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馴れ初め
一ノ瀬の苦悩
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「雨酷くなってきたね、九条君」
一ノ瀬と九条の自宅は同じ町にあることが分かり、2人は共に歩いて帰る事になった。この短時間に2人の仲はかなり深くなっていた。
帰路につき話は続く。
「一ノ瀬は人間関係が苦手なのか?」
「うん、特に女性といるとしんどく感じる。」
「なんで?お前モテるしいいじゃん」
九条の発言に一ノ瀬の顔が曇る。
「…僕は昔からなんでもできる子だった。よく褒められたし、期待もされた。親からの将来に対する期待が重かった。女子からもよく告白された。けど、みんな思ってたのと違うとか、性格が合わないとか言っていつも振られてた。いつも責められるのは何もしていない自分だった。自分の内面をしっかりと見てくれる人なんていないと分かってからは、人と話すことさえ辛くなった。」
一ノ瀬の過去の話に九条は軽率な発言を後悔した。
「そっか、、」
一ノ瀬の家に着いた。そこにはタワマンが聳え立っていた。金持ちかよ、と思いながらも九条は一ノ瀬を見上げ、
「また、明日」一言そう言って別れる。
九条は1人水溜まりを避けながら歩みを進める。
彼らが共に過ごした時間は数時間ほどのみだったが、九条は一ノ瀬を信頼できる人物として確信していた。自分の中で渦巻いていた黒いものを取り除いてくれた気がした。一ノ瀬は九条の心の拠り所になりつつあった。
九条はアパートの階段を登り、家の鍵穴に鍵を差し込む。その時、階段を駆け上がる音がしたので、驚いて振り向くとそこにはずぶ濡れになった。一ノ瀬がいた。
「えっ?どうした?」
息を整えて一ノ瀬言う。
「家の鍵が入った財布、会社に忘れちゃった。」
夜11時この時間から会社に戻っても鍵は開いていないだろう。財布も忘れているためホテルに泊まることもできない。これは泊めるべきだなと九条は思った。「もしよかったら、ホテル代貸してくれない?」九条は予想外の発言に言葉を詰まらせた。
「ええと、、泊まっていく?」
何故か勇気を出して発言している自分が不思議だった。まだ親しくない人を家に入れる事に対する抵抗だろうか。いや、そんなはずはない。今までにないくらい打ち解け、心地よい時を過ごしたのだから。
「いいの?ホントに?じゃあお邪魔します。」
バタンと扉が閉じる。玄関に佇む一ノ瀬の姿は、背の低い九条の視界の殆どを埋めた。雨に濡れてうっすらと透けたシャツから見えるのは、細いながらもしっかりと割れた腹筋。しばらくの間、九条の目は引きつけられるようなり、視線を逸せなかった。
「どうした?」と声をかけられてやっと九条は我に返った。「いや、なんでもない。びしょ濡れじゃん、風呂入ってきなよ。」変に意識してしまい、目を合わせることができなかった。
「何してんだ俺、確かに綺麗な腹筋だったけど、別に、、、、あーだめだ考えるな」九条はとりあえず缶ビールを出したり、着替えたり、部屋の中を片付けたりして、気を紛らわそうとした。ソワソワとして落ち着きがなかった。シャワーの音だけが部屋の中に響いていた。
「お風呂ありがとー♪」一ノ瀬は半裸だった。
「おま、なんで、服は?」
「ごめん、全部ずぶ濡れで」そういえばそうだった。当たり前の事だった。焦ってしまった恥ずかしさを紛らわすためすぐに口を開く。
「そうだったごめん、俺の服、これ着なよ」
「……ちいさい」九条は赤面した。全てが空回りしている。結局一ノ瀬はシャツが乾くまでは半裸でいる事になった。2人で用意していた缶ビールを開ける。「ごめんね、急にお邪魔させてもらって」
「いや、大丈夫だけど」
絶妙に気まずい空気になり、数時間前に多くを語っていたとは思えないほど会話が進まなかった。
九条は無意識にチラチラと腹筋に目線が行ってしまう。鍛え上げられた腹斜筋の造形美、男同士なのに何かよくない事をしているというやましい気持ちでいっぱいだった。
「そんなに気になる?」
「えっ?」
「お腹、触ってみる?」
バレていた。恥ずかしいし、申し訳ない。触ってみるかという攻めた質問に九条は狼狽える。
最終的にここで断ると更に気まずくなる事を予測して、ちょっとだけと答え、手を伸ばした。
突然、一ノ瀬が伸ばした手を引っ張った。九条は当然体勢を崩し一ノ瀬の上に覆い被さるような体勢になった。
「ほら、遠慮しないで」そう言って俺の手を腹筋に持っていく。早くも一ノ瀬の顔が赤らんでいる。こいつ酒に弱いのかと九条は思い、なんとか冷静さを保っているふうを装って「すげぇ筋肉だな」と当たり障りのないようか言葉を選んだ。
「手、かわいい」
「ッッッ何言ってんの??」流石の九条も冷静さを失い、心拍が上昇する。大きい一ノ瀬の身体が小柄な九条を包みこむように感じる。圧倒的顔面から放たれる恍惚とした表情は九条の理性を失わせていく。「九条ってホントかわいいね、好きかも」
九条は一度体勢を立て直そうとしたが、両手を掴まれていてそれはできなかった。
「ちょ、なにいってんだよ、、」
拒絶するつもりだったが、その言葉がでない。男とこんな事するなんて間違ってる。好きになるとかあり得ない。しかし、それが嘘である事は既に行動が証明していた。
九条は目線を上げ、一ノ瀬と向かい合う。
「九条、、目閉じて」
一ノ瀬と九条の自宅は同じ町にあることが分かり、2人は共に歩いて帰る事になった。この短時間に2人の仲はかなり深くなっていた。
帰路につき話は続く。
「一ノ瀬は人間関係が苦手なのか?」
「うん、特に女性といるとしんどく感じる。」
「なんで?お前モテるしいいじゃん」
九条の発言に一ノ瀬の顔が曇る。
「…僕は昔からなんでもできる子だった。よく褒められたし、期待もされた。親からの将来に対する期待が重かった。女子からもよく告白された。けど、みんな思ってたのと違うとか、性格が合わないとか言っていつも振られてた。いつも責められるのは何もしていない自分だった。自分の内面をしっかりと見てくれる人なんていないと分かってからは、人と話すことさえ辛くなった。」
一ノ瀬の過去の話に九条は軽率な発言を後悔した。
「そっか、、」
一ノ瀬の家に着いた。そこにはタワマンが聳え立っていた。金持ちかよ、と思いながらも九条は一ノ瀬を見上げ、
「また、明日」一言そう言って別れる。
九条は1人水溜まりを避けながら歩みを進める。
彼らが共に過ごした時間は数時間ほどのみだったが、九条は一ノ瀬を信頼できる人物として確信していた。自分の中で渦巻いていた黒いものを取り除いてくれた気がした。一ノ瀬は九条の心の拠り所になりつつあった。
九条はアパートの階段を登り、家の鍵穴に鍵を差し込む。その時、階段を駆け上がる音がしたので、驚いて振り向くとそこにはずぶ濡れになった。一ノ瀬がいた。
「えっ?どうした?」
息を整えて一ノ瀬言う。
「家の鍵が入った財布、会社に忘れちゃった。」
夜11時この時間から会社に戻っても鍵は開いていないだろう。財布も忘れているためホテルに泊まることもできない。これは泊めるべきだなと九条は思った。「もしよかったら、ホテル代貸してくれない?」九条は予想外の発言に言葉を詰まらせた。
「ええと、、泊まっていく?」
何故か勇気を出して発言している自分が不思議だった。まだ親しくない人を家に入れる事に対する抵抗だろうか。いや、そんなはずはない。今までにないくらい打ち解け、心地よい時を過ごしたのだから。
「いいの?ホントに?じゃあお邪魔します。」
バタンと扉が閉じる。玄関に佇む一ノ瀬の姿は、背の低い九条の視界の殆どを埋めた。雨に濡れてうっすらと透けたシャツから見えるのは、細いながらもしっかりと割れた腹筋。しばらくの間、九条の目は引きつけられるようなり、視線を逸せなかった。
「どうした?」と声をかけられてやっと九条は我に返った。「いや、なんでもない。びしょ濡れじゃん、風呂入ってきなよ。」変に意識してしまい、目を合わせることができなかった。
「何してんだ俺、確かに綺麗な腹筋だったけど、別に、、、、あーだめだ考えるな」九条はとりあえず缶ビールを出したり、着替えたり、部屋の中を片付けたりして、気を紛らわそうとした。ソワソワとして落ち着きがなかった。シャワーの音だけが部屋の中に響いていた。
「お風呂ありがとー♪」一ノ瀬は半裸だった。
「おま、なんで、服は?」
「ごめん、全部ずぶ濡れで」そういえばそうだった。当たり前の事だった。焦ってしまった恥ずかしさを紛らわすためすぐに口を開く。
「そうだったごめん、俺の服、これ着なよ」
「……ちいさい」九条は赤面した。全てが空回りしている。結局一ノ瀬はシャツが乾くまでは半裸でいる事になった。2人で用意していた缶ビールを開ける。「ごめんね、急にお邪魔させてもらって」
「いや、大丈夫だけど」
絶妙に気まずい空気になり、数時間前に多くを語っていたとは思えないほど会話が進まなかった。
九条は無意識にチラチラと腹筋に目線が行ってしまう。鍛え上げられた腹斜筋の造形美、男同士なのに何かよくない事をしているというやましい気持ちでいっぱいだった。
「そんなに気になる?」
「えっ?」
「お腹、触ってみる?」
バレていた。恥ずかしいし、申し訳ない。触ってみるかという攻めた質問に九条は狼狽える。
最終的にここで断ると更に気まずくなる事を予測して、ちょっとだけと答え、手を伸ばした。
突然、一ノ瀬が伸ばした手を引っ張った。九条は当然体勢を崩し一ノ瀬の上に覆い被さるような体勢になった。
「ほら、遠慮しないで」そう言って俺の手を腹筋に持っていく。早くも一ノ瀬の顔が赤らんでいる。こいつ酒に弱いのかと九条は思い、なんとか冷静さを保っているふうを装って「すげぇ筋肉だな」と当たり障りのないようか言葉を選んだ。
「手、かわいい」
「ッッッ何言ってんの??」流石の九条も冷静さを失い、心拍が上昇する。大きい一ノ瀬の身体が小柄な九条を包みこむように感じる。圧倒的顔面から放たれる恍惚とした表情は九条の理性を失わせていく。「九条ってホントかわいいね、好きかも」
九条は一度体勢を立て直そうとしたが、両手を掴まれていてそれはできなかった。
「ちょ、なにいってんだよ、、」
拒絶するつもりだったが、その言葉がでない。男とこんな事するなんて間違ってる。好きになるとかあり得ない。しかし、それが嘘である事は既に行動が証明していた。
九条は目線を上げ、一ノ瀬と向かい合う。
「九条、、目閉じて」
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