「「……。」」
「ササザキレイカの過去を調べてみれば、けっこう不遇なのよ。それで同情したってわけじゃないけど、あ!それに前の院長先生との子供、前の院長先生が麗華にDVして流産してしまったそうよ。」
「ええ!あいつ、そんなひどいこと笹崎麗華にしたの?医者とも思えないことをするわね。やっぱりあいつ医者としては、不適格者だったということね。わかったわ。過去を変えられるのなら、越したことはないもの。」
「それで聞きにくいのですが、前の院長先生と……いつから恋人関係になられたのですか?」
「クリスティーヌちゃん、あなたまだ10歳のくせに、凄いこと聞くわね。はぁ、結婚話は医師試験で彼がパスしたころからよ。結婚するまでは、私たちはプラトニックな関係でしたわ。きっとあいつ私がブスだから、抱く気になれなかったのでしょう。」
「バカな男だ。女の価値は、顔だけではない。加奈子は素晴らしい女性だ。加奈子愛しているよ。」
「ゥオッフォン!」
わざとらしく大きな咳払いをする。今はいちゃついてもらっては困るから。
「すまない。それにしてもササザキレイカが前の院長の浮気相手だったとは、驚いた。他人の亭主を寝取っておいて、逆恨みもいいところだな。」
「これでもいろいろ考えたのです。最初は、マンホールのふたを開けた時に誤って、マンホールの中に落ちてもらうことにしようか?なんてね。それでは、前の院長への罰にならない。前の院長、最後は自殺するんだけど、それまでは結構いい目を見るのよ。だから未来を変えることは止めて、過去を変えちゃうってどう?」
「笹崎麗華も新しい人生が待っているということだね?」
「では、本題に戻ります。いつ出会いましょうか?できればナカジュン先生が、高校生の頃がいいのだけどね。ナカジュン先生は、開星高校ご出身だから、その時はどう?お父様が東日本の震災でお亡くなりになられているから、中学生の頃でもいいけど?中学生を手籠めにすれば、社会的に藤堂の名が廃る。」
「ちょっとぉ!手籠めにするって何よ?今度のことは、彼が私を襲ってきたのよ、私が手籠めにしたわけではないのですよ!」
「わかってるって、ちょっとしたジョークよ。」
ナカジュンは、手籠めなどの表現を未来の加奈子がしたものだから、真っ赤になっている。
「ナカジュン先生、お誕生日はいつですか?」
「ああ、4月です。4月8日、花まつりの日に生まれました。」
「へぇ!すごい!天上天下唯我独尊ね。」
「なにそれ?」
「ああ、クリスティーヌちゃんは、異世界だから知らないわね。仏教を開いたお釈迦様が生まれた日と同じ日に、ナカジュンが生まれたってことよ。そして、天上天下唯我独尊というのは、自分一人がえらいという意味ではなくて、誰もが平等であるということを言っているのよ。なんといってもインドはカーストの国だから。ああ、インドというのはね……、……。」
長い話になったので、もう聞くことをやめた。要するに4月8日になれば、結婚できるということだから、その前に出会いを作って、恋愛関係に……、いやいや別に今の記憶のまま過去へ行けばいいのだから、恋愛関係は必要ない。
となると、ナカジュン先生が高校3年生の時に、藤堂家に養子に来てもらいトウジュン先生に、加奈子先生が医学部6年生になった途端、結婚してもらえばいいのだから。「旦那様は、18歳!」で整合性がとれる?
前の院長がいくら頑張ったところで、ただの仲良しの学友、ってことよね?
でも、一応、親族への説明用に出会いらしきものを作っておくべきか?それぞれの親の記憶を操作して、だけでいいか?
結局、父親同士が知り合いで、将来、自分たちに子供ができたら結婚させるという話があったということにしようか?一番、すっきりするね。藤堂のお父さんの記憶を操作するだけだから、簡単。なんといっても、ナカジュンパパが死んでいるから、死人に口なし。
高校生の間に結婚することへの合理性は、ナカジュンパパが亡くなっているので、経済的な支援であれば、納得がいく話。
「ねぇ、クリスティーヌちゃん聞いてる?」
「え?なに?」
「やっぱり聞いてない!で、いつ過去を操作するのか、聞いているのよ。」
「これから、すぐよ。ナカジュン先生には、もう一度、大学受験を経験してもらい、加奈子先生には、医師試験を受験してもらいます。」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!これからって、あまりにも性急すぎない?いろいろと心の準備が……?」
「何の準備がいるっていうのよ。そんな準備いくらしたって、もう無駄になるだけなんだからね。わたくしなんて、5度よ。5度のループ、1度でも心の準備なんて、しているヒマがなかったわ。いつもいきなりですわ。さ、行くわよ!さっさと、起ちなさい!」
「「はい。」」
それは、いきなり6年半前の4月8日、教会へ飛んだ。そこでは、結婚式の真っ最中だったのだ。もちろん、ナカジュン先生と加奈子先生の今、まさに誓いのキスをするところ、過去の間のプロセスを一気に飛ばしちゃったわ。記憶操作するだけだから、ね。ナカジュンママは涙、涙。
クリスティーヌには、日本の結婚式場などイメージできないから、教会にしただけ。
加奈子先生、6年半前はまだ花も恥じらう23歳だから、そこそこキレイ?それにウエディングドレスだから、より一層綺麗に見える。
参列の藤堂のお父様は、感無量と言った顔でつぶやく。
「これであいつとの約束が果たせる。」
新婚旅行は、それぞれの夏休みに、と言いたいところだけど、受験を控えているのでそれが終わってからということになる。
まぁ、晴れて名実ともに夫婦になったのだから、やることはできる。どうぞ、御勝手に。ただし6年後クリスティーヌがベルサイユ国王陛下を連れてくることだけは、お忘れなく。
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開星高校の新学期、いきなり中里君が藤堂君になり、先生方も一目を置く。今まではいくら成績優秀者でも震災孤児の母子家庭だから、バカにしていたところはある。
それが大病院の将来の院長先生になるのだから、急に掌返しする先生に、同級生。
それを見て、
「そうか俺は6年前、虐められていたのか?気が付かなかった。」
でも、結婚してから、仲良くしてくる生徒たちを一切遠ざけることにしたのだ。あいつらと仲良くしても、将来何もいいことがないことがわかっているから。
その生徒たちは受験でことごとく失敗し、4浪の果て3流大学にしか行けなかったのである。当然、家では勘当扱いになる。せいぜい、高校生の間だけ、偉そうにしてろ。親が官僚か大企業の創業者の息子ほど、掌返しがうまい。親のDNAが影響しているのだろう。
内心、つぶやき藤堂家へ帰る。結婚する前までは、俺は新聞配達のバイトに勤しんでいたのだが、今は勉強にだけ専念できる。もっとも、一度覚えた記憶があるから、難なく勉強が進むが、やはり6年前の受験勉強は忘れていることもあるから、もう一度覚えなおす。
実家は、遺族年金をもらっているから生活には困らなかったのだが、開星の授業料が存外高く、授業料の足しに新聞配達のバイトと母がパート収入を入れていたのだ。まぁ、死んだ親父の死亡退職金で、ほとんど賄われていたのだが、将来、何があるかわからないので、退職金にはなるべく手を付けず、やりくりしていたのだ。
それが藤堂家に婿養子をしてから、生活はガラリと変わって、裕福になる。母もパートを辞めればいいものを、「藤堂さんに悪いから。」といって、辞めず今も働いている。そらそうだな、母が藤堂の親父と再婚したわけではない。あくまでも俺の舅だからな。
しかし、加奈子の未来、クリスティーヌの魔法はすごいな!もう一度高校生に戻れるなど、夢にも思わなかった。
俺は、藤堂潤として、もう一度青春を謳歌できるのだ。
センター試験の前の晩、俺は加奈子を抱いた身も心もスッキリとして、試験に臨む。試験問題は6年前と同じだったから、満点で合格できた。
東京大学理科Ⅲ類、懐かしい教室、懐かしい研究室を見て回る。部屋の匂いは同じだ。
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クリスティーヌちゃんの魔法で、強制的に6年半前に舞い戻った私。藤堂加奈子は、気が付けば、ナカジュンとの結婚式の最中で、誓いのキスの直前だった。
「!」
それは、いきなりのディープキスだったわ。高校生がふつうする?まぁ、いいけど、6年先の未来から来たから、受け入れられるようなもの。
本当にクリスティーヌちゃんの魔法はすごい!あの時の急患が異世界からの患者だとは思わなかった。最近、新型病の影響で、救急車がしょっちゅう来るのよ。一応、救急車は輪番制になっているのだけど、新型病を受け入れられるところは少ないから、どうしてもウチの病院に集中してしまうわ。一般の患者さんが、ウチに運ばれること自体が珍しいのにね。それもクリスティーヌちゃんの魔法が影響したのかしらね。
私が結婚してからというもの、前の旦那は急によそよそしくなったわ。やっぱり前は、藤堂家の財産を狙ったもので、私のことなど、どうでもよかったのね。
そういえば、ナカジュンは今でもしょっちゅう「好き、愛している」という言葉を口にしてくれるけど、あいつは、私に一度も愛の言葉を囁いてくれたことがなかったわ。
まぁいいわ。もう、すんでしまったことなのだから。いや、まだよ。すんでいないわ。だって過去に戻れたのだもの。もう一度、疲れを知らない若いカラダを手に入れられたのだものね。
新型病だって、今のうちからウチの病院だけでも対策を採れば、ずいぶん違うと思うわ。外来患者さんの手指の消毒とモニターで体温を測る。来院されるときは、マスクを着用させることを徹底すればいいのよ。
面会時間を徹底的に制限すること、いつまでもグズグズ居座る患者家族が多いから。
帰ってから、父に相談してみよう。学内を歩いていると、急に呼ばれ振り返る。なんと!元旦那だ。
「藤堂加奈子さん、しかし驚いたなぁ藤堂女史が電撃婚をするなんてさ。」
「仕方ないわよ。父の知り合いの息子さんで、イイナズケがいたなんて私に知らされて、もうビックリよ。でも、成績優秀な婿殿みたいだから、将来が楽しみだわ。」
元旦那は、何か言いたげだったが、その時は、そのまま別れた。もう、あなたとは何の関係もないから、話しかけないで。というオーラを出したつもりだけど、クリスティーヌちゃんのようには、うまくいかない。
それから医師国家試験があり、無事合格して進路が決まる頃には、前期研修をどこで受けるかが話題になる。
私は、前回は大学病院だったけど、今回は、ダーリンのいる東京大学医学部付属病院を選ぶ。そうすればダーリンにも時折会えるかもしれないし、何かと心丈夫だから。未来では6歳年下の恋人にすっかり頼り切るようになってしまっていたから、過去に来ても、その癖は直らない。
そして前期研修が終わり、私たちはハネムーンに旅立った。ハネムーンと言っても甘いムードは最初だけで、すぐ飽きてしまう。だって家と変わらないのだから。
それで私たちは、行く先々の国の大学周りをすることにしたのだ。将来、パパ(ナカジュンダーリンのこと)が留学するときに備えて、どこの大学がいいか下調べするためである。オックスフォードにハーバードといった世界に名だたる大学巡りをしたわ。
帰国してから、体調が悪くなったと思ったら、妊娠していた。ハネムーンベイビーってとこかしらね。
パパは、とっても喜んでくれたわ。パパは、本当に子煩悩。前の妊娠の時もパパの子供でもないのに、「誰の子であろうが、産まれてきた子供を愛し育てる。」ときっぱり言ってくれたんだもん。
本当にパパと結婚出来て良かったわ。パパを見つけてくれて、クリスティーヌちゃん、ありがとう。
子供は、男の子だった。名前は、パパのパパから名前をもらって、「翔」藤堂翔と名付けられる。
そういえば、未来へ行った時の子供も男の子だったような気がする。私は男の子を産む運命にあったのね。
産休と育休をしっかりとり、職場に復帰する、子供は実家の母に預けてもいいのだが、男の子を育てることは、大変な苦労をするらしくすぐ音をあげられてしまったから、保育園を探したわ。
まだ1歳の我が子を保育園に預けることに抵抗があったけど、21歳でパパになってしまったパパは、気の毒でもっと遊びたかっただろう。たまには友達と飲み会に行ったり、合コンや女の子をナンパしたりしたかったに違いない。いくら高3で結婚したからと言って、普通の高校生や大学生がすることまで、制限していない。自由にさせておいたのだ。だから自分一人で問題を抱え込んだ。
この選択は、今でも間違っていなかったと信じている。
その日は、夜勤ではなかったのだが、急患が入り、保育園のお迎えが遅くなったので、連絡して延長してもらった。暗い夜道をベビーカーを押しながら家路を急いでいた時、物陰から誰かが飛び出してきた。
「誰?」
「俺だよ、藤堂加奈子さんよぉ。」
それは、元旦那だった。
「ったく、いい気なもんだぜ。学生時代、俺の気持ちをさんざん弄んでおきながら、自分は若い男とさっさと結婚しやがって、挙句は、藤堂の跡取りを一発で産むなんてな。大学卒業してから、俺にはいいことがなかったってのにな。生まれた時からお嬢様で、院長夫人で将来の理事長夫人、子供は院長先生、あんたには俺の苦労なんか、これっぽっちもわからないだろうけどさ。一寸の虫にも五分の魂ってものがあるんだぜ。」
そう言って、元旦那は、手にしているナイフをちらつかせる。
「どうする気?私を殺すの?」
「ああ、その前に俺の息子を鎮めてくれよな、ここのところ金がなくて、女も抱けない生活をしているのでな。」
元旦那はズボンのチャックをおろし、イチモツを出してきた。
何よ?どうすればいいの?あたりを見回しても誰も通らない。早く帰りたいために、普段、人通りがない近道を通ったんだ。
「殺されたくなければ、舐めろ!なんなら、加奈子のガキを狙ったっていいんだぜ。」
「やめて、言う通りにするから、子供には手を出さないで。」
元旦那の前に跪き、イチモツを手にしようとしたところ
「おっと、その前に素っ裸になれよな?ブスの裸に興味がないが、奉仕してもらっている感じが出なくてな。早く、脱げ!」
元旦那は、私の肩のあたりを蹴った。そのまま後ろに仰向けに倒れる。
私は、必死に心の中で、パパとクリスティーヌちゃんに助けを求める。
{助けて、パパ!助けて、クリスティーヌちゃん!}
その時、一条の閃光が走ったと思ったら、クリスティーヌちゃんがパパを伴って、駆け付けてくれたのである。
「パパ!」
「大丈夫か?けがはないか?」
「ええ、ええ、肩のところを蹴られただけ。」
パパは、私を抱き起こし、抱きしめてくれた。
「さて、あんたが逆恨みするなんて、お門違いもいいとこよ。他人のせいにするんじゃないわよ!だいたいサラリーマンの息子のくせに医者になろうとしたのは、誰でもないあんた自身の選択なんだからね。」
いきなり現れた外人の女の子に、説教されて元旦那は、きょとんとしている。
「さて、どうしたものかしらね、まずそれはいらないものよね?」
クリスティーヌちゃんは、どこから出してきたかと思われるような魔剣?を出してきて、元旦那のイチモツをぶった切った。元旦那は、悲鳴を上げて、のたうち回っている。不思議と血は一滴も出ていない。
「さすが!ひいお爺様の魔剣は、よく切れるわ。」
よく見ると切った残骸がどこにもない。元から生えてなかったように見える。
「これで終わったと思うな!前世では、浮気して、浮気相手をDVして流産させておきながら、今度は、加奈子先生に逆恨みするなんて、許さない!」
クリスティーヌはわがことのように怒っている。まぁ、実際、前々前々前世の我がことなのだが。
「どうしてくれようか!ただ、殺すだけではおさまりきれない!」
クリスティーヌが殺す、という言葉を口にしたことを聞き、元旦那は青ざめ必死に命乞いをしている。
「た、頼む。命だけは勘弁してくれ!」
「何、言ってんのよ。あんたは前世で自分の子供を殺していながら、今度は加奈子さんまで手に掛けようとしたのよ。命は命でないと償えないのよ。そんなこともわからず医者になろうとしたのよ。」
ガックリとうなだれ、ジャージャーと失禁しているような音が聞こえる。
「作戦会議しよう。」
気が付くと、3年先の未来に飛んでいた。病院の加奈子先生のお部屋にいる。どういうわけか、べビーカーの子供も一緒である。
「ったく、あのバカの逆恨みも大概にしろって言いたいわ。」
「こんなところへ来てしまって、あのバカが逃げ出したりしないか?」
「それは、ご安心ください。せいぜい1秒か2秒のことですし、瞬きしている間のことですから、逃げられません。あいつを殺してしまうことも十分アリの選択だけど、そもそもあいつと同じ大学ってのが問題ありませんこと?加奈子先生、頑張ってお勉強されて東大に入ればよかったのに。」
「ああ、それは無理っぽいかなぁ、だって、私、内部進学者なのよ。ウチの大学は幼稚舎からあるから、幼稚園へ行くと自動的にエスカレーター式で、大学まで行ってしまうから。」
「外部を受験することは難しい?」
「できなくはないけど……、それほど優秀でもないわよ。」
「だったら、俺が家庭教師としてついてやるよ。」
「一度、10年前の過去に戻り、センター試験を受けて、問題だけもらって来てくれよ。それを俺が模範解答して渡すから、もう一度10年前の過去に戻り、東大受験をする。そしたら、あのバカとは二度と会わないだろ?」
「また、人生やり直しするの?」
「それに10年前なら、親父も生きているからあの震災を回避することだってできるのではないか?と思うんだ。」
「それがいいかもね?あいつ、焼いても絶対に直らないから。」
「それに、わたくしなんて、5度も転生したのよ。2度や3度なんて、どうってことございませんわ。」
それでは、生まれて1歳の我が子とその部屋でお別れをして、今から10年前に旅立つ。
「翔ちゃん、パパとママの子に生まれてきてくれて、ありがとうね。また会いましょうね。」
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藤堂加奈子は、17歳の自室で勉強していた、隣には、なぜか小学6年生のナカジュンが家庭教師としている。
設定では、もうこの頃からイイナズケの関係である。クリスティーヌにとって、予想外だったのは、本当に藤堂のお父さんとナカジュンパパは知り合いだったこと、大学時代の友人でナカジュンパパは大学教授、藤堂のお父さんは、医者とそれぞれ道は違うが、若い頃は一緒にやんちゃした仲だったらしい。
だから、それぞれの記憶を操作しても簡単に受け入れられたのである。
「加奈子!また、間違っている!そこの数式はこうだ。これさえ覚えておけば、基本だから。」
「パパ、休憩したい。」
「ダメ!さっきしたばかりだろう。加奈子は休憩ばかりして、全然勉強しない!そんなことなら、もう結婚してやらないからな!」
「ぅっえ~ん!パパがいじめるぅ、グスグス……愛しているって言ってくれたら、機嫌直るよ?」
「もう、甘えん坊の加奈子さんは、困ったもんだな。ホラ。」
パパは、チュッとキスをしてくれる。
もうそれだけで、すっかり機嫌が直り、また勉強を頑張る。
そして、その翌年のセンター試験で満点を取り、見事に東大合格を果たす。これであの元旦那と会わなくても済むと思えば、すっとする。
大学では、予想通り、モテまくったけど、もう舞い上がらない。ナカジュンという素敵な彼氏がいるから。出産も二度経験しているのに、まぁ1度目は記憶にないけどね。どんなに誘ってきても絶対に落ちない。
そして、震災があった日、ナカジュンは必死にお父さんの出張を引き留め、その日、東京にいたお父さんは無事だったのだ。
これでお金の苦労なく開星中学を続けられる。
そして、ナカジュンが高校3年生になる春、花まつりの日に二人は挙式した。若すぎると周囲は、反対したが、二人はお互いが欲しくてたまらないから、結婚を急いだのである。もう1年、加奈子は辛抱できたのだが、ナカジュンができない。
元旦那のように、口でナカジュンを慰めることはできるが、それは頑として拒否されるから仕方がない。
ナカジュンの言い分は、そんなものでは満足できない、加奈子自身が欲しい。加奈子の中で眠りたい。
そこまで言われたら、女冥利に尽きるわね。だから結婚して、また出産した。名前はやっぱり、「藤堂翔。」今度こそ、幸せを掴んだ藤堂加奈子、その姿を見届けてから、クリスティーヌは、元のサンドラ国へ戻っていく。
それから約4年後、ベルサイユ国王を連れていくまでは、平穏です。
「そ、それはどうも、ご丁寧なごあいさついたみ入ります。私は、中里潤東京大学医学部の6年生です。」
「では、本題に入りましょうか?クリスティーヌちゃん、未来を回避する方法を考えてくれた?」
「いろいろ考えたのですけれど、未来を変えず、過去を変えてみませんか?」
「え?どういうこと?」
「だから元の旦那さんと結婚する前にです。ナカジュンさんと6歳差だから、大学に入った直後に藤堂家へ婿養子に入るというのは、どうですか?そしたら、今いるお腹の中の子供は紛れもなくナカジュンさんとの子供だということになり、笹崎麗華に殺されることはない。」
「「……。」」
「ササザキレイカの過去を調べてみれば、けっこう不遇なのよ。それで同情したってわけじゃないけど、あ!それに前の院長先生との子供、前の院長先生が麗華にDVして流産してしまったそうよ。」
「ええ!あいつ、そんなひどいこと笹崎麗華にしたの?医者とも思えないことをするわね。やっぱりあいつ医者としては、不適格者だったということね。わかったわ。過去を変えられるのなら、越したことはないもの。」
「それで聞きにくいのですが、前の院長先生と……いつから恋人関係になられたのですか?」
「クリスティーヌちゃん、あなたまだ10歳のくせに、凄いこと聞くわね。はぁ、結婚話は医師試験で彼がパスしたころからよ。結婚するまでは、私たちはプラトニックな関係でしたわ。きっとあいつ私がブスだから、抱く気になれなかったのでしょう。」
「バカな男だ。女の価値は、顔だけではない。加奈子は素晴らしい女性だ。加奈子愛しているよ。」
「ゥオッフォン!」
わざとらしく大きな咳払いをする。今はいちゃついてもらっては困るから。
「すまない。それにしてもササザキレイカが前の院長の浮気相手だったとは、驚いた。他人の亭主を寝取っておいて、逆恨みもいいところだな。」
「これでもいろいろ考えたのです。最初は、マンホールのふたを開けた時に誤って、マンホールの中に落ちてもらうことにしようか?なんてね。それでは、前の院長への罰にならない。前の院長、最後は自殺するんだけど、それまでは結構いい目を見るのよ。だから未来を変えることは止めて、過去を変えちゃうってどう?」
「笹崎麗華も新しい人生が待っているということだね?」
「では、本題に戻ります。いつ出会いましょうか?できればナカジュン先生が、高校生の頃がいいのだけどね。ナカジュン先生は、開星高校ご出身だから、その時はどう?お父様が東日本の震災でお亡くなりになられているから、中学生の頃でもいいけど?中学生を手籠めにすれば、社会的に藤堂の名が廃る。」
「ちょっとぉ!手籠めにするって何よ?今度のことは、彼が私を襲ってきたのよ、私が手籠めにしたわけではないのですよ!」
「わかってるって、ちょっとしたジョークよ。」
ナカジュンは、手籠めなどの表現を未来の加奈子がしたものだから、真っ赤になっている。
「ナカジュン先生、お誕生日はいつですか?」
「ああ、4月です。4月8日、花まつりの日に生まれました。」
「へぇ!すごい!天上天下唯我独尊ね。」
「なにそれ?」
「ああ、クリスティーヌちゃんは、異世界だから知らないわね。仏教を開いたお釈迦様が生まれた日と同じ日に、ナカジュンが生まれたってことよ。そして、天上天下唯我独尊というのは、自分一人がえらいという意味ではなくて、誰もが平等であるということを言っているのよ。なんといってもインドはカーストの国だから。ああ、インドというのはね……、……。」
長い話になったので、もう聞くことをやめた。要するに4月8日になれば、結婚できるということだから、その前に出会いを作って、恋愛関係に……、いやいや別に今の記憶のまま過去へ行けばいいのだから、恋愛関係は必要ない。
となると、ナカジュン先生が高校3年生の時に、藤堂家に養子に来てもらいトウジュン先生に、加奈子先生が医学部6年生になった途端、結婚してもらえばいいのだから。「旦那様は、18歳!」で整合性がとれる?
前の院長がいくら頑張ったところで、ただの仲良しの学友、ってことよね?
でも、一応、親族への説明用に出会いらしきものを作っておくべきか?それぞれの親の記憶を操作して、だけでいいか?
結局、父親同士が知り合いで、将来、自分たちに子供ができたら結婚させるという話があったということにしようか?一番、すっきりするね。藤堂のお父さんの記憶を操作するだけだから、簡単。なんといっても、ナカジュンパパが死んでいるから、死人に口なし。
高校生の間に結婚することへの合理性は、ナカジュンパパが亡くなっているので、経済的な支援であれば、納得がいく話。
「ねぇ、クリスティーヌちゃん聞いてる?」
「え?なに?」
「やっぱり聞いてない!で、いつ過去を操作するのか、聞いているのよ。」
「これから、すぐよ。ナカジュン先生には、もう一度、大学受験を経験してもらい、加奈子先生には、医師試験を受験してもらいます。」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!これからって、あまりにも性急すぎない?いろいろと心の準備が……?」
「何の準備がいるっていうのよ。そんな準備いくらしたって、もう無駄になるだけなんだからね。わたくしなんて、5度よ。5度のループ、1度でも心の準備なんて、しているヒマがなかったわ。いつもいきなりですわ。さ、行くわよ!さっさと、起ちなさい!」
「「はい。」」
それは、いきなり6年半前の4月8日、教会へ飛んだ。そこでは、結婚式の真っ最中だったのだ。もちろん、ナカジュン先生と加奈子先生の今、まさに誓いのキスをするところ、過去の間のプロセスを一気に飛ばしちゃったわ。記憶操作するだけだから、ね。ナカジュンママは涙、涙。
クリスティーヌには、日本の結婚式場などイメージできないから、教会にしただけ。
加奈子先生、6年半前はまだ花も恥じらう23歳だから、そこそこキレイ?それにウエディングドレスだから、より一層綺麗に見える。
参列の藤堂のお父様は、感無量と言った顔でつぶやく。
「これであいつとの約束が果たせる。」
新婚旅行は、それぞれの夏休みに、と言いたいところだけど、受験を控えているのでそれが終わってからということになる。
まぁ、晴れて名実ともに夫婦になったのだから、やることはできる。どうぞ、御勝手に。ただし6年後クリスティーヌがベルサイユ国王陛下を連れてくることだけは、お忘れなく。
-*-**-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
開星高校の新学期、いきなり中里君が藤堂君になり、先生方も一目を置く。今まではいくら成績優秀者でも震災孤児の母子家庭だから、バカにしていたところはある。
それが大病院の将来の院長先生になるのだから、急に掌返しする先生に、同級生。
それを見て、
「そうか俺は6年前、虐められていたのか?気が付かなかった。」
でも、結婚してから、仲良くしてくる生徒たちを一切遠ざけることにしたのだ。あいつらと仲良くしても、将来何もいいことがないことがわかっているから。
その生徒たちは受験でことごとく失敗し、4浪の果て3流大学にしか行けなかったのである。当然、家では勘当扱いになる。せいぜい、高校生の間だけ、偉そうにしてろ。親が官僚か大企業の創業者の息子ほど、掌返しがうまい。親のDNAが影響しているのだろう。
内心、つぶやき藤堂家へ帰る。結婚する前までは、俺は新聞配達のバイトに勤しんでいたのだが、今は勉強にだけ専念できる。もっとも、一度覚えた記憶があるから、難なく勉強が進むが、やはり6年前の受験勉強は忘れていることもあるから、もう一度覚えなおす。
実家は、遺族年金をもらっているから生活には困らなかったのだが、開星の授業料が存外高く、授業料の足しに新聞配達のバイトと母がパート収入を入れていたのだ。まぁ、死んだ親父の死亡退職金で、ほとんど賄われていたのだが、将来、何があるかわからないので、退職金にはなるべく手を付けず、やりくりしていたのだ。
それが藤堂家に婿養子をしてから、生活はガラリと変わって、裕福になる。母もパートを辞めればいいものを、「藤堂さんに悪いから。」といって、辞めず今も働いている。そらそうだな、母が藤堂の親父と再婚したわけではない。あくまでも俺の舅だからな。
しかし、加奈子の未来、クリスティーヌの魔法はすごいな!もう一度高校生に戻れるなど、夢にも思わなかった。
俺は、藤堂潤として、もう一度青春を謳歌できるのだ。
センター試験の前の晩、俺は加奈子を抱いた身も心もスッキリとして、試験に臨む。試験問題は6年前と同じだったから、満点で合格できた。
東京大学理科Ⅲ類、懐かしい教室、懐かしい研究室を見て回る。部屋の匂いは同じだ。
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クリスティーヌちゃんの魔法で、強制的に6年半前に舞い戻った私。藤堂加奈子は、気が付けば、ナカジュンとの結婚式の最中で、誓いのキスの直前だった。
「!」
それは、いきなりのディープキスだったわ。高校生がふつうする?まぁ、いいけど、6年先の未来から来たから、受け入れられるようなもの。
本当にクリスティーヌちゃんの魔法はすごい!あの時の急患が異世界からの患者だとは思わなかった。最近、新型病の影響で、救急車がしょっちゅう来るのよ。一応、救急車は輪番制になっているのだけど、新型病を受け入れられるところは少ないから、どうしてもウチの病院に集中してしまうわ。一般の患者さんが、ウチに運ばれること自体が珍しいのにね。それもクリスティーヌちゃんの魔法が影響したのかしらね。
私が結婚してからというもの、前の旦那は急によそよそしくなったわ。やっぱり前は、藤堂家の財産を狙ったもので、私のことなど、どうでもよかったのね。
そういえば、ナカジュンは今でもしょっちゅう「好き、愛している」という言葉を口にしてくれるけど、あいつは、私に一度も愛の言葉を囁いてくれたことがなかったわ。
まぁいいわ。もう、すんでしまったことなのだから。いや、まだよ。すんでいないわ。だって過去に戻れたのだもの。もう一度、疲れを知らない若いカラダを手に入れられたのだものね。
新型病だって、今のうちからウチの病院だけでも対策を採れば、ずいぶん違うと思うわ。外来患者さんの手指の消毒とモニターで体温を測る。来院されるときは、マスクを着用させることを徹底すればいいのよ。
面会時間を徹底的に制限すること、いつまでもグズグズ居座る患者家族が多いから。
帰ってから、父に相談してみよう。学内を歩いていると、急に呼ばれ振り返る。なんと!元旦那だ。
「藤堂加奈子さん、しかし驚いたなぁ藤堂女史が電撃婚をするなんてさ。」
「仕方ないわよ。父の知り合いの息子さんで、イイナズケがいたなんて私に知らされて、もうビックリよ。でも、成績優秀な婿殿みたいだから、将来が楽しみだわ。」
元旦那は、何か言いたげだったが、その時は、そのまま別れた。もう、あなたとは何の関係もないから、話しかけないで。というオーラを出したつもりだけど、クリスティーヌちゃんのようには、うまくいかない。
それから医師国家試験があり、無事合格して進路が決まる頃には、前期研修をどこで受けるかが話題になる。
私は、前回は大学病院だったけど、今回は、ダーリンのいる東京大学医学部付属病院を選ぶ。そうすればダーリンにも時折会えるかもしれないし、何かと心丈夫だから。未来では6歳年下の恋人にすっかり頼り切るようになってしまっていたから、過去に来ても、その癖は直らない。
そして前期研修が終わり、私たちはハネムーンに旅立った。ハネムーンと言っても甘いムードは最初だけで、すぐ飽きてしまう。だって家と変わらないのだから。
それで私たちは、行く先々の国の大学周りをすることにしたのだ。将来、パパ(ナカジュンダーリンのこと)が留学するときに備えて、どこの大学がいいか下調べするためである。オックスフォードにハーバードといった世界に名だたる大学巡りをしたわ。
帰国してから、体調が悪くなったと思ったら、妊娠していた。ハネムーンベイビーってとこかしらね。
パパは、とっても喜んでくれたわ。パパは、本当に子煩悩。前の妊娠の時もパパの子供でもないのに、「誰の子であろうが、産まれてきた子供を愛し育てる。」ときっぱり言ってくれたんだもん。
本当にパパと結婚出来て良かったわ。パパを見つけてくれて、クリスティーヌちゃん、ありがとう。
子供は、男の子だった。名前は、パパのパパから名前をもらって、「翔」藤堂翔と名付けられる。
そういえば、未来へ行った時の子供も男の子だったような気がする。私は男の子を産む運命にあったのね。
産休と育休をしっかりとり、職場に復帰する、子供は実家の母に預けてもいいのだが、男の子を育てることは、大変な苦労をするらしくすぐ音をあげられてしまったから、保育園を探したわ。
まだ1歳の我が子を保育園に預けることに抵抗があったけど、21歳でパパになってしまったパパは、気の毒でもっと遊びたかっただろう。たまには友達と飲み会に行ったり、合コンや女の子をナンパしたりしたかったに違いない。いくら高3で結婚したからと言って、普通の高校生や大学生がすることまで、制限していない。自由にさせておいたのだ。だから自分一人で問題を抱え込んだ。
この選択は、今でも間違っていなかったと信じている。
その日は、夜勤ではなかったのだが、急患が入り、保育園のお迎えが遅くなったので、連絡して延長してもらった。暗い夜道をベビーカーを押しながら家路を急いでいた時、物陰から誰かが飛び出してきた。
「誰?」
「俺だよ、藤堂加奈子さんよぉ。」
それは、元旦那だった。
「ったく、いい気なもんだぜ。学生時代、俺の気持ちをさんざん弄んでおきながら、自分は若い男とさっさと結婚しやがって、挙句は、藤堂の跡取りを一発で産むなんてな。大学卒業してから、俺にはいいことがなかったってのにな。生まれた時からお嬢様で、院長夫人で将来の理事長夫人、子供は院長先生、あんたには俺の苦労なんか、これっぽっちもわからないだろうけどさ。一寸の虫にも五分の魂ってものがあるんだぜ。」
そう言って、元旦那は、手にしているナイフをちらつかせる。
「どうする気?私を殺すの?」
「ああ、その前に俺の息子を鎮めてくれよな、ここのところ金がなくて、女も抱けない生活をしているのでな。」
元旦那はズボンのチャックをおろし、イチモツを出してきた。
何よ?どうすればいいの?あたりを見回しても誰も通らない。早く帰りたいために、普段、人通りがない近道を通ったんだ。
「殺されたくなければ、舐めろ!なんなら、加奈子のガキを狙ったっていいんだぜ。」
「やめて、言う通りにするから、子供には手を出さないで。」
元旦那の前に跪き、イチモツを手にしようとしたところ
「おっと、その前に素っ裸になれよな?ブスの裸に興味がないが、奉仕してもらっている感じが出なくてな。早く、脱げ!」
元旦那は、私の肩のあたりを蹴った。そのまま後ろに仰向けに倒れる。
私は、必死に心の中で、パパとクリスティーヌちゃんに助けを求める。
{助けて、パパ!助けて、クリスティーヌちゃん!}
その時、一条の閃光が走ったと思ったら、クリスティーヌちゃんがパパを伴って、駆け付けてくれたのである。
「パパ!」
「大丈夫か?けがはないか?」
「ええ、ええ、肩のところを蹴られただけ。」
パパは、私を抱き起こし、抱きしめてくれた。
「さて、あんたが逆恨みするなんて、お門違いもいいとこよ。他人のせいにするんじゃないわよ!だいたいサラリーマンの息子のくせに医者になろうとしたのは、誰でもないあんた自身の選択なんだからね。」
いきなり現れた外人の女の子に、説教されて元旦那は、きょとんとしている。
「さて、どうしたものかしらね、まずそれはいらないものよね?」
クリスティーヌちゃんは、どこから出してきたかと思われるような魔剣?を出してきて、元旦那のイチモツをぶった切った。元旦那は、悲鳴を上げて、のたうち回っている。不思議と血は一滴も出ていない。
「さすが!ひいお爺様の魔剣は、よく切れるわ。」
よく見ると切った残骸がどこにもない。元から生えてなかったように見える。
「これで終わったと思うな!前世では、浮気して、浮気相手をDVして流産させておきながら、今度は、加奈子先生に逆恨みするなんて、許さない!」
クリスティーヌはわがことのように怒っている。まぁ、実際、前々前々前世の我がことなのだが。
「どうしてくれようか!ただ、殺すだけではおさまりきれない!」
クリスティーヌが殺す、という言葉を口にしたことを聞き、元旦那は青ざめ必死に命乞いをしている。
「た、頼む。命だけは勘弁してくれ!」
「何、言ってんのよ。あんたは前世で自分の子供を殺していながら、今度は加奈子さんまで手に掛けようとしたのよ。命は命でないと償えないのよ。そんなこともわからず医者になろうとしたのよ。」
ガックリとうなだれ、ジャージャーと失禁しているような音が聞こえる。
「作戦会議しよう。」
気が付くと、3年先の未来に飛んでいた。病院の加奈子先生のお部屋にいる。どういうわけか、べビーカーの子供も一緒である。
「ったく、あのバカの逆恨みも大概にしろって言いたいわ。」
「こんなところへ来てしまって、あのバカが逃げ出したりしないか?」
「それは、ご安心ください。せいぜい1秒か2秒のことですし、瞬きしている間のことですから、逃げられません。あいつを殺してしまうことも十分アリの選択だけど、そもそもあいつと同じ大学ってのが問題ありませんこと?加奈子先生、頑張ってお勉強されて東大に入ればよかったのに。」
「ああ、それは無理っぽいかなぁ、だって、私、内部進学者なのよ。ウチの大学は幼稚舎からあるから、幼稚園へ行くと自動的にエスカレーター式で、大学まで行ってしまうから。」
「外部を受験することは難しい?」
「できなくはないけど……、それほど優秀でもないわよ。」
「だったら、俺が家庭教師としてついてやるよ。」
「一度、10年前の過去に戻り、センター試験を受けて、問題だけもらって来てくれよ。それを俺が模範解答して渡すから、もう一度10年前の過去に戻り、東大受験をする。そしたら、あのバカとは二度と会わないだろ?」
「また、人生やり直しするの?」
「それに10年前なら、親父も生きているからあの震災を回避することだってできるのではないか?と思うんだ。」
「それがいいかもね?あいつ、焼いても絶対に直らないから。」
「それに、わたくしなんて、5度も転生したのよ。2度や3度なんて、どうってことございませんわ。」
それでは、生まれて1歳の我が子とその部屋でお別れをして、今から10年前に旅立つ。
「翔ちゃん、パパとママの子に生まれてきてくれて、ありがとうね。また会いましょうね。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
藤堂加奈子は、17歳の自室で勉強していた、隣には、なぜか小学6年生のナカジュンが家庭教師としている。
設定では、もうこの頃からイイナズケの関係である。クリスティーヌにとって、予想外だったのは、本当に藤堂のお父さんとナカジュンパパは知り合いだったこと、大学時代の友人でナカジュンパパは大学教授、藤堂のお父さんは、医者とそれぞれ道は違うが、若い頃は一緒にやんちゃした仲だったらしい。
だから、それぞれの記憶を操作しても簡単に受け入れられたのである。
「加奈子!また、間違っている!そこの数式はこうだ。これさえ覚えておけば、基本だから。」
「パパ、休憩したい。」
「ダメ!さっきしたばかりだろう。加奈子は休憩ばかりして、全然勉強しない!そんなことなら、もう結婚してやらないからな!」
「ぅっえ~ん!パパがいじめるぅ、グスグス……愛しているって言ってくれたら、機嫌直るよ?」
「もう、甘えん坊の加奈子さんは、困ったもんだな。ホラ。」
パパは、チュッとキスをしてくれる。
もうそれだけで、すっかり機嫌が直り、また勉強を頑張る。
そして、その翌年のセンター試験で満点を取り、見事に東大合格を果たす。これであの元旦那と会わなくても済むと思えば、すっとする。
大学では、予想通り、モテまくったけど、もう舞い上がらない。ナカジュンという素敵な彼氏がいるから。出産も二度経験しているのに、まぁ1度目は記憶にないけどね。どんなに誘ってきても絶対に落ちない。
そして、震災があった日、ナカジュンは必死にお父さんの出張を引き留め、その日、東京にいたお父さんは無事だったのだ。
これでお金の苦労なく開星中学を続けられる。
そして、ナカジュンが高校3年生になる春、花まつりの日に二人は挙式した。若すぎると周囲は、反対したが、二人はお互いが欲しくてたまらないから、結婚を急いだのである。もう1年、加奈子は辛抱できたのだが、ナカジュンができない。
元旦那のように、口でナカジュンを慰めることはできるが、それは頑として拒否されるから仕方がない。
ナカジュンの言い分は、そんなものでは満足できない、加奈子自身が欲しい。加奈子の中で眠りたい。
そこまで言われたら、女冥利に尽きるわね。だから結婚して、また出産した。名前はやっぱり、「藤堂翔。」今度こそ、幸せを掴んだ藤堂加奈子、その姿を見届けてから、クリスティーヌは、元のサンドラ国へ戻っていく。
それから約4年後、ベルサイユ国王を連れていくまでは、平穏です。
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