【R18】エデンブリッジ公爵夫人の新婚生活

十井 風

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第2話 出会い

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 2人が初めて知り合ったのは、今から1年程前。リアが19歳の時だった。

 この王国の一般的な貴族令嬢は13歳で社交界に出るようになり、16歳から18歳くらいまでの間が婚期とされている。
 リアの姉も17歳で現国王の従兄弟に嫁いでいった。
 しかし、リアは年頃になっても縁談には見向きもしなかった。相手に興味が無かったというのもあるし、ほとんどの相手がリアを1人の女性として見ているのではなく、ネアン侯爵令嬢として見ていたのだ。貴族の中でも権威あるネアン侯爵家と繋がりを持ちたい、リアと結婚することで自身に箔をつけたいと願う男性からのアプローチは、重荷にしかならなかった。

 両親はリアを大切にしてくれていた為、無理矢理に結婚させることは無かった。リアにとってそれは救いだった。
 だが、縁談を断り続ければいつか来なくなる。いつの間にか、毎日山ほど来ていた縁談が19歳の春を迎える頃には、ぱたりと来なくなった。
 リアに愛を囁いていた相手も、未婚の彼女を「行き遅れ」と馬鹿にするようになっていく。

(私に縁談を申し込んでいた相手に会いたくないけど、舞踏会に誘われちゃ行くしかないわよね……)
 その日、王弟殿下の妻が開催している舞踏会に誘われたリアは、落ち着いた意匠を施された紺色のドレスを身に纏い、参加していた。
 参加していたと言っても、会場に入ると知り合いから「いつ結婚するの?」「独身貴族になるつもり?」等、質問や説教が始まるので、早々に退散して来たのだった。

 屋敷の庭にある東屋にぽつんと座る。使用人に飲み物を持ってきてもらい、夜の帳がおりた庭を見つめていた。昼間には輝くように咲き誇る花達も、今は影に身を潜めている。
 冷たい風がリアの頬を撫でていく。
(早く帰りたいな……)
 そう思っていた時だった。

「うっ……」
 呻き声と引きずる音が近付いてくる。リアは思わず立ち上がった。近くに使用人が控えてくれているので、何かあった時はすぐに助けを呼べるが、得体の知れない音に体が震える。

 しかし、湧き出る好奇心が恐怖心を上回り、音のする方に近付いていく。
「……大丈夫ですか?」
 そこには顔を真っ青にし、今にも吐きそうな体格の良い男性が芝生に倒れていた。
 後ろからリアに着いてきていた使用人と一緒に、彼の大きな体を支えて東屋に向かう。
 長椅子に寝かせ、じっとりと汗ばんだ額を吹いてやる。

 虚ろな目をしていた男性は、少しの間じっとしていたが、体調が回復してきたらしく、生気が戻ってきた。
「貴女が介抱してくれたのか」
 少し掠れた低い声。リアは心地良い声だと感じた。
「微力ながら……。気分はいかがですか?」
「あぁ、随分と良くなった。ありがとう」
「お水でも飲んでください」
 そう言ってグラスに冷えた水を注いで、男性に手渡す。

「すまない」
 彼は礼を言うと、グラスに注がれた水を一気に飲み干した。かなり喉が乾いていたらしく、3杯もごくごくと飲む。
「人が多い所が苦手な上に、今日は寝不足だったのだ。いつもは酔わないんだが、特別に酒と人に酔ってしまった」
 困ったように笑う彼が可愛らしくて、リアはくすくすと笑った。

 彼はお礼を言うと立ち上がってその場を去ろうとする。思わずその背中に引き留めようとする言葉をかけたくなる。リアは自分でも驚いた。彼ともっと話をしたい、一緒に居たいと思っていることに。

「あの」
 名前も知らない感情がとめどなく溢れてくる。
 男性はゆっくりと振り返った。彼の鳶色の瞳に映った、不安げなリア。
「また……会えますか?」
 鼓動が早くなる。鼓膜を響かせ、うるさいほど鳴る。
 彼は照れたようにはにかむと、笑顔で頷く。
「勿論だ。俺はシグルド・エデンブリッジ。また会おう」
「シグルド様……」
 今度こそリアのもとを去っていく、彼の広い背中を見守りながら、彼女は幸せな気持ちに浸っていた。

 エデンブリッジといえば、王国内でも有数の公爵家である。現当主のシグルドは、仕事の鬼と呼ばれるほど、仕事一筋だった。そして、冷徹で女性を一切寄せ付けない彼の噂はリアにまで届くほど有名だった。
 噂とは違う彼の優しい一面に、ますます想いが募る。
 自分のことは知っているのだろうか。1人で居れば居るほど、考えることは彼の事だった。
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