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第6話
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「今戻れば全て許す、とバルトロ様からの伝言です」
「君が誰で、バルトロっていう人が何者で僕との関係が何なのかは分からないけど。少なくとも彼女に酷いことしたのは事実だよね?」
セルジュの冷たい目。底冷えするような静かな殺気。男のものとは比べ物にならない程の覇気。
「僕と君が敵対するには充分な理由だ」
そう言ってセルジュは、地面を強く蹴ると男との距離を一気に縮めた。
急に間合いに入ってきたセルジュに、男は戸惑う。
くるりと体を捻ると、セルジュの右足が男の腹を蹴る。
「ぐっ……!」
強い衝撃に唾液を飛ばして、地面に横たわる。
ふらつきながら男は立つと、刃物を取り出した。
「あんたを殺さずに連れていけるか不安ですが、死体でもバルトロ様は許してくれるでしょう!」
「そもそも君に僕を殺せるの?」
セルジュの挑発に男は激昂する。
「ふざけやがって……!」
刃先がぎらりと光ると、セルジュの心臓めがけて襲いかかる。
涼しい顔でそれを避けると、男の鳩尾に蹴りを入れた。
「かはっ……」
男は思わず膝を打ち、咳き込んでしまう。刃物はいつの間にかセルジュの手にあった。
「僕の勝ちだ」
セルジュは刃先を相手に突き付ける。
「僕を知っているらしい君に聞きたい事がある。僕は何者で、バルトロって誰なんだ? 僕とその人はどんな関係なんだ?」
彼の言葉に答えたのは男の笑い声だった。
荒い息をしながら男は、蔑んだ目を向ける。
「とうとうイカれたのか、死神さんよぉ」
「僕の質問に答えろ」
「お嬢ちゃんの前で言って良いのか?」
男はシャルロッテを一瞥してから馬鹿にしたようにセルジュを笑う。
男はセルジュの隙をついて、刃物を奪った。身構えたセルジュとシャルロッテを尻目に、刃先を自身の喉笛へと突き立てる。
悲鳴をあげるシャルロッテと、何をするんだと困惑するセルジュを面白そうに見ながら、男は笑みを浮かべた。
「バルトロ様の……命令を遂行出来なかった人間に……待つのは死……だろう死神……」
ひゅうひゅうとか細い息になり、やがて男は絶命した。
男の死体を警備隊に知らせた後、事情を聞かれ、やっと解放された頃には夜になっていた。
戻ってからというもの、どうにもセルジュの様子がおかしい。落ち込んでいるのか、考え込んでいるのか。いつもであれば、シャルロッテの事を気にかけ、手伝えることは無いかとついて回るのに。自室に籠って部屋から出てこなかった。
「セルジュ、入っても良い?」
扉をノックすると小さくどうぞ、と声が聞こえた。静かにドアノブを回して、部屋に入る。
「傷はどう?」
寝台に座る彼の隣に座った。彼の視線は虚空を見つめている。
「もう平気だよ、何ともない。記憶以外はね」
自嘲するようにセルジュは鼻で笑う。
「あの男は僕の事を知ってた。僕の事を死神とも呼んでいた……。君があの男にぶたれたのを見たときは、頭に血がのぼって何も考えられなかったけど」
強く拳が握られている事に気付き、シャルロッテは小さな手を重ねた。
「僕は戦い方を知ってたんだ。それも相当慣れているんだと思う。自分を護る為の戦い方じゃない。人を殺める為のものだ。どこを狙えば確実に死ぬか、そんな事を考えながら僕は戦っていた」
セルジュは言葉を選んでゆっくりと吐き出す。
「どこで、誰に教わったのか分からない。でも、人を殺める技術を持っているなんて、真っ当な人間じゃないはずだ。もし、バルトロという人が悪人だとしたら……彼と関係があるらしい僕も悪人ということになる」
セルジュの声は震えていた。
「僕は、どうしようもない極悪人なのかもしれない」
ほろりと目に浮かんだ輝きが、彼の頬をつたう。
「記憶が戻るときが怖いんだ。僕がとんでもない奴だったらどうしようって……。悪い事を自分は平気でやっていたら……」
「大丈夫、貴方が悪人なはずないわ。もし、悪い事をしても何か事情があったのかもしれない。自分からやりたくてやろうとする人間じゃないわ。そうじゃなきゃ、わたしを助けようとしないでしょ?」
シャルロッテは彼を抱き寄せる。震えている彼が怯えた子どものようだった。優しく頭を撫でてやる。
「何があってもわたしが貴方のそばにいる」
セルジュの黄みがかった赤い瞳にシャルロッテが映し出される。
食い入るようにお互いを見つめ合う。どちらからともなく、口づけをした。
重なった唇の感触は柔らかく、そして熱い。啄むような口づけから、舌を絡ませた深い口づけに変わる。
セルジュの舌が絡まる度、ざらりとした感触が下腹部を熱くした。
「君が誰で、バルトロっていう人が何者で僕との関係が何なのかは分からないけど。少なくとも彼女に酷いことしたのは事実だよね?」
セルジュの冷たい目。底冷えするような静かな殺気。男のものとは比べ物にならない程の覇気。
「僕と君が敵対するには充分な理由だ」
そう言ってセルジュは、地面を強く蹴ると男との距離を一気に縮めた。
急に間合いに入ってきたセルジュに、男は戸惑う。
くるりと体を捻ると、セルジュの右足が男の腹を蹴る。
「ぐっ……!」
強い衝撃に唾液を飛ばして、地面に横たわる。
ふらつきながら男は立つと、刃物を取り出した。
「あんたを殺さずに連れていけるか不安ですが、死体でもバルトロ様は許してくれるでしょう!」
「そもそも君に僕を殺せるの?」
セルジュの挑発に男は激昂する。
「ふざけやがって……!」
刃先がぎらりと光ると、セルジュの心臓めがけて襲いかかる。
涼しい顔でそれを避けると、男の鳩尾に蹴りを入れた。
「かはっ……」
男は思わず膝を打ち、咳き込んでしまう。刃物はいつの間にかセルジュの手にあった。
「僕の勝ちだ」
セルジュは刃先を相手に突き付ける。
「僕を知っているらしい君に聞きたい事がある。僕は何者で、バルトロって誰なんだ? 僕とその人はどんな関係なんだ?」
彼の言葉に答えたのは男の笑い声だった。
荒い息をしながら男は、蔑んだ目を向ける。
「とうとうイカれたのか、死神さんよぉ」
「僕の質問に答えろ」
「お嬢ちゃんの前で言って良いのか?」
男はシャルロッテを一瞥してから馬鹿にしたようにセルジュを笑う。
男はセルジュの隙をついて、刃物を奪った。身構えたセルジュとシャルロッテを尻目に、刃先を自身の喉笛へと突き立てる。
悲鳴をあげるシャルロッテと、何をするんだと困惑するセルジュを面白そうに見ながら、男は笑みを浮かべた。
「バルトロ様の……命令を遂行出来なかった人間に……待つのは死……だろう死神……」
ひゅうひゅうとか細い息になり、やがて男は絶命した。
男の死体を警備隊に知らせた後、事情を聞かれ、やっと解放された頃には夜になっていた。
戻ってからというもの、どうにもセルジュの様子がおかしい。落ち込んでいるのか、考え込んでいるのか。いつもであれば、シャルロッテの事を気にかけ、手伝えることは無いかとついて回るのに。自室に籠って部屋から出てこなかった。
「セルジュ、入っても良い?」
扉をノックすると小さくどうぞ、と声が聞こえた。静かにドアノブを回して、部屋に入る。
「傷はどう?」
寝台に座る彼の隣に座った。彼の視線は虚空を見つめている。
「もう平気だよ、何ともない。記憶以外はね」
自嘲するようにセルジュは鼻で笑う。
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強く拳が握られている事に気付き、シャルロッテは小さな手を重ねた。
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セルジュは言葉を選んでゆっくりと吐き出す。
「どこで、誰に教わったのか分からない。でも、人を殺める技術を持っているなんて、真っ当な人間じゃないはずだ。もし、バルトロという人が悪人だとしたら……彼と関係があるらしい僕も悪人ということになる」
セルジュの声は震えていた。
「僕は、どうしようもない極悪人なのかもしれない」
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「記憶が戻るときが怖いんだ。僕がとんでもない奴だったらどうしようって……。悪い事を自分は平気でやっていたら……」
「大丈夫、貴方が悪人なはずないわ。もし、悪い事をしても何か事情があったのかもしれない。自分からやりたくてやろうとする人間じゃないわ。そうじゃなきゃ、わたしを助けようとしないでしょ?」
シャルロッテは彼を抱き寄せる。震えている彼が怯えた子どものようだった。優しく頭を撫でてやる。
「何があってもわたしが貴方のそばにいる」
セルジュの黄みがかった赤い瞳にシャルロッテが映し出される。
食い入るようにお互いを見つめ合う。どちらからともなく、口づけをした。
重なった唇の感触は柔らかく、そして熱い。啄むような口づけから、舌を絡ませた深い口づけに変わる。
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