死者からのロミオメール

青の雀

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 あの記憶を失った男性は、なかなか実家に帰ったまま戻ってこないロアンヌのために、リチャードが用意したものだった。

 ロバートらしき人物が見つかったとあれば、何をおいても必ずロアンヌは戻ってくると踏んだが、事実、その通りになったまでは良かったが、ロアンヌが王家のことよりもロバートの安否を優先したことに面白くはない。

 でも、戻ってきてくれて、ありがとうという気持ちに嘘はない。ロバートに嫉妬するものの、ロアンヌを愛していることに変わりはない。

 素直になれなくて、フランシスコが生まれる直前に喧嘩をしたことの謝罪がまだのまま、ロアンヌは、ようが済んだとばかりに、さっさと実家へ戻ってしまった。

 先の騎士に事情を聴くと、ロアンヌの実家、クロイセン領地にロアンヌの親戚と思われる男の子がいて、その子の母親代わりをしているそうだ。

 優しいロアンヌらしいと言えば、それまでだが、王城にはウイリアムもフランシスコもいるというのに、他人の子供の面倒を見るとは……。

 一度、口実を作って、どんな子供なのか見に行こうかとも思うが、なんせ、ロバートと思しき若い男性をひっ捕らえては、殺しをしていたので、王都民の王家への反感はすさまじく、城を留守にすることは叶わない。

 それというのも、ロバートの奴がなかなか姿を現さないことが悪い。生きているなら、てめえの可愛い婚約者がどうなったか知りたいはずなのに、ちっとも姿を現さないとは、なんともはや卑怯な奴め!

 それとも、もうこの世にいないという話は本当のことなのか?では、ロアンヌ宛に届いた、あのロミオメールをどう説明する?やはり誰かの悪質な悪戯だったのだろうか?

 もうあの手紙を出せそうな奴は片っ端から、検挙したではないか……まだ、取りこぼしがあったというのか?

 後、出せそうな人物と言えば、ロバートぐらいしか残っていないはず、だというのに、なかなかロバートは捕まらない。いったいどこに雲隠れをしている?
 
 その夜、リチャードは、奇妙な夢を見た。ロアンヌがろ紙はも行かない子供ともう一人の男と共に、手を繋いで笑顔で川の中に入っていく。やがて首まで使ったロアンヌは、そのまま川の中に消えていき……、そこで、思わず「ロアンヌ!」と叫んだ自分の声に驚いて、目が覚めた。

 今から思えば、あの男は、ロバートだったようにも見える。まさか!?ロバートと入水自殺を図るつもりではないだろうか?

 リチャードはどうしても気になり、いても経ってもいられなくなる。そして、昼夜を問わず、馬を走らせ、ついにクロイセン家の領地に入る。そこで見たものは、……!

 5,6歳の男の子とロアンヌの姿だった。

 確かに従者が言うとおり、母親の言ない子供の母親代わりをしているロアンヌに安堵するも、あれはロアンヌの親戚の子というより、弟なのかもしれない。

 驚いたことに、近づいて挨拶をしようとしたリチャードの前にその男の子が立ちはだかる。

「何用だ?」

 その声に驚き、ひるんだリチャードに対し、その男の子は、剣を引き抜きリチャードの首元を狙う。

 そこでようやくロアンヌがリチャードの存在に気づき、諫めてくれる。

「ホワイトやめなさい。この人は、まだわたくしの夫なのですから」

 ロアンヌの「まだ」という物言いに、いささか傷つくものの、一国の王太子が油断していたとはいえ、年端も行かない子供に喉元に剣を向けられたとあっては、沽券にかかわる。

「ゴホン!こんにちは。僕はリチャード・フォン・ピューリッツ、この王国の王太子なのさ」

「こんなところまで、押しかけてきて、一体何の御用なのでしょうか?殿下は、こんなところに来ている場合ではございませんでしょう?親友のロバートと間違えて、多くの若者の命を虐殺しておいて、わざわざ、わたくしに会いにいらしたわけではございませんでしょう?ここにロバートがいるとでも、お思いですか?」

「いや。そういうわけでは……。ただ、先日、奇妙な夢を見たので、ロアンヌの身を案じて、ここまで来てしまったのだ。許せ」

 ロアンヌに思いがけず痛いところを突かれ、タジタジになりながら、それでも言葉を紡ぐ。

「そうでございますか。それは、遠路はるばるご苦労なことでございますわね。でも、あいにくここに、ロバート様はいらっしゃいませんことよ。そのことは、リチャード殿下がお付けになった従者の型が一番よくご存知だと思うのでございますが……?」

「っ!里帰りに同行した騎士が、ロアンヌのことを見張っていたと……思っているのか?」

「あら、わたくしの勘違いだともおっしゃりたいのでございますか?殿下は、いつもそうやって、肝心なことから御逃げになる。いつも、いつも」

「何が言いたいのだ?ハッキリと申せ」

「それでは、ハッキリ申し上げましょう。殿下のそう言ったところが、クリスティーヌ様をしに追いやってしまわれたのです」

「えっ!?クリスティーヌは、国外に売り飛ばされたはずでは……?」

「あの気位の高いクリスティーヌ様が、今でも生きておいでだと本気で、信じていらっしゃるのでございますか?それにイソフラボン公爵家の皆さまも全員、死罪となったとお聞きしております」

「それは……、奴らがクーデターを企てたからで……」

「ひどい人……いつも、ご自分だけ安全なところにいらっしゃって、ご自分は指図するだけで、手を汚さない。今度は、わたくしを殺すつもりで、クロイセンへ来られたのでございましょう」

「ち、ちが、違う、ウイリアムとフランシスコの生母であり、愛するロアンヌを殺すわけなかろう。ロバートのことは確かに悪かったと思っている。しかし、遺体が見つからない以上、その安否を探すことは致し方がないこと。なぜ、それをわかってくれないのだ?」

「リチャード殿下は、ロバート様を探していらっしゃるわけではございませんでしょう。確かに死を確認したいがために、罪のない民を殺戮しているだけではございませんか?ロバート様は、お亡くなりになっております!わたくしは、少なくとも、そう確信しております。ですから2年前に殿下の側室として嫁ぎました。それを今になって……、情けない!わたくしは、こんな情けない殿方に嫁いだということを情けないと嘆いています。どうして、ご自分を信じ、自信を持たれないのか?アナタ様は、ピューリッツ王国の礎となるべき人間なのですよ」

 ロアンヌは、肩でハアハアと息をし、言いたいことを言ったせいか、その場にしゃがみこんでしまう。

 リチャードは、そんなロアンヌを抱き起そうとするが、小さな男の子に阻止され、その場で項垂れてしまう。

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