【完結済】悪女の星 ~夫に冷遇されてますが推しを愛でるので大丈夫です!~

十井 風

文字の大きさ
4 / 18
第一章

第4話

しおりを挟む
「おじいさまにお母様のことを聞いた事があるんです。明るくてとても元気で、針仕事より乗馬や狩りの方が好きな活発な人だったそうです」

 リヒトによると、リリアナは明朗快活で体力もあり、今まで一度も体を崩したことがなく、健康そのものだったと。彼を妊娠した時も、医師からは母子ともに無事でお産が出来るだろうと言われていたほどらしい。お産に絶対はないとはいえ、かなり体力もあるようなので亡くなるには少し疑問が残る。

「なるほど。これは詳しく調べたいところね。まずは、お産に関与した女中から話を聞いた方が良いわね」

 私は女中長を呼び、リリアナのお産について聞いてみた。

 彼女から得られた情報によると、リリアナのお産には経験豊富な産婆が携わっていたらしい。彼女はリリアナの死後、すぐに宮廷を去り故郷のベアトリスへ帰っていった。

 私は女中長に礼を言い、部屋を出る。
「まずはベアトリスに行って産婆に話を聞きたいわね。でも、どうやって?」
 王妃である私が田舎町に行けるわけがない。お忍びにしてもルシオが絶対反対するだろうし、こっそり抜け出すのはリスキーだ。

 うんうんと唸っていると後ろから妖艶な声がする。
「ベアトリスなら一緒に行ってみますか?」
「ギルバード! いつの間にいたの。というより、そんなことできるの?」
「ベアトリスで治水工事を行うので事前視察に行く予定がありまして」
 ギルバードは楽しそうに言う。本当に出来るのだろうか。

「う~ん、でも私は王妃よ? 簡単に動けないわ」
「影武者を用意いたしましょう」



 数日後、ギルバードの作戦通り、私は女中の格好をして部屋で待機していた。
「なんだか僕まで緊張してきました」
 リヒトはきらきらとした目で言う。私もスパイミッションみたいでワクワクしてきた。

「失礼いたします、殿下」
 ギルバードに入室を許可すると、一人の女性を連れてやってきた。
「こちら殿下の影武者を務めさせていただく、妹のギネットでございます」

 私は驚いて声も出なかった。何故ならそっくりなのだ。髪の毛も瞳の色も声も私なのだ。
「ギネットは変装の達人でして。影武者には最適です」
 このクオリティなら絶対バレないだろう。節穴ルシオなんて余裕で欺ける。

「それでは向かいましょうか」
 ギルバードの言葉を合図に私は頷いた。リヒトとはここでお別れだ。
 私達は抱き締め合い、数日の別れを惜しむ。

 宮廷の門前に用意された馬車へと向かい、乗り込もうとすると――
「バーバラ様、お手を」
 殿下ではなく名を呼び、私が馬車に乗りやすいよう手を差し出してくれた。なんて紳士的なんだろう。ルシオだったら絶対やらない。こんなことされたらドキッとしてしまう。

 馬車に乗り込むと対面にギルバードは座った。
「憧れのお方とご一緒出来るなんて幸せです」
「あ、憧れだなんて大げさな……」
「初めてお会いした時から私の心は貴女に釘付けですよ。あいつのお妃でなければ今すぐ求婚したいほどです」
 優しいイケメンに言われてときめかないわけがない。この旅、私の心臓持つだろうか。


 王都からベアトリスまで馬車で二日。道中、休憩がてら街によらせてもらった。
 王宮の外は見た事がないし、小説でも描かれていなかったからとても新鮮で楽しい。
「わぁ、素敵な髪飾り!」
 街には露店が道路脇に並んでいて市場を成している。その中の装飾品店に並べられた品に目を奪われた。

 青い色の硝子に繊細な文様が刻まれている。切子細工だろうか。とても美しくてずっと眺めていられる。
 欲しいけど無一文なんだよね、本当に残念だけど私はウインドウショッピングを楽しむと馬車へ戻った。

 宿は質素なものだった。お忍びなので豪奢なところには泊まれないが、私に危害が及ばないようギルバードお抱えの護衛を配置してくれるとのことだった。事細かい配慮が素敵イケメンである。ルシオだったら絶対やらない。

「本当にありがとう、ギルバード。貴方のおかげで貴重な経験が出来たわ。このお礼は必ずするわ」
 自室に案内され、扉の前で彼に礼を言う。
「では、今、いただいても?」
「構わないけど……」
 すると、彼は微笑みながら私の顔を覗き込む。イケメンの顔が間近にあると思うと、息ができない。
「二人の時はギルと呼んでいただけますか」
「わ、分かったわ……ギル」

 緊張のあまり、囁くように呼んだ名。それでもギルは嬉しかったようでにっこりと笑みを浮かべる。
 ゆっくりと近づいてきて、私の頭を撫でる。耳元まで彼の顔が近付くと、優しく囁くように、
「おやすみなさい、バーバラ様」
 と言った。突然のことに私の心臓は大きく跳ねた。鼓動の音が彼に聞こえるのではないかと思うほど、ドクンと脈打っている。

 ギルは満足そうに口角をあげ、一礼をして私の隣の部屋へと入っていった。
 私は腰が抜けてしまって地面に座り込んでしまう。頭が動くのに合わせて耳元で鈴が転がるような美しい音がする。手で触れてみると、髪飾りがつけてあった。

 青い色の硝子に繊細な文様が刻まれた髪飾り。
「これって私が市場で見てた品……」
 私が見ていたことを知っていたんだ。真っ直ぐ向けられる私への愛情に心が揺らぐ。

 ルシオあいつと結婚してなかったら! 既婚者である事をこれほどまで悔やんだ日はない。

 私は手に乗せた髪飾りを見つめ、彼の吐息を思い出しては赤面した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

氷の公爵の婚姻試験

潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。 だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、 「君はもう僕のものだ」 と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...