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グレーテルは、位置関係を把握して、再び歩きはじめる。まずは、本屋さんに立ち寄り、近辺の地図を買う。
馬車ターミナルでは、様々な屋台が出ている。その中でもいい匂いがしている串焼きを3本買って、1本を食べる。残り2本は宿へ帰ってからのお楽しみというつもり。
エッフェルでは、伯爵令嬢が買い食いなんて、知り合いに見つかれば、顔を顰められるところだが、ここでは知り合いがいなくて誰にも咎めだてられない自由さがいい。
と安心しきっていたら、前方から見知った顔がニコニコ顔で近づいてこられる。ベネディクトさんである。
「やあ!こちらにいらっしゃいましたか?今、宿に行けばお散歩だと言われまして」
「何か御用事ですか?」
「いえいえ。大したことではないのですが、もしよろしければ私の商会を見ていただこうと思いまして」
「はあ……」
「御父上の商会に比べるまでもない弱小商会です」
ベネディクトさんの狙いは、自分の商会を見せるだけでなく、その隣の空き店舗兼住宅を見せたかったらしいということは、すぐに分かった。
離婚したら、国を出るつもりでいたけど、まさか、父と同じような商人になる気はなかったグレーテルは明らかに困惑の色を見せる。
「あっ!違うのです。念のため……というか、本音を言いますと、馬車の中で住むところを探しているとおっしゃっていたので、ご迷惑でしたか?」
「いえ。そういうわけでは……、わたくし実は、出戻りでして」
グレーテルは3日前にもらったばかりの離婚証明書をベネディクトさんに見せる。
「なんと!元の旦那様は、アンデルセン商会のご令息だったとは……、それではしばらく商人になる気は失せますね」
「ええ。狭い世界ですし、この先の身の振り方も考えないといけません。父に頼めば、いくらでも商品は回してもらえるかと思いますが、ここに来たことを父はまだ知りません」
でも、その店舗付き住宅は、なかなかの代物で、素人ではここまでの物件にお目にかかることはできないもの。
少し悩んだ末に、その物件を借りることにする。今夜は、そのまま「レディス」に泊まり、明日から、ベッドや家具をそろえる必要があるけど、何も店舗付きを借りたからと言って、すぐに商売を始める気はない。ただ、自分の居場所を確保しておきたかったということが正直なところなのだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
ストックホルム国に来て、早半年が過ぎた。
グレーテルはヘンゼルとの間の子供を妊娠していなかったことにホっとし、今は王都の商業ギルドの裏で、グリム商会の支店を任されている。
ヘンゼルの子供を身ごもっていなかったことは、実に喜ばしいこと、あの夜のことは今でも寒気がするほど、おぞましい記憶だが、嫌いな男の子供を妊娠していなくて、本当に良かったと思っている。
衛生状態が良くないこの国で、堕胎するなどグレーテルの命にかかわることになり、どうしようかと悩んでいた。
というのも、あれからベネディクトさんとわりない仲になり、ラブラブと言ったところ。まだ再婚には、至っていないが、今はベネディクトに抱かれるだけで幸せ。
これが、ヘンゼルと白い結婚のまま、離婚していたら男性に心も体も開くことは到底なかったように思う。けがの功名と言ったところとは、このことを言うのかもしれない。
ベネディクトさんの商会にも、グレーテルを通しグリム商会として取引をしている。わざわざ急行馬車に乗り継がなくても、エッフェル国と同じ商品が流通するようになった。
また商業ギルドの組合員には、希望者に予約制で販売されることも決まったのだ。もう、これで初めてストックホルムの商業ギルドで起こった時のようにグレーテルの持ち物に値が付くこともなくなったし、喧嘩をされる心配もない。
馬車ターミナルでは、様々な屋台が出ている。その中でもいい匂いがしている串焼きを3本買って、1本を食べる。残り2本は宿へ帰ってからのお楽しみというつもり。
エッフェルでは、伯爵令嬢が買い食いなんて、知り合いに見つかれば、顔を顰められるところだが、ここでは知り合いがいなくて誰にも咎めだてられない自由さがいい。
と安心しきっていたら、前方から見知った顔がニコニコ顔で近づいてこられる。ベネディクトさんである。
「やあ!こちらにいらっしゃいましたか?今、宿に行けばお散歩だと言われまして」
「何か御用事ですか?」
「いえいえ。大したことではないのですが、もしよろしければ私の商会を見ていただこうと思いまして」
「はあ……」
「御父上の商会に比べるまでもない弱小商会です」
ベネディクトさんの狙いは、自分の商会を見せるだけでなく、その隣の空き店舗兼住宅を見せたかったらしいということは、すぐに分かった。
離婚したら、国を出るつもりでいたけど、まさか、父と同じような商人になる気はなかったグレーテルは明らかに困惑の色を見せる。
「あっ!違うのです。念のため……というか、本音を言いますと、馬車の中で住むところを探しているとおっしゃっていたので、ご迷惑でしたか?」
「いえ。そういうわけでは……、わたくし実は、出戻りでして」
グレーテルは3日前にもらったばかりの離婚証明書をベネディクトさんに見せる。
「なんと!元の旦那様は、アンデルセン商会のご令息だったとは……、それではしばらく商人になる気は失せますね」
「ええ。狭い世界ですし、この先の身の振り方も考えないといけません。父に頼めば、いくらでも商品は回してもらえるかと思いますが、ここに来たことを父はまだ知りません」
でも、その店舗付き住宅は、なかなかの代物で、素人ではここまでの物件にお目にかかることはできないもの。
少し悩んだ末に、その物件を借りることにする。今夜は、そのまま「レディス」に泊まり、明日から、ベッドや家具をそろえる必要があるけど、何も店舗付きを借りたからと言って、すぐに商売を始める気はない。ただ、自分の居場所を確保しておきたかったということが正直なところなのだ。
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ストックホルム国に来て、早半年が過ぎた。
グレーテルはヘンゼルとの間の子供を妊娠していなかったことにホっとし、今は王都の商業ギルドの裏で、グリム商会の支店を任されている。
ヘンゼルの子供を身ごもっていなかったことは、実に喜ばしいこと、あの夜のことは今でも寒気がするほど、おぞましい記憶だが、嫌いな男の子供を妊娠していなくて、本当に良かったと思っている。
衛生状態が良くないこの国で、堕胎するなどグレーテルの命にかかわることになり、どうしようかと悩んでいた。
というのも、あれからベネディクトさんとわりない仲になり、ラブラブと言ったところ。まだ再婚には、至っていないが、今はベネディクトに抱かれるだけで幸せ。
これが、ヘンゼルと白い結婚のまま、離婚していたら男性に心も体も開くことは到底なかったように思う。けがの功名と言ったところとは、このことを言うのかもしれない。
ベネディクトさんの商会にも、グレーテルを通しグリム商会として取引をしている。わざわざ急行馬車に乗り継がなくても、エッフェル国と同じ商品が流通するようになった。
また商業ギルドの組合員には、希望者に予約制で販売されることも決まったのだ。もう、これで初めてストックホルムの商業ギルドで起こった時のようにグレーテルの持ち物に値が付くこともなくなったし、喧嘩をされる心配もない。
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