30 / 84
スクール編
緊急事態
しおりを挟む
喫茶店である程度ゆっくりした後、俺はサンに連れられ施設の見学をしていた。
「ジャスターズの事はどれくらい知ってるんだ?」
「サンに聞いた事くらい。後は教師が全員ここ出身ってナインハーズが言ってたな」
「ナインハーズさんと仲良いのは分かるが、ここではさんを付けた方がいいぞ。あまりそういうのが気に入らない奴もいるからね」
最後の方を耳打ちしてくる辺り、ジャスターズの幹部っていう立ち位置は、一目置かれていると言うよりも崇拝に近いものなのかもしれない。
あの態度の悪い男も、俺がナインハーズに対してタメ口を使った時にかなり怒っていたからな。
「今度から気を付ける。で、何かここについて教えてくれるのか」
「折角の見学だからなー。全然知らないとなると、まずは気になっているであろうジャスターズの仕組みについて話そう」
「ありがたい」
「まず、ジャスターズってのは国が作った組織で、能力者が犯罪を犯して2番目に辿り着くのが多い場所と言われているんだ」
「1番目は」
「単純に刑務所。全世界の人口が約350億人だとして、その内能力者は0.00001パーセントの35万人。刑務所にいる数や捕まってない数はおよそ17万人で、ジャスターズが5万6千人。社会復帰や元々犯罪を犯さずに暮らしているのが残りの12万人程。その内過半数が、自殺や何らかの事件に巻き込まれてこの世を去っている。能力者にとって1番安全なのは、皮肉にも刑務所なんだよね」
能力者が少ないとは知っていたが、0.00001パーセント程とは思わなかった。
極少数なんかじゃ無く、極々少数だ。
前に何かで読んだ気がするが、人間が人間を差別するのは然程珍しい事では無いらしい。
言語の違い、人種の違い、肌色の違い。
ただそれだけの理由で、差別するなんて間違っているとは思う。
しかし現実を見ればそれが起きている。
よく意見が割れた時に多数決というものがあるが、決まった結果によればそれが悪を生む可能性を秘めていると思うと、下手に他人の意見に同調なんて出来ないな。
まあ能力者差別は今に始まった事じゃ無し。
俺の目標である能力者と無能力者の共存という、その意味を持たせて貰っていると思えば多少気は楽になるだろう。
「俺は最終的に刑務所は安全じゃ無くなると思うけどな」
気が付いたら想いを口にしていた。
「それはなぜ」
「能力者と無能力者のいざこざは、俺が生きてる間に解決するから」
「おおー、言うねー。まだジャスターズにも入ってない新米以下のくせしてっ」
「いいんだよ、目標は高い方が。あと俺がジャスターズに入ったら、サンなんてとっくに置いてくかんな」
「ひぇー。恐ろしいね」
2000年以上続いているこの争いに、そう簡単にピリオドを打てる訳がない。
生半可な気持ちではいつか崩れてしまう。
それが最悪の事態を引き起こし兼ねないと、心のどこかで思う自分がいる。
「それで、ジャスターズの仕組みってのはなんなんだ?」
「ジャスターズには段階があってね。ほら、ナインハーズさんたちの幹部みたいなもの。確か9段階に分かれてるんだよね」
「1番上は幹部なのか?」
「そうそう、だからホントに注意した方がいいよ。幹部は選ばれた精鋭のみなれる地位だからね。ナインハーズさんは優しくて有名だけど、他の人にタメ口なんて使ったら冗談抜きで殺されるよ」
「お、おう。分かった」
幹部は崇拝されてるから尊敬とかされてる訳じゃ無くて、単純に逆らったらどうなるか分かってるから敬語を使われたりしてるのか。
とすると、あの態度の悪い男は俺を助けようとしてくれてたのか。
……いやあれは違うか。
「1番上はさっき言った通り幹部、次に準幹部で兵長、上等兵、一等兵、二等兵、三等兵、四等兵、見習いの順。俺は三等兵だから、まだまだ伸び代があるね」
「下から3番目か。あんまだな」
「下から数えるなよ。上から7番目とかにしてくれ。良く聞こえる」
「そんなめんどい事しねえよ。ってか、見習いってのはなんだ? 1つだけ名前に違和感がある」
「見習いはほぼ全員が体験する期間で、ジャスターズ1年目くらいはここ。2年目から四等兵以上の位でどこに行くかが決まって、最高で上等兵くらいかな。それより上は見た事ない」
「なるほどな。飛び級的な感じか」
「感覚的にはそうだね。まあ、大抵が二等兵に行かないくらいだよ」
「因みにどんな基準で決まるんだ?」
「あんまり内部の情報を漏らすのもあれなんだけど、ナインハーズさんが連れて来てる訳だし別に心配は無いか」
「そそ」
「簡単にざっくり言うと戦闘力、知力、判断力、リーダーシップの4つだね。実際にそれぞれの試験をやると言うよりは、1年間を通して見られるって感じだね。俺はそれに気づかず裏でサボってた馬鹿ですけど」
随分と実践向きの人選なんだな。
とすると、ナインハーズはあれでもかなり頼れる奴なのか。
あんまりそんな風には見えないけど……。
「なら、事前に知った俺は有利だな」
「抜かされる前に上に行ってやるよっ」
「出来るといいな。……それと、1つ聞きたい事があるんだがいいか?」
「別にいいぞ。俺とチェイサーの仲じゃないか」
いつから俺らはそんなに仲良くなったんだ。
「別に言いたく無いならそれでもいいんだが、一応サンも昔は犯罪者だった訳だろ? なんでジャスターズに入ったんだ」
「ああ、俺は暴行罪で捕まったんだよ。理由としては自分の力を試したかったって言う、ただの好奇心からなんだけどね。入った理由は特に無し。気づいたらここにいたって感じだね」
「結構話してくれるもんなんだな」
「誰も自分の過去は隠さないよ。共有できるのは同じ能力者だけだからね」
人は意地悪やいじめられる事よりも、無視がダントツで傷付くと聞いた事がある。
嫌な過去も共有出来ないが過ぎれば、共有したいが生まれるのか。
「チェイサーは何をやらかしたんだ? ……幼女誘拐?」
「俺はロリコンじゃねえ!」
そんなに俺からロリコンオーラが出てるのか?
まずロリコンオーラってなんだよ。
「俺は何もやってない。ナインハーズに特別枠でスクールに入れて貰ったんだ」
「へぇー、マジで特殊だな。幹部のナインハーズさんとやけに親しいと思ったら、そんな経緯があったのね」
「それはいいとして、今は仕事とか無いのか? 随分とゆっくりしてるようだけど」
「チェイサーの案内してやってるだろ。仕事っつーか任務っつーかは、毎回アナウンスが入るんだ」
「アナウンス? どんなのだ」
俺が質問するとそれを待っていたかのように、丁度のタイミングで施設内にアナウンスが響き渡る。
「ノリング町ランディーで殺人が発生。被害者はゴルド・サルスネス。周囲にはまだキリング・ストリートがいる模様。至急、対策チームは駆けつけて下さい。警戒レベルは10です」
「キリング!?」
「誰だそいつ。チェイサーは知ってるのか?」
「あっ、いや、なんでもない」
ジースクエアの事はまだ上層部にしか知らされて無いんだった。
……いや待てよ。だとしたら何でわざわざ皆に知られるようにアナウンスしたんだ?
「ちょっといいかな」
突然後ろからナインハーズの声がする。
「えっ、ナインハーズさん——」
急にサンの体勢が崩れる。
「うおっ」
俺はそれをキャッチし、なんとか地面との激突を避けさせた。
「おい、どうしたサン」
「気絶してるだけだ。少し諸事情でね」
「諸事情ってどう言う事だよ」
どんな諸事情だったらサンを気絶させなきゃいけなくなるんだよ。
「すまんが話してる暇はない。今からランディーに行く。ストリートも来るか?」
「ランディーってさっきのアナウンスで言ってたやつか? ってか会議はもういいのかよ」
「至急だからだよ。で、来るのか来ないのか?」
「行く行く行くって」
「よし、ならついて来い。急ぐぞ」
そう言うと、ナインハーズは後ろを気にせずに歩き出す。
その歩みは迷いなく、しかし入り口の方に歩いている訳ではなかった。
「入口はあっちだぞ」
「入口はな。向かうのは幹部専用出口だ」
「そっちに何かが」
「とっておきの乗り物がある」
「乗り物?」
「ああ、特殊な車だ」
「車も十分特殊だけどな」
「まあ、見たほうが1番早い。着いたぞ」
そこには扉があり、また横にパスワード式のボタン入力機があり、ナインハーズはそこに何かの数字を打ち込む。
「今度はフェイクじゃないのか?」
「フェイク用とそうじゃないパスワードがある。幹部専用だからね」
扉が開いた先は外で、なんの変哲もない車が1つポツンと置いてあった。
「ただの車だな」
「見た目はそうだが、性能は随分と違う」
「よく分からんな」
「とりあえず乗れ。カステルはもう運転席にいる」
サルディーニはナインハーズ専属の運転手なのか? ジャスターズの5本の指に入るのに。
「失礼しまーす」
乗り心地は然程変わらず、少しクッションがふわふわしている。
「では発進します。チェイサーさん、シートベルトはしましたか?」
「あ、やっときやす」
適当にベルトの様なものを伸ばして、適当な所に刺す。
「おい、俺の所使ってるぞ」
ズルズルズルと音を立ててベルトが戻る。
「うおっ、何すんだよナインハーズ」
「……もうストリートはシートベルトしなくていい。カステル、発進してくれ」
「はい」
身体がクッションに吸い込まれ、車は発進する。
この感覚は慣れないな。
「で、これはどこが違うんだ」
「ストリートも知りたがりだな。まあ、好奇心旺盛なのはいい事だが。カステル、やってくれ」
「分かりました」
そう言うと、車はアクセル全開で走り出す。
先程よりも強くクッションに吸い込まれ、身体が車に置いてかれている様だった。
「いきますよ」
車は勢いよく直進し、目の前に家のある曲がり角でもスピードは落ちない。
「おいおいおいおい! ぶつかるぞ!」
「ストリートは静かに座る事も出来ないのか。まあ見とけ」
見とけって言ったって、車は建物を貫通して走って……。
あれ? 貫通してる?
「どうなってんだこれ」
家にぶつかると思いきや、車は何事も無い様に直進し続けている。
「最短ルートで走れる様にジャスターズ独自で開発した車だ。建物や人を透過する事が出来る」
「透過……」
だからちらっとだが建物の中が見えたのか。
家の中の人ビックリしてたぞ。透過はいいとして、透明化も取り入れた方がいいなこりゃ。
「後何分で着く」
いつもは急かさないナインハーズが、珍しく時間を聞いている。
それ程の緊急事態なのだろう。
「最高速度を維持して20分程かと」
「そのまま頼む」
「はい」
後20分でキリング・ストリートに会える。
嬉しいのか嬉しくないのか、この気持ちは分からない。
しかしなぜか知らないが、キリング・ストリート。この名前を昔から知っている気がする。
ただの勘違いならいいんだが。
そんな事を口に出来る筈もなく、俺は心にモヤモヤを抱えたまま目的地へと向かって行った。
「ジャスターズの事はどれくらい知ってるんだ?」
「サンに聞いた事くらい。後は教師が全員ここ出身ってナインハーズが言ってたな」
「ナインハーズさんと仲良いのは分かるが、ここではさんを付けた方がいいぞ。あまりそういうのが気に入らない奴もいるからね」
最後の方を耳打ちしてくる辺り、ジャスターズの幹部っていう立ち位置は、一目置かれていると言うよりも崇拝に近いものなのかもしれない。
あの態度の悪い男も、俺がナインハーズに対してタメ口を使った時にかなり怒っていたからな。
「今度から気を付ける。で、何かここについて教えてくれるのか」
「折角の見学だからなー。全然知らないとなると、まずは気になっているであろうジャスターズの仕組みについて話そう」
「ありがたい」
「まず、ジャスターズってのは国が作った組織で、能力者が犯罪を犯して2番目に辿り着くのが多い場所と言われているんだ」
「1番目は」
「単純に刑務所。全世界の人口が約350億人だとして、その内能力者は0.00001パーセントの35万人。刑務所にいる数や捕まってない数はおよそ17万人で、ジャスターズが5万6千人。社会復帰や元々犯罪を犯さずに暮らしているのが残りの12万人程。その内過半数が、自殺や何らかの事件に巻き込まれてこの世を去っている。能力者にとって1番安全なのは、皮肉にも刑務所なんだよね」
能力者が少ないとは知っていたが、0.00001パーセント程とは思わなかった。
極少数なんかじゃ無く、極々少数だ。
前に何かで読んだ気がするが、人間が人間を差別するのは然程珍しい事では無いらしい。
言語の違い、人種の違い、肌色の違い。
ただそれだけの理由で、差別するなんて間違っているとは思う。
しかし現実を見ればそれが起きている。
よく意見が割れた時に多数決というものがあるが、決まった結果によればそれが悪を生む可能性を秘めていると思うと、下手に他人の意見に同調なんて出来ないな。
まあ能力者差別は今に始まった事じゃ無し。
俺の目標である能力者と無能力者の共存という、その意味を持たせて貰っていると思えば多少気は楽になるだろう。
「俺は最終的に刑務所は安全じゃ無くなると思うけどな」
気が付いたら想いを口にしていた。
「それはなぜ」
「能力者と無能力者のいざこざは、俺が生きてる間に解決するから」
「おおー、言うねー。まだジャスターズにも入ってない新米以下のくせしてっ」
「いいんだよ、目標は高い方が。あと俺がジャスターズに入ったら、サンなんてとっくに置いてくかんな」
「ひぇー。恐ろしいね」
2000年以上続いているこの争いに、そう簡単にピリオドを打てる訳がない。
生半可な気持ちではいつか崩れてしまう。
それが最悪の事態を引き起こし兼ねないと、心のどこかで思う自分がいる。
「それで、ジャスターズの仕組みってのはなんなんだ?」
「ジャスターズには段階があってね。ほら、ナインハーズさんたちの幹部みたいなもの。確か9段階に分かれてるんだよね」
「1番上は幹部なのか?」
「そうそう、だからホントに注意した方がいいよ。幹部は選ばれた精鋭のみなれる地位だからね。ナインハーズさんは優しくて有名だけど、他の人にタメ口なんて使ったら冗談抜きで殺されるよ」
「お、おう。分かった」
幹部は崇拝されてるから尊敬とかされてる訳じゃ無くて、単純に逆らったらどうなるか分かってるから敬語を使われたりしてるのか。
とすると、あの態度の悪い男は俺を助けようとしてくれてたのか。
……いやあれは違うか。
「1番上はさっき言った通り幹部、次に準幹部で兵長、上等兵、一等兵、二等兵、三等兵、四等兵、見習いの順。俺は三等兵だから、まだまだ伸び代があるね」
「下から3番目か。あんまだな」
「下から数えるなよ。上から7番目とかにしてくれ。良く聞こえる」
「そんなめんどい事しねえよ。ってか、見習いってのはなんだ? 1つだけ名前に違和感がある」
「見習いはほぼ全員が体験する期間で、ジャスターズ1年目くらいはここ。2年目から四等兵以上の位でどこに行くかが決まって、最高で上等兵くらいかな。それより上は見た事ない」
「なるほどな。飛び級的な感じか」
「感覚的にはそうだね。まあ、大抵が二等兵に行かないくらいだよ」
「因みにどんな基準で決まるんだ?」
「あんまり内部の情報を漏らすのもあれなんだけど、ナインハーズさんが連れて来てる訳だし別に心配は無いか」
「そそ」
「簡単にざっくり言うと戦闘力、知力、判断力、リーダーシップの4つだね。実際にそれぞれの試験をやると言うよりは、1年間を通して見られるって感じだね。俺はそれに気づかず裏でサボってた馬鹿ですけど」
随分と実践向きの人選なんだな。
とすると、ナインハーズはあれでもかなり頼れる奴なのか。
あんまりそんな風には見えないけど……。
「なら、事前に知った俺は有利だな」
「抜かされる前に上に行ってやるよっ」
「出来るといいな。……それと、1つ聞きたい事があるんだがいいか?」
「別にいいぞ。俺とチェイサーの仲じゃないか」
いつから俺らはそんなに仲良くなったんだ。
「別に言いたく無いならそれでもいいんだが、一応サンも昔は犯罪者だった訳だろ? なんでジャスターズに入ったんだ」
「ああ、俺は暴行罪で捕まったんだよ。理由としては自分の力を試したかったって言う、ただの好奇心からなんだけどね。入った理由は特に無し。気づいたらここにいたって感じだね」
「結構話してくれるもんなんだな」
「誰も自分の過去は隠さないよ。共有できるのは同じ能力者だけだからね」
人は意地悪やいじめられる事よりも、無視がダントツで傷付くと聞いた事がある。
嫌な過去も共有出来ないが過ぎれば、共有したいが生まれるのか。
「チェイサーは何をやらかしたんだ? ……幼女誘拐?」
「俺はロリコンじゃねえ!」
そんなに俺からロリコンオーラが出てるのか?
まずロリコンオーラってなんだよ。
「俺は何もやってない。ナインハーズに特別枠でスクールに入れて貰ったんだ」
「へぇー、マジで特殊だな。幹部のナインハーズさんとやけに親しいと思ったら、そんな経緯があったのね」
「それはいいとして、今は仕事とか無いのか? 随分とゆっくりしてるようだけど」
「チェイサーの案内してやってるだろ。仕事っつーか任務っつーかは、毎回アナウンスが入るんだ」
「アナウンス? どんなのだ」
俺が質問するとそれを待っていたかのように、丁度のタイミングで施設内にアナウンスが響き渡る。
「ノリング町ランディーで殺人が発生。被害者はゴルド・サルスネス。周囲にはまだキリング・ストリートがいる模様。至急、対策チームは駆けつけて下さい。警戒レベルは10です」
「キリング!?」
「誰だそいつ。チェイサーは知ってるのか?」
「あっ、いや、なんでもない」
ジースクエアの事はまだ上層部にしか知らされて無いんだった。
……いや待てよ。だとしたら何でわざわざ皆に知られるようにアナウンスしたんだ?
「ちょっといいかな」
突然後ろからナインハーズの声がする。
「えっ、ナインハーズさん——」
急にサンの体勢が崩れる。
「うおっ」
俺はそれをキャッチし、なんとか地面との激突を避けさせた。
「おい、どうしたサン」
「気絶してるだけだ。少し諸事情でね」
「諸事情ってどう言う事だよ」
どんな諸事情だったらサンを気絶させなきゃいけなくなるんだよ。
「すまんが話してる暇はない。今からランディーに行く。ストリートも来るか?」
「ランディーってさっきのアナウンスで言ってたやつか? ってか会議はもういいのかよ」
「至急だからだよ。で、来るのか来ないのか?」
「行く行く行くって」
「よし、ならついて来い。急ぐぞ」
そう言うと、ナインハーズは後ろを気にせずに歩き出す。
その歩みは迷いなく、しかし入り口の方に歩いている訳ではなかった。
「入口はあっちだぞ」
「入口はな。向かうのは幹部専用出口だ」
「そっちに何かが」
「とっておきの乗り物がある」
「乗り物?」
「ああ、特殊な車だ」
「車も十分特殊だけどな」
「まあ、見たほうが1番早い。着いたぞ」
そこには扉があり、また横にパスワード式のボタン入力機があり、ナインハーズはそこに何かの数字を打ち込む。
「今度はフェイクじゃないのか?」
「フェイク用とそうじゃないパスワードがある。幹部専用だからね」
扉が開いた先は外で、なんの変哲もない車が1つポツンと置いてあった。
「ただの車だな」
「見た目はそうだが、性能は随分と違う」
「よく分からんな」
「とりあえず乗れ。カステルはもう運転席にいる」
サルディーニはナインハーズ専属の運転手なのか? ジャスターズの5本の指に入るのに。
「失礼しまーす」
乗り心地は然程変わらず、少しクッションがふわふわしている。
「では発進します。チェイサーさん、シートベルトはしましたか?」
「あ、やっときやす」
適当にベルトの様なものを伸ばして、適当な所に刺す。
「おい、俺の所使ってるぞ」
ズルズルズルと音を立ててベルトが戻る。
「うおっ、何すんだよナインハーズ」
「……もうストリートはシートベルトしなくていい。カステル、発進してくれ」
「はい」
身体がクッションに吸い込まれ、車は発進する。
この感覚は慣れないな。
「で、これはどこが違うんだ」
「ストリートも知りたがりだな。まあ、好奇心旺盛なのはいい事だが。カステル、やってくれ」
「分かりました」
そう言うと、車はアクセル全開で走り出す。
先程よりも強くクッションに吸い込まれ、身体が車に置いてかれている様だった。
「いきますよ」
車は勢いよく直進し、目の前に家のある曲がり角でもスピードは落ちない。
「おいおいおいおい! ぶつかるぞ!」
「ストリートは静かに座る事も出来ないのか。まあ見とけ」
見とけって言ったって、車は建物を貫通して走って……。
あれ? 貫通してる?
「どうなってんだこれ」
家にぶつかると思いきや、車は何事も無い様に直進し続けている。
「最短ルートで走れる様にジャスターズ独自で開発した車だ。建物や人を透過する事が出来る」
「透過……」
だからちらっとだが建物の中が見えたのか。
家の中の人ビックリしてたぞ。透過はいいとして、透明化も取り入れた方がいいなこりゃ。
「後何分で着く」
いつもは急かさないナインハーズが、珍しく時間を聞いている。
それ程の緊急事態なのだろう。
「最高速度を維持して20分程かと」
「そのまま頼む」
「はい」
後20分でキリング・ストリートに会える。
嬉しいのか嬉しくないのか、この気持ちは分からない。
しかしなぜか知らないが、キリング・ストリート。この名前を昔から知っている気がする。
ただの勘違いならいいんだが。
そんな事を口に出来る筈もなく、俺は心にモヤモヤを抱えたまま目的地へと向かって行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる