火の皇女

歌ノシン

文字の大きさ
1 / 10

えー?乙女ゲームってなんぞ。

しおりを挟む
 細い森の中の荒れた道を誰が見ても豪奢に作られた馬車が、土埃を巻き上げながら馬に全力疾走させていた。
 普段の森には不釣り合いな光景だった。馬を操る従者や馬も、必死な形相で迫る敵から逃げ、脇目も振らず力を振り絞る。

 「早く速度を上げなさいな!追いつかれてみなさい?お父様に言いつけてお前の首を落とすから。覚悟なさい」

 馬車の中から鋭く甲高い声が従者へと響くが、今を生き延びる為に必死な彼には届かない。

ヒュン

 がしゃああああん!!!

 風を切る音が聞こえた直後、従者の身体に矢が刺り、制御不能になった馬車は暴走する馬によって跳ね上がる。
 大きな音を立て勢いよく森の木へと衝突した馬車は、森の木々に身体を打ち付けた馬の血で真っ赤に染まった。

 「死んだか?確認しろ」

 荘厳な雰囲気が跡形もない馬車を見ると、気配を殺した一人の男が近く。
 全身黒尽くめの暗殺者が馬車の中を確認すると、従者が死の間際まで守っていた存在を忌々しい様子を隠さずに掴み上げ、地面に放る。

 「……ぁあ」

 無造作に空中へ放られた存在は、小さい身体を地面に叩きつけられた反動で呻き声を漏らす。

 「お頭!このガキ、まだ生きてますぜ!?」

 「ガキとは言え王族だ。血筋の影響で魔力が濃いヤツはしぶとい」

 お頭と呼ばれた男は舌打ちまじりに瀕死な少女へ言い放つ。黒尽くめの暗殺者達は侮蔑な視線を王族である少女に向ける。

 「ケッ!ふざけやがって。血筋がそんなに大切か?これだから王族の連中は嫌いだぜ。一般市民を雑種って侮蔑して見下してる胸糞悪い連中なんざ、地獄に落ちろ」

 「民を侮辱している王族や貴族は地獄に落ちるさ。裏でえげつない悪巧みをしいるからな。今の皇帝と第三王子には国を任せられるが幸いだ」

 「栄光ある帝国に堕落した皇女は不要。速やかに任務を遂行する」

 感情を感じない声と共に、お頭と呼ばれた男は懐から取り出したナイフの鞘を抜き放ち、浅く呼吸を繰り返す皇女の胸へ刃を突き立てた。

 ドクッドクッドクッと胸から勢いよく赤い血が溢れる。皇女が息を吹き返すことは不可能と見届けた暗殺者は血溜まりに沈む景色を背に、依頼者の元へ旅立つ。



 ただ静かな血溜まりには、空を自由に飛ぶ鳥の鳴き声が虚しく響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...