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6.いざ、魔王城

29.上陸!鬼ヶ島

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「――シバタ、シバタ!!」

 目が覚めると、俺はびしょ濡れで船室の中にいた。

「……トゥリン?」

「ご主人、無事だったですか!?」

 ガバリと抱きついてくるモモ。
 セーブルさんも目を潤ませている

「無事だったのね!?」

「ああ……」

 起き上がると、頭がガンガンと痛い。
 俺は確か、たくさんの柴犬に囲まれて、海に投げ出されて……。

 辺りを見回すと、あれだけいた柴犬たちが影も形も見えない。

 もしかして幻覚?

「そうだ、サブローさんは!?」

「クン?」

 慌てふためいていると、足元に普通にお座りしたサブローさんがいた。

「サブローさんっっ!!」

 きつくサブローさんの体を抱きしめる。モコモコとした暖かい体。落ち葉のような落ちつく匂い。

「シバタ……突然倒れてそれから目が覚めないから心配したぞ!」

 トゥリンの目も赤く染まっている。
 眠ってた……ってことは全部夢だったのだろうか?

「ごめん。夢の中で、あいつに会って」

「あいつ?」

「四天王だ。ゾーラとかいう怪しいヤツ」

 夢の中であったことをみんなに話す。

「なるほど。それは恐らく『賭け魔法』と呼ばれる魔法だな」

 トゥリンが険しい顔をする。

「賭け魔法?」

「ああ。古代魔法に分類される魔法だ。相手に何らかの試練を与え、相手がそれをクリア出来なければ相手が、クリア出来れば相手にダメージが行く仕組みだ」

 トゥリンが説明すると、セーブルさんは不思議そうな顔をする。

「どうしてそんな自分にもリスクのある魔法を……」

「確かにリスクはあるが、やり方次第では自分より実力のある相手でも一発で倒せるからな。自分の手も汚さずに済むし」

 確かに、あのゾーラとかいうのは自分の手を汚さなそうなタイプに見えたな。

「じゃあ、俺がもしサブローさんを見つけられなかったら……」

「サブローさんは帰ってこなかった可能性があるな。もしくはシバタが夢の中に永遠に閉じ込められていたかも」

 どうやら俺は思った以上にヤバい戦いをしていたようだ。

「でも、これで四天王を三人もやっつけたのね」

「あとは四天王の一人と魔王だけ!ご主人なら楽勝ですー!」

「あ、ああ」

 俺は苦笑いを浮かべる。

 確かに、あと二人。
 サブローさんの強さを持ってすれば楽勝かもしれないけど、でも……。

 俺の頭の中には、言いしれない不安が渦巻いていた。

「あ、ご主人、島に着きましたよ!」

 空はいつの間にか光を取り戻し、爽やかな風が吹いている。

「足元に気をつけて」

 グラリと揺らぐ足元に気をつけながら島に降り立つ。

「うわぁ」

「思ったよりも良さそうなところね!」

 はしゃぐ女性陣。
 確かに「鬼ヶ島」なんて物騒な名前だけど、綺麗なビーチが広がっていて、島は緑で溢れている。

「じゃあ、俺はこれで。魔王軍の奴らが使ってる港と違うけど見つかったらまずいから」

 そそくさと、俺たちをここまで運んでくれた漁師さんが立ち去る。

「ありがとうございます」

 俺たちは頭を下げて船が去るのを見送った。

「さあ、先に進もうか」

 地図を片手に獣道のように細い道を進む。

「えーと、今俺たちが居るのがここだから……」

 ――ガサリ。

「シバタ」

 トゥリンが袖を引っ張る。
 モモとサブローさんも耳をピクリと動かした。

「敵か?」

 思わず身を固くする。

 ザザザザザ……

 草の影から飛び出してきたのは、豚の顔をした醜い小鬼のようなやつだった。

「オーク!」

 セーブルさんが呟くと、杖をギュッと握りしめる。
 どうやらあの猪八戒みたいな化け物はオークという名前らしい。

 トゥリンも弓を構え、俺とモモも武器をかまえる。

 ちなみに俺とモモの武器は鬼ヶ島に乗り込む前、念の為にと港町で購入した鋭い棘のついた棍棒だ。

 トゥリンやセーブルは勇者なんだから剣を持つべきだって言ってたんだけど、剣術の心得なんてないし、小学生の頃は野球やってたから、素振りの要領で倒せる棍棒の方がいいと思ったんだ。

 今までと違ってここからは敵の陣地に行く訳だし、サブローさんに頼ってるだけじゃ危険だもんな。

「グオオオオオオ!!」

 リーダー格の一際大きなオークが飛び出すと、それを合図に堰を切ったようにオークたちの群れが飛びかかってくる。

「トゥリンとセーブルさんは俺たちの後ろへ!」

 俺は棍棒を構えた。

 サブローさんの目がキリリと光る。


「ワン!!!!」


 鋭い鳴き声。
 サブローさんを中心として、音圧の礫が巻き起こる。
 俺たちは慌てて耳を塞いだ。

「グオッ!」
「グワアアアア!!」

 オークたちが次々に地面や木の幹に叩きつけられる。

 だが敵の数は多く、前列が盾になって鳴き声による攻撃を免れたオークたちがまたしても襲ってくる。

 ブルルルルルルル!!

 今度は柴ドリルだ。サブローさんが身を震わせると、竜巻が巻き起こり、追ってきたオークたちが次々に吹き飛んで行く。

「今のうちに走るぞ!」

「ああ!」

 俺たちは全速力で島の真ん中へと走った。

「結局、武器を買った意味は無かったですねー。ほとんどサブローさんが倒したですし」

 モモが残念そうに口を尖らせる。

「いやでも、これから敵はもっと強くなるはずだし、必要になる機会はずだ! たぶん。きっと」

 俺が適当に慰めていると、サブローさんが立ち止まり、ピクリと耳を動かす。顔を上げ、空気の匂いをクンクンと嗅ぎ出した。

 トゥリンがサブローさんの視線を辿り、指さす。

「見ろ! 魔王城だ!」

「あれが……魔王城……!!」

 山の上にそびえ立つ黒い城を、俺たちは目を細めて見やった。

「サブローさん、お前、目がいいな」

 トゥリンがサブローさんの頭を撫でる。
 サブローさんは耳をペタリと寝かせデレデレした顔をした。
 敵の城の目の前だと言うのに、なんとも緊張感のない顔だ。

「いや、サブローさんは目はぼんやりとしか見えてない。音や匂い、それから気配で感じ取ったんだろう」

 俺はじっと城を見つめた。もしかしてあそこから誰かが俺たちのことを見ていたのだろうか。

「へぇ、サブローさんは耳がいいんだな」

「特にサブローさんみたいに耳のピンと立った犬は音に対して敏感なんだ。サブローさんも親父が家に帰ってくる数分前から車のエンジンの音で帰ってくることに気づいてたし」

 トゥリンは自分の耳を指差す。

「そうか。ならエルフと同じだな。エルフも耳が良いから」 

「そうなのか」

 確かに、耳が大きい方が集音効果は有りそうだ。ひょっとすると森の中で狩りをするのに有利だから、山奥で暮らしているうちに、エルフたちはそんな風に進化したのだろうか。

「あそこに魔王が居るですね」

 モモの耳もピクピクと動く。

「それにしても、不思議な形のお城ね」

 セーブルさんが首を傾げる。
 確かに、石垣の上にそびえ立つその城は、西洋の城と言うよりは日本の城に近い形に見える。これは偶然の一致だろうか?

「とにかくあそこを目指して進もう」


◇◆◇


 しばらく山道を歩くと、視界が開けた。

「城下町だな」

 遠くに木でできた整然とした街並みが見える。まるでテーマパークや時代劇で見た江戸の街並みのようだ。

 バタン!

 急にドアが開く音がする。
 見ると、森の中に隠れるように建っていた家から、額に角が生え、緑の顔をしたモンスターがこちらをじっと見ている。

「オーガだわ」

 セーブルさんが呟く。
 どうやらあの鬼のようなのモンスターはオーガと言うらしい。

「その獣……お前たちは、もしかしてコボルトの里で四天王を倒したとかいう勇者一行か?」

 俺たちを鋭い目付きで睨むオーガ。
 どうやら俺たちのウワサは鬼ヶ島まで伝わっているらしい。

「……そうだと言ったら?」

 すると、オーガはガバリと地面に膝をつき頭を下げた。

「お願いします! 新魔王軍を倒して下さい!!」
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