泥棒だと思って成敗した男の正体は、麗しの王子様でした。〜この後断罪される予感しかない私の話〜

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勿体ぶった口調で語られたのは、まさかまさかの男の正体。

「……おっ王子……さ、ま……???」
  
 とんでもないことを聞いてしまった。
 ルーシーはザッと血の気が引くのを感じつつ、「聞こえた言葉を聞き返さなければよかった」と激しく後悔した。

 私は今、あの男……いや、あのお方に何をした?
 飛びついてすっ転ばせて馬乗りになって……挙げ句に何か触ったりしてはならないものに、触ったりしてやいなかったか?

 思い返せば返す程に、とんでもないことをしでかしたという事実に、身体中から汗が噴き出し震えが走る。そんなルーシーを他所に男……もとい、第一王子と従者の優男は帰る帰らないで押し問答の真っ最中。

 (よ、よし。この隙にこの場を離れてしまえば……)

 人混みに紛れて消えてしまおうと、そっとルーシーが後退りの後回れ右したその瞬間。

「……おい、そこの。私を押し倒した、そこの娘」

 王子はルーシーを呼び止めた。

「は、はいぃ!」

 逃げられなかった!!
 思わず背すじもピンと伸び、軍隊宜しく大声で返事をするも、それから相手は全く言葉を発しない。
 
 ……あれ、これはひょっとして、もう、居なくなったのかな……?
 淡い期待を込めてくるりと振り返ってみると、王子はその場に立っていて、難しそうな顔をしたままで、じっとこちらを睨んでいる。

 (うわあああああん!まだいるし!睨んできてるし!!)

 これから自分はどうなってしまうのか。
 しでかしたことは間違いなく不敬罪だが、これは人違いだったのだ。なんとか罪を軽くしてはくれないだろうか。
 祈るような気持ちで王子を熱く見つめると、相手は頬を赤らめて、不快なものでも見たように益々眉間に皺を寄せてくる。

 しかし無言のまま見つめ合う時間はそれ程長くは続かない。王子は何か決意をしたように、すぅと息を吸い込むと、ルーシーに向かって声高にこう宣言したのだった。


「今日のところは許してやろう。けどな、次に会ったらその時は……覚悟しておくんだな」
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