契約婚から玉の輿婚~前世喪女が朝チュン

青の雀

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 怒涛のサマリーの視察が終わり、別れの挨拶をしているときに料理長と伯爵様から質問攻めにあったことは意外だったわ。

 料理長はあのアフタヌーンティーセットをお茶会や簡単なパーティにアレンジするみたい。どんなふうになるか楽しみだわ。その時、呼んでもらえるかどうかわからないけどね。

 伯爵様は、入浴中に呑むドリンクがリキュールの類であることを見抜かれ、湯上りビールもリキュールだということが知られた。

 リキュール類とは、何かしら果物を発酵させて濾したもの。だから清酒もビールもリキュールに違いない。

 入浴中にいただく方は血の巡りが良くなる温かいものを勧め、湯上りはカラダを冷やす作用があるものがいいと助言する。

 バーバラは次の逗留地までの道のり、浮かない顔をしている。

 だってサマリーでは食べてばっかりで、それにこの不思議な力の正体もわからない。

 なんとなく考えることを先延ばしにしてきたけど、やっぱり謎。異空間収納というべきか?欲しいものが何でも出てくるボックスかはわからない。

 それともあの金貨10万枚があるから、それで前世で食べたいものが買えるってことないよね?

 念のため、異空間内にあるはずの金貨を確認すると……枚数は減っていないが、なぜか増えている?な、なんで?利息?運用してもいないのに、利息が付くわけがない!

 ますます疑問が湧いてくる。

 前世不幸な結婚をしたから?いやいやいくらなんでも前世は行き過ぎたかなぁ。今世で不幸な契約結婚したから?

 そうあの10万金貨を受け取ってから、おかしな能力が芽生えたもの。いくら考えてもわからない。やっぱり考えることは止そう。これからはあまり人前で使うのは止めよう。

 その日の宿は、教会に泊ることになった。本当はちゃんとした宿屋を予約していたのだが、その宿屋は3日前こともあろうか食中毒を出してしまい、そこに国王夫妻が泊まることは難しい。

 他の宿は、当然いっぱいで、もう余裕がない。

 司祭様、修道士様は野宿をされる。小さな教会なので王国側も全員が泊まれるというわけではない。

 護衛は見張りを兼ねて外で野宿することになった。

 馬車をうまく改造すれば、キャンピングカーのようにならないか?とふと考えると異空間にキャンピングカーが出現してしまった。

 はぁ。いくらなんでもこれはマズイでしょ!?

 「なんだバーバラ、また考え事か?」

 陛下が後ろから肩を抱く。

 「今夜こそは逃がさない。愛している。」

 クチュクチュとキスの音がいやらしい。陛下に触られ、だんだんその気になってくる。

 でも異空間に目をやるといかにも存在感抜群のものは居座っている。

 バーバラは陛下の腕を振りほどき、椅子に座ったまま考える。

 出すべきか?出さざるべきか?

 常識で考えれば、絶対出してはならないし、出すリスクが大きすぎる。だって、キャンピングカーはバーバラの前世の遺物。

 それを異世界に出すなど……ありえない!

 でも司祭様に野宿させてまで張る意地などないような気もする。

 すべてはこの教会が小さいから、全員が寝泊まりできないのでは?キャンピングカーもいいけど、それより抜本的に発想を転換すれば……!

 もう、バーバラハ突拍子もないことを閃いたけど、言い出す勇気がない。

 「陛下、恐れ入りますが司祭様を呼んでいただけないでしょうか・」

 「わかった。」

 陛下は扉を開け、騎士に指図している。ほどなくして、司祭様はバタバタと来られる。

 「何か、この部屋に不備がございましたでしょうか?お気に召さぬことなど……?」

 青ざめた姿を見て良心がチクリと痛む。

 「司祭様、もう少しこの教会を広く、立て替えられたいというお気持ちはございませんでしょうか?」

 「は?したいのはやまやまですが、先立つものが……。いえ、国王陛下の御前で十分な寄付を頂いておりますので、いずれ建て替えを検討しています。」

 「そう、なら、今から建て替えましょう。」

 「は?今からですと?」

 「おい、今からなんていくらバーバラでも無理じゃないか?」

 陛下の言葉が引っかかる。「いくら」「でも」「無理」陛下はわたくしの変化に気づいていらっしゃる?

 ハッとして、陛下の顔を見る。ニコッ。いつもながらさわやかな笑顔。

 そんなこと考えている場合ではない。

 「それでは、全員この建物から今すぐ出てください。」

 言われた通り、せっかく荷物を解きかけた手を止め、全員が外へ出る。

 ここは街のはずれだから、土地の広さはそこそこあるからたぶん大丈夫だと思うが

 「忘れ物はないですね?それではすこし下がってください。」

 イチかバチかやるしかない。

 みんなに下がってと言ったのに、なぜか陛下は側にいらっしゃる。陛下がいらっしゃるから護衛のものも当然、近くにいる。

 「陛下、恐れながらもう少し後ろへ下がっていただけませんこと?」

 「でもバービーに何かあれば俺が守らなければ……。」

 「お気持ち、とても嬉しいのですが邪魔なんです!」

 あ、言っちゃった。

 陛下はとても傷ついた顔をされている。

 「ごめんなさい。今できるときにできることをしたいのです。」

 「いや、邪魔をしてすまない。」

 陛下と護衛が下がったことを見届けてから、今建っている教会そのものを異空間に仕舞ってみる。

 そして、すぐに前世、新婚旅行で行ったサン・ピエトロ寺院を思い浮かべてその場に出してみる。

 これなら、キャンピングカーほどの違和感はないでしょ?

 バーバラは後ろを振り返って、「できたわよ」と言うつもりが、その場にいた全員が跪いている。

 「女神様……。」

 「誤解があるようだから、言っておきます。わたくしは女神でもなんでもございません。ただ、視察旅行へ出立してから、こんなものがあればいいなと望んだものがすべて具現化してしまいます。自分でも何が何やらわからないのです。この力もいつまでできるかわからないので、だから顔を上げてください。そして全員で泊まれるような教会をイメージしました。」

 「よし!そう言うことであれば、皆で入ろう。そして今日はここで泊まろう。」

 「「「「「はい。」」」」」

 王国側の人間を諭すことは簡単でも、司祭様は難しかった。

 「女神様、本当にこんな素晴らしいものを頂いて大丈夫でしょうか?」

 「たぶん。消えることはないと思うわ。お部屋は司祭様が好きに決めてください。」

 「はい。女神様の御心のままに。」

 「だからぁ、女神様と呼ばないで。」

 「わかりました女神様。」

 「諦めろバービー、こ奴は敬虔な信徒だから、女神様だと思わせておけ!俺はバービーが女神様でなくて、良かったと安心している。」
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