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第5話
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シャルロッテが住んでいるフィオーレの森から、シレントの街は1時間程歩く。
今日は森で採れた珍味を街で売り金銭を得るついでに、新しい本を買いにやって来た。
「わたしのそばを離れないでね」
シレントの街は賑わっている。国境が近く、他国を目指す人、この国に入ってくる人で行き交う。
その光景が物珍しいのか、セルジュは興味深そうに見入っていた。
シャルロッテはそんなセルジュを横目で見ながら、外套の端を引っ張る。
森の外に出るときは外套を羽織る。シャルロッテの髪、瞳の色は一目でスフォルトゥーナだと分かってしまう。その為、旅人のように外套を着て顔を隠しているのだ。
「やっぱりデュークの言っていた通りだわ」
森の友人の言葉通り、がらの悪そうな男達がうろついている。辺りに視線を向け、警戒しているのか、行き交う人々に注目していた。
「いつもは違うの?」
セルジュも男達を見ながら、かがみこんでシャルロッテの耳元に囁く。
「そうよ、何かあったのかしら……」
もともとシレントの街は治安が良いとも言えなかったが、やはり違和感を覚えた。
「さっさと用事を済ませて帰りましょう」
言ってシャルロッテは、籠に入った珍味を店に売りに行く。
街に住んでいる人も移動する人も利用する、食材を豊富に取り扱う店だ。
店主は無口だが、食材の見る目は確かでこの店に陳列されているものは良い状態のものばかり。
「これを売りに来たわ」
シャルロッテは籠を机上に乗せ、店主を見上げた。店主は無表情で籠を受け取ると、中に入っていた果実を掴んでじっくりと観察する。
「……マジカルベリーか」
マジカルベリーは森の奥深くに生えている実だ。噛めば噛むほど味はするのに、実は無くならない。
不思議と消化は出来ないので、食べることは出来ないが、噛んで味を楽しむという珍味だ。
店主は丁寧に品を見る。
「どれも最高の状態だな、全部で800グッタだ」
「ありがとう」
こんもりと膨らんだ硬貨袋を受け取る。
800グッタは平均月収の16倍程。
マジカルベリーの成る木が少なく、森に慣れた人間でも探すのに苦労する。流通量が少ない。
しかし、富裕層を中心に人気の珍味なので需要はかなりあるのだ。その為、高値で売買される。
報酬を受け取った後、シャルロッテ達は店を出る。そして辺りを見渡す。
次の目的は本売りだ。本売りは移動式でいつもいるとは限らない。事前にデュークから聞いておいた話では、あと数日はいるという。
「見当たらないわね……」
もう移動したのだろうか。店が並んだ通りを歩いて探す。
「もしかして、あれのこと?」
セルジュが指差した方向には、荷車にたくさんの書物を乗せて今まさに移動している本売りがいた。
その姿を目視した途端、シャルロッテの体が反射的に動く。
「待って!」
シャルロッテは本売りを追い掛けようと走る。しかし、人が多く、上手くすり抜けようとしてもぶつかってしまう。
追い付こうと急いだが、結局見失ってしまった。
「次に来るまで半年も待たなきゃいけないじゃない……」
項垂れるシャルロッテに声が掛けられた。
「お嬢ちゃん、本売りを探しているのかい?」
「ええ、そうよ」
声は裏道から聞こえる。そこに人がいるのだろうが、影で隠れて見えなかった。
シャルロッテが警戒して様子を伺っていると、痺れを切らしたのか、男が腕を伸ばしてきた。
慌てて逃げようとしたが、あっさりと手首を掴まれてしまい、そのまま裏道に引きずり込まれる。
大声を出せないように彼女の口許を男は押さえた。
「一緒にいたあの男とはどこで会ったんだ?」
男の息がかかる。飼い葉のような臭い。
「貴方は誰よ」
「良いから俺の質問に答えろ。あの人をどこで知った? 何故一緒にいるんだ?」
「関係ないでしょ、離してよ!」
大きな声をあげたシャルロッテを男はぶつ。
その反動で倒れ込む彼女を、男は冷ややかな視線で見下ろす。
「彼女に何をしたんだ?」
足音と共にセルジュの声がした。彼は助けに来てくれたのだ。
「セルジュ様!」
男は頭を下げる。セルジュは怪訝そうに彼を見た。
「バルトロ様がお呼びです。今すぐにお戻りください」
「誰なの、君もバルトロって人も。僕を知っている人達?」
「とぼけても無駄ですよ。来ないなら力ずくで連れて行きます」
男は鋭い目つきでセルジュを見やる。男から感じる強い殺気。シャルロッテは息を飲んだ。
今日は森で採れた珍味を街で売り金銭を得るついでに、新しい本を買いにやって来た。
「わたしのそばを離れないでね」
シレントの街は賑わっている。国境が近く、他国を目指す人、この国に入ってくる人で行き交う。
その光景が物珍しいのか、セルジュは興味深そうに見入っていた。
シャルロッテはそんなセルジュを横目で見ながら、外套の端を引っ張る。
森の外に出るときは外套を羽織る。シャルロッテの髪、瞳の色は一目でスフォルトゥーナだと分かってしまう。その為、旅人のように外套を着て顔を隠しているのだ。
「やっぱりデュークの言っていた通りだわ」
森の友人の言葉通り、がらの悪そうな男達がうろついている。辺りに視線を向け、警戒しているのか、行き交う人々に注目していた。
「いつもは違うの?」
セルジュも男達を見ながら、かがみこんでシャルロッテの耳元に囁く。
「そうよ、何かあったのかしら……」
もともとシレントの街は治安が良いとも言えなかったが、やはり違和感を覚えた。
「さっさと用事を済ませて帰りましょう」
言ってシャルロッテは、籠に入った珍味を店に売りに行く。
街に住んでいる人も移動する人も利用する、食材を豊富に取り扱う店だ。
店主は無口だが、食材の見る目は確かでこの店に陳列されているものは良い状態のものばかり。
「これを売りに来たわ」
シャルロッテは籠を机上に乗せ、店主を見上げた。店主は無表情で籠を受け取ると、中に入っていた果実を掴んでじっくりと観察する。
「……マジカルベリーか」
マジカルベリーは森の奥深くに生えている実だ。噛めば噛むほど味はするのに、実は無くならない。
不思議と消化は出来ないので、食べることは出来ないが、噛んで味を楽しむという珍味だ。
店主は丁寧に品を見る。
「どれも最高の状態だな、全部で800グッタだ」
「ありがとう」
こんもりと膨らんだ硬貨袋を受け取る。
800グッタは平均月収の16倍程。
マジカルベリーの成る木が少なく、森に慣れた人間でも探すのに苦労する。流通量が少ない。
しかし、富裕層を中心に人気の珍味なので需要はかなりあるのだ。その為、高値で売買される。
報酬を受け取った後、シャルロッテ達は店を出る。そして辺りを見渡す。
次の目的は本売りだ。本売りは移動式でいつもいるとは限らない。事前にデュークから聞いておいた話では、あと数日はいるという。
「見当たらないわね……」
もう移動したのだろうか。店が並んだ通りを歩いて探す。
「もしかして、あれのこと?」
セルジュが指差した方向には、荷車にたくさんの書物を乗せて今まさに移動している本売りがいた。
その姿を目視した途端、シャルロッテの体が反射的に動く。
「待って!」
シャルロッテは本売りを追い掛けようと走る。しかし、人が多く、上手くすり抜けようとしてもぶつかってしまう。
追い付こうと急いだが、結局見失ってしまった。
「次に来るまで半年も待たなきゃいけないじゃない……」
項垂れるシャルロッテに声が掛けられた。
「お嬢ちゃん、本売りを探しているのかい?」
「ええ、そうよ」
声は裏道から聞こえる。そこに人がいるのだろうが、影で隠れて見えなかった。
シャルロッテが警戒して様子を伺っていると、痺れを切らしたのか、男が腕を伸ばしてきた。
慌てて逃げようとしたが、あっさりと手首を掴まれてしまい、そのまま裏道に引きずり込まれる。
大声を出せないように彼女の口許を男は押さえた。
「一緒にいたあの男とはどこで会ったんだ?」
男の息がかかる。飼い葉のような臭い。
「貴方は誰よ」
「良いから俺の質問に答えろ。あの人をどこで知った? 何故一緒にいるんだ?」
「関係ないでしょ、離してよ!」
大きな声をあげたシャルロッテを男はぶつ。
その反動で倒れ込む彼女を、男は冷ややかな視線で見下ろす。
「彼女に何をしたんだ?」
足音と共にセルジュの声がした。彼は助けに来てくれたのだ。
「セルジュ様!」
男は頭を下げる。セルジュは怪訝そうに彼を見た。
「バルトロ様がお呼びです。今すぐにお戻りください」
「誰なの、君もバルトロって人も。僕を知っている人達?」
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