転生聖女様、東大生コンビと共にタイムスリップ~利休編

青の雀

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 朝比奈さんのお母様は、どこからどう見てもフランス女性にしか見えない。金髪の肩まで伸びたヘアが光を帯びて実に美しい。

 まるで前世の王妃様の様にきちんとしていらっしゃりマナーも完ぺきである。

 時を忘れ、しばし見とれていたほど。そこへ

「檸檬の気持ちはどうなんだ?」

「は?なんのこと?」

 檸檬は、さっきから朝比奈夫人の美しさに目を奪われていて、話を全く聞いていなかった。

「娘はこの通り、学業しかさせておりませんゆえに、まだ結婚というのは、早いように思います」

「へ!結婚?誰が?」

「檸檬、さっきから何ぼんやりしているのだ。きちんとしなはれ!」

 父の叱責が飛ぶ。それにしても久しぶりに怒られた感がある。

「え……と、どなたとどなたがご結婚されるのですか?」

「あほ!お前と朝比奈さんのご子息とやが」

「へ?なんで、そんな話になるん?」

「こっちが聞きたいわ!」

 そこへ母がお茶を淹れに来て、今まで、大事な話があるからと、奥の水屋に引っ込まされていたけど、檸檬と旦那の声が大きすぎて、出てきたのだった。

「まあ、ええやないの?女の子で東大なんか行ってしもて、もうお嫁の貰い手ないわ。ておかあちゃん思ってたんえ。ええ話やと思うさかい、いっぺん付き合うだけでも付きおうてみよし」

「お嫁の貰い手なら、あるわ。東大生の先輩からプロポーズされてん」

「へ!そんな人おったんか?なんでパパに紹介してくれへんのや」

「そやかて、脳筋やし。関東大震災の時、ご先祖を助けたという一族の末裔の息子さん二人、言うても兄弟やのうて、従兄弟同士なんやて、その人らが、医学部と法学部の先輩にあたるねん」

「ああ、神河さんとこの息子はんのことやな」

「知っているの?もう神河さんのご両親とお祖父さんに挨拶したわ。隣に神田川さんが住んではって」

「神河さんとこは、最高裁判事にならはった家柄で、代々学者か赤レンガの中のお人や。けど、神田川さんの方はよう知らんな」

「どこかで分家しはったんと違う?」

「そうかもしれへんな。そんなええ相手がいながら、なんで合コンなんかに行ったんや?」

「佐和子が東大生と合コンしたいて言うてきたから、ほな代わりに京大生を紹介してよ。って言うてしもてん」

「アホか、お前がそんな移り気やなんて、知らんかったわ」

父は、朝比奈さんの方に向き直り、

「すんまへんなあ。ええご縁やと思いましたんやけど、この通りの娘で、他に好きな男がいてるようなので、今日のところはこれで……」

「いや、そんなん気にせんといてください。急に押しかけてきたのは、こちらですし、若いうちは恋愛の一つや二つは、ようあることです。そんな恋愛経験もないようなお嬢さんをお嫁に欲しいとは、言うてません。ですから、今日のところは失礼させてもらいますけど、結婚と恋愛は別だということをお忘れなきように。あ!また、余計なこと言うてしもた。すんまへんなぁ。けど檸檬さんも京都の会社を継がなあかん身どっしゃろ?いつまでも学生気分で東京にはいられへんことですし、ウチの息子のこと、これから末永くよろしゅうお願いします」

 要約すると、諦めたわけではなく、いずれ京都へ帰ってきたら、ウチの息子と結婚してくださいと言う意味。

 母は、気を利かせたのか、

「朝比奈さんと二人で散歩でもしてきたら、どうえ」

 仕方なく、気まずいまま鴨川の土手を散歩することになった。御所でも、よかったけど、鴨川の方が、何の気もない人と歩くのは、最適と思ったから。

 二人は、ずっと無言のままどんぐり橋のところまで歩いてしまう。もう少し行けば、松原の端まで行ってしまう。昔は、京の五条の橋の上~で有名な旧五条橋をさす。

「なんで、昨日、プロポーズしてくれへんかったんどす?」

 檸檬がそういったのは、脳筋男と比べて、のことだが脳筋男は出会ってすぐ、檸檬が上垣内家の人間だと悟り、すぐにプロポーズしてくれた。けど朝比奈さんは違う。親を通して、家同士の付き合いとして、挨拶に来たのだ。昨日のうちにプロポーズしてくれたら、案外落ちたかもしれないのに。という不満があった。

「京都では、それが許されへん掟やというぐらいは、わかっていますよね?」

「それだけ?」

「何事にも、順序はある。情熱だけで、結婚はできません。いずれ檸檬さんも、京都へ戻ってこなあかんお人やろ?それやったら、さっさと結婚して、遠距離恋愛やのうて、単身赴任で、大学へ通った方がええと思います・そうは、思いませんか?」

 檸檬は、ひょっとしたら、上垣内家の一子相伝の秘密を聞いてしまったから、この間、千利休様とあったのではないかという疑念を持っている。さっさと結婚しないで、未婚のまま戦国大名に抱かれるようなことがあれば、脳筋男や、ブサメン、それに目の前にいる朝比奈俊君に対して操を守り切れないかもしれない。もし、結婚していたら、結婚をしているということが、身を守る手立ての一つになるかもしれないとぼんやり考える。

「そうですね。そんなこと、考えもしなかったことです」

「だったら、思い切って、年内限定で付き合って着るというのは、どうですか?」

「年内って、もうすぐクリスマスですよ?もう時間が足りないでしょ?」

「だから、いいのではありませんか?時間が足りない分、お互いに相手のことを知る濃い時間にしましょうよ」

「そうね。そういう考え方もできるかもしれない」

「もし、結婚したら、名古屋あたりに住みましょう?そうすれば、お互い通学時間がとれるし、長続きしやすいのでは?別居婚というのも、新鮮でいいと思いますよ?」

「そういえば、翔君、学部は?」

「工学部です。だから大学院に進学します。檸檬さんも、医学部なので、1年遅れで卒業になりますよね?」

 今まで、現実味がないと思っていた結婚話が具体的なことを話し合ううちに、急に現実味を帯びてくる。

 詳しく聞けば、朝比奈さんの家業は、京都でも有名な最先端科学技術で作る精密機器を成王している会社だったのだ。東証一部上場企業で、お祖父さんが一代で操業されて、今はお父さんが社長を務めていらっしゃるらしい。

 それで、パパもママも手放しに浮かれていたという理由が分かったような気がした。檸檬にとっても、上垣内家にとっても、またとない良縁に違いない。

 そこへ突然の雷雨、さっきまで晴れていたことがウソのように暗雲が立ち込めている。

「いややわ。どないしょ?」

「とりあえず、喫茶店にでも入って、雨宿りでもしましょうか」

 たまたま入ったカフェは、薄暗くカップルは、みんなベンチシートで腰掛けている。そして何より不気味だったのは、隣のシートとの間がカーテンで間仕切りされていること。

「ごゆっくり、どうぞ」

 店員も意味深な顔をして、檸檬たちを見ている。サっとカーテンを閉めて、礼をしていかれると、そこは官位的であるが、まさに二人きりの世界になってしまう。

「なんか変なカフェに入っちゃって、ごめんね」

 翔君は、謝ってくれるものの、檸檬も落ち着かないでいる。隣のカーテンからは、悶えるような声が漏れ聞こえてくる。

 だんだんと、その隣からの声が激しくなってくると、さすがにいたたまれない気分になる。

 入店したときに見たメニュー表のコーヒーが1500円だったことを思い出し、そういう店だったのかと、改めて思う。たぶん、真面目な翔君は知らずに入ってしまったと思いたい。

 まだ、雨は止んでいないのに、翔君は「出よう」と言って、伝票を持ちながら、立つ。

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