無能な神の寵児

鈴丸ネコ助

文字の大きさ
51 / 88
聖母喪失篇

第45話 最高神の降臨

しおりを挟む
(何だ…?ガキの雰囲気が…)

シノアが意識を失い、倒れて数秒後、天から眩い光が差し込みシノアへと直撃した。

迅雷が鳴り響いていた空は、嘘のように晴れ渡り、太陽が燦燦さんさんと輝いていた。

状況が理解できずにいた団長だったが、シノアの体が地上から離れ、1メートルほど浮いたところで停止したのを見て余計に混乱する。

(どういうことだ?これは何かの魔法なのか?)

すると突然、奇跡は起こった。
昼間にも関わらず、星々がキラキラと輝き、雪が降り始めたのだ。
単なる異常気象で片付けてしまうことは簡単だが、そうもいかない。なぜなら、空に輝いていた美しい星々が、さらに光を強くし地面に落下しはじめたのだ。

そこに衝撃などはないが、無数の光が一直線に落下する様は見ていて圧倒される。

目を覆うほどの光が集まったころ、シノアを中心に大爆発が起こる。しかし、爆風や火花などはなく、ただ音と閃光を発しただけだった。

「クソッ!さっきからなんなんだ!」

次々と起こる怪奇現象に団長が毒づくが、光が治まったことで見えるようになったシノアの姿をその目に捉えると、思わず言葉を失った。

そこにいたのはシノアであって、シノアではない何か。
蒼く光る紋章を宿した瞳以外、形はそのままだが放っている覇気は桁違いであり、人間とは思えないほど神々しい。

シノアの姿をしたそれは、地面に倒れるフィリアをそっと抱きかかえ、頬を撫でる。
すると、完全に活動を停止していたフィリアの心臓が再び鼓動を開始し、意識を取り戻させた。

「…ぅ…あ…」

弱々しい声と共に目を開いたフィリアは、その瞳に映る彼を見て思わず涙を零した。
一瞬でシノアではないことを見破り、久しぶりの再会に感嘆の声を漏らす。

「ク…レア…さ…ま…」
「ふふ…君は相変わらず様付けなのかい?久しぶりだねフィリア」

心底愛おしそうにフィリアの頬を撫でたクレアだったが、表情を悲しげなものに変えると、申し訳なさそうに告げた。

「ごめんね。今の僕の力じゃ、身体の時間を1分前に戻すことしか出来ないんだ。最期の言葉を交わしに来たよ」

クレアの言葉にくすくすと笑うフィリア。

「さい…ご…に…あえ…て…こうえい…です…」
「まるで召使いみたいな言い方じゃないか。半世紀前と何も変わらないね」

それ以上、フィリアに喋らせるのは苦しめると判断したクレアは、静かに瞳を見つめ最期の時を惜しんだ。

二人の間に沈黙が訪れ、クレアがフィリアの頭を優しく撫でると、フィリアは幸せそうに目を細める。

だが、幸せな時間は有限だ。
フィリアの視界が霞み始め、全身から力が抜け始めた。

「ぁ…か…らだ…が…」
「もうか…本当に短い時間だな」

もう握る力すら残されていないフィリアの手は、クレアの方へと伸びる。
途中で力が入らなくなり、重力に従い落ちそうになるが、クレアはその手を握り自分の頬に当てた。

「フィリア、君と過ごした20年間は僕が生きてきた中で間違いなく、最も幸せだった時間だ。今でもあの時、君に不死を与えるべきだったと後悔しているよ」

フィリアはクレアの言葉に大粒の涙を両眼から落とすと静かに目を閉じた。
神に愛された聖母は1世紀に渡る、長くも短い生を終え、今、天に召された。

「おやすみ、フィリア。安らかに」

クレアはフィリアの額に唇を触れさせ、髪をひとなですると、時空間魔法でフィリアの亡骸をその場から消した。

そして、静かに立ち上がると、団長と対峙する。

「さて、存在ごと抹消してあげるよ。人間」

信じ難い現象の連続に面食らっていた団長は、クレアの言葉でようやく状況を飲み込み、その言葉を発した張本人に噛み付く。

「なんだと?貴様、私を誰だと思っている!」
「さぁ、知らないね。名前も何も知らないし、知る気もないな」

全く眼中にないといった様子のクレアに苛立ちを覚えた団長は、怒りを抑え自慢げに名乗る。
「貴様のようなガキに2度も名乗るのは癪だが、まぁいい。私の名はデウス・クレアトール、通称神の剣技と呼ばれる最強の男だ」

団長の言葉にクレアは片眉を上げ、失笑する。
それを見て抑えていた苛立ちを爆発させ怒鳴り出す団長。

「何がおかしい!」

剣をクレアに向け、吠える団長だが、奥の手を全て出し切っており、身体も満身創痍といった状態だ。本人は考えないようにしていたが。

「いや、悪いね。この世界に僕と同じ名前の人間がいたなんて思いもしなかったからね」
「同じ名だと?」

クレアの言葉をこだまのように繰り返し、その内容を訝しむ団長だったが、次の瞬間には恐怖に震えることとなった。

「にしても、ここは汚れているね。少し綺麗にしようか」

その言葉と共に指をひとつ鳴らすとまた、信じ難い事象が起こった。

累々と転がっていた死体たちが光の粒子を発しながら消えていき、血の染みも嘘のようにきれいさっぱりなくなっていったのだ。
壊れていた壁や観客席も修理されており、魔法とすら思えない、まさしく奇跡のような出来事だ。

突然のことに驚いていた団長だったが、更なる衝撃に襲われることになる。

「クレアさまがんばれ~」
「てかげんしてあげて~」
「人間もすこしはがんばれ~」

人で溢れかえっていた観客席には、いつのまにか別の種族で溢れており、クレアの名を呼んでいたのだ。

(なんだ…なせ俺の名を…)

困惑する団長だったが、目の前のシノアのようなものを見た時、それを悟った。

まず、観客席にいる彼らは人間ではない。10歳前後の見た目で、可愛らしい様子だが、羽が生えており、それが人外であることを示していた。
羽が生え、幼い見た目、それだけでこの世界では天使族エンジェルだと判断できる。
そして、天使族、それもこれほど大勢の天使族が仕える存在とは相当高位の神である証明だ。

「ま、まさか…そんな…」

目の前に立つ存在の正体を確信した時、団長の精神は崩壊する。
その圧倒的な覇気、神々しく輝く青空色の瞳、その瞳に宿るのは創造と慈愛の紋章、それらはすなわち、目の前のシノアのような何かが神、それも最高神の片割れであることを示していた。

「やぁ、初めまして人間。デウス・クレアトールだよ。君たちには創造神と言った方が通じるのかな?」

この世界に最高神が顕現した。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強の配下たちと共に超大国を創る

瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。 ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。 長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。 4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。 3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。 「このうつけが!」 そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。 しかし、人々は知らない。 ノアがうつけではなく王の器であることを。 ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。 ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。 有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。 旧タイトル「僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る」 なろう、カクヨムにも掲載中。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...