あの娘の彼氏はスパダリと評判ですが、その実態はただのヘタレです

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カーテンの向こうは未知の世界(2)

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今となっては安定の、恋人つなぎで手を繋いでカフェを出て、神山透が向かったのは駅の改札口であった。

「これからどちらに向かうんですか?」
「えーとですね、今日は僕の家に行きませんか?」

行き先を訊ねると神山透はふんわり笑いながら、そう提案をしてきたのだった。

えっ?神山透の家?

「先日の出張で、美味しそうな食材を買ってきたので、よかったら一緒に食べませんか?」

驚く私に、イケメンは更に誘いの言葉をかけてくる。
美味しそうな食材というフレーズはなんとも魅力的だが、自宅という超パーソナルスペースに、単なるセフレに過ぎない私がノコノコ入り込んでも良いのだろうか。
セフレ初心者の感覚としては、自宅に行く行為というのはちょっと違うような気がするし、なんなら神山透の思慮が浅いような気がして、他人事ながら何故か心配してしまう私である。

「神山さん、そんな簡単に人を自宅に誘っちゃだめですよ。もし私がストーカー気質な女だったらどうするんですか?」

思わずそんな言葉が口に出る。
軽率に自宅に誘ったが最後、彼女面して自宅付近をウロウロして付きまとわれてはちょっとした恐怖であろう。
……いや、私はそんなことしないけどもね?

「えー山本さん、ストーカー気質なんですかぁ?でもまあ、山本さんになら執着されちゃうのも、悪くないかもしれないですねぇ」

イケメンはニヤニヤ笑って冗談みたいな事を言うものだから、なんだか心配してやったのがバカバカしくなってくる。

「なんですかそれ。そういう事じゃなくて危機感ってのを持たないといけないって話ですよ!」

全くもう!と窘めながら、結局そのまま自宅に招かれることにしたのだった。

--

神山透の自宅の最寄り駅に降りたつと、近くの洋菓子店に寄り道してよいかと聞いてみた。

「甘い物が食べたかったんですか?」

さっきのカフェで気づいてあげられなかったと、神山透は呟くので、そうではないと急いで次の言葉を言い添える。

「いやあ。突然の訪問とは言え、手土産も持たずにご自宅にお伺いするのはどうも気が引けて」

するとイケメン、なるほどと言った表情でこちらを見つめ、「そういうところ、山本さんらしいですよね」と、フフッと笑うと、茶目っ気たっぷりな声で耳打ちをする。

「まあでも、自宅にいるのは僕だけなんですけどね」

うん、まあ、わかってるー。
でもなんとなく、何も持たずに伺うのもねえ?
色とりどりのケーキが並んだ冷ケースを前にするとどれにしようか迷ってしまうが、結局悩んだ末にシュークリームを2つ買ったのだった。

神山透の自宅は、郊外の3LDKのマンションであった。郊外とは言えこの年代の会社員が住めるレベルの部屋でないと驚くと、神山透いわく「海外へ長期出張している叔父の留守番係として住まわせてもらっている」とのことだった。
と、いうことは家賃ゼロ!!羨ましい限りである。

広いリビングには壁一面に作り付けの本棚があり、神山透のものだという沢山の蔵書が並んでいる。
そのジャンルは様々で、経済関係の本、四季報やら、株取引の解説本、有名投資家の自伝的ハウツー本、銘柄株の解析……なんだか株に関する本が多いな。
……まあとにかく、仕事に関連したと思しきものがズラリと並ぶ。
ガチガチのお固いものしか読まないのと思いきや、一方ではファッション雑誌、娯楽小説、流行りの少年漫画なんかの書籍も見受けられる。
その硬軟併せたジャンルの豊富さに、神山透の性格が垣間見えるような気もしてきて、それがなんとも興味深い。
漫画ばかりの自分の本棚と思わず比較し、もう少し私も仕事に関係した書籍も読むべきかしらと一人反省なんかもしてみたり。

そういえばAVは嗜まないと言い張る神山透だが、だったら男子の部屋あるあるのアレはあったりするのかしら。
引き続きキョロキョロ本棚を興味深く眺めていると、神山透から声が掛かる。

「何かありました?」
「あ、いえ。成人雑誌なんかもこの中に入っているのかな?と思いまして」

思わず素直にそんなことを口にすると、イケメンは呆れたような顔をする。

「そんな雑誌はありませんし、あったとしてもリビングになんて置きませんから」

そんな事を言いながらもそれ以上本棚の中身を詮索されまいとする様に私をソファに誘導すると、目の前のテレビをパチリとつける。

「まあ、取り敢えずテレビでも見てお寛ぎくださいな」

恭しくも執事さながら頭を下げて勧めると、自身はキッチンへと向かって行くのだった。

家を出る前に準備をしておいたという神山透は、手際よく食器と食材を並べて食卓の準備をしていく。さすがスパダリと評判なだけあって、段取りに隙がない。
何か手伝うかと聞いてみると、お客様は座って待っていて下さいねとの返事だが、手持ち無沙汰なので結局助手を買ってでる。

「なんだか新婚さんみたいですねぇ」

照れくさそうにこちらを見ながら調理をするイケメンだが、いやいや新婚どころか我々付き合ってもいませんけどね?
ツッコミどころは多々あるが、乙女の様にはにかみながらそんな事を言われてしまえば敢えて訂正するのも忍びない。
その言葉は聞こえなかったものとして、シェフのサポートに徹する私はお皿を渡したりゆで卵の殻を向いたりと忙しく手を動かすのだった。

そうしてできた料理を次々にテーブルへと並べて席につけば、素敵なディナーの始まり始まり。
今夜のメニューは白いご飯と卵の黄身が鮮やかなミモザサラダ、ベーコンと野菜のスープ、そしてメインは高級牛肉のステーキ。

どうやら山形県に出張した際に米沢牛を食べて、いたく気に入ったイケメンは、私にもお裾分けをと思ってくれたらしかった。セフレにまで気を配ってくれるその思いやり、感激である!!

そしてその食材はもちろんのこと、イケメンシェフの腕前もそりゃもう素晴らしいもので、美味しく楽しい最高の夕食の時間となったのであった。


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