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第17話
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結局、その日どれだけ待ってもセルジュは帰ってこなかった。翌朝になっても彼は居ない。
『シャルロッテ、大丈夫か?』
心配そうに見上げるデュークに、ひきつった笑みを浮かべる。
「わたしが探しに行かなきゃ。どこかで迷子になっているかもしれないし」
『何かあったらすぐ呼んでね』
街へ調べに行くと言うシャルロッテにアルテミシアはそう声を掛けた。
何故セルジュは居なくなったのか。自分の意思で姿を消したのならそれでも良い。もし、そうでなかったら? シャルロッテに助けを求めているかもしれない。
どんな真実であれ、彼に近付くには街で出会ったあの少年から話を聞くしかないだろう。セルジュと因縁があるようだったし、行き先は分からなくても何か情報は掴めるかもしれない。
シャルロッテは籠を持って外套を身に纏う。
「また留守番お願いしちゃうけど、よろしくね」
デューク達に告げ、街へ向かう。
「赤ちゃんを背負ったこのくらいの小さな男の子を知りませんか?」
「あのこそ泥のガキか」
馴染みの食材店の店主や、露店を出す商人達から聞き込みをしていく。古くからシレントの街で商売をしている人の間では有名らしく、すぐに居場所が分かった。
シレントの街から外れた所にある貧困地区にいるという。シャルロッテはお礼を言い、教えてもらった場所へと向かった。
貧困層が住むその地区は、人が住むような場所ではなかった。至るところに蝿が飛んでいて、ゴミや食い荒らされた何かの死体の強い臭気が漂う。鼻が曲がりそうだと感じながらも歩みを進めた。
時折、扉も窓もないただ屋根と柱と壁をつけたような家から住民がこちらを観ていた。訝しげにこちらを見るのは、シャルロッテが貧困地区では目立つ清潔な服装をしているからだろう。彼等の服は何年も着古したような代物で、穴が開いていない衣服を身に纏う住民はいない。
居心地の悪さを感じながらシャルロッテは教えられた住所を探す。野良犬が籠から漂う匂いを嗅ぎとりしつこく付きまとうが、何とか振り切って目当ての場所に辿り着く。
「ねえ、居る?」
薄く伸ばした金属の板のような扉を叩く。しばらくしてから、軋んだ音を立てながら扉が開いた。
中に居た少年はシャルロッテを見ると、不審そうな目付きを向ける。
「わたしの事、覚えてるでしょ? 話をしに来たの。入っても良い?」
少年に問うたがシャルロッテは返答を待たずに中へ入っていく。強引なやり方だが、彼は渋々家に入れると、また不気味な音を立てて扉を閉めた。
「何の用?」
普段からあまり食べられていないのだろう。少年は痩せ細り、背負われている赤子も痩せていた。
「とりあえず食事でもしない?」
シャルロッテは籠からサンドイッチを取り出す。野菜と肉、チーズを挟んだものだ。
「毒でも入ってんの?」
「入れるわけないでしょ。取引材料よ」
彼は怪訝そうに眉をひそめる。
「わたしと一緒に居た男の人、覚えてる? 彼について知っていること全部知りたいの」
「ふうん、あいつの事知らないで一緒に居たんだ。そんで情報と交換ってことか」
「教えてくれたらこれからもご飯作ってあげる」
そう言うと少年は心外そうに顔をしかめた。
「おれが飢えてるから施しを与えてあげようってか。自分達は恵まれてるから?」
「そういうつもりじゃないけど。ただ、ご飯を食べながらお話がしたいだけ。一緒にご飯を食べた方が美味しいじゃない? でも要らないなら良いわ、持って帰る」
「食べるよ。そんでねーちゃんが聞きたい事、全部聞けばいい。意地張っててもおれは飢えてるし、弟もちゃんと食わせてやりたい」
シャルロッテは頷くと籠から小瓶を取り出す。
「こっちは林檎をすりつぶしたものよ。赤ちゃんにあげて」
「……ありがとう」
少年はまず林檎のペーストを背負っていた赤子に与える。ゆっくりと口の中に入れ、味を確認するようにして流し込む。
「お父さんかお母さんは?」
「どっちも居ない。で、何から聞きたいの?」
少年は真っ直ぐシャルロッテを見た。
この家には大人が居ない。少年と赤子だけで住んでいる。どうにかしてあげたいと心が痛みながらもシャルロッテは本題に入る。
「何でも良いの。君が知ってるセルジュの事、全部教えて」
『シャルロッテ、大丈夫か?』
心配そうに見上げるデュークに、ひきつった笑みを浮かべる。
「わたしが探しに行かなきゃ。どこかで迷子になっているかもしれないし」
『何かあったらすぐ呼んでね』
街へ調べに行くと言うシャルロッテにアルテミシアはそう声を掛けた。
何故セルジュは居なくなったのか。自分の意思で姿を消したのならそれでも良い。もし、そうでなかったら? シャルロッテに助けを求めているかもしれない。
どんな真実であれ、彼に近付くには街で出会ったあの少年から話を聞くしかないだろう。セルジュと因縁があるようだったし、行き先は分からなくても何か情報は掴めるかもしれない。
シャルロッテは籠を持って外套を身に纏う。
「また留守番お願いしちゃうけど、よろしくね」
デューク達に告げ、街へ向かう。
「赤ちゃんを背負ったこのくらいの小さな男の子を知りませんか?」
「あのこそ泥のガキか」
馴染みの食材店の店主や、露店を出す商人達から聞き込みをしていく。古くからシレントの街で商売をしている人の間では有名らしく、すぐに居場所が分かった。
シレントの街から外れた所にある貧困地区にいるという。シャルロッテはお礼を言い、教えてもらった場所へと向かった。
貧困層が住むその地区は、人が住むような場所ではなかった。至るところに蝿が飛んでいて、ゴミや食い荒らされた何かの死体の強い臭気が漂う。鼻が曲がりそうだと感じながらも歩みを進めた。
時折、扉も窓もないただ屋根と柱と壁をつけたような家から住民がこちらを観ていた。訝しげにこちらを見るのは、シャルロッテが貧困地区では目立つ清潔な服装をしているからだろう。彼等の服は何年も着古したような代物で、穴が開いていない衣服を身に纏う住民はいない。
居心地の悪さを感じながらシャルロッテは教えられた住所を探す。野良犬が籠から漂う匂いを嗅ぎとりしつこく付きまとうが、何とか振り切って目当ての場所に辿り着く。
「ねえ、居る?」
薄く伸ばした金属の板のような扉を叩く。しばらくしてから、軋んだ音を立てながら扉が開いた。
中に居た少年はシャルロッテを見ると、不審そうな目付きを向ける。
「わたしの事、覚えてるでしょ? 話をしに来たの。入っても良い?」
少年に問うたがシャルロッテは返答を待たずに中へ入っていく。強引なやり方だが、彼は渋々家に入れると、また不気味な音を立てて扉を閉めた。
「何の用?」
普段からあまり食べられていないのだろう。少年は痩せ細り、背負われている赤子も痩せていた。
「とりあえず食事でもしない?」
シャルロッテは籠からサンドイッチを取り出す。野菜と肉、チーズを挟んだものだ。
「毒でも入ってんの?」
「入れるわけないでしょ。取引材料よ」
彼は怪訝そうに眉をひそめる。
「わたしと一緒に居た男の人、覚えてる? 彼について知っていること全部知りたいの」
「ふうん、あいつの事知らないで一緒に居たんだ。そんで情報と交換ってことか」
「教えてくれたらこれからもご飯作ってあげる」
そう言うと少年は心外そうに顔をしかめた。
「おれが飢えてるから施しを与えてあげようってか。自分達は恵まれてるから?」
「そういうつもりじゃないけど。ただ、ご飯を食べながらお話がしたいだけ。一緒にご飯を食べた方が美味しいじゃない? でも要らないなら良いわ、持って帰る」
「食べるよ。そんでねーちゃんが聞きたい事、全部聞けばいい。意地張っててもおれは飢えてるし、弟もちゃんと食わせてやりたい」
シャルロッテは頷くと籠から小瓶を取り出す。
「こっちは林檎をすりつぶしたものよ。赤ちゃんにあげて」
「……ありがとう」
少年はまず林檎のペーストを背負っていた赤子に与える。ゆっくりと口の中に入れ、味を確認するようにして流し込む。
「お父さんかお母さんは?」
「どっちも居ない。で、何から聞きたいの?」
少年は真っ直ぐシャルロッテを見た。
この家には大人が居ない。少年と赤子だけで住んでいる。どうにかしてあげたいと心が痛みながらもシャルロッテは本題に入る。
「何でも良いの。君が知ってるセルジュの事、全部教えて」
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