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異世界放浪篇
第17話 力を求めて
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「今更だけどシノアって得意な武器とかある?」
フィリアがふと思い出したようにシノアに問い掛ける。
二人は現在、水上都市アルゴネアと呼ばれる場所を目指し、巨大な川に沿って北上していた。
ジャバウォックに襲われた村を出て1週間ほどが経っていたある日、そういえば片手剣しか試させていなかった、とフィリアが思い立ち、シノアはどんな武器が得意なのか気になったのだ。
「え、そうですね…武器なんてこっちの世界に来るまでは竹刀ぐらいしか触ったことなくて…」
「シナイ?シナイってなに?」
「あ、えっと竹刀です。竹でできた刀のことで…」
「タケ?タケって何?」
「う、うーんと…」
世界が違えば存在する植物も武器も異なる。日本特有の竹刀を材質から説明するのは、義務教育の体育でしか剣道に触れていないシノアには些か厳しいだろう。
「ま、まぁとにかく、武器なんて触れる機会なかったので正直わからなくて…」
説明が困難だと感じたシノアはそう締めくくった。
「そうだよね。シノアの話じゃあそっちの世界はすごく平和だったみたいだし、武器なんて触れる機会無くても当然か…」
「す、すみません」
「なに謝ってるの?シノアの謝り癖は治らないなぁ~」
くすくすと笑いながらからかうようにフィリアが言う。
そして、表情を改め真剣なトーンでシノアに告げる。
「正直、シノアには一度いろんな武器を試してほしい。その剣を使いこなせてないわけじゃないけど、もしかしたらもっと得意な武器が見つかるかもしれないから」
「わかりました。でもいろんな武器ってどうやって試したら…」
「そこは安心して。今目指してる場所は水がきれいってことで有名なんだけど、土人族が多いから武器や鎧の生産業も発展しているの。きっといい武器が見つかるよ」
二人が向かっている水上都市アルゴネアは、元は水人族の都だった。国として成立した当初は鎖国しており、他種族を見下していたのだが飢饉に陥った際に土人族に救われたため、交易し始めたといわれている。
「だとうれしいな…あ、そういえばドワーフって小さくて髭もじゃもじゃの、あの種族のことですよね?」
暇さえあれば図書室や図書館に行っていたシノアは物語系の知識に関しては博雅の士といえた。神話に関する本も相当な数読破しており、架空の種族に関しても豊富な知識を有していた。その多くにドワーフは背が低く、髭を蓄えた老人のような体で描かれていた。そのためこの世界のドワーフもそうだろうと、勝手に思い込んでいた。
「え?…あ、前言ってた物語のドワーフね?」
「はい、この世界もそうなんじゃないんですか?」
早合点するシノアに対し、不敵な笑みを浮かべるフィリア。
「ふっふっふっ、その感覚のままこの世界のドワーフを見たらきっと腰抜かすよ?」
「こ、腰抜かすって、え?怖い種族なんですか?」
「まぁまぁ、ついてからのお楽しみ~」
「え、ちょっと待―フィリアさん!おいていかないでくださいよ!全力で走ったりしたら僕が追いつけるわけないでしょう!!」
ふたりはそのまま水上都市アルゴネアまでの道のりを駆け抜けていったのであった。秒速5メートルを維持したまま…
◇◇◇
「よし、ついた!」
「ゼェ…ゼェ…ハァ…ハァ…ヒィ…ぁうぅ…うえぇ…」
「シノア、ばて過ぎ」
水上都市アルゴネアへと続く川沿いの道をフィリアは軽く、シノアは全力疾走で登ったため、30分もしないうちに入り口門に到着した。おかげでシノアは息をするのもままならない状態だ。
「こ、ここが…す、水上都市…アルゴネア…ですか…」
「ううん、ここはサンタルチアの入り口だよ」
「さ…サンタ…ルチア…?」
サンタルチアとは水上都市アルゴネアを首都とする国家だ。様々な種族と貿易を行っており、その経済力は絶大である。余談だがシノアが召喚された神聖国家イ・サントもかなりの規模の国なのだが、サンタルチアには劣る。
総面積は水上面積を含めると5000キロメートルと日本がすっぽりと入ってしまうほど大きい。総人口は1億5000万人とこれまた日本よりも少しばかり多い。
サンタルチアは別名水の都とも呼ばれ、巨大な円形の海洋に浮かぶ無数の島々から成る。その中で人口のほとんどが暮らしているのが水上都市アルゴネアなのである。
「うん、この前見せてあげた世界地図覚えてる?あの中に水に囲まれてて不思議な形をした国があったでしょ?それがサンタルチアだよ」
「あー!あれですか!たしかたくさんの種族と交流していて経済的にすごく発展してるっていう」
「そうそう、よくできました」
談笑しながらふたりは入国管理ゲートの列に並ぶ。ゲートは3つあり、それぞれに審査官と武装した兵士が2名ずついるようだ。
「すごくしっかりしてますね。そういえばさっきからパスポートみたいなのを見せてる人がいますね…なんなんですか、あれ?」
「そのぱすぽーとってのが何かはわからないけどあれは冒険者手帳だよ。ギルドで登録したらもらえて、名前とハンターランクが表示されるから身分証代わりになるの。軍属の人はどこの軍だ、とか場合によっては年齢とか出身地とかも書かれてる場合があるよ」
「へ~…冒険者手帳か…なんかカッコいいな…」
「シノアも作ってみる?」
「子供でも作れるんですか?」
「この世界は15歳で成人だってば」
「あ、そうでしたね。あはは」
のんびりと会話をしているふたりだったが気は重い。なぜなら入国管理ゲートは絶句するほど長蛇の列ができており、一体何時間待てば自分たちの番が来るのだ、といった具合だったからだ。
「そういえばサンタルチアにもともといた種族は水人族なんですよね?」
暇つぶしを兼ねてシノアが尋ねる。
「うん、そうだよ。それがどうしたの?」
「いえ、たしか元素属性の水を司る神の名前もウンディーネだったと思うので何か関連性はあるのかなって…」
「あぁ、それはね、サンタルチアのおとぎ話に答えがあるよ」
「おとぎ話?」
「うん。昔はね、サンタルチアに住む種族は他種族を見下して国交を開いていなかったの。そんなとき、原因不明の大飢饉が起こって種族が滅びかけ、それを救ってくれたのが土人族だったんだよね。それに感謝してサンタルチアに住む種族たちはほかの種族たちを尊重する大切さを学んだんだ。その姿に感銘を受けた水の神ウンディーネが正式な種族名として“ウンディーネ”を与えて、永遠の繁栄を祝福したとされているの」
「へーそんな話があるんですね…」
相変わらず博識だ、と感心していたシノアの横から怒鳴り声が轟く。
「コラー!水神様を呼び捨てとはなにを考えとるんじゃぁー!!」
思わず声がした方向を見ると顔を真っ赤にして怒るご老体の姿があった。
「す、すみません、つい…」
剣幕に圧され思わずフィリアが謝罪する。
「ふん!これだから最近の若いもんは…」
老人はぶつぶつと言いながらも馬を引いて入国管理ゲートの方へ向かっていった。
「び、びっくりしましたね。あんな人いるんだ…」
「たまにいるよねーほんとびっくりしたよ」
顔を見合わせお互い苦笑するフィリアとシノア。
かなりの大声だったため周りの注目も集まっているが中には「また、あのじいさんか…」「どうせまたいちゃもんつけてるんだろ」「勘弁してほしいよまったく」「おい、あの人めちゃくちゃ美人じゃないか?」「いや、俺は隣の少女のほうが…」と先ほどの老人を知っている風の人物もいた。
中には若干おかしな声もあったがきっと気のせいであろう。劣情を孕んだ目が少なからずシノアに向けられていたりなどしないのだ。しないったらしないのだ。
そんな視線を知ってか知らでか、フィリアが疑問を投げかける。
「シノアってさ、髪伸びたよね」
「え?うーん、そういえばそうですね…」
召喚時はシノアの髪型は短めのナチュラルマッシュだった。よく引っ張られていたため、寝癖のようになっており、お世辞にも似合っているとは言えなかったが…
そんなシノアだが、フィリアと出会ってからは毎日髪を手入れしている、というかされている。櫛を入れられ続けたことにより、今では肩まで届こうかというシノアの銀髪は陽の光を反射し、わずかに黄金色に輝いていて、幼い顔つきのシノアを美少女めいて見せる。シノアの身長が低いことも関係していたのだろうが…
シノアが自身の髪を後ろ側でまとめ結んだことにより露出したうなじが男性陣からの視線をより熱くする。もちろんシノアは気づいていない。好意的な目を向けられることなど皆無だったシノアは自分に魅力があるなどと考えはしないのだ。
「髪長くてうざったい?落ち着いたら斬る?」
「これはこれで気に入ってるので大丈夫ですよ。というかフィリアさん、切るの字が違う気がしたんですけど気のせいですよね…」
「まぁ似合ってるからいっか」
「え?!切るの字は無視?!」
以前、ある村で羊の毛刈りを手伝った際に、持っていた刀で毛刈りをやっていたフィリアを思い出し青ざめるシノア。首元に刃物など想像すら恐ろしいだろう。
「そ、そういえば、ここって入国管理ゲートなんですよね。ほかの種族が見当たらないような…」
話を逸らすために気になっていたことを聞いてみるシノア。冷や汗がすごい。
「あ、ここは人間族専門の入り口だからね。サンタルチアは東西南北で入国できる種族が異なるの。人間族は南口、土人族は東口、土人族以外の亜人族は西口、魔人族は北口って感じだよ。異種族間でのトラブルを避けるためなんだけど、賢いやり方だと思うよ。亜人族と魔人族はあんまり仲良くないからね」
「へーそうなんですか…」
フィリアのわかりやすい説明に諒解するシノア。そうこうしているうちに列の先頭まで来ていた。
「サンタルチアへようこそ。入国の目的は?」
「観光と貴国の水産業について学びたいと考えています」
「そうか。冒険者手帳などの身分を証明できるものはあるか?」
「はい、これです」
「うむ」
てきぱきとフィリアが受け応えをし、手続きは進んでいく。シノアはフィリアも冒険者手帳を持っていたことに驚いた。
そんなとき、フィリアの冒険者手帳を見た兵士が声を上げる。
「こ、これは!」
そして、冒険者手帳とフィリアの顔を何度も往復し、信じられないといった表情になる。
「あの、なにか?」
審査官の挙動不審さに訝し気な表情をとるフィリア。
「い、いえ、なんでもありません。引き留めてしまい申し訳ありませんでした。どうか、サンタルチアをお楽しみください」
手を頭に近づける型の敬礼を取ると審査官はシノアのことなど見えていないかのように、身元確認もせず通してしまった。
「な、なんだったんでしょうか、あの人。何か変でしたね」
「まぁ、気にすることないさ」
「はい…ていうか、フィリアさん冒険者手帳持ってたんですね」
「昔作ったやつだよ。身分証代わりに便利だからってね」
くすくすと笑いながら告げるフィリアだったが、それを見るシノアの心は少しばかり暗い。
(冒険者手帳…僕も欲しい…)
そんなシノアの心情を察したのか救い船を出すフィリア。
「じゃあ、合う武器見つけたらシノアも作ってみる?」
「ぜ、ぜひ!」
思わず食い気味になり、周りの注目を集め赤面するシノア。
「さ、それじゃ行こうか。後ろ詰まっちゃうよ」
「はい!」
さっさと歩いていくフィリアにトコトコとついていくシノアはまるで親鳥に寄り添うアヒルのようだった。
フィリアがふと思い出したようにシノアに問い掛ける。
二人は現在、水上都市アルゴネアと呼ばれる場所を目指し、巨大な川に沿って北上していた。
ジャバウォックに襲われた村を出て1週間ほどが経っていたある日、そういえば片手剣しか試させていなかった、とフィリアが思い立ち、シノアはどんな武器が得意なのか気になったのだ。
「え、そうですね…武器なんてこっちの世界に来るまでは竹刀ぐらいしか触ったことなくて…」
「シナイ?シナイってなに?」
「あ、えっと竹刀です。竹でできた刀のことで…」
「タケ?タケって何?」
「う、うーんと…」
世界が違えば存在する植物も武器も異なる。日本特有の竹刀を材質から説明するのは、義務教育の体育でしか剣道に触れていないシノアには些か厳しいだろう。
「ま、まぁとにかく、武器なんて触れる機会なかったので正直わからなくて…」
説明が困難だと感じたシノアはそう締めくくった。
「そうだよね。シノアの話じゃあそっちの世界はすごく平和だったみたいだし、武器なんて触れる機会無くても当然か…」
「す、すみません」
「なに謝ってるの?シノアの謝り癖は治らないなぁ~」
くすくすと笑いながらからかうようにフィリアが言う。
そして、表情を改め真剣なトーンでシノアに告げる。
「正直、シノアには一度いろんな武器を試してほしい。その剣を使いこなせてないわけじゃないけど、もしかしたらもっと得意な武器が見つかるかもしれないから」
「わかりました。でもいろんな武器ってどうやって試したら…」
「そこは安心して。今目指してる場所は水がきれいってことで有名なんだけど、土人族が多いから武器や鎧の生産業も発展しているの。きっといい武器が見つかるよ」
二人が向かっている水上都市アルゴネアは、元は水人族の都だった。国として成立した当初は鎖国しており、他種族を見下していたのだが飢饉に陥った際に土人族に救われたため、交易し始めたといわれている。
「だとうれしいな…あ、そういえばドワーフって小さくて髭もじゃもじゃの、あの種族のことですよね?」
暇さえあれば図書室や図書館に行っていたシノアは物語系の知識に関しては博雅の士といえた。神話に関する本も相当な数読破しており、架空の種族に関しても豊富な知識を有していた。その多くにドワーフは背が低く、髭を蓄えた老人のような体で描かれていた。そのためこの世界のドワーフもそうだろうと、勝手に思い込んでいた。
「え?…あ、前言ってた物語のドワーフね?」
「はい、この世界もそうなんじゃないんですか?」
早合点するシノアに対し、不敵な笑みを浮かべるフィリア。
「ふっふっふっ、その感覚のままこの世界のドワーフを見たらきっと腰抜かすよ?」
「こ、腰抜かすって、え?怖い種族なんですか?」
「まぁまぁ、ついてからのお楽しみ~」
「え、ちょっと待―フィリアさん!おいていかないでくださいよ!全力で走ったりしたら僕が追いつけるわけないでしょう!!」
ふたりはそのまま水上都市アルゴネアまでの道のりを駆け抜けていったのであった。秒速5メートルを維持したまま…
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「よし、ついた!」
「ゼェ…ゼェ…ハァ…ハァ…ヒィ…ぁうぅ…うえぇ…」
「シノア、ばて過ぎ」
水上都市アルゴネアへと続く川沿いの道をフィリアは軽く、シノアは全力疾走で登ったため、30分もしないうちに入り口門に到着した。おかげでシノアは息をするのもままならない状態だ。
「こ、ここが…す、水上都市…アルゴネア…ですか…」
「ううん、ここはサンタルチアの入り口だよ」
「さ…サンタ…ルチア…?」
サンタルチアとは水上都市アルゴネアを首都とする国家だ。様々な種族と貿易を行っており、その経済力は絶大である。余談だがシノアが召喚された神聖国家イ・サントもかなりの規模の国なのだが、サンタルチアには劣る。
総面積は水上面積を含めると5000キロメートルと日本がすっぽりと入ってしまうほど大きい。総人口は1億5000万人とこれまた日本よりも少しばかり多い。
サンタルチアは別名水の都とも呼ばれ、巨大な円形の海洋に浮かぶ無数の島々から成る。その中で人口のほとんどが暮らしているのが水上都市アルゴネアなのである。
「うん、この前見せてあげた世界地図覚えてる?あの中に水に囲まれてて不思議な形をした国があったでしょ?それがサンタルチアだよ」
「あー!あれですか!たしかたくさんの種族と交流していて経済的にすごく発展してるっていう」
「そうそう、よくできました」
談笑しながらふたりは入国管理ゲートの列に並ぶ。ゲートは3つあり、それぞれに審査官と武装した兵士が2名ずついるようだ。
「すごくしっかりしてますね。そういえばさっきからパスポートみたいなのを見せてる人がいますね…なんなんですか、あれ?」
「そのぱすぽーとってのが何かはわからないけどあれは冒険者手帳だよ。ギルドで登録したらもらえて、名前とハンターランクが表示されるから身分証代わりになるの。軍属の人はどこの軍だ、とか場合によっては年齢とか出身地とかも書かれてる場合があるよ」
「へ~…冒険者手帳か…なんかカッコいいな…」
「シノアも作ってみる?」
「子供でも作れるんですか?」
「この世界は15歳で成人だってば」
「あ、そうでしたね。あはは」
のんびりと会話をしているふたりだったが気は重い。なぜなら入国管理ゲートは絶句するほど長蛇の列ができており、一体何時間待てば自分たちの番が来るのだ、といった具合だったからだ。
「そういえばサンタルチアにもともといた種族は水人族なんですよね?」
暇つぶしを兼ねてシノアが尋ねる。
「うん、そうだよ。それがどうしたの?」
「いえ、たしか元素属性の水を司る神の名前もウンディーネだったと思うので何か関連性はあるのかなって…」
「あぁ、それはね、サンタルチアのおとぎ話に答えがあるよ」
「おとぎ話?」
「うん。昔はね、サンタルチアに住む種族は他種族を見下して国交を開いていなかったの。そんなとき、原因不明の大飢饉が起こって種族が滅びかけ、それを救ってくれたのが土人族だったんだよね。それに感謝してサンタルチアに住む種族たちはほかの種族たちを尊重する大切さを学んだんだ。その姿に感銘を受けた水の神ウンディーネが正式な種族名として“ウンディーネ”を与えて、永遠の繁栄を祝福したとされているの」
「へーそんな話があるんですね…」
相変わらず博識だ、と感心していたシノアの横から怒鳴り声が轟く。
「コラー!水神様を呼び捨てとはなにを考えとるんじゃぁー!!」
思わず声がした方向を見ると顔を真っ赤にして怒るご老体の姿があった。
「す、すみません、つい…」
剣幕に圧され思わずフィリアが謝罪する。
「ふん!これだから最近の若いもんは…」
老人はぶつぶつと言いながらも馬を引いて入国管理ゲートの方へ向かっていった。
「び、びっくりしましたね。あんな人いるんだ…」
「たまにいるよねーほんとびっくりしたよ」
顔を見合わせお互い苦笑するフィリアとシノア。
かなりの大声だったため周りの注目も集まっているが中には「また、あのじいさんか…」「どうせまたいちゃもんつけてるんだろ」「勘弁してほしいよまったく」「おい、あの人めちゃくちゃ美人じゃないか?」「いや、俺は隣の少女のほうが…」と先ほどの老人を知っている風の人物もいた。
中には若干おかしな声もあったがきっと気のせいであろう。劣情を孕んだ目が少なからずシノアに向けられていたりなどしないのだ。しないったらしないのだ。
そんな視線を知ってか知らでか、フィリアが疑問を投げかける。
「シノアってさ、髪伸びたよね」
「え?うーん、そういえばそうですね…」
召喚時はシノアの髪型は短めのナチュラルマッシュだった。よく引っ張られていたため、寝癖のようになっており、お世辞にも似合っているとは言えなかったが…
そんなシノアだが、フィリアと出会ってからは毎日髪を手入れしている、というかされている。櫛を入れられ続けたことにより、今では肩まで届こうかというシノアの銀髪は陽の光を反射し、わずかに黄金色に輝いていて、幼い顔つきのシノアを美少女めいて見せる。シノアの身長が低いことも関係していたのだろうが…
シノアが自身の髪を後ろ側でまとめ結んだことにより露出したうなじが男性陣からの視線をより熱くする。もちろんシノアは気づいていない。好意的な目を向けられることなど皆無だったシノアは自分に魅力があるなどと考えはしないのだ。
「髪長くてうざったい?落ち着いたら斬る?」
「これはこれで気に入ってるので大丈夫ですよ。というかフィリアさん、切るの字が違う気がしたんですけど気のせいですよね…」
「まぁ似合ってるからいっか」
「え?!切るの字は無視?!」
以前、ある村で羊の毛刈りを手伝った際に、持っていた刀で毛刈りをやっていたフィリアを思い出し青ざめるシノア。首元に刃物など想像すら恐ろしいだろう。
「そ、そういえば、ここって入国管理ゲートなんですよね。ほかの種族が見当たらないような…」
話を逸らすために気になっていたことを聞いてみるシノア。冷や汗がすごい。
「あ、ここは人間族専門の入り口だからね。サンタルチアは東西南北で入国できる種族が異なるの。人間族は南口、土人族は東口、土人族以外の亜人族は西口、魔人族は北口って感じだよ。異種族間でのトラブルを避けるためなんだけど、賢いやり方だと思うよ。亜人族と魔人族はあんまり仲良くないからね」
「へーそうなんですか…」
フィリアのわかりやすい説明に諒解するシノア。そうこうしているうちに列の先頭まで来ていた。
「サンタルチアへようこそ。入国の目的は?」
「観光と貴国の水産業について学びたいと考えています」
「そうか。冒険者手帳などの身分を証明できるものはあるか?」
「はい、これです」
「うむ」
てきぱきとフィリアが受け応えをし、手続きは進んでいく。シノアはフィリアも冒険者手帳を持っていたことに驚いた。
そんなとき、フィリアの冒険者手帳を見た兵士が声を上げる。
「こ、これは!」
そして、冒険者手帳とフィリアの顔を何度も往復し、信じられないといった表情になる。
「あの、なにか?」
審査官の挙動不審さに訝し気な表情をとるフィリア。
「い、いえ、なんでもありません。引き留めてしまい申し訳ありませんでした。どうか、サンタルチアをお楽しみください」
手を頭に近づける型の敬礼を取ると審査官はシノアのことなど見えていないかのように、身元確認もせず通してしまった。
「な、なんだったんでしょうか、あの人。何か変でしたね」
「まぁ、気にすることないさ」
「はい…ていうか、フィリアさん冒険者手帳持ってたんですね」
「昔作ったやつだよ。身分証代わりに便利だからってね」
くすくすと笑いながら告げるフィリアだったが、それを見るシノアの心は少しばかり暗い。
(冒険者手帳…僕も欲しい…)
そんなシノアの心情を察したのか救い船を出すフィリア。
「じゃあ、合う武器見つけたらシノアも作ってみる?」
「ぜ、ぜひ!」
思わず食い気味になり、周りの注目を集め赤面するシノア。
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