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22話 別れの日は近い
しおりを挟む「杏梨、綾瀬恭平と噂になってるね」
昨日はあんなことがあって告解室に来られなかった。諸々あったことを説明して謝ったら、彼は「色々大変だったね」と労い、冒頭の発言へと続いたのだった。
あれだけ派手にやったし、当然噂が回るのも早いと思ってたけど……ため息が止まらない。
「あー……だよね。アンタにも届いてるのか」
「学校中で出回ってるね」
「うわ。SNSとか大丈夫かな」
「まだ噂段階だから……多分大丈夫だと思うけど」
綾瀬恭平は国内でも有名だし、加えてあのルックスだから、下手にSNSに情報が出回れば炎上しかねない。それだけは勘弁だ。
額に手を当てていると、彼が「杏梨」と少し怒った口調で私の名前を呼んだ。
「嫌がらせ受けてること、どうして言ってくれなかったの?」
「いや、無駄に心配させることもないなって思って」
「それでも僕には言って欲しかったな」
「拗ねないでよ。ごめんって」
彼とは色々話せることもあるけど、嫌がらせのことは言えなかった。
彼と話すこの時間は貴重だから、そんな話題は出したくなかった。言ったところで、解決するわけでもなかったし。
彼がまだ不満そうにするので、もう一度謝ると、ようやく機嫌を少し直してくれた。
「で。嫌がらせは? 治まった?」
「うん。全くなくなった」
内履きのイタズラもなかったし、個人ロッカーにも教科書が全部戻って来ていた。
綾瀬ファンたちは今日学校を休んだらしいとクラスメイトが話していた。よほどショックが強かったみたいだ。
「でも、綾瀬恭平は大丈夫かな。私と噂になって」
「いいよいいよ、全然問題ないから」
「なんでアンタが答えんの?」
「綾瀬恭平はそういうの気にするタイプじゃないから」
「何、結構仲良いの?」
「いや、なんとなくそうじゃないかと思っただけ」
根拠ないのかよ。思わず脱力する。
今朝も綾瀬恭平と連弾したけど、特に変わった様子はなかった。
まあ……私も話してる感じ、綾瀬恭平はあんまり噂とか気にするタイプには思えない。いらない心配か。
彼は綾瀬恭平の話に興味を失ったようで、別の話を始める。
「ところで、明日から学内コンクールの予選一日目だね。杏梨は出るの?」
「出ると思う?」
「思わない」
「じゃあ聞くなよ」
推薦枠すら蹴ろうとした奴だぞ、私。予選出られるなら本選素直に出てるわ。
当然わかってて彼は軽口を叩いている。
「ごめん、冗談。でも観覧はするよね?」
「てか生徒は観覧強制参加でしょ。さすがにサボんないって」
「そっか。ぼっち観戦?」
「どうだろ。朝、綾瀬恭平と連弾するから、その流れで一緒に行くかもね」
「いいね」
「いいの?」
何がいいのかよくわかんないけど。どうせまた適当なこと言ってるだけだろう。
「アンタ、明日もここにいる?」
「もちろん。君が一ヶ月ここに来る間、僕はいるよ」
「一ヶ月……そういえばそうだったね」
すっかり忘れてたけど、そういえば私がここに毎日来てるのは校則違反の罰としてだった。
彼とこの告解室で話すことは、もはや習慣みたいに馴染んでいた。
「いつだっけ。私の罰が終わるの」
「ちょうど三日後じゃないかな。コンクール本選の日」
「え、マジ?」
「うん、マジ」
一ヶ月経つのってそんなに早かったっけ。急にあと三日で罰が終わりと気付いて、自分の頬が少し強ばった。
「……そっ、か……」
「え、もしかして寂しいって思った? ねえ、思った?」
「清々するなって思った」
「もう、素直じゃないなあ」
あと三日。この告解室で彼と話すのも、あと三日……?
一ヶ月経ったら、終わりなんだろうか。こうして彼と話すことも、もうない……?
そのあと、彼と何を話したかまともに覚えてない。頭が真っ白になって、何も考えられなかった。
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