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公爵令嬢キャサリン
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「公爵令嬢キャサリン・ブラウン、貴様とは今日をもって、婚約破棄とする。」
「なぜでございますか?理由をお聞かせください。」
「ふん、俺は聖女様と結婚したいのだ。貴様が婚約者の座にいると不都合でな。」
バルサルタン王国の王太子アテレック・バルサルタン殿下が高らかに宣言された。
聖女認定の儀式は、明日、行われる。代々ブラウン公爵家から聖女は排出されるのだが、今回の下馬評では、平民出身のリリアーヌが選ばれるだろうと予想されている。
アテレックが聖女と結婚したがっているとは、わかっていたけど長年にわたり、お妃教育をされてきた身としては、腑に落ちない。
それに、国境の結界維持は、代々ブラウン公爵家の未婚の娘がしてきたことなのである。それを聖女という肩書だけが欲しいからと言って、結界維持者であるわが家を蔑ろにするとは、言語道断である。
帰宅してからの父の言葉である。キャサリンの血反吐の努力を平然と無駄にするとは!
明日、リリアーヌが選ばれようが選ばれないでいようが、キャサリンは聖女認定の儀式が済むと、国境を超えるつもりであると父に告げる。
それなら、今日のうちに支度をして、公爵家全員で国境を越えよう。どうせ、キャサリンがいなくなれば、結界を維持できなくなり、バルサルタン王国は崩壊してしまうのだから、その責任をアテレック王太子は取らず、わが家に押し付けてくるのは目に見えているからだ。
大急ぎで領地に使いを出し、引っ越しの準備を進めた。それにつられ、王都の住民もなんとはなしに不安を感じ、引っ越し準備を始めた。
聖女認定の儀式の日が来た。アテレック王太子は、当然、リリアーヌをエスコートして入場された。キャサリンは、両親とともに、教会に出向き、涼しい顔をして着席している。キャサリンだけは、儀式後、すぐに国境を目指す予定である。もし、キャサリンが聖女として認められても同じ人間と再度、婚約はできないという法律があり、王太子妃にはなれない。いずれにせよ、もし聖女認定があったところで、アテレックと関係を修復するなど、ありえないことなのだが。
聖女かどうかの判定は、聖女候補者たちが、上段に置かれてある水晶玉に手をかざし見事光らすと、聖女。何も変化がなければ、一般人。ということになる。
聖女は、結界を維持するだけでなく、聖女が住む国に繁栄をもたらし、疫病退散させ、さらには天候が安定し、豊作が約束される。聖女の存在は、人々を幸せに導くのである。
そのため、アテレックは聖女と結婚したい。聖女と結婚して、歴代の王の最高位と称賛されたいのだ。たとえ愛はなくても、お飾りとして聖女が欲しい。聖女は王妃教育などしなくとも、ぜいたくな暮らしが保証されている。Give and take. としての契約です。
一番最初に水晶玉の判定を受けるのは、高位貴族からと決まっているのに、今回は平民リリアーヌからになり、王太子とともに上段へ。
司祭様から、いろいろと説明を受けているようだ。もし聖女認定された後のスケジュールなどであろう。もう、聖女と決まったような勝ち誇った微笑みをしているリリアーヌとアテレック、いよいよ水晶玉に手を……?なんの変化もない一般人。
もう一度、手をかざすリリアーヌ。やっぱり、変化なし。焦って、再度、手をかざそうとするリリアーヌの手を司祭様が遮った。何度やってもダメなものはダメ。過去にこういうことがあった経験である。
次の人が呼ばれて、また、手をかざす。を繰り返し、とうとうキャサリンの順番まで来てしまい、おずおずと上段まで行き、水晶玉に手をかざした。
その瞬間、まばゆいばかりの光が発せられ、教会全体はおろか、王都全体まで光り輝き、目を開けていられないほどで、司祭様も王太子アテレック殿下も茫然としている。
平然としていたのは、やはり両親で「当然」という顔をしている。
キャサリンは教会関係者に捕まる前に、両親とともに馬車に向かい、慌てて馬車の扉を閉めた。教会関係者が追いかけてくるのを無視して、国境まで走らせる。そこで、屋敷の者たちや領地の者と落ち合い、国境を超えるという計画。
王太子アテレック殿下は、青ざめながらブラウン公爵家を訪れるが、もぬけの殻で誰一人いない。
バルサルタン国王陛下からは、大声で叱責される。
「なぜ、勝手にキャサリン嬢と婚約破棄した?キャサリン嬢との婚約は、単なる政略ではなかったのだぞ。キャサリン嬢は稀にみる魔力の持ち主で、国の結界をずっと守り続けていてくれたのだ。聖女でなくても、キャサリン嬢は「貴重な聖なる女性」だったのだ。それを勝手に婚約破棄して、傷つけ、愛想を尽かされ。どこまで愚か者か……。」
涙も声も枯れ果てたバルサルタン国王陛下。その場にへたり込み、
「なぁ、アテレックよぉ……国境へ行き、人柱になってくれんかのぉ……。このままでは、ご先祖様に申し訳が立たん……。」
人柱、それは死を意味する。
「それより、キャサリンを戻したほうがいいのでは?キャサリンを連れ帰ります。」
出て行こうとするアテレックを国王が呼び止める。
「もう最低でも隣国へは、行っておるであろう。どこの国が聖女様を返す?今頃は、ブラウン共々、歓待されておるよ。この国はもう終わりだ。ブラウン家の血を引く未婚の娘がいなければ、結界維持すらできん。」
バルサルタン王国は、150年の歴史に幕を閉じるのであった。
「なぜでございますか?理由をお聞かせください。」
「ふん、俺は聖女様と結婚したいのだ。貴様が婚約者の座にいると不都合でな。」
バルサルタン王国の王太子アテレック・バルサルタン殿下が高らかに宣言された。
聖女認定の儀式は、明日、行われる。代々ブラウン公爵家から聖女は排出されるのだが、今回の下馬評では、平民出身のリリアーヌが選ばれるだろうと予想されている。
アテレックが聖女と結婚したがっているとは、わかっていたけど長年にわたり、お妃教育をされてきた身としては、腑に落ちない。
それに、国境の結界維持は、代々ブラウン公爵家の未婚の娘がしてきたことなのである。それを聖女という肩書だけが欲しいからと言って、結界維持者であるわが家を蔑ろにするとは、言語道断である。
帰宅してからの父の言葉である。キャサリンの血反吐の努力を平然と無駄にするとは!
明日、リリアーヌが選ばれようが選ばれないでいようが、キャサリンは聖女認定の儀式が済むと、国境を超えるつもりであると父に告げる。
それなら、今日のうちに支度をして、公爵家全員で国境を越えよう。どうせ、キャサリンがいなくなれば、結界を維持できなくなり、バルサルタン王国は崩壊してしまうのだから、その責任をアテレック王太子は取らず、わが家に押し付けてくるのは目に見えているからだ。
大急ぎで領地に使いを出し、引っ越しの準備を進めた。それにつられ、王都の住民もなんとはなしに不安を感じ、引っ越し準備を始めた。
聖女認定の儀式の日が来た。アテレック王太子は、当然、リリアーヌをエスコートして入場された。キャサリンは、両親とともに、教会に出向き、涼しい顔をして着席している。キャサリンだけは、儀式後、すぐに国境を目指す予定である。もし、キャサリンが聖女として認められても同じ人間と再度、婚約はできないという法律があり、王太子妃にはなれない。いずれにせよ、もし聖女認定があったところで、アテレックと関係を修復するなど、ありえないことなのだが。
聖女かどうかの判定は、聖女候補者たちが、上段に置かれてある水晶玉に手をかざし見事光らすと、聖女。何も変化がなければ、一般人。ということになる。
聖女は、結界を維持するだけでなく、聖女が住む国に繁栄をもたらし、疫病退散させ、さらには天候が安定し、豊作が約束される。聖女の存在は、人々を幸せに導くのである。
そのため、アテレックは聖女と結婚したい。聖女と結婚して、歴代の王の最高位と称賛されたいのだ。たとえ愛はなくても、お飾りとして聖女が欲しい。聖女は王妃教育などしなくとも、ぜいたくな暮らしが保証されている。Give and take. としての契約です。
一番最初に水晶玉の判定を受けるのは、高位貴族からと決まっているのに、今回は平民リリアーヌからになり、王太子とともに上段へ。
司祭様から、いろいろと説明を受けているようだ。もし聖女認定された後のスケジュールなどであろう。もう、聖女と決まったような勝ち誇った微笑みをしているリリアーヌとアテレック、いよいよ水晶玉に手を……?なんの変化もない一般人。
もう一度、手をかざすリリアーヌ。やっぱり、変化なし。焦って、再度、手をかざそうとするリリアーヌの手を司祭様が遮った。何度やってもダメなものはダメ。過去にこういうことがあった経験である。
次の人が呼ばれて、また、手をかざす。を繰り返し、とうとうキャサリンの順番まで来てしまい、おずおずと上段まで行き、水晶玉に手をかざした。
その瞬間、まばゆいばかりの光が発せられ、教会全体はおろか、王都全体まで光り輝き、目を開けていられないほどで、司祭様も王太子アテレック殿下も茫然としている。
平然としていたのは、やはり両親で「当然」という顔をしている。
キャサリンは教会関係者に捕まる前に、両親とともに馬車に向かい、慌てて馬車の扉を閉めた。教会関係者が追いかけてくるのを無視して、国境まで走らせる。そこで、屋敷の者たちや領地の者と落ち合い、国境を超えるという計画。
王太子アテレック殿下は、青ざめながらブラウン公爵家を訪れるが、もぬけの殻で誰一人いない。
バルサルタン国王陛下からは、大声で叱責される。
「なぜ、勝手にキャサリン嬢と婚約破棄した?キャサリン嬢との婚約は、単なる政略ではなかったのだぞ。キャサリン嬢は稀にみる魔力の持ち主で、国の結界をずっと守り続けていてくれたのだ。聖女でなくても、キャサリン嬢は「貴重な聖なる女性」だったのだ。それを勝手に婚約破棄して、傷つけ、愛想を尽かされ。どこまで愚か者か……。」
涙も声も枯れ果てたバルサルタン国王陛下。その場にへたり込み、
「なぁ、アテレックよぉ……国境へ行き、人柱になってくれんかのぉ……。このままでは、ご先祖様に申し訳が立たん……。」
人柱、それは死を意味する。
「それより、キャサリンを戻したほうがいいのでは?キャサリンを連れ帰ります。」
出て行こうとするアテレックを国王が呼び止める。
「もう最低でも隣国へは、行っておるであろう。どこの国が聖女様を返す?今頃は、ブラウン共々、歓待されておるよ。この国はもう終わりだ。ブラウン家の血を引く未婚の娘がいなければ、結界維持すらできん。」
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