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第3章

32.山吹太郎と

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 真理子は、学業とお仕事と、その合間に電気通信社でのインターンシップも入れることにしたのだけど、社内で健彦に出会うことはなかった。

 おかしい。歴史が変わったのかなぁ。前世では、3年生の時にインターンシップなんてしていなかったからか!?

 バカ息子?いえ、失礼、山吹社長のご令息は、まるで真理子の飼い犬の様にいつも尻尾を振ってついてくるだけの存在となり、付き人のような?存在になっていく。

 事務所の社長もそれでいいと黙認しているので、こんなので、広告代理店の仕事が務まるものなのか?と思っていたら、事務所の社長に言わせると、タレントさんのご機嫌伺いにテレビ局に出入りすることが、そもそも大事だとか……?

 そんなものですかね?

 テレビ局も広告代理店も、スポンサーがあって、初めて成り立つというものだから、駆け出しの時には、タレントの金魚のフンに成り下がることも大事なお仕事の一環だそうだ。

 それにしても、この前の会食の時には、一人前に仕事をしてもらえるようにして見せる!なんて、大見えを切っていた割には、この金魚のフンは……どうしようもないのかも?

 いいところのお坊ちゃんだということは、わかるけど……。なんとなく頼りない感じがする。

 電気通信社へは入社2年目というから、真理子より3歳年上なだけだから、そんなものかなぁ。

 こうしてみると異世界のオトコはみんな、若いのにしっかりしていたと思う。平均寿命が戦国時代並みに短いことと、成人年齢になるのが13歳ということもあり、18歳で学園を卒業するころに、たいていの人はみんな結婚してしまう方かもしれない。

 日本は、年齢×0.7と言われているから、なかなか成人しても、大人になり切れないのかもしれない。

 そういう真理子も、21歳になったばかりだが0.7を掛けると14,5歳になり、異世界では4人も子供を産んでいたことから考えても、精神年齢81歳の割に幼稚なのかもしれない。

 さっさと押し倒してきたら、またいつものように対処するけど、一向にその気配がない。だけど、いつも真理子を見るとなぜだかモジモジしている。

 今まで女には不自由していなかったタイプなのかもしれない。社長の息子で、東大卒、そこそこのイケメンだから、女の方から言い寄ってくることに慣れきっているのかもしれないけど、真理子はこういうタイプは苦手だから、真理子からは絶対に誘うことはない。

 そんなある時の仕事帰り、珍しく山吹ボンが

「あ、あの……。もし、よかったら、これから映画でも観に行きませんか?その後、食事して……」

「ん?そうね。この後、ヒマだから、いいわよ」

 なぜだか、ほっておけない雰囲気を醸し出していたので、ついOKしてしまったけど、大丈夫だろうか?

 目をキラキラさせて、嬉しそうに見えないはずの尻尾を振りまくっている姿が見えたような気がした。

 映画は、「コンフィデンスマンJP」という話題作で、けっこうおもしろかったけど、なぜだかボン(ご令息様)は、浮かない顔というより、どこか緊張した面持ちに、その緊張感が、真理子にまで伝わってくる。

 食事の後は、映画館の近くのカフェに入り、感想を言い合って、恋人同士になったみたいで、楽しかったわ。そういえば、こんなデートをしたのは、前世、健彦以来のことで、久しぶりに楽しいひと時を過ごせたことに感謝する。

「今日は、ありがとう。久しぶりに年齢相応に楽しめたような気がする。お疲れさまでした」

 ペコっと頭を下げて、帰ろうとしている真理子の腕を、ボンは掴んでくる。

「あの……、ちょっと、お話してもよろしいですか?」

「え?だったら、ウチで……ウチに来てもらっても構いませんか?」

 何か交渉事をするには、自分の陣地に引き入れてしまった方が成功する確率が高い。

 それに家には、両親もいるから、下手なことは言えないはず。

「いいのですか?では、お邪魔致します」

 気負うことなく、すんなり家に入ってきたので、拍子抜けしてしまうが、案外、ボンは好青年なのかもしれないと思った。

 両親は、真理子が初めて男性を言えに連れ帰ったことから、そういう関係なのかと勘繰るが、真理子があっけらかんとした口調で言ったものだから、相好を崩しもてなす。

「付き人みたいなもので、今、インターンシップでお世話になっているところの会社の人なの」

「真理子がいつもお世話になっています」

「初めまして、山吹太郎と申します。電気通信社社長の息子です。以前から真理子さんの大ファンで、いつもクイズ番組を拝見しております」

「まあ!広告代理店の社長さんの息子さんでしたか」

 雰囲気から察するに、母はボンを気に入ったようで

「今日、お宅へお伺いしたのは、その……、真理子さんと結婚を前提として、お付き合いさせていただけないでしょうか?お願いします!一生、真理子さんを大切にします!よろしくお願いします!」

 ボンは、真理子に言わずに、うちの両親に必死に頭を下げている。

「はぁ?」

 あまりの突然のことで、開いた口が塞がらない。

「まあ!真理子ちゃんおめでとう。こんな素敵な方からプロポーズされるなんて、夢みたいね。ねえ、お父さん?」

「うう。まあ、そうだな……」

「では、お付き合いを認めてくださるのですね。ありがとうございます」

 真理子の方に向き合って、

「真理子さん、アナタのことが大好きです。僕の彼女になってください!」

 なんか、外堀を埋められた感がしますけど?

 これなら、いきなり押し倒された方が、返事がしやすいのだけど……。

 それで、ボン、いや太郎さんとお付き合いすることになってしまったのである。
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