ストーカー

Mr.M

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二章 葉月

八月十七日(水曜日)5

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車を走らせている間、様々な考えが頭をよぎった。

そもそも。
明野という場所も私立傾城学園という名前も、
ネットの匿名掲示板の情報を信じればの話である。
ネットには真実もあるがそれ以上に嘘もある。
まだ被害者が
メシモリと確定したわけではないのだ。

稲置川に架かる橋の手前で
道路は二車線に減少する。
橋を渡ってさらに進み続けると、
明野の坂にさしかかる直前の交差点で
一車線となる。
後に車がいないことを
バックミラーで確認してから僕は減速した。
ゆっくりと坂を登りながら
左側の歩道に目を向けた。
案の定、所々にある街路樹が邪魔になって
視界は良くない。
運転手がはっきりと意識して
目を向けていない限り、
歩道の人間をしっかりと認識することは
困難だろう。
これが夜なら尚更だった。

しかしすぐにある疑念が湧いてきた。
案外、昼間よりも夜の方が
歩道の状況を掴みやすいのではないだろうか。
歩行者に関してはそれで間違いはないだろうが、
自転車に乗った人間に関してはこの限りではない。
なぜなら。
自転車のライトが
そこに人がいるということを
はっきりと告げているからだ。
昨夜、
市営住宅跡の塀に隠れて坂の下を窺っていた時に
目印にしたのも、
メシモリの押していた自転車の灯りだった。
あの時は誰にも見られていないと自負していたが、
そう考えると怪しいものである。
それに実際には
殺人犯にどこからか目撃されていたのだ。

そんなことを考えていると、
いよいよ昨夜の現場に近づいてきた。
ハンドルを握っている手が汗ばむ。
僕はさらにスピードを落として
市営住宅跡の入り口に近づいた。
立ち入り禁止を示すロープが張られているのが
目に入った。
そしてその奥には一台のパトカーが
とまっているのが見えた。
僕はアクセルを踏み込んで急いで通り過ぎた。
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