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馴れ初め
鳥取支社
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外に出ると蒸し暑い空気の塊が全身を包む。
鳥取の日光にさらされて九条はアパートを出る。九条は殆ど生きる意味を見失っていた。
「本社からきました。九条響です。よろしくお願いします。」
簡単な挨拶をして辺りを見回せば、覇気のない面構えが並ぶばかりである。
「九条くんよろしくね。何か分からないことがあればいつでも聞いてね」と新しい上司が言う。呑気な雰囲気に不安を覚えたが、東京ほどの息苦しさは感じなかった。
九条は働き詰めていた。仕事をしている時間は全てを忘れることができた。毎食カップラーメンを食べ、毎日日付が変わるまで働き、朝は始業に間に合うギリギリまで寝ていた。タイムカードもしっかり切っていたが、誰からも何も言われなかった。
梅雨が明け、日に日に暑さが強くなってきた。そんなある日、数ヶ月に一度の営業成果報告会、、という名の飲み会があった。そのため仕事は午前帰宅という事になっていたが、九条は断りを入れ会社で仕事をしていた。周りは誰もいない環境で心を落ち着かせることができた。午後4時頃に九条は自分の汗が尋常じゃない量吹き出している事に気づいた。「エアコンはついているはずだよな」と確認に立ち上がった瞬間、立ち眩みがして目の前が真っ暗になった。ドサッとデスクの上の物と共に大きな音を立てて地面に崩れ落ちる。「えぇ、このまま死ぬんかな。まぁいいや」と目を閉じた。
再び目を明けた時と医務室の天井が視界を占領した。そして視界の端には大きな背中があった。ハッとして起き上がると、
「あ、起きましたか。体調は大丈夫ですか?」
一ノ瀬陽向。彼は共に働いている同僚で、いわゆる高身長イケメンという言葉を具現化したような姿だった。女子社員からは猫撫で声でチヤホヤされいて、かつ真面目な性格だったので上司からも頼られていた。九条は一ノ瀬のことを嫉妬や妬みに似た感情で最初は嫌っていた。ある時、同僚の吉岡紗枝が彼に告白しているのを見た事がある。彼女はかなり可愛い小動物系で、その告白を一ノ瀬は当然受けるものだと思っていた。しかし、彼はその告白を断った上、「俺の何が分かるの?」と言葉を吐き捨ててその場を後にした。大人しそうな見た目からは想像できない冷酷さに驚き、吉岡が他の女性社員に慰められるのを眺めていた。九条は一ノ瀬に興味を持ち始めていた。
「あ、えっと、もしかしてここまで運んでくれました?ありがとうございます。」
「いえ、オフィス凄い暑さでしたよ、なんで気をつけなかったんですか。」
「すみません」
そう言って九条はまるで思い出したかように言葉を繋げた。
「そういえば、飲み会は?」
「あぁ、僕はああいうノリきらいなんで」
と笑顔で微笑みかけてくる。辛さを含んだその笑顔は九条の心に響くものがあった。久しぶりに人の優しさに触れた九条は肩の緊張が解け、遂には涙を零してしまった。
「あれなんで俺」そういって大粒の涙を笑顔を作りながら溢している九条を見て一ノ瀬はどうすればいいか分からなかった。
「疲れてるんだよ、きっと。大丈夫ですよ、。僕で良ければ話聞きますよ。」と一ノ瀬は言った。
それから九条は東京での上司や親友と彼女の裏切りを全て話した。そして一ノ瀬はその全てを受け入れ、2人は仲を深めた。
夜9時、外から土砂降りの雨足と雷鳴が聞こえる。
鳥取の日光にさらされて九条はアパートを出る。九条は殆ど生きる意味を見失っていた。
「本社からきました。九条響です。よろしくお願いします。」
簡単な挨拶をして辺りを見回せば、覇気のない面構えが並ぶばかりである。
「九条くんよろしくね。何か分からないことがあればいつでも聞いてね」と新しい上司が言う。呑気な雰囲気に不安を覚えたが、東京ほどの息苦しさは感じなかった。
九条は働き詰めていた。仕事をしている時間は全てを忘れることができた。毎食カップラーメンを食べ、毎日日付が変わるまで働き、朝は始業に間に合うギリギリまで寝ていた。タイムカードもしっかり切っていたが、誰からも何も言われなかった。
梅雨が明け、日に日に暑さが強くなってきた。そんなある日、数ヶ月に一度の営業成果報告会、、という名の飲み会があった。そのため仕事は午前帰宅という事になっていたが、九条は断りを入れ会社で仕事をしていた。周りは誰もいない環境で心を落ち着かせることができた。午後4時頃に九条は自分の汗が尋常じゃない量吹き出している事に気づいた。「エアコンはついているはずだよな」と確認に立ち上がった瞬間、立ち眩みがして目の前が真っ暗になった。ドサッとデスクの上の物と共に大きな音を立てて地面に崩れ落ちる。「えぇ、このまま死ぬんかな。まぁいいや」と目を閉じた。
再び目を明けた時と医務室の天井が視界を占領した。そして視界の端には大きな背中があった。ハッとして起き上がると、
「あ、起きましたか。体調は大丈夫ですか?」
一ノ瀬陽向。彼は共に働いている同僚で、いわゆる高身長イケメンという言葉を具現化したような姿だった。女子社員からは猫撫で声でチヤホヤされいて、かつ真面目な性格だったので上司からも頼られていた。九条は一ノ瀬のことを嫉妬や妬みに似た感情で最初は嫌っていた。ある時、同僚の吉岡紗枝が彼に告白しているのを見た事がある。彼女はかなり可愛い小動物系で、その告白を一ノ瀬は当然受けるものだと思っていた。しかし、彼はその告白を断った上、「俺の何が分かるの?」と言葉を吐き捨ててその場を後にした。大人しそうな見た目からは想像できない冷酷さに驚き、吉岡が他の女性社員に慰められるのを眺めていた。九条は一ノ瀬に興味を持ち始めていた。
「あ、えっと、もしかしてここまで運んでくれました?ありがとうございます。」
「いえ、オフィス凄い暑さでしたよ、なんで気をつけなかったんですか。」
「すみません」
そう言って九条はまるで思い出したかように言葉を繋げた。
「そういえば、飲み会は?」
「あぁ、僕はああいうノリきらいなんで」
と笑顔で微笑みかけてくる。辛さを含んだその笑顔は九条の心に響くものがあった。久しぶりに人の優しさに触れた九条は肩の緊張が解け、遂には涙を零してしまった。
「あれなんで俺」そういって大粒の涙を笑顔を作りながら溢している九条を見て一ノ瀬はどうすればいいか分からなかった。
「疲れてるんだよ、きっと。大丈夫ですよ、。僕で良ければ話聞きますよ。」と一ノ瀬は言った。
それから九条は東京での上司や親友と彼女の裏切りを全て話した。そして一ノ瀬はその全てを受け入れ、2人は仲を深めた。
夜9時、外から土砂降りの雨足と雷鳴が聞こえる。
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