俺が嫁になるなんて

ワンコ

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馴れ初め

東京を発つ

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 ーーーお前6月から鳥取ね

 突然の転勤を知らされた九条は戸惑いと怒りを隠せなかった。
「なんで俺が異動なんすか?もっと飛ばすべき人がいるでしょ!!」
 はっきりとした物言いの九条は上司との衝突が絶えなかった。理不尽だが仕方がないことだった。

 ーー川沿いにて
「ふざけんなよ、あのクソ上司!人事にも訴えてやる。今に見てろ」そう悪態をついていた九条に
「まぁまぁ、鳥取も良いところよ?」
 と、同僚の野田
「お前は良いよな、このまま本社で出世コース一直線だもんな。」野田の他人事な対応は九条のストレスを増幅させた。
 野田と九条は大学の頃からの友達で、この会社にも同期として入社していた。多くいる同期の中でも優秀な人材であった2人は重宝される一方、一部から妬まれることもあった。
「お前ならわかってくれるだろうと思ってたのによ、あの石頭上司は会社の癌だろ。」
 ただひたすらに愚痴を溢す九条を野田は適当な相槌をうって聞いている。野田が口を開く。
「九条、また戻ってこいよ。俺はお前を待ってるからさ。」
 意外な野田の暖かい発言に驚き九条は一言
「頑張るわ」と返すのみだった。



「母さん、俺転勤になったわ。」電話が繋がってすぐに発した言葉だった。愛知にいる九条の母は、シングルマザーとして彼を育て上げてくれた。そんな母にこんな報告をするのは心苦しかった。
「そーか、どこ行くの?」
「鳥取」
「えらい遠くまで行くんやねぇ、たまには帰っておいでよ」
 大方このような言葉を交わした。鳥取。口に出してなお実感が湧かない。東京で過ごした大学生活の思い出、友人に思いを馳せ、憂鬱な気分で引っ越し準備を進めた。
 東京での生活も残すところ一週間を切り、忙しさに追われていた。


 仲の良い友人や彼女に転勤を告げると、九条の家で送別会を開いてくれることになった。
 野田大誠、小平陽菜、北島結衣、そして九条響
 この4人は大学の頃からのゲーム仲間としてよく朝まで呑み明かした気のおけない仲のメンバーだ。
 そして小平陽菜は九条の彼女だ。九条とは多くの時間を共にした。旅行や遊びもしょっちゅう行っていたし、九条はもうすぐプロポーズしようと思っていた。しかし、九条の転勤を知らされて、目に涙を浮かべ、遠距離恋愛になる事を受け入れるので精一杯だった。
「今日は響の送別会です!盛大に送り出してあげましょー!」いつもの野田がのハイテンションが九条にはしんどく感じられた。
「響の引越しの手伝いも兼ねてるんだから朝まで呑むのはやめとかなきゃね」北島はいつも真面目だ。つまらないところもあったけどなんだかんだいいメンバーだった。響のテンションは明らかにいつもより低かった。

 全員、酔いが回ってきて、1人また1人と眠りについていった。

 夜中3時、九条はふと目が覚めた。話し声が耳に入った。

「あいつやっと転勤だよ、長かったわw」
「これからは思う存分Hできるね!」
 
野田と小平だった。九条の頭は真っ白になり何も考えられなかった。異動悲しんでくれた親友と遠距離恋愛を誓った恋人との繋がりが音を立てて切れる感じがした。


「ゴムなしで来て♡」
「マジで?」
「いいよ、あいついなくなるし、妊娠してもバレずに下ろせるでしょ」



「あっ//もっとぉ」

 一定のリズムが頭に響く。
 九条は吐き気を酒のせいにして静かに目を閉じ、歯を食いしばった。瞼の隙間からは雫がしたたる。

翌日、引越しの準備を断ってみんなを家に帰した。
 
 それからは誰とも会うことなく東京を発った。
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