【R18】記憶を失った青年と森の魔女

十井 風

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第9話

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 シャルロッテを追い掛けてきたセルジュは、長い時間彼女を抱き締めた。
「セルジュ……苦しいわ」
 そう伝えるとようやく彼の腕から解放された。彼の体温が分け与えられたかのように顔が赤く熟れている。

「ごめん、びっくりして」
 目覚めたセルジュは、自身の隣にいたはずのシャルロッテがいないと見るや、慌てて付近を探したらしい。畑にもいない、よく行く採取場にもいない。
 そうして森をさ迷っているうちに、どこからか誰かと話すシャルロッテの声が聞こえてきたので、走ってやって来たと言う。

「本当に心配したんだよ」
 セルジュはシャルロッテの頭を優しく撫でながら、何度も言った。彼の瞳は慈愛に満ち溢れて、穏やかな光を灯している。
「ごめんなさい。貴方の事が嫌になったわけではないの。少し怖くなって……」
 セルジュは首を傾げて、シャルロッテに先を促す。

「こんなこと、貴方に言うのも恥ずかしいんだけど。告白が無いまま初夜を迎えた事に気付いて、焦ったの。常識にそぐわない事がとても不安だったの」

 常識に一生懸命従おうとするのは、自身が多数と違うという理由で異端だと迫害されてきたからだろう。彼等の世界に少しでも近付けるように、仲間になれるようにと意識した結果だ。

 自分が人とは違う存在だから、常識にそぐわないと迫害されるのではないか、異端だと白い目で見られるのではないか。そんな恐怖が過去の経験から心の奥底に棲みついている。
 セルジュとの関係でも、染み付いた恐怖から常識にそぐわないと彼に嫌われるのではないか、おかしい奴だと思われるのではないか、と考えてしまう。

「きっと貴方に嫌われるのが怖かったんだと思う。皆と一緒じゃないって、異端だと思われるのが」
 シャルロッテはぽつりぽつりと言葉を溢す。
 隣で聞いていたセルジュは、そっと彼女の肩を抱き、自身へと引き寄せる。
 彼の想いが詰まっているかのように、その動作はとても優しかった。

「他の人がどう思おうが僕は君が大好きだよ。常識だとか皆と違うからという理由で、嫌いになんかなるもんか」
 彼はシャルロッテの額に口づけを落とす。
「君が隣に居ないだけで不安になるくらい、愛しているから」

 彼を見上げると、そっと優しく微笑んだ。
「んっ」
 顔が近付き、目を閉じると唇に柔らかい感触があった。
 温かく濡れた舌が中に入ってくる。そして絡み合った。
「ふっ、ん」
 濃厚な口づけの合間に漏れる吐息。ざらざらとした舌の感触。早くなる鼓動。

 舌が出ていってしまうと、お互いを繋ぐ糸のように唾液が垂れた。
「愛しているよ、シャルロッテ」
「わたしもよ」
 2人は額を付け合い、笑った。楽しげな声が森に響く。

 ――この幸せな時間が永遠に続けば良いのに。
 抱き締められながらシャルロッテは思った。2人に起こる事など予想するはずもなく。
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