ストーカー

Mr.M

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三章 長月

九月六日(火曜日)7

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大烏が帰った後の室内はやけに静かに感じた。

座椅子に腰を下ろして僕は部屋のテレビを点けた。
そして普段より心なしボリュームを上げた。

一体いつから盗聴されていたのだろう。
犯人は盗聴という手段によって、
こちらの情報をいつでも手に入れることができた。
これまで、
犯人からの接触がないのは
それが理由だったのかもしれない。
今までどんなことが聴かれていたのだろうか。
考えれば考えるほど悪い方へと意識が向いた。
僕は大きく頭を振った。

蝉丸空のことを考えた。
プールで泳いでいる彼女の水着を
後ろから剥ぎ取り、
そのまま犯す。
しかし、僕は泳げなかった。

ヨタカのことを考えた。
夜道を自転車で帰る彼女を暗闇に紛れて襲う。
怪我をさせないように慎重に。
そして制服を脱がす。
僕は彼女の初めての男になる。
その時、メシモリのことが頭に浮かんで
僕は慌ててその妄想を振り払った。

安倍瑠璃のことを思い浮かべた。
彼女の成熟した肉体は、
蝉丸空やヨタカよりも激しく男の本能を刺激した。
しかし彼女は今、顔のない男に溺れている
可能性がある。
知らない男が彼女の体を弄んでいることを
想像すると、
どす黒い感情が
心の底から湧き上がってくるのを感じた。


早めに布団に入ったものの
なかなか寝付けなかった。
目を瞑って羊でも数えようかと思ったとき、
ふとある疑問が頭をよぎった。

盗聴器に気付いていないふりをするのであれば、
そもそも盗聴器を探すという行動すらも、
犯人に隠していたほうが良かったのではないか。
あえて盗聴器を探すというアピールを
する必要はあったのだろうか。
考えれば考えるほど謎は深まり、
それと共に目も覚めていった。
結局いくら考えても
大烏の思惑は僕にはわからなかった。
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