魔法少女、派遣します!

椎茸大使

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第5話

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今日は金曜日。
休日を明日に控えた日である為、学生達は本来ならば浮かれているであろうが、この日は違った。
何故なら、再来週の月曜日から始まる試験に合わせて試験範囲の説明と宿題を教師からプレゼントされたから。

『トライエレメンツ』の3人が通う光羽学園は夢という希望の光に向かって羽撃けるようにという理念の下、どんな生徒も等しくゆめを見ることができるようにと学費は名門私立としてはかなり安い。
安いが、だからといって学業の質が低いかといえばそうではない。
世界にそのを轟かせる光島グループが経営する学校であるが故に、名家や有名企業、大地主といった、所謂お嬢様やお坊ちゃんと呼ばれるに相応しい家柄の子も多数在籍しているのだ。
それに合わせて学園全体の学力も上がっている。
その為に、浮かれることができる生徒がいないのだ。

ちなみに、由那と湊はスカウトされて入学している。
湊はともかく由那の成績では入学自体不可能だが、そこは能力持ちという事もあり入試とは名ばかりの特別な試験によって入学している。
とはいえ、普段の授業にまで便宜を図るはずもなく、それ故に由那は補習の常連さんなのだ。

「由那、そこ間違ってる。」
「え、何処が?」
「全部。」
「うぅ~わっかんないよー!  大体国語なんてやってなんになるの!  私達はすでに日本語を話している!  だから、国語なんてやる意味はない!」
「気持ちはわかるけど、今やることで補習がなくなるくらいには意味があると思うよ。」
「うぅ……。」

昼の休み時間に由那は国語の宿題と格闘中。
湊はその隣で由那の隣の人の席を借りて、教えている。
由那が現在やっているのは昨晩湊がお風呂に入る前にやっていた宿題ものだ。
この昼の休み時間の次が国語であり、その時に提出するように言われたプリントなのである。
つまり、ギリギリになって湊に泣きついた形だ。

「頑張れー由那ー。あと10分だぞ~。」
「湊は本当に面倒見いいよねー。」

そんな2人に話しかける人影が2つ。2人に話しかけたのはクラスメートにして友人の桐生愛華と藤林律子だ。

「あはは……まあ、由那が補習になると仕事が大変になっちゃうしさ。」
「「あー。」」
「そういえば2人はCクラスの光島さんと一緒にヒーローやってたっけ。」
「光島さんといえばあの光島グループなのよね。ね?  光島さん家ってどんな感じなの?  2人は行ったことあるんだよね?」
「あるけど……その話今じゃなきゃダメかな?  今は……。」

そう言いながら湊の視線は由那のプリントへと注がれる。
それにつられるようにして2人の友人も由那のプリントを見る。
そのプリントは未だ空欄が多く、全体の4分の1しか埋まっていなかった。

「……なんか、ごめん。」
「なんで謝るのさ!?」
「いやー、まさかそこまでやばいとは思ってなかったもので。取り敢えず私も手伝うよ。」
「あ、私もー。」
「ふ、2人とも……」
「ていうか、私ちょっと自信ないとこあったんだよね。丁度いいからちょっと教えてよ。」
「確かに最後のあれ気になってたんだよね。湊先生答えプリーズ。」
「あんたらそっちが目的か!  私の感動を返せ!」
「「あははははは!」」

そんなやりとりの後、宿題へと取り組んでいく4人。
しかし、無常にも次の授業を知らせる鐘が鳴る。
由那のプリントは……半分しか埋まっていなかった。



「それじゃ、今日の授業はここまで。それと西園寺。宿題プリントは今日中に提出だからなー。」
「うっ!  は、はーい。」

今日も『トライエレメンツ』にはお仕事バイトが入っている。
しかも今日は2つの仕事がある。
とてもじゃないが学校に残ってプリントを仕上げている時間はない。
というわけで由那は頭を掻きながら必死になってプリントを睨みつけている。
次の授業までは10分。
それが終わればHRなので仕事までには時間がない。
苛立ちを表すように、左手は頭ガシガシ、右手のシャーペンはカツカツと。
あ、シャー芯折れた。
さらにイライラ。
カチカチと芯を出す。
時間はかなりヤバイ。
それが分かっている湊もかなり焦っており、答えに限りなく近いヒントを出して手助けしている。
そのまま答えを言えば楽なのだが、そこは真面目ちゃん。
最後の矜持なのか答えは言わないでいる。
その甲斐あってか、その所為なのか、由那はプリントを残り二問まで進めることに成功するが、ここで再び無情なる鐘の音が鳴り響き渡る。

「「あ……。」」
「…………が、頑張ってー。」
「ああ!  ま、待って!  後二問!  後二問だけだからーー!!」

そして最後の授業である数学の時間へと突入。
由那は頑張った。
数学の先生の目をかいくぐり、こっそりひっそりとプリントを埋める。
その答えは全く見当違いの答えを書き記されてはいるが、それは由那が頑張った証である。
たとえ間違っていてもプリントを出すことに意味があるのだ。

HRを終え、国語担当の先生に押しつけるようにしてプリントを渡した由那と湊はすぐに火乃香と合流して仕事現場に向かう。
駆け出しアイドルのデパートでのセカンドライブの護衛をするためにリムジンで向かう。
何かが間違っている気がする。
移動は全部徒歩と電車な駆け出しアイドルと移動手段がセレブの代名詞たるリムジンの護衛という差がそう思わせるのだろう。

仕事現場に着いた『トライエレメンツ』は早速護衛対象である駆け出しアイドルへと挨拶をする。
駆け出しに専属マネージャーなど付かないようで、デパートの責任者に軽く挨拶をしたらすぐに別の現場に向かったらしくこの場には既にいなかった。
新人ヒーローも駆け出しアイドルも世知辛いようだ。

「おはようございます。竜胆響と言います。今日はよろしくお願いします。」

駆け出しアイドル、竜胆響。
彼女は超能力者である。
振動を操り、取り分け音との親和性が高い。
しかし、彼女は自身の能力を忌み嫌っている。
それは彼女が歌うのが好きだからだ。
どれだけ頑張って歌っても、自身の能力によって精神に作用し、上手いと思い込ませてしまっていると、響自身が思い込んでしまっているから。
彼女の能力は振動の増幅や収束、拡散が主で、精神に干渉する力は存在していない。
しかし、父親が響の名前を決める時に、泣く声が心に響くようだったからだと言っていた為に、自身の力には精神に作用すると思ってしまったのだ。
実際にはただ単に微弱ながら超能力を無意識に使っていて、“物理的”に響いていただけだったりするが、本人はそのことに気づいていない。

なので、響は芸能事務所に自身の歌を込めた音楽ファイルを送った。
自分の歌が本当に上手いのかどうか、能力が影響を与えない、機械を通した“音”としてプロに判断してもらう為に。
その結果が今の状況だ。
彼女の歌は専門家に響いたのだ。
そして響は超能力のことは伝えず、この場に立っている。
駆け出しアイドルとして。
彼女は力を使わずに、トップアイドルになるつもりなのだ。

「わー、かっこいい!  私本物のアイドルに会うのって初めてなんだよね!  本当に可愛くて、かっこいいです!」
「あ、ありがとう……。」
「由那。竜胆さんが困ってるでしょ。こほん。初めまして。3人組ヒーロー『トライエレメンツ』です。私は篠宮湊と言います。こちらは西園寺由那。そしてこちらが光島火乃香です。本日はよろしくお願いします。」
「うん。よろしく……というか、お願いするのはこっちなんですけどね。」
「あ、そうですよね。では、私達はライブの責任者に挨拶をしてきますね。」
「分かりました。」

そして今回のライブの責任者へと挨拶をする『トライエレメンツ』の3人。
まだまだ駆け出しの3人にとって、挨拶して顔と名前を覚えてもらうのが大切。
まるで新人アイドルのようだが、アイドルもヒーローも知名度が重要な職業なのだから仕方ない。

ライブの段取りなどの説明を受けて、細かな調整を行った後は、響の護衛だ。
この後はライブをして簡単な宣伝をするのみ。
駆け出しアイドルに何かしようとするような輩が居るはずもなく、依頼料が安い新人ヒーローを使うのはよくある話。
ヒーロー側も護衛の経験が得られるのでお互いにwin-winなお仕事。
この日もそうなるはずだった。

小さなステージ、歌を聴いて立ち止まる客がほんの少しいるだけの、よくある駆け出しアイドルのライブ。
しかし、この日は違った。

それは突如として現れた。

空間を裂き現れる、黒い獣。
6つある眼、狼の様な顔、ゴリラの様な身体、蝙蝠の翼、槍の様な尻尾。
それは異世界より現れた災。

突如現れたエネミーに人々は怯え、叫び、逃げ惑う。
それに気を良くしたのか、エネミーは雄叫びをあげる。
自分こそがこの場での支配者であると知らしめるかの様に。

その雄叫びは空間を揺らし、明かりを担う照明を砕き、モニュメントを破壊する。
砕けた照明のガラス片が、壊されたモニュメントが人々を襲う。
その時、人々の避難を促していた湊と火乃香、そして、響を逃がそうとしていた由那は、対応しきることができなかった。
咄嗟にガラス片をどうにかすることは出来たが、モニュメントまでには手が及ばなかった。
その結果、壊れたモニュメントの瓦礫が1人の女性を下敷きにしようとする。
女性は……恐怖で動くことができなかった。

「逃げてええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

その光景を見ていた響は、叫んだ。
咄嗟のことに、制御され普段使っていなかった力が解き放たれる。
響の叫びは収束された振動波となり、モニュメントの瓦礫を粉微塵に変えた。
響の、助かって欲しいという願いが1人の女性を救った。

「ありがと、響さん!  でもここは危険だからすぐに逃げてね。」
「え、でも……」
「私達はあれを倒さないといけないから、出来るだけ遠くに逃げて。」
「わ、分かった……。」

由那が響を見送る。
その頃には大体の人の避難が済んでいた。

「さーて、それじゃエネミー退治と行きますか!  ……初戦闘だけど。」

『トライエレメンツ』の初エネミー戦が始まった。
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