チェスクリミナル

ハザマダアガサ

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スクール編

緊急事態

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 喫茶店である程度ゆっくりした後、俺はサンに連れられ施設の見学をしていた。
「ジャスターズの事はどれくらい知ってるんだ?」
「サンに聞いた事くらい。後は教師が全員ここ出身ってナインハーズが言ってたな」
「ナインハーズさんと仲良いのは分かるが、ここではさんを付けた方がいいぞ。あまりそういうのが気に入らない奴もいるからね」
 最後の方を耳打ちしてくる辺り、ジャスターズの幹部っていう立ち位置は、一目置かれていると言うよりも崇拝に近いものなのかもしれない。
 あの態度の悪い男も、俺がナインハーズに対してタメ口を使った時にかなり怒っていたからな。
「今度から気を付ける。で、何かここについて教えてくれるのか」
「折角の見学だからなー。全然知らないとなると、まずは気になっているであろうジャスターズの仕組みについて話そう」
「ありがたい」
「まず、ジャスターズってのは国が作った組織で、能力者が犯罪を犯して2番目に辿り着くのが多い場所と言われているんだ」
「1番目は」
「単純に刑務所。全世界の人口が約350億人だとして、その内能力者は0.00001パーセントの35万人。刑務所にいる数や捕まってない数はおよそ17万人で、ジャスターズが5万6千人。社会復帰や元々犯罪を犯さずに暮らしているのが残りの12万人程。その内過半数が、自殺や何らかの事件に巻き込まれてこの世を去っている。能力者にとって1番安全なのは、皮肉にも刑務所なんだよね」
 能力者が少ないとは知っていたが、0.00001パーセント程とは思わなかった。
 極少数なんかじゃ無く、極々少数だ。
 前に何かで読んだ気がするが、人間が人間を差別するのは然程珍しい事では無いらしい。
 言語の違い、人種の違い、肌色の違い。
 ただそれだけの理由で、差別するなんて間違っているとは思う。
 しかし現実を見ればそれが起きている。
 よく意見が割れた時に多数決というものがあるが、決まった結果によればそれが悪を生む可能性を秘めていると思うと、下手に他人の意見に同調なんて出来ないな。
 まあ能力者差別は今に始まった事じゃ無し。
 俺の目標である能力者と無能力者の共存という、その意味を持たせて貰っていると思えば多少気は楽になるだろう。
「俺は最終的に刑務所は安全じゃ無くなると思うけどな」
 気が付いたら想いを口にしていた。
「それはなぜ」
「能力者と無能力者のいざこざは、俺が生きてる間に解決するから」
「おおー、言うねー。まだジャスターズにも入ってない新米以下のくせしてっ」
「いいんだよ、目標は高い方が。あと俺がジャスターズに入ったら、サンなんてとっくに置いてくかんな」
「ひぇー。恐ろしいね」
 2000年以上続いているこの争いに、そう簡単にピリオドを打てる訳がない。
 生半可な気持ちではいつか崩れてしまう。
 それが最悪の事態を引き起こし兼ねないと、心のどこかで思う自分がいる。
「それで、ジャスターズの仕組みってのはなんなんだ?」
「ジャスターズには段階があってね。ほら、ナインハーズさんたちの幹部みたいなもの。確か9段階に分かれてるんだよね」
「1番上は幹部なのか?」
「そうそう、だからホントに注意した方がいいよ。幹部は選ばれた精鋭のみなれる地位だからね。ナインハーズさんは優しくて有名だけど、他の人にタメ口なんて使ったら冗談抜きで殺されるよ」
「お、おう。分かった」
 幹部は崇拝されてるから尊敬とかされてる訳じゃ無くて、単純に逆らったらどうなるか分かってるから敬語を使われたりしてるのか。
 とすると、あの態度の悪い男は俺を助けようとしてくれてたのか。
 ……いやあれは違うか。
「1番上はさっき言った通り幹部、次に準幹部で兵長、上等兵、一等兵、二等兵、三等兵、四等兵、見習いの順。俺は三等兵だから、まだまだ伸び代があるね」
「下から3番目か。あんまだな」
「下から数えるなよ。上から7番目とかにしてくれ。良く聞こえる」
「そんなめんどい事しねえよ。ってか、見習いってのはなんだ? 1つだけ名前に違和感がある」
「見習いはほぼ全員が体験する期間で、ジャスターズ1年目くらいはここ。2年目から四等兵以上の位でどこに行くかが決まって、最高で上等兵くらいかな。それより上は見た事ない」
「なるほどな。飛び級的な感じか」
「感覚的にはそうだね。まあ、大抵が二等兵に行かないくらいだよ」
「因みにどんな基準で決まるんだ?」
「あんまり内部の情報を漏らすのもあれなんだけど、ナインハーズさんが連れて来てる訳だし別に心配は無いか」
「そそ」
「簡単にざっくり言うと戦闘力、知力、判断力、リーダーシップの4つだね。実際にそれぞれの試験をやると言うよりは、1年間を通して見られるって感じだね。俺はそれに気づかず裏でサボってた馬鹿ですけど」
 随分と実践向きの人選なんだな。
 とすると、ナインハーズはあれでもかなり頼れる奴なのか。
 あんまりそんな風には見えないけど……。
「なら、事前に知った俺は有利だな」
「抜かされる前に上に行ってやるよっ」
「出来るといいな。……それと、1つ聞きたい事があるんだがいいか?」
「別にいいぞ。俺とチェイサーの仲じゃないか」
 いつから俺らはそんなに仲良くなったんだ。
「別に言いたく無いならそれでもいいんだが、一応サンも昔は犯罪者だった訳だろ? なんでジャスターズに入ったんだ」
「ああ、俺は暴行罪で捕まったんだよ。理由としては自分の力を試したかったって言う、ただの好奇心からなんだけどね。入った理由は特に無し。気づいたらここにいたって感じだね」
「結構話してくれるもんなんだな」
「誰も自分の過去は隠さないよ。共有できるのは同じ能力者だけだからね」
 人は意地悪やいじめられる事よりも、無視がダントツで傷付くと聞いた事がある。
 嫌な過去も共有出来ないが過ぎれば、共有したいが生まれるのか。
「チェイサーは何をやらかしたんだ? ……幼女誘拐?」
「俺はロリコンじゃねえ!」
 そんなに俺からロリコンオーラが出てるのか?
 まずロリコンオーラってなんだよ。
「俺は何もやってない。ナインハーズに特別枠でスクールに入れて貰ったんだ」
「へぇー、マジで特殊だな。幹部のナインハーズさんとやけに親しいと思ったら、そんな経緯があったのね」
「それはいいとして、今は仕事とか無いのか? 随分とゆっくりしてるようだけど」
「チェイサーの案内してやってるだろ。仕事っつーか任務っつーかは、毎回アナウンスが入るんだ」
「アナウンス? どんなのだ」
 俺が質問するとそれを待っていたかのように、丁度のタイミングで施設内にアナウンスが響き渡る。
「ノリング町ランディーで殺人が発生。被害者はゴルド・サルスネス。周囲にはまだキリング・ストリートがいる模様。至急、対策チームは駆けつけて下さい。警戒レベルは10です」
「キリング!?」
「誰だそいつ。チェイサーは知ってるのか?」
「あっ、いや、なんでもない」
 ジースクエアの事はまだ上層部にしか知らされて無いんだった。
 ……いや待てよ。だとしたら何でわざわざ皆に知られるようにアナウンスしたんだ?
「ちょっといいかな」
 突然後ろからナインハーズの声がする。
「えっ、ナインハーズさん——」
 急にサンの体勢が崩れる。
「うおっ」
 俺はそれをキャッチし、なんとか地面との激突を避けさせた。
「おい、どうしたサン」
「気絶してるだけだ。少し諸事情でね」
「諸事情ってどう言う事だよ」
 どんな諸事情だったらサンを気絶させなきゃいけなくなるんだよ。
「すまんが話してる暇はない。今からランディーに行く。ストリートも来るか?」
「ランディーってさっきのアナウンスで言ってたやつか? ってか会議はもういいのかよ」
「至急だからだよ。で、来るのか来ないのか?」
「行く行く行くって」
「よし、ならついて来い。急ぐぞ」
 そう言うと、ナインハーズは後ろを気にせずに歩き出す。
 その歩みは迷いなく、しかし入り口の方に歩いている訳ではなかった。
「入口はあっちだぞ」
「入口はな。向かうのは幹部専用出口だ」
「そっちに何かが」
「とっておきの乗り物がある」
「乗り物?」
「ああ、特殊な車だ」
「車も十分特殊だけどな」
「まあ、見たほうが1番早い。着いたぞ」
 そこには扉があり、また横にパスワード式のボタン入力機があり、ナインハーズはそこに何かの数字を打ち込む。
「今度はフェイクじゃないのか?」
「フェイク用とそうじゃないパスワードがある。幹部専用だからね」
 扉が開いた先は外で、なんの変哲もない車が1つポツンと置いてあった。
「ただの車だな」
「見た目はそうだが、性能は随分と違う」
「よく分からんな」
「とりあえず乗れ。カステルはもう運転席にいる」
 サルディーニはナインハーズ専属の運転手なのか? ジャスターズの5本の指に入るのに。
「失礼しまーす」
 乗り心地は然程変わらず、少しクッションがふわふわしている。
「では発進します。チェイサーさん、シートベルトはしましたか?」
「あ、やっときやす」
 適当にベルトの様なものを伸ばして、適当な所に刺す。
「おい、俺の所使ってるぞ」
 ズルズルズルと音を立ててベルトが戻る。
「うおっ、何すんだよナインハーズ」
「……もうストリートはシートベルトしなくていい。カステル、発進してくれ」
「はい」
 身体がクッションに吸い込まれ、車は発進する。
 この感覚は慣れないな。
「で、これはどこが違うんだ」
「ストリートも知りたがりだな。まあ、好奇心旺盛なのはいい事だが。カステル、やってくれ」
「分かりました」
 そう言うと、車はアクセル全開で走り出す。
 先程よりも強くクッションに吸い込まれ、身体が車に置いてかれている様だった。
「いきますよ」
 車は勢いよく直進し、目の前に家のある曲がり角でもスピードは落ちない。
「おいおいおいおい! ぶつかるぞ!」
「ストリートは静かに座る事も出来ないのか。まあ見とけ」
 見とけって言ったって、車は建物を貫通して走って……。
 あれ? 貫通してる?
「どうなってんだこれ」
 家にぶつかると思いきや、車は何事も無い様に直進し続けている。
「最短ルートで走れる様にジャスターズ独自で開発した車だ。建物や人を透過する事が出来る」
「透過……」
 だからちらっとだが建物の中が見えたのか。
 家の中の人ビックリしてたぞ。透過はいいとして、透明化も取り入れた方がいいなこりゃ。
「後何分で着く」
 いつもは急かさないナインハーズが、珍しく時間を聞いている。
 それ程の緊急事態なのだろう。
「最高速度を維持して20分程かと」
「そのまま頼む」
「はい」
 後20分でキリング・ストリートに会える。
 嬉しいのか嬉しくないのか、この気持ちは分からない。
 しかしなぜか知らないが、キリング・ストリート。この名前を昔から知っている気がする。
 ただの勘違いならいいんだが。
 そんな事を口に出来る筈もなく、俺は心にモヤモヤを抱えたまま目的地へと向かって行った。
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