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ギシッ、ギシッ。ギシッ、ギシッ。「はぁっ、……はぁっ、……はぁっ」
ズシャッ、ズチュッ。ズプッ。ズチュッ。グチュン。
「はぁっ、……はぁっ、……はぁっ」
「愛しているよ。バレンシア。俺はバレンシアのナカにいる時だけが生きていられる証を得られる」
普段は、王国の操り人形としてしか意味をなさない体たらくなレオンハルト様がバレンシアの上になりながら、つぶやいている。
レオンハルトは正妃と王との間に生まれた第1王子ではあるが、正妃はレオンハルトを産んでから体調がすぐれず、寝たり起きたりの生活。
レオンハルトも国王も、バルセロナ家に生まれる子供はすべて金髪金眼で、それ以外の容姿で生まれてくることはまずない。
もっぱら王の性欲処理は、側妃の仕事で、若い側妃をとっかえひっかえしている。しかし、子供はできない。ひとりの王からは、一人の王しか生まれないという呪いがあるためで、側妃はもっぱら慰み者としての意味しかない存在。家庭を顧みない愚王としての父しか知らないレオンハルトは結婚願望がない。
国王は、仕事のほとんどを王太子に任せ、自分は、性欲のための動物に成り下がっている。
実際の政治は、今一番寵愛を受けている父の側妃ジャクリーンの実家であるコントラッド家が牛耳っている。
そして、その究極の矛先は、王太子であるレオンハルトの結婚相手まで食指を伸ばしているのだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
当のレオンハルトは、恋人であるバレンシア・セレナーデとお忍びで旅行中。バレンシアも実家のセレナーデ家に内緒で家を出てきた。
この世界でも、財布は男が握っている。それがたとえ、お小遣い程度であったとしても。
でも、しっかり者のバレンシアは秘かに貯めていたお小遣いや宝石の小粒を公爵家から持ち出していたのだ、それを馬の鞍のバッグに入れて、旅を続けている。
女性特有の日があるので、生活必需品を買うのに、いちいちレオンハルトの許可を得て、お小遣いを出してもらうことへの抵抗がそうさせていたのだ。
家を出てから、ほとんどセックス三昧の日々で、昼夜を問わずやりまくっている。
お忍びでの旅行だから、側近も侍女もいない。身の回りのことは全部、自分たちで何とかしなくてはならない。
公爵令嬢に王太子殿下という二人にとっては、過酷な旅行としか言いようがないが、その分、自由でいつ寝ても、いつ起きても、誰にも文句を言われる筋合いがない。自由で気ままな生活をずっとしたいと思っていたレオンハルトもバレンシアも念願かなって、満悦している。
結婚したいバレンシアと結婚したくないレオンハルト。最初は、学園の美術室でレオンハルトに襲われる形で、関係を結んでしまったが、次第にバレンシアもレオンハルトのカラダだけではなく深く愛するようになってきた。
それでも、結婚の「け」の字も口にしてくれないレオンハルトに不満がないと言えば嘘になるが、この旅行が終われば、この関係に終止符を打つつもりでいる。
なんといっても、相手は王太子殿下であらせられるし、公爵令嬢とつり合いがとれるといっても、他国との王女との縁談が優先されることは間違いがない。
それに結婚して、お城暮らしなんて、まっぴらごめんだわと本気で思っている。
あんな窮屈なところで、籠の鳥のように一生を送るなんて、考えられない。
絵描きになりたいバレンシアは、いつか、絵描き旅行に出かけたいと思っていたので、こんな形でもレオンハルトの目を盗んで、スケッチをしている旅は楽しい。
レオンハルトもバレンシアガ絵の構図を考えている横顔が美しいと思っているので、考え込んでいるバレンシアを見ると、そっと飲み物を買いに行き、邪魔をしないように気を遣っている。
王子と令嬢ではなかったら、二人の関係ももっとスムーズになったというところだが、運命の歯車は急に回り出してしまった。
夏休みも終わりに近づいた頃、バルセロナから海を隔てたマドリード国の片田舎まで帰ってきたところ。
その片田舎の宿「フランチェスカ」で愛し合っている最中に、血の呪い魔法が発動されることになってしまったのだ。
血の呪い魔法は、呪縛魔法で、王族で両親のうち、どちらかが亡くなる時にしか発動されない緊急性の高い魔法である。
たとえ居場所がわからなくても、この魔法は、血縁関係者の呪いという名前の魔法であり、どこにいても必ず当事者だけが知ることができる。
居場所は不明のまま、狙った相手を強制的に連れ帰ることができる唯一の魔法なのだ。親の命と引き換えに、行方不明になった子孫を見つけ出す最後の手段として、代々バルセロナ王家に伝わる唯一無二の魔法である。
「うっ……。すまない。バレンシア、王城から急な呼び出しがあったようだ。血の魔法で、目の前が真っ赤になっている。おそらく母上が身罷られたのだと思う。急ぎ俺だけが帰国するが、すぐ戻ってくるから、ここで待っていてほしい」
バレンシアは、だんだんと薄れていくレオンハルトのカラダを見ながら頷く。
ズシャッ、ズチュッ。ズプッ。ズチュッ。グチュン。
「はぁっ、……はぁっ、……はぁっ」
「愛しているよ。バレンシア。俺はバレンシアのナカにいる時だけが生きていられる証を得られる」
普段は、王国の操り人形としてしか意味をなさない体たらくなレオンハルト様がバレンシアの上になりながら、つぶやいている。
レオンハルトは正妃と王との間に生まれた第1王子ではあるが、正妃はレオンハルトを産んでから体調がすぐれず、寝たり起きたりの生活。
レオンハルトも国王も、バルセロナ家に生まれる子供はすべて金髪金眼で、それ以外の容姿で生まれてくることはまずない。
もっぱら王の性欲処理は、側妃の仕事で、若い側妃をとっかえひっかえしている。しかし、子供はできない。ひとりの王からは、一人の王しか生まれないという呪いがあるためで、側妃はもっぱら慰み者としての意味しかない存在。家庭を顧みない愚王としての父しか知らないレオンハルトは結婚願望がない。
国王は、仕事のほとんどを王太子に任せ、自分は、性欲のための動物に成り下がっている。
実際の政治は、今一番寵愛を受けている父の側妃ジャクリーンの実家であるコントラッド家が牛耳っている。
そして、その究極の矛先は、王太子であるレオンハルトの結婚相手まで食指を伸ばしているのだ。
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当のレオンハルトは、恋人であるバレンシア・セレナーデとお忍びで旅行中。バレンシアも実家のセレナーデ家に内緒で家を出てきた。
この世界でも、財布は男が握っている。それがたとえ、お小遣い程度であったとしても。
でも、しっかり者のバレンシアは秘かに貯めていたお小遣いや宝石の小粒を公爵家から持ち出していたのだ、それを馬の鞍のバッグに入れて、旅を続けている。
女性特有の日があるので、生活必需品を買うのに、いちいちレオンハルトの許可を得て、お小遣いを出してもらうことへの抵抗がそうさせていたのだ。
家を出てから、ほとんどセックス三昧の日々で、昼夜を問わずやりまくっている。
お忍びでの旅行だから、側近も侍女もいない。身の回りのことは全部、自分たちで何とかしなくてはならない。
公爵令嬢に王太子殿下という二人にとっては、過酷な旅行としか言いようがないが、その分、自由でいつ寝ても、いつ起きても、誰にも文句を言われる筋合いがない。自由で気ままな生活をずっとしたいと思っていたレオンハルトもバレンシアも念願かなって、満悦している。
結婚したいバレンシアと結婚したくないレオンハルト。最初は、学園の美術室でレオンハルトに襲われる形で、関係を結んでしまったが、次第にバレンシアもレオンハルトのカラダだけではなく深く愛するようになってきた。
それでも、結婚の「け」の字も口にしてくれないレオンハルトに不満がないと言えば嘘になるが、この旅行が終われば、この関係に終止符を打つつもりでいる。
なんといっても、相手は王太子殿下であらせられるし、公爵令嬢とつり合いがとれるといっても、他国との王女との縁談が優先されることは間違いがない。
それに結婚して、お城暮らしなんて、まっぴらごめんだわと本気で思っている。
あんな窮屈なところで、籠の鳥のように一生を送るなんて、考えられない。
絵描きになりたいバレンシアは、いつか、絵描き旅行に出かけたいと思っていたので、こんな形でもレオンハルトの目を盗んで、スケッチをしている旅は楽しい。
レオンハルトもバレンシアガ絵の構図を考えている横顔が美しいと思っているので、考え込んでいるバレンシアを見ると、そっと飲み物を買いに行き、邪魔をしないように気を遣っている。
王子と令嬢ではなかったら、二人の関係ももっとスムーズになったというところだが、運命の歯車は急に回り出してしまった。
夏休みも終わりに近づいた頃、バルセロナから海を隔てたマドリード国の片田舎まで帰ってきたところ。
その片田舎の宿「フランチェスカ」で愛し合っている最中に、血の呪い魔法が発動されることになってしまったのだ。
血の呪い魔法は、呪縛魔法で、王族で両親のうち、どちらかが亡くなる時にしか発動されない緊急性の高い魔法である。
たとえ居場所がわからなくても、この魔法は、血縁関係者の呪いという名前の魔法であり、どこにいても必ず当事者だけが知ることができる。
居場所は不明のまま、狙った相手を強制的に連れ帰ることができる唯一の魔法なのだ。親の命と引き換えに、行方不明になった子孫を見つけ出す最後の手段として、代々バルセロナ王家に伝わる唯一無二の魔法である。
「うっ……。すまない。バレンシア、王城から急な呼び出しがあったようだ。血の魔法で、目の前が真っ赤になっている。おそらく母上が身罷られたのだと思う。急ぎ俺だけが帰国するが、すぐ戻ってくるから、ここで待っていてほしい」
バレンシアは、だんだんと薄れていくレオンハルトのカラダを見ながら頷く。
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