【R18】エデンブリッジ公爵夫人の新婚生活

十井 風

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第3話 誓い

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 貴族には様々な仕事があるが、その中でも舞踏会に参加するという重要な仕事がある。
 舞踏会は貴族にとって大きな役割を持つ。人脈を広げる事が出来るし、男性にとっては出世の道に深く関わってくる。女性なら結婚相手と出会うきっかけにもなるのだ。

 その為、舞踏会等の催しに参加する機会が多い貴族は社交的な性格の人が多い。社交的でなくても、無理矢理そのような場に出る人間もいるほど。
 しかし、あまり積極的ではない性格のリアにとっては、大人数と接する必要がある舞踏会は苦手だった。
 見ず知らずの人間と踊ることに疲れ、知り合いに出会っても近況を根掘り葉掘り聞かれる。少し参加してはすぐに会場を退散し、離れた場所で終わりの時を待つというのがいつもの事だった。

 いつものように会場に顔を出しては適当にあしらい、そそくさと東屋に休憩しに来たリア。
 思い出すのはあの時出会った彼のこと。
 また会えるだろうか。この広い会場にはかなりの人数が招待されている。その中にシグルドがいる可能性はあるが、会えるとは限らない。

 会えたら良いのにという少しの期待と、このまま会えなかったらという不安が入り交じる。リアは落ち着かなくなって、庭園を歩くことにした。
 今回の主催者は、園芸が趣味というだけあって、庭は今まで見てきた中で一番壮麗だった。
 植えられている花や木、それぞれがお互いを引き立てるように計算され尽くしている。庭園の真ん中には人工池があり、月光に照らされながら悠々と魚が泳いでいた。

「今宵も月が綺麗だな」
 足音もなく、ふいに声を掛けられ驚いたリアは、立ち上がった拍子にバランスを崩してしまった。
 ぐらりと揺れる地面。足が土を踏むことが出来ず、そのまま池に落ちそうになる。
(落ちてしまうわ……!)
 思わず目を瞑るが、何も起きない。池の水音と虫たちの演奏が静かに響き渡る。

 リアは恐る恐る目を開けた。視界に広がったのは、見覚えのある亜麻色の髪とこちらを見つめる鳶色の瞳。今、会いたいと願っていた人物だった。
 何故彼がここに? と不思議だったが、それよりもリアは自分が置かれている状況に気付く。
 大きな彼の手が背中に回され、宙を掻いていた右手はしっかりと握られている。

 シグルドに助けてもらったと認識すると同時に、恥ずかしさのあまり、顔が火照ってしまう。
「俺がいきなり声を掛けたから驚いたんだな。申し訳ない」
 彼は素直に謝る。池から離れた場所まで誘導すると、そっと離れていく。先程まで感じていた彼の体温がすっと消えていった。

「いえ、足元が悪い所に居たものですから」
 リアはそう答えると、彼の方を見た。
「あの……」
 2人の間に訪れた沈黙をリアは破る。
「またお会い出来ましたね」
「そうだな。会えて嬉しいよ……俺は、あれから貴女に会いたくてたまらなかった。舞踏会の間はいつも東屋に居るんじゃないかと思って、この辺りを歩いていたんだ」
 リアを探していたと告げる彼の横顔は、月夜で見えにくいが、ほんのり赤くなっているように見えた。

 シグルドは意を決したように、リアの方へと向き直る。瞳には真剣な色が浮かんでいた。
「まだ知り合ったばかりだが、いつも思い浮かぶのは貴女の事ばかりだ。今まで仕事の事しか考えて来なかった俺が、貴女の事しか頭に思い浮かばなくなる程、大好きになった」
 少し冷えた風がさぁっと吹いていく。木々が揺れ、葉が擦る音が鳴る。

「結婚を前提に付き合ってくれないか」
 はっきりと聞こえた言葉。胸が高鳴っていく。
 今まで幾つもの縁談が舞い込んできても、心は何一つ動かされなかった。だが、今は違う。彼の言葉ひとつひとつにリアの心は揺れ動く。好きだと言われただけで、天にも昇れる程の嬉しさが溢れる。

「……私で良いのですか? 行き遅れと馬鹿にされているネアン侯爵家の次女なのですよ?」
 初めて自分の爵位を伝えたが、彼は最初から知っているようだった。
「行き遅れだろうが何だろうが、それは周りが勝手に評価しているだけだろう。
 俺は行き遅れだからという理由でもなく、ましてやネアン侯爵令嬢だからという理由でもない。"貴女"が好きなんだ」
 真っ直ぐに突き刺さる彼の言葉。リアの気持ちが完全に堕ちるまで時間はかからなかった。他の誰でもない自分だけを見てくれている。そういう人と出会えた事が嬉しかった。

「この命尽きるまで、貴女を幸せにすると誓おう」

 その後、手紙のやり取りをしたり、出掛けたり、2人は愛を育み、皆に祝福されながら結婚した。
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