王配狙いで悪役令嬢にされ婚約破棄~社会勉強のため伯爵家へ養女に行った王女殿下が立派な女王陛下となるまで

青の雀

文字の大きさ
2 / 14
養女

2

しおりを挟む
 それから5年の月日が瞬く間に過ぎていく。3人のお兄様は学園を卒業され、騎士団に入団され、サニーバード伯爵邸では、火が消えたようにひっそりしています。

 トーマツ兄さまもネルソン兄さまも、結婚して独立され、家を出て行かれマーカス様だけが今も家にいらっしゃいます。そのマーカス様も騎士団の遠征で、しょっちゅう家をお留守にされてしまいますから、ほとんど日中は養母のサニーバード伯爵夫人と二人で過ごすことが多いです。

 ジャッキーの剣の腕前は、持ち前の集中力の高さで15歳にして、もう騎士団入団試験に合格できるレベルどころか、1個師団長になれるレベルに達しています。

 ヒマな時はお城の図書館に籠り、蔵書を読み漁って、薬学の知識と魔法の勉強をしています。今や転移魔法にスーパー速読魔法、異空間収納まで習得していますが、誰にも言わず内緒にしています。小さい頃は、あれほど好きだった数学の勉強よりも今は魔法の勉強のほうがおもしろいし、役立つから。

 それに重い剣を腰にぶら下げるのは骨盤が片側に下がるから辛いけど、異空間に仕舞えば、出すときも楽ちん。

 必要は魔法発明の母である。

 転移魔法は、ヒマな時に、お城の図書館に行きたいと強く念じたら、勝手に行けたのよ。それから毎日、行って帰って来るうちに必要な時にいつでも発動できるようになったのよ。

 スーパー速読魔法もしかり、もっと早くペラペラとページをめくるだけで、書いてあることすべてが読めるようになればいいなぁと思っていたら、いつの間にかできるようになっていたのです。

 あと覚えたい魔法は今のところ、スーパー暗記魔法ぐらいかな?一回見たら忘れない魔法。

 でも嫌な記憶なら、忘れたいから、覚えるの躊躇しています。

 次の入学シーズンになれば、学園に入学します。そうなれば、この家ともおさらばです。学園にはお城から通うことになるでしょう。それで、最近は、なるべく家にいて、最後の時間を楽しむようにしています。

 たった5年間だったけど、楽しい我が家同然。ジャッキーはしょっちゅうお城へ戻り、図書室に籠っていたことは内緒の話で、5年間みっちりサニーバードにいたことになっているから。

 そんな時、北の国境付近で魔物が出現したとの情報が入り、お養父さまとマーカス様が慌ただしく出て行かれます。

 北の国境警備と言えば、トーマツ兄さまとネルソン兄さまの赴任先なので、心配です。ジャッキーは赴任直後、一度、遊びに行ったことがあります。

 国境警備隊の騎士団は壊滅状態で、トーマス兄さまは利き腕を失くされ、ネルソン兄さまは虫の息だったそうです。ネルソン兄さまは新婚間もないこともあり、早々に帰宅されることになったのですが、最後の願いがどうしても王女殿下に会いたいという到底聞き及べない願いで、騎士団の人たちは困り果てているということでした。

 そこへ父と弟のマーカスが到着して、ネルソンの願いを聞き、すぐさま王都のサニーバード家へ魔法鳥を飛ばします。

 よくもっても、今日までだろうな。と心中では諦めながら。

 魔法鳥を受け取ったジャッキーは、養母の伯爵夫人とネルソンの新しい奥さんを伴って、転移魔法で駆けつけます。

 最後に一目だけでも会わせてあげたいとの願いからです。

 まさか、ネルソン兄さまが王女様に会いたいと言っていることなど、つゆ知らずのことだったからできたことです。

 「ネルソン兄さま!」

 ジャッキーの声で、うっすらと目を開けるネルソン。

 「王女殿下の兄貴になれたことは、身の誉れ……あり……がと……う。」

 一言だけ言い残し、目を閉じた。

 他にもっと言うことあるでしょ。奥様、かわいそうでしょ?

 まさか、もう死んじゃったってことないよね?奥様がネルソン兄さまに取りすがって泣いてらっしゃる。

 ネルソン兄さまはだんだん、息が荒くなってくる。

 ウソ!? 人ってこんな簡単に、あっけなく死ぬものなの?

 「ネルソン兄さま!死なないで!」

 3人のお兄様の中で一番優しかったお兄様がもう目の前で死ぬ寸前、まさに風前の灯状態。

 ジャッキーは、実践でやったことがない治癒魔法を発動することにした。ダメ元っていうやつです。理論的には、出来ると思うのだけど、なんせ机上論だけの話で、今まで一度もやったことがないのです。

 ネルソン兄さまの胸のあたりに、手を置き静かに目を閉じる。在りし日のネルソン兄さまの姿を思い浮かべて、……エイっ!とばかりに魔法を発動させる。うまく発動できたと思う……けど、確かに手ごたえはあったのだ。そっと、目を開けてみると、食いちぎられた腹や腕のすべてが元通りになっている!

 「あれ?みんな、どうしたの?なんで泣いているの?」

 「やったぁ!治癒魔法が成功したわ!初めて試した治癒魔法だから、失敗したらどうしようかと思っちゃったわ。」

 ジャッキーとネルソン兄さまは抱き合って、喜ぶ。

 その場にいた全員は何が起きたのかわからず、きょとんとしている。

 そのうち、誰か一人が「聖女様だ……。」とつぶやいたことから、大騒ぎになったのである。

 いやいや、わたくしは聖女様でも何でもありません。ただの伯爵家の養女でございますと必死に弁明しても、もう後の祭り。

 次から次へとジャッキーの前にけが人や重症患者が運び込まれる。

 「無理無理無理無理。」

 ジャッキーがいたのは、陣営でもうほとんど、野戦病院化している。養母の伯爵夫人もネルソンの新妻も、いつのまにか白衣を着て、忙しく動き回っている。

 仕方なく、片っ端から治癒魔法を発動させてみるが、どうもうまくいかない。ネルソンがうまくいったのは、まぐれだったのかしら?

 他の騎士とネルソンには、決定的な違いがあったのだ。ネルソンの元気な姿を思い浮かべて、治癒魔法を発動したことと、誰か知らない人に治癒魔法を発動したら、明らかに効果に差が出たのである。

 それからは、運び込まれた患者さんの元気な姿をよく知っている人に側に来てもらい、その人のイメージで治癒魔法を発動することにしたら、効果てきめんの成果が出ました。

 イメージって大事よね。いつも魔法書にそう書いてあるけど、自分のイメージだけで今までは魔法を発動できたけど、知らない人にイメージは持てないから。

 野戦病院での最後の患者さんは、トーマツ兄さまだったわ。利き腕の再生魔法と心を病んでいらっしゃったみたい。目の前で弟が殺されかけ、仲間の騎士たちが次々と死んでいったのだから。

 利き腕のほうは簡単に治ったのだけど、問題は心の病、魔物に付けられた傷は魔物で癒すしかないでしょ?

 ジャッキーも共に魔物退治に向かうことになり、伯爵夫人と他の騎士は心配しているが、剣の腕前と聖女様のような魔法があるのだから、と養父の騎士団長は太鼓判を押す。

 騎士団の体制を立て直して、行けるものは行くことになったのである。ジャッキーの傍には、3兄弟のほかに養父のサニーバード伯爵がピタリと寄り添ってくれることになった。

 もし、王女殿下に何かあれば、儂の首一つでは足らないから、覚悟するようにと息子たちにも檄を飛ばす。

 そうして決死の覚悟で、魔物退治に向かう。おお、おお魔物は群れを成して襲い掛かってきたのだが、ジャッキーはその場でうずくまった。心配した養父と兄たちは、次の瞬間驚くべき光景を目にするのである。

 ジャッキーが放った光魔法?聖魔法?攻撃魔法?を浴びた魔物は一瞬にして消え去る。

 あれだけ群れを成していたのに、一頭残らず消え去ったのだ。

 そこでまた「聖女様!」の歓喜で沸く。

 すると騎士団長の怒声が!

 「静かにしろ!儂の娘が聖女様だとは、他言無用に願いたい。娘には普通の幸せを願っているからだ。親としては、当然だろう。だからもし、今目にしたことを話した奴がいれば、騎士団から追放するし、そいつを成敗する。わかったな。」

 養父がそう言ってくれたので、騎士団の連中は急におとなしくなる。でも、ありがたいわ。やっと養父から娘として認められたみたいで、嬉しい。

 トーマツ兄さまも、元気を取り戻せたかのような笑顔をされているので、安心する。

 「これからは、ジャッキーがいつもついて来てくれたら、仕事が捗るけど、もうじき学園に入学だから、そうもいかないな。」

 養父はなぜか上機嫌で、陣営に戻り、夫人とともに帰路に着く。

 ジャッキーが野戦病院での活躍は国王陛下に報告されることになったが、陛下も母も何も言わない。

 サニーバード伯爵が、釘を刺してくれたおかげで、国内には、ジャッキー聖女説が広まらず、騎士団の手柄により、魔物退治ができたことになったのである。

 いよいよ学園に入学です。真新しい制服に身を包み、まだ表向きは、ジャッキー・サニーバードとして入学する。学園長のみならず、教職員はジャッキーの正体を知っていて、楽しい気楽な学園生活が送れるように暖かく見守ってくださります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...