転生したらうちの柴犬が最強でした

深水えいな

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2.エルフの里

9.旅立ちの時

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「うわっちっち!!」

 火が消えるのを待って、俺はすすだらけになったサブローさんの顔を撫でた。

「ク~ン」

 仰向けになり、腹を見せるサブローさん。舌をだらしなくベロリとだし、恍惚の表情を浮かべるサブローさんの白いお腹を、俺はもしゃもしゃと撫でた。

「まさか、こんなに簡単にドラゴンを倒してしまうとは……」

 知らなかった。どうやらサブローさんはとんでもなく強いらしい。

『女神のペットとして相応しい力も授けたから!』

 ミアキスの言葉を思い出す。
 もしかして……それがこれ!?


「シバタ、大丈夫なのか!? ドラゴンを倒すなんて、いくらなんでも出来るわけが」

 しばらくして、トゥリンがやってきた。俺たちの後を心配して追って来たのだろう。

「やあ、トゥリン。このトカゲを運ぶのを手伝ってくれ」

 丸焦げになったドラゴンの横にしゃがみこんだ俺と、得意げな顔のサブローさんを見て、トゥリンはあんぐりと口を開けた。

「……シバタ、お前、本当に?」

 俺は小さく頷いた。
 まあ、凄いのは俺じゃなくてサブローさんだけどな。


◇◆◇


「勇者様が戻って来たぞ!」
「なんてこった、本当にやりやかった!」

 トゥリンと一緒にドラゴンを担いで村に戻ると、エルフたちの熱烈な出迎えを受ける。

「すげぇ、ドラゴンが丸焦げになってる」
「どうやったんだ!?」

「いや、ほとんどサブローさんが倒したんだ」

 エルフたちは感嘆の息を漏らす。

「さすが勇者様、謙虚だ」
「ドラゴンごときでは、勇者様の出る幕はないということだな!」

 よく分からないが、やたら好意的に解釈されているようだ。

 ドサリと地面に敷いた藁の上に丸焦げのドラゴンを下ろす。

「さて、こいつはどうする?」

「決まってるじゃないか」

 トゥリンが笑う。

「食おう!」

 俺は香ばしく焼けたドラゴンの肉をチラリと見た。

 確かに、こんがりと焼けた肉は、見るからに美味しそうに見えた。



「んー、んまい!!」
「美味いなぁ、シバタ」


 村に帰ると、早速俺たちはドラコンの肉を皆に振舞った。

 ほっこりと焼けた肉は鶏肉に似ていて、塩を振っただけなのにジューシーで噛むと濃厚な肉汁が溢れだしてくる。

「まさかドラコンの肉がこんなに美味いとは」

「おーい、シバタ、これ!!」

 夢中でドラゴン肉にかぶりついていると、遠くからギルンが呼ぶ。

「ドラゴンの肉の中から変なものが現れたぞ!」

「変なもの?」

 ギルンが手に持っていたのは、何か赤い文字が書かれた黒い水晶玉のようなものだった。

「何だこれ」

「知らん。ドラゴンの肉の中から出てきた」

 俺とギルンが首を傾げていると、マルザ村長が青い顔で駆け寄ってきた。

「……これは!」

「これが何だか分かるんですか?」

「ああ。これは、『傀儡《くぐつ》の法』じゃ」

 渋い顔をするマルザ村長。

 傀儡《くぐつ》?

「ということは、誰かがこの竜を操って村を襲わせていたということか?」

 渋い顔をするトゥリン。

「ああ、恐らく」

「でも一体誰が」

「決まってるだろ、魔王だ」

 鋭い声で言ったのはトゥリンだ。

「きっと魔王がシバタがここに来るのを予期して襲わせていたんだ」

 魔王がドラゴンを使ってこの村を襲わせていた?

 トゥリンの言葉に思わず息を呑む。
 そんな馬鹿な。だとすると、俺のことがもう魔王にバレてるってことなのか?

 俺は下唇を噛んだ。

 だとすれば、あまりこの村に長く滞在していては迷惑がかかるかもしれない。

 そろそろ、旅立つ準備をした方がいいのかもしれない。



◇◆◇



 翌日、村を立とうとする俺にトゥリンが声をかける。

「シバタ、本当に旅立つのか?」

「ああ。傷も治ったし、ここに俺がいたら、また魔物が村を襲うかもしれん」

「そうか……」

 サブローさんの頭を撫でながらしょんぼりとした顔をするトゥリン。

 トゥリンはしばらく下を向いていたが、やがて決心したように固く拳を握りしめて言った。

「シバタ、魔王退治の旅に、私も連れて行ってくれ!」

「でも」

「妾からも頼む。トゥリンを連れて行ってくれ」
「私からも頼む」

 部屋に入ってきたのはマルザ村長とギルンだ。

「二人とも」

「千年前の勇者にもエルフの仲間がいたとされている。トゥリンもきっとシバタの役にたつことじゃろう。その子を連れて行ってくれるのであれば、この村にとっては名誉なことじゃ」

「でも」
 
「安心しろシバタ。その子はかつて勇者様の仲間となった伝説のエルフの従兄弟の子供の同級生」

 ほぼ他人のような気がするが気のせいだろうか。

 俺はトゥリンをチラリと見た。
 でも女の子と二人だなんて、コミュ障の俺には少しハードルが高いというか……。

 戸惑っていると、トゥリンは口元を真一文字に引き締める、ツカツカとサブローさんに向かって歩いて行った。

「サブローさん、お座りシット

 トゥリンが言うと、ビシッとサブローさんがお座りをした。辺りからどよめきが起こる。

お手ハンド! 伏せダウン!」

 トゥリンが命令すると、サブローさんはサッサッとお手をして伏せをした。

「い、いつの間に」

「ふっふっふ、シバタがサブローさんに芸をさせている所をこっそり見て覚えたんだ」

 得意げな顔をするトゥリン。
 俺はサブローさんをチラリと見た。サブローさんはトゥリンに撫でられてデレデレしている。

「まさか会ったばかりの人の言うことをこんなに聞くなんて」

「サブローさんも私のことを仲間と認めてくれてる証拠だ!」

 満面の笑み。サブローさんも嬉しそうに尻尾を振っている。仕方ない。

「そうだな。俺一人だと道も分からないし、仲間がいた方が心強い」

 それに……俺はずっと思ってたじゃないか。「犬好きの友達が欲しい」って。
 まさか異世界でその希望が叶うとは思って無かったけど。

「ありがとう。よろしくな!」

 満面の笑みで右手を差し出すトゥリン。俺はその手をそっと握り返した。

 辺りから拍手が巻き起こる。

「いや、本当に良かった。トゥリンは背も低く不器量だから誰も貰ってくれる人が居なくて心配してたんだ」

 涙ぐむギルン。

 ギルンは俺の肩をポンポンと叩くと、小さく囁いた。

「トゥリンは体は小さいけど、もう大人だから遠慮することはない。一思いに夫婦《めおと》になっちまいな」

 何の話だ!?

「良かったの、トゥリン。それと、これは少しじゃが選別じゃ」

 マルザ村長がお金の入った袋と地図、ドラゴンの肉の余り、そして革のブーツを渡してくる。

「ありがとうございます」

「これは『猟師のブーツ』と言って、何時間履いても足が疲れないし、怪我や病気も直ちに治してくれるという優れものじゃ」

「へー、それは便利な。ありがとうございます」

 ギルンも頷く。

「そうそう。私も昔、試しにコッソリ履いてみたが、山をいくつ超えても全く壊れないし足も痛くならない。それに水虫も治った」

 水虫なのに履くなよ。

「あらゆる足の病気や怪我を治すからな。さ、シバタも早速履くといい」

「あ、ああ」

 気は進まないものの、俺は早速猟師のブーツを履いてみた。サイズはピッタリで、何だか妙に足が軽い気がする。

「ぴったりだ。ありがとう」

「気に入って貰えたようで何よりじゃ」

 微笑んだマルザ村長に、村人の一人がやって来て何やら耳打ちする。

「おお、ちょうどの準備もできたようじゃ。こっちに来るといい」

「え?」

 マルザ村長に連れられて村の入口までやって来る。そこには大きな布の塊があった。
 何だろう。村に来た時はこんな物無かったのに。

「これは?」

「ふふふ、見て驚くなよ」

 バサリ!

 マルザ村長が勢いよく布をとると、ピンと立った耳、クルンと巻いた尾の見慣れた形の銅像が現れた。

「村の彫刻家にサブローさんの像を掘ってもらったんだ。急いで作ったにしてはいい出来じゃろう?」

 満足気にするマルザ。

 サブローさんの像!?

「いや……いい出来だけど、なんでこのポーズ!?」

 銅像のサブローさんは、しゃがみ込んでいた。今にもウ〇チをしそうなあの独特ので。

「だって可愛いじゃろう~!? インパクトもあるし!」

 嬉しそうに身をよじらせるマルザ村長。
 確かにインパクトはあるけどさ。

「今日からこの像が、我が村のシンボルじゃ!!」

 えーっ!? いいのかよそれで!?



--------------------------
◇柴田犬司《しばたけんじ》 18歳

・職業:勇者
・所持金:金貨1枚、銀貨1枚(マルザからの餞別)、銅貨10枚(トゥリンのポケットマネー)
・通常スキル:言語適応、血統書開示《ステータス・オープン》
・特殊スキル:なし
・装備:柴犬、猟師のブーツ new
・持ち物:レッドドラゴンの首輪、散歩用綱、黄金のウ〇チシャベル、麻のウ〇チ袋、鬼ヶ島の地図new


・ 仲間:トゥリン  (エルフ)  new



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 こうして俺たちは、無事エルフの村を出発した。

「シバター! サブローさんー! またなー!!」

 手を振ってくれるエルフの皆さん。

 「いきむサブローさん像」も俺たちの門出を祝福するかのようにピカピカ光っている。

 ここから一山超えれば人間の住む町にたどり着くのだという。

 俺とトゥリン、そしてサブローさんの二人と一匹は、山道を軽やかな足取りで歩いていった。




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◇柴田のわんわんメモ🐾

◼コマンド

犬に与える「お座り」や「お手」「待て」などの命令を「コマンド」と言う。短く覚えやすい事から、ドッグトレーナーなどは英語のコマンドで躾をすることが多い。
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