転生したらうちの柴犬が最強でした

深水えいな

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2.エルフの里

4.エルフの村へ

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 サブローさんを抱き上げると、今にも壊れそうな吊り橋をそろそろと渡る。

 サブローさんは本当は抱っこが苦手なんだけど、流石に暴れると危ないと思ったのか、じっと大人しくしてる。

 吊り橋を渡りきると、オーランド・ブルームみたいなエルフ男が二人、村の前に立っていた。見張りだろうか。

「おいトゥリン、なんだその人間は!」

 オーランド・ブルームのうちの一人が俺に向かって槍を向けた。

 トゥリンはフンと鼻で息を吐く。

「どいてくれ、ギルン。間違えて毒矢で射ってしまった。解毒剤を分けてやりたいのだが」

 どうやらオーランド・ブルームAの名前はギルンと言うらしい。

 よく見るとギルンは隣にいるオーランド・ブルームBより背が高くてイケメンな気がするが、他の種族は見慣れていないせいかあまり区別がつかない。

「お前、なんつう事を! 見慣れない格好だが、ふもとの村の人間か?」

 ギルンが尋ねる。

「いや、俺は……」

「とにかく人間の村と揉め事を起こしたら大変だ。ちょっと村長に話をしてくるからそこで待ってろ!」

 ギルンは俺の話も聞かず村の中へと走って行く。

 ――かと思うと、すぐさま戻ってきた。

「村長の許可が出た。離れへの滞在を許すそうだ。傷が治ったらすぐ出ていくこと!」

 どうやら村に入ることを許されたらしい。
 俺はサブローさんを抱いたままエルフの村へと足を踏み入れた。

「おい待て、なんだその獣は」

 ギルンがサブローさんに目を留める。

「これはうちの犬だ」

「イヌ……?」

 トゥリンと同じように怪訝そうな目をするギルン。

「イヌを知らないのか? 哺乳綱ネコ目イヌ亜目イヌ科イヌ属タイリクオオカミ種イエイヌ亜種、学名はCanis lupus familiaris――」

「訳の分からん呪文を唱えるな」

 眉間に皺を寄せるギルン。
 トゥリンはサブローさんを指さした。

「その獣は、その男が飼い慣らしているらしい」

「飼い慣らす? 信じられん。野生の獣がヒトに懐くとは」

 もしかしてエルフには犬を飼うという習慣は無いのだろうか。

 エルフの村の中を通り抜ける。

 エルフの家はたいてい木や藁で出来ていて、ネズミよけのためか高床式になっている建物も多い。

 建物自体は簡素だが、そこかしこにカラフルな花や植物を飾っているので不思議とみすぼらしい感じには見えない。

 住民たちは皆、金髪でスラリとした美男美女ばかりだ。

 俺がキョロキョロとエルフの村を見ていると、長い耳の人々がこちらを見て眉を潜める。

 人間が珍しいのか、犬が珍しいのか。恐らくその両方だろう。

「ついたぞ、ここだ」

 トゥリンが茅葺き屋根の家を指さす。

「おお、家だ!」

 良かった。今夜は獣の巣じゃなくてちゃんとした住宅で過ごせそうだ。

「大げさだな。さ、そこへ座れ。ちょっと待ってろ。今、包帯と解毒剤を持ってくるから」

 板張りの床。俺は麻で編んだクッションに座った。サブローさんもクッションの上でお座りをする。

「まずい、何か吐き気がしてきたな」

 ついに毒が回ってきたらしい。ぐるぐると床が回って見える。

 辛そうにする俺の顔をサブローさんはペロペロと舐めた。優しいなあ、サブローさん!

「邪魔するぞ」

 布団を手に入ってきたのはギルンだ。

「調子はどうだ」

「あまり良くない」

「そうか、すまない。トゥリンはドジだから。ま、薬を飲んでしばらく寝てれば治るよ」

 ギルンはテキパキと部屋の中に布団を敷いていく。草木で染めたような不思議な柄の布団だ。

 と、いきなりギルンが飛び退く。

「ヒァアッッ!! そ、その獣を押さえてろォ!」

 見るとサブローさんが布団の上でゴロゴロしている。

「サブローさん、来い。邪魔しちゃダメだ」

 サブローさんは布団から降りると、トコトコと俺の横に来た。

「サブローさんお座り。大人しくしてろ」

 キリッとした顔で座布団の上にお座りするサブローさん。ギルンが大きな青い目をカッと見開く。

「なんと。本当に飼い慣らしているのかッ……!」

 だから最初からそう言っているだろうが。

「俺はトゥリンの弟のギルンだ。しばらくそこに寝てるといい。今、トゥリンが飲み物と薬を持ってくるはずだ」

「ありがとう」

 パタン、とドアが閉まる。

 ん? ギルンはトゥリンの弟? 兄じゃなくて? 

 どう見てもギルンは二十代半ばくらいだし、トゥリンは十代前半にしか見えなかったが。

 もしかして、こちらの言葉から日本語に翻訳する過程でそうなってしまうのだろうか。

 英語だと兄でも弟でも「ブラザー」だし、ひょっとするとエルフ語もそういう言語なのかも知れないな。

 俺は一人で納得すると、布団に入り目をつぶった。サブローさんも俺の足元で丸くなる。


 ノックの音。

「大丈夫か? 解毒剤を持ってきたぞ」

 トゥリンが入ってくる。
 トゥリンは、足元でぐっすり眠っているサブローさんにチラリと目をやると、ソロソロと俺の枕元に丸薬と水の入ったお椀を置いた。

「薬と水だ」

「ありがとう」

 薬を飲み干す。苦い。正露丸みたいな味だ。

「大丈夫か?」

「ああ、少し吐き気はあるけど」

「そうか、良かった。……ええと、お前、名は?」

 トゥリンが俺に尋ねる。

「柴田だ」

「チバタ?」

「シ・バ・タ」

「シバター」

 発音しにくそうにトゥリンが呟く。そんなに難しい名前じゃないと思うんだけど。

「そうか。あのキツネ、本当にシバタに懐いているんだな」

「サブローさんはキツネじゃない」

 布団から起き上がると、眠っているサブローさんの頭を撫でる。

 ピクリと耳が動き、サブローさんは薄目を開ける。が、またすぐに寝てしまった。きっと疲れてるんだな。

「でもギルンがあの獣はキツネの子供に違いないと」

 俺は森で出会った巨大キツネの親子を思い出す。

 確かに、キツネの子供はサブローさんと毛色がそっくりだ。

 海外でも、日本犬を見たことがない西洋人は柴犬をキツネやコヨーテと間違えることがあると聞いたことがあるし、知らない人が見るとそう思うんだろうか?

「いや、サブローさんは犬だよ」

「イヌ?」

「柴犬だ」

「シ・ヴァ・イヌー」

 トゥリンは眉を潜めた。

「何だそれは」

 やはり翻訳過程でおかしくなって上手く伝わらないのだろうか。

 それとも本当に柴犬……いや、犬の存在を知らないなんてことないよな?

「触ってもいいか?」

 トゥリンがソロソロとサブローさんの頭に手を伸ばす。

「ああ。最初は頭より背中を撫でてやるといいよ」

 トゥリンは恐る恐る背中に手を付ける。

「や、柔らかい。フワフワしてる」

 ぎこちなく背中を撫でるトゥリン。

「それから首の辺りを撫でると喜ぶから撫でてやるといい」

「分かった」

 トゥリンがサブローさんの首の辺りを撫でると、サブローさんは気持ちよさそうにゴロリと寝転がった。

 良かった。サブローさんもリラックスしてるみたいだし、すっかり慣れたみたいだな。

 と、トゥリンが急に悲鳴を上げた。

「ふああ!」

「どうした」

「サブローさん、急に股ぐらの匂いを嗅ぎ始めたぞ!」

 見ると、サブローさんがトゥリンのスカートの中に顔を突っ込んでフガフガ匂いを嗅いでいる。

「ああ。それは犬同士の挨拶だよ。犬は尻を嗅ぐことでお互いの匂いを覚えるんだ」

「そ、そうなのか」

 トゥリンはサブローさんに尻を向けた。サブローさんはトゥリンのお尻の匂いをクンクンと嗅ぐ。

「まぁ、普通はお尻じゃなくて拳を握って犬の鼻の前に持って行って匂いを覚えさせるんだけどな」

 ちなみに拳を握るのは、その方が手を開くよりも犬に噛まれにくいからだ。
 もし噛まれても、拳ならそのまま犬の口に押し込んでやれば、顎《あご》が開いて自然に離してくれるし。

 俺が拳を突き出し正拳突きのようなポーズをしていると、トゥリンは俺の方にも尻を掲げた。

「シバタも私の尻の匂いを嗅いでいいぞ!」

 いや、俺は犬じゃないから!



「具合はどうだ?」

 急にドアが開く。

 部屋に入ってきたギルンは、俺たちを見て顔を引き攣《つ》らせ固まった。

「お前ら何してる……?」

「丁度良かった。ギルンも尻を向けるんだ。肛門の匂いを嗅ぐのがシヴァ・イ・ヌーの挨拶らしいぞ!」

 トゥリンが叫ぶ。

「な、なるほど」

 ギルンは戸惑いながらも、俺に向かってずい、と尻を突き出した。

「これは失礼した。さ、私の肛門の匂いを思う存分嗅いでくれ!」

「いや……あの」

 エルフって、何だか変わってる奴ばかりだな!


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◇柴田のわんわんメモ🐾

◼犬同士の挨拶

・鼻先をお互いに近付けて匂いを嗅ぎ、次にお尻の匂いをクンクンするのが犬同士の挨拶。年や立場が上の犬から先に匂いを嗅ぐのがマナー

◼犬の触り方

・犬を触る時はいきなり触るのではなく、必ず飼い主の許可を得ること。
・最初は頭、手足、尻尾などは避け、背中や首などを触ること。特に耳の付け根の辺りは犬が気持ちいいと感じる場所


※オーランド・ブルーム
・映画『ロード・オブ・ザ・リング』でエルフ族の王子レゴラス役を演じたハリウッドスター
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