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異世界放浪篇
第18話 恐ろしい?病
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高さ10メートル、長さは50メートルありそうな巨大なトンネルを歩いて進むふたり。
しばらく歩くとトンネル出口が見えてきたのだが、そこは水が上から流れており塞がれていた。
「あ、あのフィリアさん、水が流れてて通れないんじゃ…」
「なんだい、あんたらサンタルチアは初めてかい?あれはね、“浄化の滝”っつーんだよ。外界で汚れた身体を洗い流してくれるんだよ。そんな顔なさんな!実際にぬれたりしねーからよ」
親切にシノアに教えてくれたのは冒険者風の男だった。その男は自分が手本を、といいたげな表情で出口まで歩いていき、勢いよく滝を通りぬけた。すると、滝から男の手が出てきて“はやく来いよ、へいへい”といった感じで手招きする。
「な、なるほど…にしても不思議な滝ですね…」
「たぶん、幻術系の魔法なのかな。すごいね」
思わず感心する二人だったが次の瞬間にはあまりの光景に言葉を失うこととなった。
滝を抜けた先は開けた円形の広場となっており首都行の船を待っている客でごった返している。船と言っても水に浮かぶのではなく空に浮かぶ船、この世界では飛空艇と呼ばれているものだ。一度に300人を運搬可能で東西南北の入り口に3隻ずつ配備されている。
ちなみに広場は切り立った崖の上にあり、足を踏み外せば1000メートル下に落下することになる。崖の下は水となっているが落下した際にかかるGを考えれば、着水した瞬間木端微塵になるだろう。
「す、すごい…なんてきれいなんだ…」
「ほんとだね…私たちが辿ってきた川も滝の一部になって下にながれていってるみたい」
あまりの美しさに思わず見惚れるふたり。
「おい、あんたら後ろ詰まってんだから早く行ってくれよ」
「あ、すみません」
「ごめんなさい…」
後ろにいた商人風の男に注意され歩を進める。
「すごい…崖の下は全部水なんですね…」
「うん、書物にはサンタルチアは広大な海に囲まれた美しい都って書いてあったけど…まさか周りを陸に囲まれていて湖状だとは思わなかったよ」
「ここからじゃアルゴネアは見えませんね…そんなに遠いんでしょうか?」
「たしか、入り口から500キロメートルぐらいだったから見えはすると思うけど…」
そういうとフィリアは遠見の魔法を発動し船が向かう先を見つめる。しかし、魔法を強力に発動させても一向に見える気配はなく、疑問に思う。
「遠見じゃ見えないね…魔法かなにかがかけられてるんじゃないかな」
「えっと…あ!ありました、“サンタルチアは外敵の侵入を防ぐために入国前に湖全体を囲む壁を築いている。さらに首都アルゴネアには非常に強力な結界が張られており、遠距離から視認することは困難である”、だそうです!」
自身の鞄に収めていた世界地理解説書から抜粋した文を音読するシノア。その朗読に“なるほど”と納得するフィリア。
そんなことをしているうちに次の船が到着したようだ。
「あ、船来たよ。私、飛空艇乗るの初めてなんだよね。ちょっと楽しみ」
「ぼくもです!動力源って何なんでしょうか…」
まるで遠足前の小学生のようにはしゃぎながら乗船するふたり。ちょっと、といいながらもかなりわくわくしているフィリアに、さっそく飛空艇について学ぶ気満々のシノア。
二人はまだ知らない。アルゴネア行きのその船は時速250キロというとんでもない速度で飛ぶことを。見た目は大航海時代の代物だったため、ふたりは完全に油断していたのだ。亜音速の約二倍の速度に翻弄され、ふたりは首都アルゴネアに着くころには動くこともままならない状態になっていた…
「うっぷ…ふぃ、フィリアさん…ぶじで…うえぇぇ…」
「だ、だいじょうっぶ…し、シノアこそ…ぶ、ぶじ?」
水上都市アルゴネア、港にて酔っぱらいのごとく水辺をのぞき込む人影が二つ。
シノアとフィリアである。
「ま、まさか…飛空艇があんな速度で飛ぶなんて…」
「予想外過ぎ…時速何キロなのあれ…うっぷ…」
二人は最初、飛空艇はせいぜい時速30キロ程度だと考えていた。その予想は見事に裏切られ8倍以上の速度に翻弄されることとなった。時速250キロという速度で稼働したそれは恐ろしい揺れにより二人に加速度病をもたらした。その結果、頭ぐらぐら、胃の中ぐるぐる状態となっているというわけだ。
「と、とりあえず、休憩しましょう…や、宿屋…宿屋はいずこ…」
「ふ、船から降りるときにもらった地図にはあ、あそこに…うっ…」
ふたりは酔いを治すため、ひとまず近場の宿屋に立ち寄ることにした。
港から歩いて5分ほどすると二階建ての建物が見えてきた。看板にはベッドが描かれており、遠目でも宿屋だと判断することができる。木で作られた外装は非常に温かみがあり、長旅で疲れた人々を癒してくれそうだ。
「シノア、ついたよ。まだきつい?」
「うぅ…まだ、すこし…ていうかフィリアさん回復早すぎ…」
未だ酔いに苦しむシノアと対照的にフィリアはすっかり回復しきっていた。歩き始めて1分ほどで完全に感覚を取り戻し、シノアを介抱している。
宿屋の扉を開けると“チャリンチャリン”と心地よい音が響く。それと同時に宿屋の主人からも声がかかる。
「らっしゃーい!本日はご宿は――って大丈夫かいその嬢ちゃん?」
「すみません、来るときの船で酔ってしまって。休憩しても構いませんか?もちろん今日はここに泊まる予定です」
「もちろんかまわねーさ!あんたら初めて来たんだな?今、動揺病に効く薬持ってきてやっから」
そういうと店主は店の奥へ消える。
フィリアは近くの椅子にシノアを腰掛けさせ、背中をさする。
「うう…まだ吐きそう…」
「シノア、大丈夫?もうすぐ薬飲めるから頑張って…」
しばらくすると店主が店の奥から薬箱を持って現れる。
「よう、大丈夫かい?ええっと動揺病に効くやつはっと…あった!これだ」
そういうと店主は粉薬を取り出し、フィリアに手渡す。
「お姉さん、妹ちゃんにのましてやんな。あの船の酔いはちょいと特殊だからな…」
「ありがとうございます。あの薬代は…」
「いやいやサービスってやつよ。うちにはよく初めて飛空艇に乗って動揺病をくらっちまう人が多くてな。無料配布してんのよ」
そういうと店主は手をひらひらさせながら薬箱を持って奥へと消えていった。
「優しい人がいてよかったね」
「そ、そうで…うっぷ…」
「あはは…ひどいね…」
相変わらず治る気配もないシノアに粉薬を飲ませ、鞄から取り出した水を含ませるフィリア。あとは薬が効くのを待つだけだ。
「な、なんだか少し楽になったような…」
「そりゃそうよ!なんせこの辺で一番の錬金術師に作ってもらったんだからな」
少し顔色が良くなったシノアのつぶやきに店の奥から戻ってきた店主が答える。
店主の“錬金術師”という言葉にシノアは目を見開く。
「錬金術師?!いるんですか?!この街に?!」
シノアの勢い立った様に思わず言いよどむ店主。
「お、おう、ここを出て右に行ってすぐのとこだが…錬金術師が珍しいのか?」
酔いを感じさせない様子でうなずくシノア。シノアはいまだに錬金術師は錬成陣を描き物を作ったりするものだと思っていた。召喚前、友人の家で見た某錬金術師の漫画に夢中になり、強い憧れを抱いていたため自分の目で見たいとこの世界に来てからずっと思っていたのだ。
「シノア…前にも言ったけど、たぶんシノアが想像してるのとは違うと思うけど…」
シノアは一度、フィリアに錬金術について聞いたことがある。その時、正しい錬金術について教えようとしたのだが、シノアの目があまりにも期待に満ち夢に溢れていたため言葉を濁し、やり過ごしてしまったのだ。そのためシノアはこの世界の正しい錬金術というものを知らない。
「さぁ、フィリアさん!錬金術を見に行きましょう!」
「え?ちょ、シノア治ったの?うそでしょ?」
「何をのんびりしてるんですか!さぁ!!」
そういうとシノアはフィリアの手を取り、すごい勢いで店を飛び出していった。
残されたのは店主一人。そして口を開く。
「元気な嬢ちゃんだったなぁ…顔も可愛いなぁ…嫁に欲しいぜ…」
…この世界には紳士が多いようだ。
しばらく歩くとトンネル出口が見えてきたのだが、そこは水が上から流れており塞がれていた。
「あ、あのフィリアさん、水が流れてて通れないんじゃ…」
「なんだい、あんたらサンタルチアは初めてかい?あれはね、“浄化の滝”っつーんだよ。外界で汚れた身体を洗い流してくれるんだよ。そんな顔なさんな!実際にぬれたりしねーからよ」
親切にシノアに教えてくれたのは冒険者風の男だった。その男は自分が手本を、といいたげな表情で出口まで歩いていき、勢いよく滝を通りぬけた。すると、滝から男の手が出てきて“はやく来いよ、へいへい”といった感じで手招きする。
「な、なるほど…にしても不思議な滝ですね…」
「たぶん、幻術系の魔法なのかな。すごいね」
思わず感心する二人だったが次の瞬間にはあまりの光景に言葉を失うこととなった。
滝を抜けた先は開けた円形の広場となっており首都行の船を待っている客でごった返している。船と言っても水に浮かぶのではなく空に浮かぶ船、この世界では飛空艇と呼ばれているものだ。一度に300人を運搬可能で東西南北の入り口に3隻ずつ配備されている。
ちなみに広場は切り立った崖の上にあり、足を踏み外せば1000メートル下に落下することになる。崖の下は水となっているが落下した際にかかるGを考えれば、着水した瞬間木端微塵になるだろう。
「す、すごい…なんてきれいなんだ…」
「ほんとだね…私たちが辿ってきた川も滝の一部になって下にながれていってるみたい」
あまりの美しさに思わず見惚れるふたり。
「おい、あんたら後ろ詰まってんだから早く行ってくれよ」
「あ、すみません」
「ごめんなさい…」
後ろにいた商人風の男に注意され歩を進める。
「すごい…崖の下は全部水なんですね…」
「うん、書物にはサンタルチアは広大な海に囲まれた美しい都って書いてあったけど…まさか周りを陸に囲まれていて湖状だとは思わなかったよ」
「ここからじゃアルゴネアは見えませんね…そんなに遠いんでしょうか?」
「たしか、入り口から500キロメートルぐらいだったから見えはすると思うけど…」
そういうとフィリアは遠見の魔法を発動し船が向かう先を見つめる。しかし、魔法を強力に発動させても一向に見える気配はなく、疑問に思う。
「遠見じゃ見えないね…魔法かなにかがかけられてるんじゃないかな」
「えっと…あ!ありました、“サンタルチアは外敵の侵入を防ぐために入国前に湖全体を囲む壁を築いている。さらに首都アルゴネアには非常に強力な結界が張られており、遠距離から視認することは困難である”、だそうです!」
自身の鞄に収めていた世界地理解説書から抜粋した文を音読するシノア。その朗読に“なるほど”と納得するフィリア。
そんなことをしているうちに次の船が到着したようだ。
「あ、船来たよ。私、飛空艇乗るの初めてなんだよね。ちょっと楽しみ」
「ぼくもです!動力源って何なんでしょうか…」
まるで遠足前の小学生のようにはしゃぎながら乗船するふたり。ちょっと、といいながらもかなりわくわくしているフィリアに、さっそく飛空艇について学ぶ気満々のシノア。
二人はまだ知らない。アルゴネア行きのその船は時速250キロというとんでもない速度で飛ぶことを。見た目は大航海時代の代物だったため、ふたりは完全に油断していたのだ。亜音速の約二倍の速度に翻弄され、ふたりは首都アルゴネアに着くころには動くこともままならない状態になっていた…
「うっぷ…ふぃ、フィリアさん…ぶじで…うえぇぇ…」
「だ、だいじょうっぶ…し、シノアこそ…ぶ、ぶじ?」
水上都市アルゴネア、港にて酔っぱらいのごとく水辺をのぞき込む人影が二つ。
シノアとフィリアである。
「ま、まさか…飛空艇があんな速度で飛ぶなんて…」
「予想外過ぎ…時速何キロなのあれ…うっぷ…」
二人は最初、飛空艇はせいぜい時速30キロ程度だと考えていた。その予想は見事に裏切られ8倍以上の速度に翻弄されることとなった。時速250キロという速度で稼働したそれは恐ろしい揺れにより二人に加速度病をもたらした。その結果、頭ぐらぐら、胃の中ぐるぐる状態となっているというわけだ。
「と、とりあえず、休憩しましょう…や、宿屋…宿屋はいずこ…」
「ふ、船から降りるときにもらった地図にはあ、あそこに…うっ…」
ふたりは酔いを治すため、ひとまず近場の宿屋に立ち寄ることにした。
港から歩いて5分ほどすると二階建ての建物が見えてきた。看板にはベッドが描かれており、遠目でも宿屋だと判断することができる。木で作られた外装は非常に温かみがあり、長旅で疲れた人々を癒してくれそうだ。
「シノア、ついたよ。まだきつい?」
「うぅ…まだ、すこし…ていうかフィリアさん回復早すぎ…」
未だ酔いに苦しむシノアと対照的にフィリアはすっかり回復しきっていた。歩き始めて1分ほどで完全に感覚を取り戻し、シノアを介抱している。
宿屋の扉を開けると“チャリンチャリン”と心地よい音が響く。それと同時に宿屋の主人からも声がかかる。
「らっしゃーい!本日はご宿は――って大丈夫かいその嬢ちゃん?」
「すみません、来るときの船で酔ってしまって。休憩しても構いませんか?もちろん今日はここに泊まる予定です」
「もちろんかまわねーさ!あんたら初めて来たんだな?今、動揺病に効く薬持ってきてやっから」
そういうと店主は店の奥へ消える。
フィリアは近くの椅子にシノアを腰掛けさせ、背中をさする。
「うう…まだ吐きそう…」
「シノア、大丈夫?もうすぐ薬飲めるから頑張って…」
しばらくすると店主が店の奥から薬箱を持って現れる。
「よう、大丈夫かい?ええっと動揺病に効くやつはっと…あった!これだ」
そういうと店主は粉薬を取り出し、フィリアに手渡す。
「お姉さん、妹ちゃんにのましてやんな。あの船の酔いはちょいと特殊だからな…」
「ありがとうございます。あの薬代は…」
「いやいやサービスってやつよ。うちにはよく初めて飛空艇に乗って動揺病をくらっちまう人が多くてな。無料配布してんのよ」
そういうと店主は手をひらひらさせながら薬箱を持って奥へと消えていった。
「優しい人がいてよかったね」
「そ、そうで…うっぷ…」
「あはは…ひどいね…」
相変わらず治る気配もないシノアに粉薬を飲ませ、鞄から取り出した水を含ませるフィリア。あとは薬が効くのを待つだけだ。
「な、なんだか少し楽になったような…」
「そりゃそうよ!なんせこの辺で一番の錬金術師に作ってもらったんだからな」
少し顔色が良くなったシノアのつぶやきに店の奥から戻ってきた店主が答える。
店主の“錬金術師”という言葉にシノアは目を見開く。
「錬金術師?!いるんですか?!この街に?!」
シノアの勢い立った様に思わず言いよどむ店主。
「お、おう、ここを出て右に行ってすぐのとこだが…錬金術師が珍しいのか?」
酔いを感じさせない様子でうなずくシノア。シノアはいまだに錬金術師は錬成陣を描き物を作ったりするものだと思っていた。召喚前、友人の家で見た某錬金術師の漫画に夢中になり、強い憧れを抱いていたため自分の目で見たいとこの世界に来てからずっと思っていたのだ。
「シノア…前にも言ったけど、たぶんシノアが想像してるのとは違うと思うけど…」
シノアは一度、フィリアに錬金術について聞いたことがある。その時、正しい錬金術について教えようとしたのだが、シノアの目があまりにも期待に満ち夢に溢れていたため言葉を濁し、やり過ごしてしまったのだ。そのためシノアはこの世界の正しい錬金術というものを知らない。
「さぁ、フィリアさん!錬金術を見に行きましょう!」
「え?ちょ、シノア治ったの?うそでしょ?」
「何をのんびりしてるんですか!さぁ!!」
そういうとシノアはフィリアの手を取り、すごい勢いで店を飛び出していった。
残されたのは店主一人。そして口を開く。
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