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第一章
第5話
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あの事があってから私はギルと目を合わせる事が出来なくなってしまった。馬車での旅は少し気まずかったけれど、目的地に到着したので気持ちを切り替えることにした。
ベアトリスの町は自然豊かでとてものどかな場所だった。ヤギや鶏などが自由に闊歩している。
農作と養鶏が有名らしい。
「バーバラ様、産婆の家は私の方で調べさせていただきました。場所は護衛に知らせてありますので、この者を付けてください」
ギルはそう言い、一人の護衛騎士を紹介した。彼の手際の良さに関心していると、治水工事の現場確認がありますのでと私に手を振って去って行く。
無駄のない彼の言動が好ましい。どこかのアホも見習って欲しいくらいだ。
護衛騎士が先導してくれた産婆の家というのは、古びた一軒家だった。屋根の瓦はところどころ剥がれ落ちていて、壁には蔦が絡まっている。
私は扉を叩き、産婆の名を呼んだ。家の中からは物音がしなかったので留守かと思い、踵を返そうとした時。
「ローザはわたしでございますが……」
庭の方から背中の曲がった老婦人が出てきた。
「貴女がリリアナの産婆?」
リリアナという名を口にした時、彼女はひどく怯える。私を警戒する色が目に浮かんでいたので名乗ることにした。
「あぁ、王妃殿下……。こんな田舎町までお越しいただくなんて。何もありませんが、家の中へどうぞ」
産婆は軋む扉を開け、私達を中へと招いてくれた。家の中は埃っぽく、内装を見たところ、彼女だけで暮らしているようだ。
「私が来たのはリリアナのお産について貴女に聞きたい事があったからなの」
言うと産婆は震えだし、祈りの姿勢になった。
「お許しください、カトレア様……」
「なぜカトレアの名が出てくるの?」
「わたしはカトレア様のお母上の産婆でございました。お母上は子沢山な方でしたので何度も子を取り上げるうち、場数を踏んだ産婆になっておりました。その後は、カトレア様の乳母となり、宮廷へと入ったのです」
私は黙って彼女の話の続きを聞く。
「国王陛下の第二夫人となったカトレア様は大層喜んでおられました。幼い頃から王の妃になる事が夢でしたので。そして、次期国王の母になるという次の夢を叶えようとしておりましたが、なかなか子宝に恵まれず……焦っているところに第三夫人リリアナ様がご懐妊されたのです」
自分は子が出来ないのに第三夫人リリアナに子、ましてや男児だったらルシオの寵愛はより一層、リリアナに注がれるだろう。ただでさえ、リリアナはルシオに愛されていたのだから、子を切望するカトレアにとっては早急に片づけたい問題だ。
「カトレア様は悩んでおられましたが、わたしがリリアナ様の産婆になる事が決まった日、部屋に呼びつけて命じられました。お産のせいでリリアナ様が死んだと見せかけるように、飲み水に毒を混ぜて飲ませろと。そして、子が男児であった場合、首を絞めて殺すよう言われたのです……」
泣き崩れながら今まで抱えていた罪を告白する産婆に、私はかける言葉もなかった。
「リリアナ様には、トウゴマの種から取り出したリネンという毒の入った水を飲ませました。そして、取り上げたお子が男児だったので首を絞めようと思ったのですが、どうしてもできず、わたしはすぐに宮廷を去ることにしたのです……バーバラ様、どうかわたしを裁いてください。お願いします、何の罪もない方の命を、王太子殿下の大事なお母上の命を奪ってしまったのですから……!」
ほとんど絶叫に近い告白に私は一瞬、怯む。しかし、崩れ落ちる彼女の手を握り、目を合わせて宣言する。
「すべてを教えてくれてありがとう。過去に犯した過ちを悔いることなく、次の犠牲者を出そうとしている人がいる。本当に裁かれるべきなのは、あなたではなく、その人よ。安心なさい、私は必ず止めてみせるから」
「王妃殿下……」
私は小さな背中を抱き締める。体が老いても、宮廷を去っても、なお罪の意識に苦しめられてきたこの人の心が開放されるよう願った。
ベアトリスの町は自然豊かでとてものどかな場所だった。ヤギや鶏などが自由に闊歩している。
農作と養鶏が有名らしい。
「バーバラ様、産婆の家は私の方で調べさせていただきました。場所は護衛に知らせてありますので、この者を付けてください」
ギルはそう言い、一人の護衛騎士を紹介した。彼の手際の良さに関心していると、治水工事の現場確認がありますのでと私に手を振って去って行く。
無駄のない彼の言動が好ましい。どこかのアホも見習って欲しいくらいだ。
護衛騎士が先導してくれた産婆の家というのは、古びた一軒家だった。屋根の瓦はところどころ剥がれ落ちていて、壁には蔦が絡まっている。
私は扉を叩き、産婆の名を呼んだ。家の中からは物音がしなかったので留守かと思い、踵を返そうとした時。
「ローザはわたしでございますが……」
庭の方から背中の曲がった老婦人が出てきた。
「貴女がリリアナの産婆?」
リリアナという名を口にした時、彼女はひどく怯える。私を警戒する色が目に浮かんでいたので名乗ることにした。
「あぁ、王妃殿下……。こんな田舎町までお越しいただくなんて。何もありませんが、家の中へどうぞ」
産婆は軋む扉を開け、私達を中へと招いてくれた。家の中は埃っぽく、内装を見たところ、彼女だけで暮らしているようだ。
「私が来たのはリリアナのお産について貴女に聞きたい事があったからなの」
言うと産婆は震えだし、祈りの姿勢になった。
「お許しください、カトレア様……」
「なぜカトレアの名が出てくるの?」
「わたしはカトレア様のお母上の産婆でございました。お母上は子沢山な方でしたので何度も子を取り上げるうち、場数を踏んだ産婆になっておりました。その後は、カトレア様の乳母となり、宮廷へと入ったのです」
私は黙って彼女の話の続きを聞く。
「国王陛下の第二夫人となったカトレア様は大層喜んでおられました。幼い頃から王の妃になる事が夢でしたので。そして、次期国王の母になるという次の夢を叶えようとしておりましたが、なかなか子宝に恵まれず……焦っているところに第三夫人リリアナ様がご懐妊されたのです」
自分は子が出来ないのに第三夫人リリアナに子、ましてや男児だったらルシオの寵愛はより一層、リリアナに注がれるだろう。ただでさえ、リリアナはルシオに愛されていたのだから、子を切望するカトレアにとっては早急に片づけたい問題だ。
「カトレア様は悩んでおられましたが、わたしがリリアナ様の産婆になる事が決まった日、部屋に呼びつけて命じられました。お産のせいでリリアナ様が死んだと見せかけるように、飲み水に毒を混ぜて飲ませろと。そして、子が男児であった場合、首を絞めて殺すよう言われたのです……」
泣き崩れながら今まで抱えていた罪を告白する産婆に、私はかける言葉もなかった。
「リリアナ様には、トウゴマの種から取り出したリネンという毒の入った水を飲ませました。そして、取り上げたお子が男児だったので首を絞めようと思ったのですが、どうしてもできず、わたしはすぐに宮廷を去ることにしたのです……バーバラ様、どうかわたしを裁いてください。お願いします、何の罪もない方の命を、王太子殿下の大事なお母上の命を奪ってしまったのですから……!」
ほとんど絶叫に近い告白に私は一瞬、怯む。しかし、崩れ落ちる彼女の手を握り、目を合わせて宣言する。
「すべてを教えてくれてありがとう。過去に犯した過ちを悔いることなく、次の犠牲者を出そうとしている人がいる。本当に裁かれるべきなのは、あなたではなく、その人よ。安心なさい、私は必ず止めてみせるから」
「王妃殿下……」
私は小さな背中を抱き締める。体が老いても、宮廷を去っても、なお罪の意識に苦しめられてきたこの人の心が開放されるよう願った。
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