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一話 父と暮らすまで
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母が死んだ。
過労であると、私は思う。
「あんな子残していくなんて」
「本当、邪魔で仕方ないわ」
「いくらなんでも、神もお許しにならないわ。あれだけのことをしたんですもの」
母の葬儀だというのに、シスターたちはこそこそと聞こえるように陰口を言う。
ここが慈愛をモットーとしているなんて、信じられないぐらいだ。
産まれてから私はここで育った。
だから、この陰口もしょっちゅう。もう慣れた。
慣れてはいるけれど、腹の中には怒りが渦巻いていた。
「(あんたらの雑用を母は必至でしたのに!!)」
本来なら、シスターたちが自分たちでしなければならない仕事を、全て母に押し付けていた。
神父も助けない。黙認だ。
村の人も、当然と言った顔で母に対して酷いことしか行ってこなかった。
「それで、この子どうする?」
「そうねぇ。雑用係としてなら置いといていいんじゃない?」
キャハキャハと笑うこいつらは、まともに母の葬儀をしようとしない。
当然といえば、当然か。
「いや、その子は森に捨てることが決まっている」
神父は気難しそうな顔をしている。手には封筒があった。
森に捨てる。あの封筒には王家の紋章がある。あぁ、なるほど。
この村は昔から、王家の人間が療養だの神の声を聞くだののためにやってくる。その間、私と母はよく奥の方で雑用なんかをしていた。
あの手紙は、もうすぐその人たちが来る。だから、目障りは私を森へ捨てる。と言うことか。
「行くぞ」
「荷物」
「はぁ? お前らにそんなものはないだろう?」
強引に腕を引かれ、母だった物を抱えながら、私は馬車に放り込まれた。
「痛っ!?」
「じゃあな、疫病神!!」
「清々する!」
「今までの苦行が報われるわぁ」
狂ったような声を聞きながら、馬車は動き出した。
何が苦行だ。苦行だったのは、母だ! 報われなければならなかったのは、母だ!!
私は、馬車から叫んでやった。
「疫病神はお前らだ!! 死ね、死んでしまえええ!! 災いあれ!! 報いを受けよおおお!!」
私の叫び声が届いたかどうかは知らない。
馬車はコトコトと走っていった。
馬車にガタゴトと揺れている。
そういえば、馬車を引いているのは誰だろうか?
御者の方を見る。
身なりのいい、おじさんだ。
「ヒドイ村だな」
彼は呟くように、ポツリと言った。
「そうよ。酷いの。母さんたちはアイツらに殺されたようなものだ」
「それだけじゃないさ」
馬車は川の近くに止まる。
「お昼にしようか。君も」
「私は……」
辞退しようとしたが、ぐうとお腹が鳴ってしまう。
彼はクスクスと笑い、子どもが遠慮するな。と優しく言ってくれた。
「私、子どもじゃないよ」
「いや、子どもだろう?」
「たしかに、小さいかもしれないけど、もう十四なんだから」
「十、四……」
私の年齢をポツリと呟く。
御者のおじさんの目には、涙があふれていた。
ボトボトとそれはこぼれ、池でも作れるほどに流れている。
「そうだよな。それぐらい」
「おじさん?」
どうして泣いているんだろうか?
村の子どもと比べて小さいけど、泣くほどか?
後で分かったけど、私は小さいだけじゃなくがりがりで、浮浪者のように汚かった。更に、おじさんに抱きかかえられた際に、思った以上に軽かったらしい。
「おじさん、苦しいよ」
「ミラ」
その声を聞いた途端、私の身体は氷のように冷たくなった。
私の名前を呼んでくれたのは、母だけ。
修道院や村の人からはいつも、お前、とかあれ、とか呼ばれていた。それに、私は、この人に名乗っていない。
「すまない、すまない。もっと、早くに」
もしかして、この人は。
おそるおそる、私は、思ったことを口にした。
「お父さん?」
おじさんは、目を見開いた。
「俺を、そう呼んでくれるんだな」
確認したかっただけなのだけど、余計に泣かれてしまった。
どうして、今更?
「これから、お父さんと暮らそうな」
疑念を胸に抱えたまま、私は父(暫定)と暮らすことになってしまった。
過労であると、私は思う。
「あんな子残していくなんて」
「本当、邪魔で仕方ないわ」
「いくらなんでも、神もお許しにならないわ。あれだけのことをしたんですもの」
母の葬儀だというのに、シスターたちはこそこそと聞こえるように陰口を言う。
ここが慈愛をモットーとしているなんて、信じられないぐらいだ。
産まれてから私はここで育った。
だから、この陰口もしょっちゅう。もう慣れた。
慣れてはいるけれど、腹の中には怒りが渦巻いていた。
「(あんたらの雑用を母は必至でしたのに!!)」
本来なら、シスターたちが自分たちでしなければならない仕事を、全て母に押し付けていた。
神父も助けない。黙認だ。
村の人も、当然と言った顔で母に対して酷いことしか行ってこなかった。
「それで、この子どうする?」
「そうねぇ。雑用係としてなら置いといていいんじゃない?」
キャハキャハと笑うこいつらは、まともに母の葬儀をしようとしない。
当然といえば、当然か。
「いや、その子は森に捨てることが決まっている」
神父は気難しそうな顔をしている。手には封筒があった。
森に捨てる。あの封筒には王家の紋章がある。あぁ、なるほど。
この村は昔から、王家の人間が療養だの神の声を聞くだののためにやってくる。その間、私と母はよく奥の方で雑用なんかをしていた。
あの手紙は、もうすぐその人たちが来る。だから、目障りは私を森へ捨てる。と言うことか。
「行くぞ」
「荷物」
「はぁ? お前らにそんなものはないだろう?」
強引に腕を引かれ、母だった物を抱えながら、私は馬車に放り込まれた。
「痛っ!?」
「じゃあな、疫病神!!」
「清々する!」
「今までの苦行が報われるわぁ」
狂ったような声を聞きながら、馬車は動き出した。
何が苦行だ。苦行だったのは、母だ! 報われなければならなかったのは、母だ!!
私は、馬車から叫んでやった。
「疫病神はお前らだ!! 死ね、死んでしまえええ!! 災いあれ!! 報いを受けよおおお!!」
私の叫び声が届いたかどうかは知らない。
馬車はコトコトと走っていった。
馬車にガタゴトと揺れている。
そういえば、馬車を引いているのは誰だろうか?
御者の方を見る。
身なりのいい、おじさんだ。
「ヒドイ村だな」
彼は呟くように、ポツリと言った。
「そうよ。酷いの。母さんたちはアイツらに殺されたようなものだ」
「それだけじゃないさ」
馬車は川の近くに止まる。
「お昼にしようか。君も」
「私は……」
辞退しようとしたが、ぐうとお腹が鳴ってしまう。
彼はクスクスと笑い、子どもが遠慮するな。と優しく言ってくれた。
「私、子どもじゃないよ」
「いや、子どもだろう?」
「たしかに、小さいかもしれないけど、もう十四なんだから」
「十、四……」
私の年齢をポツリと呟く。
御者のおじさんの目には、涙があふれていた。
ボトボトとそれはこぼれ、池でも作れるほどに流れている。
「そうだよな。それぐらい」
「おじさん?」
どうして泣いているんだろうか?
村の子どもと比べて小さいけど、泣くほどか?
後で分かったけど、私は小さいだけじゃなくがりがりで、浮浪者のように汚かった。更に、おじさんに抱きかかえられた際に、思った以上に軽かったらしい。
「おじさん、苦しいよ」
「ミラ」
その声を聞いた途端、私の身体は氷のように冷たくなった。
私の名前を呼んでくれたのは、母だけ。
修道院や村の人からはいつも、お前、とかあれ、とか呼ばれていた。それに、私は、この人に名乗っていない。
「すまない、すまない。もっと、早くに」
もしかして、この人は。
おそるおそる、私は、思ったことを口にした。
「お父さん?」
おじさんは、目を見開いた。
「俺を、そう呼んでくれるんだな」
確認したかっただけなのだけど、余計に泣かれてしまった。
どうして、今更?
「これから、お父さんと暮らそうな」
疑念を胸に抱えたまま、私は父(暫定)と暮らすことになってしまった。
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