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11.視線

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 あれ?なんかしでかした?気まずい雰囲気のまま、馬車はあっという間に王城に着いてしまった。

 マクシミリアン様は、先代の王女様が降嫁されできた家で、フェリシアン殿下とは、また従兄弟の関係に当たる。

 王族の一員だが、こちらはクリストファー殿下と大違いの堅物のようだ。

 ずっと不機嫌で、もうシャルロットに一瞥もくれない。そんなにこの格好がマズかったのか?だって、武器を隠し持っているのだから、そうとは見られないような恰好がいいのでは?と判断したからなのに。

 心外だわ。とプリプリしながらも、ここは上官なので、一応、「ごめんなさい」と謝っておくことにした。でも、口だけのことだから無視されると思ったのに、マクシミリアン様は驚いたような顔で、「いや」と一言、言われた。

 上官のご機嫌を取らないと出世の見込みはない。前世の教訓から、思わずした行動だけど、これでよかったのよね?

 エントランスから夜会が行われるホールまで一直線で、行ける。その間、ずっと、右手はマクシミリアン様の左の二の腕のあたりに置いている。

 ホールに到着すると、さすがに注目を浴びてしまう。それはあまりにもイケメンのマクシミリアン様の横にシャルロットのようなカラダ付きだけが女な男が、マクシミリアン様の腕にぶら下がっているものだから、面白くないと感じている人が多いのだろう。

 だけど、これはあくまでも仕事の一環なので、ここには恋愛感情の欠片もない。シャルロット自身は、一度マクシミリアン様とそういう関係(カラダだけの関係)になりたがっているけど、まったく相手にされていないわけで、行きの馬車の中で気まずかったといえばこの上もないぐらい気まずかったのだから、もう振られたも同然で、内心かなりしょげている。

 もちろんそんなことは、おくびも出さず任務に就いているわけで、だから今はもうこれが最初で最後になるとの思いで、マクシミリアン様にカラダを寄せている。



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 一方、マクシミリアンは明らかに動揺している。

 もともとシャルロット聖女様を近衛に入れたいと希望されたのは、フェリシアン殿下でそこには一切の私情を挟んでいない。

 あの入団試験の際、突如として聖女様に覚醒したシャルロット嬢のことを心憎からず思っていたが、俺は王族の血を引く王家の一員。部下の女性に手を出すことなどあってはならない。ましてシャルロット嬢は聖女様でもあるわけだし、それにしても今日のドレスは鼻血モノで、俺は、まともにシャルロット嬢を見ることができない。

 気づかれないように、わざと視線を外したら、次々とシャルロット嬢は、柔らかそうな大きな胸の谷間から短剣を取り出し、スカートをめくりあげて美脚を披露させ長剣を隠し持っていることを吹聴するわで、困り果ててしまったのだ。それを怒っていると勘違いしたのか「ごめんなさい」だなんて、なんて可愛い過ぎる。

 俺の下半身は爆発寸前で、平常心を保つのに苦労をする。こんな拷問のような任務はコリゴリだ。

 早く終わらせて、シャルロット嬢と反省会と称して、打ち上げを行いたいものだと心から思う。その時は、無礼講と称して、マッサージしてやると言いながら触りまくってやるつもり。と秘かな野望を持っていたのだが、その後、とんでもないことが起こってしまい、その野望を果たすことができるかどうか、微妙なところ。

 ともあれ、そんなシャルロット嬢を伴いながら、夜会会場のホールへ到着すると全員の視線が俺に向き、痛い。

 仕事にかこつけて、イイ女を連れていやがる。と言いたげな視線を向けられ、おまけにエスペランサが怖がってしまい、俺にカラダを預けてくる。彼女の体温を感じながら、冷や汗は出るわ。喉はカラカラになるわで、生きた心地がしない。
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