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来世:タータン国宿屋の女将として

67.双子

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「いらっしゃいませ。ここに住所か連絡先と名前、生年月日、ご職業をお書きください」

 ここは、タータン国王都にある、温泉宿のフロントカウンターでのこと。

 このタータン国は、火山国であり、周囲を山々で囲まれている。当然、活断層が地下を走っており、しょっちゅう地震が起こるが、温泉も湧き出る。

 したがって、王都を中心に大小さまざまな温泉宿が軒を連ねている温泉立国と言っても過言ではない。

 そのうちの一軒がアイリーンとアフロディーテの姉妹が経営する宿屋ということ。

 姉妹の父は、冒険者だったがタータン国で魔物が出て、その討伐に行き、帰らぬ人となった。それが3か月前の出来事で、その戦没者慰霊給付金が支給されたので、古ぼけた宿屋を改装して、姉妹で始めたのだ。

 アイリーンとアフロディーテは、今世は双子の姉妹で姉がアイリーン、妹がアフロディーテということになっている。

 双子と言っても二卵性なので、似てはいるがそっくりではない。姉のアイリーンは、プラチナヴロンドで金色の眼、丸顔で愛らしい感じ。対して、妹のアフロディーテは、ブロンドの髪と眼、細面で見るからに美人という感じなのだ。

 姉妹の母は、冒険者の宿泊客と懇ろになり、そのまま逃げて、いない。

 だから父が死んだ後、宿を人手に渡さないで、二人で頑張っているというわけ。

 競争が激しい中でも、二人の看板娘が切り盛りしているおかげで、それなりに評判がいいことも確か。

 宿屋の仕様は、前々々世、愛理の時代に利用した社宅とビジネスホテルを足して2で割ったようなものにしたのだ。

 この世界の常識では、いわゆるair b&bで、bathとbedroomは貸すが、食事の提供はないという宿がほとんどなのだが、アイリーンは、あえて、追加料金でビュッフェ形式のモーニングとディナーのサービスを設けた。

 チェックインは午後17:00以降、チェックアウトは午前8:00と他の宿に比べるとタイトだが、美人姉妹がやっているということで、なかなかの評判を博している。なんと言っても、食事が美味しいと評判で、それに好きなものを好きなだけ、もちろん制限時間の設定はあるが、食べられるというのも、魅力の一つとなっている。ただし、アルコールは、また別料金で、飲み放題というわけではない。

 なぜ、こんなタイトな時間設定になっているかと言えば、それは学園に行っているからで、学園に行く前にチェックアウトを済ませてもらわないと困るという理由。

 お客の多くは、冒険者なので、朝6時や7時出発の者がほとんどだから、いっこうに困ってはいないから苦情が来ることもない。

 宿の1階は、男女別の露天風呂とフロント、ロビーのほかに食堂がある。2階~4階はシングルルームが中心で、各部屋にバストイレ付きでトイレは洗浄トイレなので、喜ばれている。

 5回はスイートルームなのだが、ほとんど使われていない。まあ、こんな設備は一流ホテルでも見た目は安っぽいボロホテルにしか見えないので、貴族様が泊まられることなど、ほとんどないから。

 アフロディーテはもったいないから、ここもシングルにすべきだと言い張るが、ホテルというものは、こういう遊びの空間があってもいいと思っているのはアイリーンだけかもしれない。

 そして、姉妹の住処は、厨房の奥に前々々世のタワマンをくっつけ、その中で寝泊まりしている。前々世で、シンリーと新婚時代に暮らした部屋だけど、一度リセットして、またそれを引っ張り出して、使っているというわけ。

 シンリーと暮らしていた時から、すでに100年を経過しているので、老朽化しているように見えて、さすがに億ション、ビクともしていない。

 キッチンもお風呂も今でも、そのまま使えている。

 この世界では珍しい洗浄機能付きトイレを設置したら、王家から注文が来たが売らない。

 魔道具かと噂されているが、実はコレ、前々々世からの遺物のトウトウ製なのだから、そうそう手に入る代物ではない。

 併設されているお風呂もシャワーヘッドも、洗面化粧台もすべてトウトウ製なのだ。だから見た目が良く、清潔感が溢れ効率的なことも頷ける。

 近隣の宿屋がアイリーンの宿に偵察を送り込んでくるが、このバストイレだけは、どこの宿屋も真似できない代物で、周囲の宿屋から羨望の的になっている。

 各部屋のもう一つの売りは、実はベッドで、これも前々々世から直輸入?したフランスベッド製なのだ。この世界のベッドと言えば、ただ木製の枠にマットレスを敷いただけの硬いベッドが主流なのだが、フランスベッドは、低反発のスプリングが利いている

 だから一日の疲れが取れ、翌朝、スッキリ目覚めることができる。

 一度でも、アイリーンの宿を利用した者ならば、もう他のベッドでは眠れないと言うほど寝心地がいいのだ。

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