魔法少女、派遣します!

椎茸大使

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第6話

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「一番槍、行きます!」

そう宣言すると同時に由那は駆け出す。
風を纏い、手を貫手の形にして突き出し吶喊する様は正しく槍のよう。

「風槍ランページ!」

風となり駆け抜ける一振りの槍はエネミーを貫かんと迫るが、翼を使っての高速回避によって躱されてしまう。
しかし、由那は大地を踏みしめ、急停止すると、再度吶喊。
これも躱される。
そして三度吶喊。
その一撃が当たるまで何度も何度も吶喊する由那。

ランページとは暴れ回るという意味。
その名の通り、由那は風の槍となり縦横無尽に暴れ回る。
吶喊、吶喊、また吶喊。
遂にその槍がエネミーを捉える。

「ちっ!  浅い!」

だが、エネミーもその野生の勘をもって致命傷とならないように身体の芯をずらしてきた。
その結果由那の攻撃は脇腹を軽く抉る程度に止まる。

しかし、忘れてはならないのが、『トライエレメンツ』が3人組のヒーローユニットであるということ。
一番槍があるなら二番槍もある。

「二番槍、雷槍ペネトレイト!」

魔法少女としての基本能力と、電気刺激によって極限まで高められた身体能力を駆使し、湊は跳び上がる。
飛び上がった先にある柱を更に蹴って加速し、紫電を纏いながらエネミーに向かって落ちる。
紫電を迸らせるその様は雷槍の名に相応しく、見る者を魅了する。
その槍は見事エネミーの翼を捥ぎ取る事に成功する。
これによってエネミーの機動力が半減した。

「三番槍、炎槍プロミネンス!」

火乃香が追撃をかけようとする。
そのタイミングでエネミーは再び咆哮。
先ほどの支配者であることを知らしめる王者の咆哮ではなく、怒りの咆哮。

「ギャオオオオオオオオオン!!!」

その叫びは衝撃波となり、飛び上がって炎を制御していた火乃香へと襲いかかった。
火乃香は弾き飛ばされ、炎も散らされてしまう。

そこへすかざす接近、槍の尻尾、尾槍による刺突攻撃。
由那が火乃香の前に出て庇い、尾槍を弾く。
弾いたが、即座に尾槍を引き戻し連続攻撃をしてくるエネミー。
その悉くを弾き、逸らし、受け流す。

「お嬢!  大丈夫!?」
「こんな時までお嬢とは呼ばないでください!  しかし、頭が少しクラクラしますわ。」

飛ばされはしたものの、物理的な攻撃を受けたわけではないので大したダメージを負う事はなかった。
だが、音という振動波によって三半規管が揺さぶられてしまい、フラフラとしている。
ちなみに、もしも一般人が先程の叫びを聞いていたならば、鼓膜は破れ、意識を刈り取られていたであろう。

「分かった。じゃあ少し休んでいて。その間私と湊がこいつの相手をしているから!」
「すみません。」
「気にしないで。回復したらでっかいのよろしく!」
「ええ。任せて下さい!」

そんなやりとりの合間も尾槍による連撃は続いており、防ぎきれなかった攻撃によって由那は切り傷を作っていく。
そしてエネミーは徐に、大きく息を吸い始める。
それが意味するのは、先程の咆哮を超えた豪咆。
しかし、その豪咆は放たれる事はなかった。
背後に忍び寄っていた湊がエネミーに触れ電撃を流されてこんがりと焼かれたからだ。それにより吸い込みはストップし、それまで吸っていた空気も漏れ出たした。

その隙を由那は見逃さなかった。
素早く近づくと手に風を纏わせて尾槍に向けて振り下ろし切断する。
機動力を奪い、武器を奪う。
残りは四肢と片側の翼のみとなった。
だが、油断は禁物である。
咆哮による衝撃波も大きな手足も残っているのだから。

後ろにいる湊に向けて腕を振り抜くエネミー。
それを屈んで躱す湊の頭上でブォォン!  という風切り音が鳴る。
高い身体能力を持つ魔法少女であっても、まともに受ければ一撃で沈められる可能性がうかがえる程だ。
その危険性を察知した湊はエネミーから離れ、適度に攻撃しつつエネミーの気を引き時間を稼ぐ。
それは由那も同様である。

彼女達は本気を出せば一撃で倒すことができるだけのポテンシャルを持っている。
しかし、場所が悪い。
デパートの広場という比較的広い場所とはいえ、自然を操る魔法少女である彼女達にとっては狭過ぎるのだ。
周りの被害のことを考えた場合、接近戦を主体とするか、避けられないようにしてから大技を出す以外に道はない。
だから最初は2人がかりで機動力を奪い最後に残った1人がとどめを刺すつもりだったが、予想よりも手強かった為に、戦法を少し変える事にした。
ヒットアンドアウェイで付かず離れず、ダメージを蓄えて動きを鈍らせる。
そのまま削り切れるならそれでよし。
そうでなくても、意識が2人に向いてさえいれば問題はない。
何故なら、2人には頼れる仲間がいるのだから。

時間にして4、5分程だろうか。
湊の電撃によってエネミーの体は麻痺し、由那の風によって足には切り傷が多く出来、動きが緩慢になっている。
ここまでくれば後は簡単。
後ろに下がっていた火乃香が今か今かと機会を伺っていたのだから。

「行きますわ!  爆ぜよ、大噴爆!」

両手から炎を噴き出しながら高く跳躍し、炎をひきながら両手を掴み合わせ振り上げる。
ついでに胸も揺れる。
そして掴み合わせた両手を振り下ろした。
振り降ろされた両手から噴火するかのようにして炎が噴き出し爆ぜる。
その猛火に耐えることは出来なかったようで、炎はエネミーを突き破りその命を焼き切った。

「わきゃう!  冷たいですわ!」

デパートの屋内で炎を使った。
そうなれば当然スプリンクラーの1つや2つ作動して当然だろう。
最初の時には炎が散らされたのでスプリンクラーは作動しなかったようだが、今回はそうはいかなかったようで、プシャーと音を立てながら大量の水が吹き出される。
結果3人はビッチョビチョのスッケスケ。
それに気付いた3人は脱兎のごとく逃走。
初戦闘、初勝利はなんとも締まらない終わり方となった。


~時は少し戻り、避難シェルター内~

ライブが行われたデパートの地下には対エネミー用の避難シェルターがある。
ちなみに、ライブ会場の真下だったりする。

「ママー、僕たちどうなっちゃうの!?」
「すぐにヒーローが来てくれるわよ。」
「ヒーローはいないのか!?」
「あのアイドルの護衛がヒーローだって話じゃなかったか?」
「馬鹿!  あんな見たこともない小娘がなんの役に立つというのだ!?  それよりも、近くにちゃんとしたヒーローはいないのか!?」
「鎧装鬼神・オーガロードは来てくれるかなー?」
「ここはメタルハンター・キッドだろ?」
「どうでもいいけど、早く倒して欲しいな。」
「このままじゃまたバイトに遅刻するじゃねーか!」
「zzz……。」

それ故、一部混乱している者がいるものの、まだ余裕があった。

『ギャオオオオオオオオオン!!!』

しかしそれも、エネミーの叫び声を聞くまでだった。

「わっ!?  な、なんだ!?  ヤツが来るのか!?」
「ヒーローはまだ来ないのか!?」
「死にたくないよー!」
「おいこれ、ヤバくないか?」
「俺、帰ったら妻と結婚するんだ……。」

叫び声を聞き混乱するシェルター内。
実際には怒りの咆哮であり、『トライエレメンツ』が優勢であることの証明であるのだが、シェルター内では見ることができないので仕方がないが。
後、最後の人はすでに結婚しているから妻なのに、どうやって再び結婚するというのか気になるところ。
混乱してよく分からない死亡フラグを立てているようだ。

その光景を見て動き出す者がいた。
竜胆響だ。
彼女は混乱するシェルター内で、人々を落ち着かせるにはどうすればいいかと考える。
彼女自身はヒーローになろうなどと考えたことはない。
しかし、たまたまヒーローと出会って、それが自分と歳が変わらない女の子だった事で、僅かばかし感化された。
自分に何できることがあるのではと……自分の力でもできることがあるのではないかと、考えた。
それは、ほんのちょっとの勇気。
嫌っていた力を使うための勇気。
彼女はアイドル。
故に歌う。
混乱し、怯える人々を勇気付けるために、この声届けと歌う。
その声は超能力によってシェルター内全てに響いた。

「歌?」
「どこから……?」
「あそこから聞こえる!  あの子が歌っているぞ!」
「心に響くいい歌だ。」

彼女の歌が終わった時には混乱は収まっていた。

~翌日~

「どうしてなのーー!?」
「気持ちはわかるけど落ち着いて……ここ車の中だからさ。」

あの後、パトロールを終えて帰宅した由那達3人は初戦闘の疲れからかお風呂で汗を流したらすぐに寝てしまっていた。
そして今日は警察の人との打ち合わせということで火乃香の迎えでリムジンに乗って移動している。
そんな3人の話題は昨日のエネミー戦についてだ。
それというのも……

『昨日◯△市の◻︎×デパートにてエネミーが出現しましたが、幸いな事に死傷者はゼロ。現場に居合わせたヒーローによってエネミーは討伐されたました。』
『実はこの事件において、こんな話を耳にしたんですよ。』
『それはどのような話なんですか?』
『はい。なんでも、その日セカンドライブを行なっていた駆け出しアイドルがエネミーの攻撃によって崩落したモニュメントの瓦礫から一般市民を守ったそうなんですよ。しかも避難シェルター内でも混乱を収めるために尽力したそうでして。』
『ほぉ……それはまたなんとも……。』
『こちらがその時のアイドル、竜胆響ちゃんですね。なんとも可愛らしい少女じゃないですか。こんな子が人々を守り、心を癒したというのがなんとも心温まる話じゃないですかー。私もね、一発でファンになっちゃいましたよ。』
『この子が……いやー、日本も捨てたもんじゃないですね。こんな可愛い子が人々を守ってるんですから、我々も負けてられないですよ。』

等とリムジン備え付けのテレビが囀っていたのだ。
初エネミー戦、初勝利を飾ったというのに、テレビでは名前が全く出ていないのだ。
由那は戦闘で体中に切り傷を作っているというのにだ。
それに対して響の方はトレンドワード入りを果たしている。
愚痴の1つも言いたくなるというもの。
しかしそれも仕方がないこと。
何せ、世は正に、大ヒーロー時代!  (ワ◯ピース風)なのだから。
ヒーローがエネミーを倒すのは自然な事で、有名どころでもないヒーローをわざわざ取り上げるほどの事はされない。
人気の職業でも、人気がなければこんなもの。
ヒーロー社会は世知辛い。
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