皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい

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「これが、私…?」

 思わず呟いた私に、隣の雪が目を丸くして叫んだ。
 
 「すごっ!めっちゃ美人じゃん!変わるだろうとは思ってたけど、ここまで劇的なのはびっくりだね!」

 興奮する私達に、美容部員さんもどこか誇らしげに微笑んでいる。
 化粧を変えただけ。ただそれだけなのに、ここまで印象が変わるなんて信じられない。
 心臓がドキドキと高鳴るのを感じながら鏡から視線を少しずらすと、卓上に並んだ色とりどりのテスターが目に飛び込む。

「あ、でもこれ全部買うのは…」

 そうつぶやくと、わが意を得たりとばかりに美容部員さんがいくつかの商品をそっと前に押し出した。

「はじめての方はこちらの商品をお買い上げいただくことが多いですよ」

 お勧め商品の合計は、一万五千円弱。正直、少々高いと思う。でも、買えなくもない。隣の雪も、私の心中を察したのだろうか、力強く頷いている。

「じゃあ、まずはこれをください」

 私は一呼吸おいてから、美容部員さんにそう告げた。予想外の出費は、新入社員の身分としては正直痛手だ。けれど、生まれ変わったような感動は、お金には変えられないものだった。

「ね、今日ここに来て正解だったでしょ?」

 雪の言葉に、胸が一杯な私は何も言えずにただ頷いた。
 今なら何でもできそうな気がした。橘さくらに立ち向かうのも、幸崎さんの優しさを素直な気持ちで受け入れる事だって、きっとできる。
 私は今、そんな思いで胸が熱くなっていた。
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