チェスクリミナル

ハザマダアガサ

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スクール編

2対1

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「みなさんおはようございます。えー、今日も平和な朝がやって参りましたね。私は先日……」
 現在時刻8時32分。
 今日も毎日の日課である朝の集会が開かれていた。
 朝8時半までに集会場に集まり、9時まで淡々と校長先生の話を聞く。
 そこでは生徒にとってどうでもいい話や、少し興味のある話。
 当たり前だが、生徒1人1人によってその話は別のものと感じる。
 今日も後ろの方で退屈している者たちがいた。
「なあトレント。ハンズ誘って森林行かねえか? こいつの話つまらなすぎる。これ以上聞いてたら周りの奴ら殺したくなってくるぞ」
「やめときなよ。ここもさっき殴って奪い取っただろ? あんまり騒ぎは起こさない方がいいと思うけどな」
「なら森林行こうぜ。ハンズ探しとくから少し待っとけ」
「相変わらずスウィンは勝手に決めますね。まあ私も退屈していたのでいいですが」
「はあ……、分かったよ。行けばいいんでしょ」
 スウィンの提案により森林へと行く事になった2人。
 しかし、ここまではいつもと変わらない何気ない会話である。
 つまらなくなったら楽しい事をする。性格の違う3人でもこれだけは一致していた。
 今日も1日つまらない人生を送る。3人は意識せずとも、頭の隅では思っていた。
 今日までは。
「うーうーうーうー」
 突然響き渡るサイレン。
 生徒は疎か、教師でさえこの得体のしれない音を聞いた事がなかった。
 サイレンが鳴るたびに大きくなるざわめき。
 言わずもがな、全員が動揺していた。
「落ち着け!」
 その声の主は校長先生。本名テレンテ・レスであった。
 普段温厚なテレンテから発せられた怒号に似た声。
 瞬く間に静まり、皆テレンテに意識を向けていた。
「何が起こったか分からない以上、下手に動くのは危険です。生徒はここで待機、先生たちは各教室の見回りをお願いします」
 その言葉を合図に、集会場の教師が一斉に動き出す。
 ある者は教室へ、ある者は門前へ。
 それぞれの教師が行動に移る中、この3人は高揚していた。
「何か面白い事になってきたな」
「だね。もちろん俺たちは」
「抜け出しますか」
 3人の意見が合致し、後方の扉から出る教師に合わせてバレずに外へ出る事に成功した。
 廊下に出ると騒がしいサイレントは裏腹に、足音1つさえ聞こえない。
 最初の違和感に気付いたのはチープだった。
「おかしいですね」
「何がだ?」
「私たちより先に出た先生はどこに行ったのでしょう」
 集会場は普通、その広さから周りに部屋がない。
 それは同時に隔離された部屋とも言い換える事が出来る。
 つまり部屋を出て入る部屋など無いのだ。
 これが表す意味はとは。
「キューズの仕業ですね」
「キューズってあの要注意団体のことか? ジャスターズと因縁関係にあるとかなんとか」
「その可能性は高いかもね。現に今、俺たちの前を行ってた先生が消えたし」
「そうですね。そう考えるが妥当と思います」
 キューズ。ジャスターズが作られるきっかけとなった要注意団体。
 能力者だけで構成されており、大将格は組織の名であるキューズ。
 一時期世間を騒がせ、能力者と無能力者の間の溝を更に深いものとした過去がある。
 世間に対して友好的な地位を目指すクリミナルスクール、ジャスターズにとって最大の敵と言えるだろう。
「スウィン。ここは別行動より、団体で行動した方がいいかもしれません。相手は恐らくテレポート系の能力者です。前を走っていた先生はその能力の類ではなかったと記憶しています」
 チープの素早い頭の回転により、相手の能力をある程度特定でき、対策も立てる事が出来た3人。
 万全の策とは言えないが、もし得点を付けるとしたら今の状況では100点中90点以上だろう。
「チープの言う通りだな。俺もあの先生によく怒られてたから覚えてるけど、テレポートの能力じゃ無かったのは確かだと思うよ」
 トレントのスウィンへの呼びかけは、本人に伝わる事なくただ廊下に響くだけであった。
「スウィン? スウィンどこだ!」
 トレントが異変に気付いたのは、スウィンがいなくなってからおよそ9秒後の事だった。
「トレント、スウィンがいません」
 チープもその約2秒後に気付き、既に自分たちへの攻撃が始まっている事を知った。
「まさか、スウィンが攫われました」
「攫うってどこに」
「それは分かりませんが、スウィンが消えたのは確かです」
 チープの頭は混乱していた。そして同時に得体のしれない不安が、心の奥底から這い上がろうとしているのを感じていた。
 チープは思った。もしこの能力者がテレポートではなく、相手を抹消する事の出来る能力者だったらと。
 チートじみた能力だが有り得ない話でもない。理不尽でなす術のない能力もこの世には存在する。
 その事実を自分の能力で実感しているチープにとって、この状況で外へ出た事を後悔するほかなかった。
「安心しろチープ。スウィンはそう簡単にやられるタマじゃないさ。それは俺らが1番よく知ってるだろ?」
「……そうですね」
 トレントの言葉により、ここが既に戦場と化している事を再確認する事が出来たチープ。
 その目は不安で視界を奪われたものではなく、見えない敵を鋭く殺意を持った意志と変わっていた。
「トレント。周囲の空気を探ってください。相手は現れる時、恐らく周りの空気も1度にテレポートさせています。そこを注意して下さい。呼吸は当てになりません」
 この発言が、見えない敵である相手に姿を現せざるおえない状況へと追い詰めた。
「凄えな。たった2人をテレポートさせただけでこの様だ。目標は達成したが、厄介な奴を見つけたら排除しないとな」
 2人の目の前には、あのスウィンを呆気なくテレポートさせた、キューズ側であろう人間が立っていた。
 背丈185センチメートル前後と、およそ素早く動けないであろう男が、あっさりと目の前に現れたのだ。
 当然、2人は警戒する。
 一見するとわざわざ姿を見せた頭の悪い能力者。
 しかしその実、2人相手でも排除と軽く口に出来る程の手練れである事には変わりなかった。
「お前がスウィンを攫ったのか」
「攫うって別に誘拐とかじゃないぜ? 誘拐は攫われた自覚があるだろ」
「あくまで仕事の1つと言うつもりですか」
「やっぱりお前察しがいいな。名前は確か……、トレント?」
 チープに話しかけていた男が、不意に自分の名前を呼んだ事により、トレントの肩は数ミリ浮く。
「トレントはそっちか。じゃあ厄介なのはチープだな」
 男は当然の様に2人の名を口にする。
 元犯罪者である以上、名前が知れていてもおかしくはない。
 しかし全校生徒3000人以上に匹敵するこのクリミナルスクールで、メモ1つも見ずに2人の名をドンピシャで当てることが出来るだろうか。
 偶然と片付けることは出来るが、明らか敵陣に自分たちがマークされていると、そう思わざるを得なかった。
「なぜ俺たちの名前を知っている」
 そう口にする事は出来なかった。
 名前が知れているという事は、能力はもちろんバレていてもおかしくはない。
 ここで下手に口を滑らせる事は自殺行為に匹敵する。
「ダンマリじゃん。まあ闘えばすぐわかる事か」
 男が背筋を伸ばす。
 それは突然起きた。
 今まで目の前にいた男が既にいなくなっていたのだ。
 一瞬で視界から消えた男を、探索能力の無いチープは捉える事は出来ていなかった。
 しかしトレントは違っていた。既に空気の流れを感じ取り、急に移動する窒素、酸素、二酸化炭素、その他諸々を探知していた。
「チープ、後ろにいる!」
「せいかーい」
 余裕綽々の男が全力で放った拳は、振り向きざまのチープの顔面を直撃した。
 本来なら鼻の骨が折れ、数秒の闇が視界全体に広がる。
 その間に何度殺されるかは数えるまでも無いだろう。
 しかし幸いと言うべきか、拳の先にいたのはチープであった。
 チープは男の腕を掴み取り、はち切れんばかりに握り込む。
「捕まえましたよ」
 更に力が加わり、ミシミシと骨の軋む音がする。
「いっ。なんで効かねえんだよテメェ」
 チープは少し考えるフリをして答える。
「最強だから?」
 男を引き寄せる様にして、今度はチープが全力で拳を放つ。
 男は腕を掴まれている事もあり、身動きが取れずにそれを顔面に食らう。
 先程までの余裕は無くなり、今は福笑いの様にパーツパーツがシェイクになっていた。
 瀕死はおろか、生命までも絶ちかねない程の威力の拳を持つチープ。
 一瞬で勝敗がつき、トレントは安堵の中に少し恐怖を覚えていた。
「流石だなチープ。味方でよかったってつくづく思うよ」
「安心して下さい。もしトレントが敵でも私は攻撃出来ないと思いますよ」
「そりゃありがたいね。まあ、俺が敵に回る事はないけどね」
 2人は笑い、足を進める。
 しかし不幸な事に、いや幸運な事に偶然ナインハーズに見つかった。
「何してんの君たち」
「ナインハーズさん」
「見回りに行ったんじゃなかったんですか?」
「見回りってなんだよ。俺はストリートを……」
 いつしかサイレンは止んでおり、教師らが見回りをしている頃。
 チェスを起こしに行っていたナインハーズが、様子を見に戻ってきていた。
 2人の後ろに転がっている顔面ぐしゃぐしゃの男を見て、ここで戦闘が行われていた事を把握したナインハーズ。
 教師である身、本来ならここで叱らないといけないが、ナインハーズのとった行動は別のものだった。
「よく生きてた。ここからは俺たち教師に任せろ」
 2人の頭に手を乗せ、称賛する。
 ナインハーズの目は2人の後ろにいる男を見つめていた。
「いいか、俺が合図したら逃げろ」
 ナインハーズは返答など待ってはいなかった。
 2人の後ろには、テレポート出来る男以外にもう1人男がいた。
 2人が気付かない程の技量を持っているにも関わらず、これ程鋭い殺気を放つ事の出来る相手が弱い訳がない。
 その男は静かにナインハーズを見つめていた。
 そして静かに口を開く。
「ナインハーズ。まだこんな事をやってるのか。お前には期待してたんだがな」
 男は踵を返し去っていく。
 足音が聞こえなくなった頃、2人は止めていた息を吹き返した。
「さっきのはなんですか」
「凄い殺気でしたけど、先生は大丈夫ですか」
 2人はナインハーズの顔を見る。
 その顔はいつものナインハーズとは違い、険しい顔をしていた。
「先生?」
 トレントの呼びかけで我に帰り、いつもの顔に戻る。
「すまん。少し取り乱してた。あいつはどっか行ったよ。それより、早く集会場に戻れ」
「俺たちも手伝います」
「駄目だ。危険過ぎる」
「ですが」
「駄目だ。これ以上言う事を聞かないなら力尽くで連れて行くぞ」
 その言葉が決め手となり、2人は仕方なく集会場へと戻る事となった。
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