ストーカー

Mr.M

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三章 長月

九月六日(火曜日)3

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「それにしても日付だけのデータに関してだが。
 これは削除しておいたほうがいいね。
 これは君の悪い習慣の記録だろう?」

見られていた。

「しかしあのデータを見る限りでは、
 君もお盛んだな。
 ざっと数えただけでも
 八十人近くの女性を襲っているんだからね。
 女性が苦手な割には
 性の対象としてはしっかり見てるのだね」
僕は顔が熱くなるのを感じた。
「まあ、世の中には
 変わった性癖の持ち主というは大勢いるのだ。
 別に君が特別というわけではない。
 はっはっは」
何が可笑しいのか大烏は声を出して笑った。

「もう一つ気になったことがあるのだがね。
 安倍瑠璃という女性についてだが、
 君はやけにこの女性に執着しているようだ。
 かなりの美人だね」
その言葉に僕は体が固まった。
「しかし、盗撮は犯罪だ。
 まあ、今更そんなことを言っても仕方がないか」
大烏はふたたび笑った。
「ふむ。
 まあ君が
 どんな女性に興味を持っても構わないが、
 今は状況が状況だ。
 彼女を襲うなんてことは考えないことだ」
「は、は、はい・・」
僕は辛うじて頷いた。
「ふむ。
 まあ事件が解決するまでは
 君の習慣もお預けだな。
 はっはっは」
そして大烏は三度笑った。

その笑顔に僕は目の前に座っているこの男が
急に恐ろしくなった。
この男には道徳や法という観念が
欠如しているのだ。
そもそも僕の依頼を引き受けたことが
普通ではないのだ。
しかしそう思う反面、
心強くもあった。
法に囚われない調査。
それは決して警察にはできないことだった。
大烏なら犯人を見つけ出せるに違いないと思った。
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