あの娘の彼氏はスパダリと評判ですが、その実態はただのヘタレです

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あの娘の彼氏は(3)

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神山透は無言のまま、早歩きでズンズン歩みを進めるので、手を引っ張られる私もそれにならって震える足で、小走りになりながら給湯室から離れていく。

するとしばらく進んだ後、歩みを止めた神山透は一呼吸おいてこちらをくるりと振り返ると、顔をくしゃくしゃに歪ませながら、がばりと私を抱きしめるのだっだ。

「怖い思いをさせて、ごめん」

心なしか震える声の神山透。
密着した体からは、早足をしたせいなのか、はたまた紺野洋子との対峙の影響からか、激しく鼓動する心臓の音が聞こえてくる。

「……こんなことに巻き込んで、ごめん」

更にぎゅうと力を込めて抱きしめられるものだから、なんだか急に安心してしまうやら、神山透が愛おしく感じるやら。
思わずひしと体にしがみつくと「神山さんも、色々お疲れ様でした」と、ひとまず労ってみるのだった。

そしてそのまましばらく抱きあっていると、神山透の顔が近づいてくるので、私はそのまま目を閉じてキスを待つのであった……ってここ、人気は無いとはいえ通路のど真ん中だよね?!
誰かにこんなところを見られては、現在社内を駆け巡るあのゴシップの火に油を注いでしまうようなものである。
震えていた足のことなどすっかり忘れて、慌ててぐいっと体を押しのけると、「とりあえず、この中に入って話をしましょう」と、近くの備品庫の中に神山透を誘うのだった。


「……僕の迂闊さのせいで、こんなことにまきこんでしまって、本当にごめん」

紺野洋子と確実に縁が切れる証拠が欲しくて、会話の録音を優先させてしまった。助けに行くのが遅くなって怖い目にあわせてしまったと、狭い室内の中神山透は再び謝罪をする。 

いやいや、元々の原因は紺野洋子なので、神山透も巻き込まれた被害者であろう。
「まあ、神山さんも色々大変でしたね」と頭を撫でてやると、「山本さんが優しい!!」と感激した様子の神山透に再び抱きつかれる私である。

「でもさっきの紺野さんのアレ、一体なんだったんでしょう?」
「……さあ?言い訳になっちゃいますが、このところは本当に、直接的に何か害になるようなことはしてこなかったんですよ。なのに今週明けてから急に様子がおかしくなって……。注意して様子は見てはいたんですけど、まさか山本さんに因縁をつけに行くとまでは思わなくて」

首を傾げながら、神山透は申し訳無さそうに私を見る。

恐らくは社内ゴシップを耳にして、執着心に火がついて、今回のことが起きたといったところなのだろう。
紺野洋子は元々神山透という人間が好きだったのか、彼の持つステータスが好きだったのか。その辺りは本人のみぞ知る話だろうが、どちらにしても彼女が神山透にとった行動は、全て間違っていたと言ってよいのだろう。

「それはそうと、結局別れ話は上手く行ってなかったんですか?」

そう聞くと、メッセージや電話だけでなく、直接の対話を何度も試みたものの交渉は難航。しかしながらその後相手からのアクションも無いので放置を決め込み、自然消滅を狙っていたと、神山透は必死に弁明するのであった。

ええー。
最初あんなに、「別れたいってメッセージしたから、もう付き合ってないようなもんですから!」とか力強く断言しながらこちらにグイグイ関係を迫ってきたというのに、実際はこの有様とは。

「神山さん、それって、本当はそういうんじゃないってわかってはいますけど……。対外的には二股とか浮気をしてたってことになっちゃいますからね?」

中々のゲスな行動ですね。
ちょっと意地悪をしてみると、神山透は益々しょんぼりした顔をして、「ごもっともです」とうなだれるのであった。

「だって、自然消滅まで待てなかったんです。早く山本さんと、仲良くなりたかったんです」

こんな僕を嫌いになりましたか?
シュンとしながら、こちらの様子を伺ってくるその様子はご主人様に叱られて、耳と尻尾を垂れ下げて元気を無くしたワンコのようである。

……ああああああもう!!
しょんぼりしたイケメンの愛らしさたるや!!
こちとらつい最近恋心に目覚めたばかりだというのに、嫌いになる訳がないだろう。なんなら「待ちきれなかった」とか言われて、不覚にもキュンと、ときめいちゃったりしているし!!

まったくもうと言いながら、「嫌いになんてなりませんよ」と優しく答えてあげると、「じゃあ」と、神山透はモゴモゴ言いにくそうに口を開く。

「じゃあ、さっきの山本さんが話していたこと、あれ、本当ですか?」
「さっきの?」
「ええ。……さっきの、給湯室で、僕のことどう思ってるかって……」

!!!!!
聞かれてた!

いや、まあ、冷静になってみれば紺野洋子の「妊娠発言」を録音しているのだからその前後の話まで聞かれていたのは当然だろう。
急に恥ずかしくなってくるが、今更誤魔化しても仕方が無いし、神山透も私の答えを待っているようだし。

ここは一つ、女は度胸だ。
緊張のあまり頬に熱が集まるのを無視して、私はごくりと唾を飲み込み、意を決して神山透の目を見つめて口を開く。

「神山さん、私、自分でも思っていた以上に、神山さんのこと、好きになってたみたいなんです。正式に私と、付き合ってもらえませんか?」

目をギュっと閉じて、神山透の返事を待つも、それから暫く沈黙が続く。
不安になって思わずちらりと目を開けて神山透の様子を見ると、イケメンは真っ赤な顔を手で覆うと、天を仰いでいるのだった。

「えっと、えっと、神山さん?大丈夫ですか??」

慌てて体を揺さぶってみる。

「山本さんの方から、そんなこと言ってもらえる日が来るとは……」

感慨深げに神山透はそう呟いて、ぎゅうと抱きしめ「もちろんいいですよ」と言いながら私の唇に軽くキスをする。

「迷惑じゃありませんか?」
「迷惑なもんですか。この日を待ち望んでいたっていうのに」

神山透はそんな余計な心配をするこの口は塞いでしまおうと、再び私の唇を奪う。
そしてそのまま私達は深く深く口づけをかわすのであった。

舌と舌を絡ませ、顔の角度を変えながら、お互いの口内を優しく蹂躪する。

体を密着させて、鼻を擦り合わせて甘えてみたり、息継ぎをしながら何度も何度もキスをした後、名残惜しく唇を離した神山透は、ほぅとため息を一つつく。

「我慢できない人みたいで、ものすごく恥ずかしいんですけど……。今日、仕事が終わったらホテルで、この続きをしませんか?」
「もちろん。神山さんが提案しなかったら、こちらからお誘いするところでした」

照れ臭そうにしながらも、お伺いを立ててくる様子がなんとも愛おしい。そんな神山透の首筋にもう一度齧りつくと、私は耳元でそう返答してやるのだった。

--

その後何食わぬ顔で職場に戻ってみるも、ジリジリと焦れるような気持ちで一杯で、集中なんて出来っこない。
結局仕事をするフリをして時間を潰すと定時のベルと共に片付けを始め、急ぎ足で待ち合わせ場所へと向かうのだった。

記念すべき日に行くホテルなんだから、本当ならばもっときちんとした所に連れて行ってあげたかったと神山透はボヤくけれど、そういったホテルを予約する手間ももどかしい。
私達は恋人つなぎで、結局いつものホテルへと足を向けるのであった。
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