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ああ言えばこう言うで、男は高飛車な様子で一向に罪を認めようとしない。
 腹ただしい思いでその姿を今一度眺めてみれば、柔らかな光沢を放つ濃茶色の襟の周りに施された、繊細な刺繍に目に止まる。この辺りの既製服では見たことのない、特注品オーダメイドを感じさせるその代物。

 (なによ。泥棒のくせに、いい服着てるじゃないの)
 
 こんなにも整った身なりの見目麗しい男が、どうして泥棒稼業なんかに手を染めているのだろう。
 「訳あり」なのだろうかと男の境遇を思いやれば、憐れむ心を覚えてしまう……が、いけないいけない。それとこれとは話が別なのだ。
 
「そっちがそういう態度なら、こっちで勝手に探すからいいわよ!」
 
 これではいつまで経っても埒が明かない。
 ルーシーは片腕を自由にすべく体勢を整えた。そして逃げられない様、先程よりも更にグッと体重をかけてやると、盗まれた鋳貨を見つけるべく男の体をあちこち弄り始めてやるのだった。

「おいっ!こら!何をする!」
「うるさい!こうなったのも全部あんたが悪いんですからね!」

 騒ぐ男を怒鳴りつけると、ルーシーは上着の胸ポケットから順番に探りつつ、銅貨一つも見逃すまいと、まずは上半身からくまなく手を這わせる。そして次は下半身だと、ズボンのポケットに手を入れようと太腿に触れたその瞬間。男は急に体をビクリと震わせると、今まで以上にジタバタと抗う素振りをみせ始めた。
 先程とは打って変わったその様子。
 
「これはなにか、ある」
 
 違和感を覚えたルーシーは急いでその中に手を突っ込んだ。

「う、うわ!や、やめろ!そんなところに手を入れるな!!」 

 抵抗しつつも狼狽える男の声に、やはりこいつが犯人だと確信したルーシーは更に捜索の手を強める。そして縦横無尽にその中をゴソゴソと探っていると、その最奥で何かの塊がフニャリと指に当たるのだった。

(なんだコレ?)

 適度な温もりを持つ、布地一枚隔てた先の、この柔らかな塊の正体はなんだろう?サワサワと指を這わせてみると、男は益々ビクリビクリと体を震わせる。形を確かめるように更にそっとなぞってみると、塊は段々と硬度を増しながら、じんわり熱を帯びてきた。

(……え?え?え?なんだコレ???)

 こんな自由自在に質感が変化するものなど、見たことも触ったこともない。男はポケットの向こう側に、一体何を隠しているというのだろうか。
 未知との対面にすっかり混乱しながらも、フニャリとしていた塊が手で触れる度に熱く固く膨張していく様がなぜだか妙に面白い。その感触に夢中になって触っていると、ジワリと濡れた、丸みを帯びた先端が指に触れた。

(あれ、濡れてる……?)
 
 ルーシーは好奇心の赴くままにその形状に沿って、親指の腹でするりと二、三度撫でてみた。するとその瞬間。

「はぁっ……んっ!」

 男は盛大に体を震わせ、なんとも悩まし気な声を上げた。

「んっ、ふぅっ……や、めろ……そんなところを触る、なぁっ」
 
 息も絶え絶えなその声色に驚いてガバリと身を起こすと、男は先程の煌めく青い瞳を涙で潤ませ頬を上気させると、何かを堪えるかのように熱く吐息をついている。

(えっ?えっ?なんでこの人、こんな顔しちゃってるの?)
 
 激しく動揺しながらも、男のどこか蕩けたような切なげなその表情を目の当たりにしたルーシーは、体の中心がズクリと疼くような、不思議な感覚に襲われた。
 自分の中の、甘い何かが熱せられて、ドロリと溶けてしまうような、今まで感じたことのないその衝動。
 
 自身の感情に困惑しながらも、ルーシーはゴクリと唾を飲み込むと、もう一度確かめるように親指で先程の部分をスリスリと撫でつけてみる。すると男の体はまたしても、水から上がった魚のようにビクリビクリと波打つのだった。

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