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王妃
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月が上る夜。
円状に広がる街の端、広大な土地に聳え立つセレネディア王国の城。
王族を守るよう、背の高い白亜の壁の向こう。
城の奥の奥。後宮と呼ばれる離れた建物の奥の部屋で、床に片膝を着き城に隣接する“神樹”のある“聖域”へ向け祈る女性がいた。
「どうか。どうか……」
両手を組んで、数十年前から祈っていることは一つ。
この国の事。
――――どうか、この国をお救いください。
変わらない言葉を心の中で呟いたディアナは、歳をとってもフィンと同じで若々しい。
瞑っていた目を開ければ、いまだに『極上の宝石』と謳われるほどの美しい青色の瞳が現れる。
この容姿でフィンと『魔性』と称されるその人は、深いため息を吐いた。
「わたくしに断りもなく、部屋に入るとは何事ですか――――ラミュア王妃」
「申し訳ございません。でも、ディアナ前王妃にお会いしたくって」
立ち上がりディアナが振り向いた視線の先、部屋の出入り口に女性――――ラミュアがにっこりと笑い立っていた。
現セレネディア国王の王妃であるラミュアは、青灰色の瞳を持ち。
鳶色の波打つ髪は、王妃に珍しく肩の高さで切りそろえられている。
顔立ちは華やかさがないが、美貌の持ち主のディアナと並んでも引けを取らない。
清廉であるが、少女と女性の中間にあるようなその容姿に、だからこその危うい色香も少し窺え見えた。
「では、ラミュア王妃。どのようなご用件でしょう?」
「季節ではないのですが、カルミアの花が綺麗に咲いていましたので持ってきました」
ラミュアの後ろに控えていた侍女が前へ歩み、花弁の中心は白く端に行くほど桃色に広がるカルミアの花束をディアナの侍女が受け取った。
その様子を見ていたディアナに、ラミュアが柔らかい声を掛ける。
「不自由なことはありませんか?」
「不自由なこと? わかりませんか?」
顔を背けたディアナに、ラミュアは悲しみを湛えた顔で「ディアナ様……」と近づいていく。
そして、白の小さな細工の施されたレースに覆われた両手をとる。
「何故、陛下がディアナ様を幽閉なさったのかは、いまだに私には真意がわかりません。 ですか、貴方は陛下のお母様なのです。いつの日か、陛下がディアナ様を自由にすることを信じています」
「ありがとう。ラミュアの気持ちは嬉しく思うわ。――――だけど、今は一人になりたい気分なの」
話は終わりだというようにディアナは、ラミュアの手から自分の手を引き抜いて背を向ける。
拒絶の意を表すそれに、ラミュアは目を半ば伏た。
「そうですか……。では…………」
膝を少し折って挨拶をしてから、ラミュアは寂しそうな背をディアナに見せ立ち去った。
「王妃。陛下が――――」
扉が閉まるなり、王の侍女が困り果てたようにラミュアに耳打ちをする。
「……そう。では、陛下の寝室へ向かいます」
王の侍女の意を汲むように、ラミュアは足取りを早くした。
王の部屋の前で着いてきた侍女達を置き、控える護衛に両開きの扉を開けさせ、一人だけで部屋へ足を進める。
向かおうとしている寝室の扉は、開け放たれていた。
たどり着くと、男が赤い瞳でラミュアを鋭く睨んだ。
その男の整った中性的でいて精悍な顔は、二十代前半と言ったところなのに髪が白い。
そして、肌も透き通るように白かった。
ラミュアは低く落ち着いた声で、呼び掛ける。
「――――陛下…………」
「何処へ行っていた」
静かな怒りの声色に恐れることもなく、ラミュアは寝室へ足を踏み入れる。
扉をしっかりと閉めると、肩を大げさに竦めた。
「どこって、市場さ」
ラミュアは先ほどの声ではなく、少年特有の高い声で面倒くさげに告げた。
「それがね――――」
「私の許可なく城から出るな!」
「…………ロイド?」
怒鳴り声で言葉を遮られたラミュアは怪訝そうに眉を顰めが、すぐに「ああ」と笑った。
「限界なの? もう切れた?」
その態度が怒りに触れたらしく、白い男――――セレネディア国王ロイドは、寝台を指さし命令する。
「脱げ」
「はぁーい」
軽い返事で靴を蹴るように脱ぎ捨て、躊躇せずにパサリと音を立ててドレスを毛足の長い絨毯へと落とす。
あっと言う間に裸になったラミュアの身体は、女性のものではなかった。
華奢なりとも筋肉がうっすらと着いた、瑞々しい少年の身体を自ら寝台の上へ投げ打つ。
反動で身体を跳ねさせながら、肘から下に包帯を巻いた腕をロイドへ伸ばした。
「さあ、召し上がれ」
艶のある笑みを湛えると、ロイドが乗り上げてくる。
ラミュアは赤い瞳を見たが、光が消え何も映していない事に気付き、楽しそうにクツリと喉を鳴らす。
そして、近づいてくるロイドの首に腕を回しながら、睦言のように甘く話しかける。
「いけ好かないのが憑いてるけど、あの子が欲しい。今度連れてこないとね…………んっ」
首筋に唇を寄せ吸われて、小さく身体を跳ねさせた。
「ロイド。きっと君は、気に入るよ。――――黒髪の少年」
自分の身体を貪り犯すロイドの白い頭を何度も何度も撫でながら、ラミュアは恍惚と笑った。
円状に広がる街の端、広大な土地に聳え立つセレネディア王国の城。
王族を守るよう、背の高い白亜の壁の向こう。
城の奥の奥。後宮と呼ばれる離れた建物の奥の部屋で、床に片膝を着き城に隣接する“神樹”のある“聖域”へ向け祈る女性がいた。
「どうか。どうか……」
両手を組んで、数十年前から祈っていることは一つ。
この国の事。
――――どうか、この国をお救いください。
変わらない言葉を心の中で呟いたディアナは、歳をとってもフィンと同じで若々しい。
瞑っていた目を開ければ、いまだに『極上の宝石』と謳われるほどの美しい青色の瞳が現れる。
この容姿でフィンと『魔性』と称されるその人は、深いため息を吐いた。
「わたくしに断りもなく、部屋に入るとは何事ですか――――ラミュア王妃」
「申し訳ございません。でも、ディアナ前王妃にお会いしたくって」
立ち上がりディアナが振り向いた視線の先、部屋の出入り口に女性――――ラミュアがにっこりと笑い立っていた。
現セレネディア国王の王妃であるラミュアは、青灰色の瞳を持ち。
鳶色の波打つ髪は、王妃に珍しく肩の高さで切りそろえられている。
顔立ちは華やかさがないが、美貌の持ち主のディアナと並んでも引けを取らない。
清廉であるが、少女と女性の中間にあるようなその容姿に、だからこその危うい色香も少し窺え見えた。
「では、ラミュア王妃。どのようなご用件でしょう?」
「季節ではないのですが、カルミアの花が綺麗に咲いていましたので持ってきました」
ラミュアの後ろに控えていた侍女が前へ歩み、花弁の中心は白く端に行くほど桃色に広がるカルミアの花束をディアナの侍女が受け取った。
その様子を見ていたディアナに、ラミュアが柔らかい声を掛ける。
「不自由なことはありませんか?」
「不自由なこと? わかりませんか?」
顔を背けたディアナに、ラミュアは悲しみを湛えた顔で「ディアナ様……」と近づいていく。
そして、白の小さな細工の施されたレースに覆われた両手をとる。
「何故、陛下がディアナ様を幽閉なさったのかは、いまだに私には真意がわかりません。 ですか、貴方は陛下のお母様なのです。いつの日か、陛下がディアナ様を自由にすることを信じています」
「ありがとう。ラミュアの気持ちは嬉しく思うわ。――――だけど、今は一人になりたい気分なの」
話は終わりだというようにディアナは、ラミュアの手から自分の手を引き抜いて背を向ける。
拒絶の意を表すそれに、ラミュアは目を半ば伏た。
「そうですか……。では…………」
膝を少し折って挨拶をしてから、ラミュアは寂しそうな背をディアナに見せ立ち去った。
「王妃。陛下が――――」
扉が閉まるなり、王の侍女が困り果てたようにラミュアに耳打ちをする。
「……そう。では、陛下の寝室へ向かいます」
王の侍女の意を汲むように、ラミュアは足取りを早くした。
王の部屋の前で着いてきた侍女達を置き、控える護衛に両開きの扉を開けさせ、一人だけで部屋へ足を進める。
向かおうとしている寝室の扉は、開け放たれていた。
たどり着くと、男が赤い瞳でラミュアを鋭く睨んだ。
その男の整った中性的でいて精悍な顔は、二十代前半と言ったところなのに髪が白い。
そして、肌も透き通るように白かった。
ラミュアは低く落ち着いた声で、呼び掛ける。
「――――陛下…………」
「何処へ行っていた」
静かな怒りの声色に恐れることもなく、ラミュアは寝室へ足を踏み入れる。
扉をしっかりと閉めると、肩を大げさに竦めた。
「どこって、市場さ」
ラミュアは先ほどの声ではなく、少年特有の高い声で面倒くさげに告げた。
「それがね――――」
「私の許可なく城から出るな!」
「…………ロイド?」
怒鳴り声で言葉を遮られたラミュアは怪訝そうに眉を顰めが、すぐに「ああ」と笑った。
「限界なの? もう切れた?」
その態度が怒りに触れたらしく、白い男――――セレネディア国王ロイドは、寝台を指さし命令する。
「脱げ」
「はぁーい」
軽い返事で靴を蹴るように脱ぎ捨て、躊躇せずにパサリと音を立ててドレスを毛足の長い絨毯へと落とす。
あっと言う間に裸になったラミュアの身体は、女性のものではなかった。
華奢なりとも筋肉がうっすらと着いた、瑞々しい少年の身体を自ら寝台の上へ投げ打つ。
反動で身体を跳ねさせながら、肘から下に包帯を巻いた腕をロイドへ伸ばした。
「さあ、召し上がれ」
艶のある笑みを湛えると、ロイドが乗り上げてくる。
ラミュアは赤い瞳を見たが、光が消え何も映していない事に気付き、楽しそうにクツリと喉を鳴らす。
そして、近づいてくるロイドの首に腕を回しながら、睦言のように甘く話しかける。
「いけ好かないのが憑いてるけど、あの子が欲しい。今度連れてこないとね…………んっ」
首筋に唇を寄せ吸われて、小さく身体を跳ねさせた。
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