黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M

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四章 Recreation 7月

第63話 女の子の悩みと言えば

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ある日の放課後、
探偵団の皆と揃って校舎を出たところで、
俺の目は校門とは違う方向へ歩いていく
1人の少女の姿を捉えた。
俺は前を歩く3人に後から行くと伝えて
少女の後を追った。

少女は体育館の前の階段に腰を下ろしていた。
何か思い詰めているような、
それでいて寂しげな表情だった。
「葉山!」
少女は俺の声にビクッと体を震わせた。
それから恐る恐るこちらへ目を向けた。
声の主が俺だとわかると少女は目を丸くした。
当然、
彼女は隣のクラスの
それも今年になって転校してきた
俺のことなど知るわけもない。
そんな男がどうして自分に声をかけたのか。
彼女の表情には微かな戸惑いが見えた。

「あなた暁子ちゃんと付き合ってた
 転校生でしょ?」
その言葉に今度は俺の方が戸惑う番だった。
「・・奥川から聞いたのか?」
自己紹介の手間が省けたのは好都合だった。
それに俺と奥川の関係を知っているのであれば
話も進めやすい。
「ええ。
 少し前だけど久しぶりに
 暁子ちゃんと話したから」
「俺と奥川は残念な結果に終わったけど、
 君はどうなんだ?
 彼氏がいるんだろ?」
俺は鎌をかけた。
「暁子ちゃんに聞いたんだ?」
一瞬だが彼女が笑ったように見えた。
「その相手と上手くいってないんだろ?」
俺の問いに少女は困ったような表情を浮かべた。

「・・どうしてそう思うの?」
しばらくして葉山は口を開いた。
「君くらいの年頃の子の悩みと言えば
 やっぱり恋だろ?」
俺がそう言うと彼女は「ぷっ」と噴き出した。
「変な人ね」
そして葉山は腕を組んだ。
その仕草は奥川に似ていた。
「それを言うなら
 『女の子の悩みと言えば』でしょ?」
どちらでも大した違いはないような気がして
俺は首を捻った。
そんな俺を見て彼女は
「あはは」と声を出して笑った。
「同級生に対して
 『君くらいの年頃の子』
 なんて言わないでしょ?普通」
なるほど。
たしかに俺の失言だった。
そして葉山のその的確な指摘が可笑しくて
俺も頬が緩んだ。

「・・妊娠してるの、私」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔というのは
きっと今の俺の顔のことを指すに違いない。
それほどまでに
目の前の少女の口から発せられた言葉は
非現実的だった。
俺は言葉を失った。

「ぷっ。あははは」
少し遅れて葉山が噴き出した。
俺はそんな彼女をただ呆然と見つめていた。
「ごめんなさい。
 冗談よ。
 少し揶揄ってみたの」
そう言われても何が冗談で、
そしてなぜ俺を揶揄う必要があるのかが
理解できなかった。
「変な顔しないで。
 あなただって暁子ちゃんと
 そういう経験はしたんでしょ?」
「い、いや俺達は・・」
葉山の直球すぎる質問に俺は困惑した。
この時代の小学生はもっと幼いと思っていたが、
どうやらそれは俺の勘違いだったようだ。
子供の成長は大人が考えているよりも早い。
それはいつの時代も変わらない。
「ねえ。
 暁子ちゃんとはどうして別れたの?
 彼女はまだあなたのことが好きなのよ。
 私のことよりも彼女のことを気にしてあげて」
葉山の悩みを聞き出すつもりが
いつの間にか俺と奥川の恋愛相談になっていた。

「・・俺たちはもう終わったから」
俺は多少強引に話の流れを断ち切った。
「・・そう」
小さく頷いた彼女はどこか悲しそうに見えた。
「暁子ちゃんに何を聞いたのか知らないけど
 私は何でもないから」
そして葉山は笑った。
俺にはその笑顔が無理をしているように見えた。
何でもないのに自殺する人間はいない。
それでも今はこれ以上聞き出すのは無理だと
俺は判断した。
押してダメなら。
「葉山。
 俺で良かったら何でも話してくれよ、
 相談に乗るからさ。
 友達や親のように近すぎる人間よりも、
 ある程度距離のある人間の方が
 話し易いことってあるだろ?
 それが俺かどうかは別にしてもさ。
 とにかく。
 1人で悩むよりは良いと思うんだ。
 子供が1人で出した結論って
 大抵悪い方に転ぶからさ」
「あなただって子供じゃない」
そう言って彼女は小さく笑った。
「あ、う、うん。
 でも・・とにかく俺も奥川も君の味方だから」
「・・変な人。
 でもありがとう」
そして葉山はふたたび笑った。

別れ際、
俺は葉山に家の電話番号を教えた。
話したいことがあればいつでもかけてくれ
と言葉を添えて。
葉山は笑っていたが、
それでももう一度
「ありがとう」と言って帰っていった。
彼女の後姿は、
どこにでもいる普通の小学生の女の子だった。
とても何かに悩んでいるようには見えなかった。
俺に対して
2度も「変な人」と言って笑った彼女の笑顔を、
俺は夏休みが終わってからも
見ることができるだろうか。
葉山の抱えている問題を
聞き出すことはできなかったが、
それは奥川の言うように
恋に関する悩みのような気がした。
そして葉山の恋は
すでに終わっているのかもしれない。
彼女が俺と奥川の話を持ち出したのは、
それが今の自分に重なったからではないか。
つまり。
奥川がまだ俺のことを好きだ
と葉山が断言したのは、
葉山自身がまだ彼に未練があるからではないか。
そして失恋が彼女の自殺の原因であるなら、
それを解決するのは困難だと言わざるを得ない。
失恋の特効薬があるとすれば
それは時間しかない。
俺は若干重い足取りで3人の待つ
「Paradise Garden 中之島」へ向かった。
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