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4 増員 2
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主砲を撃ちながら後退を続けるCパンゴリン。
徐々にコウキの町へ近づく艦へ、ジン達の乗った馬車がまっしぐら。時折飛んで来る敵の射撃武器が近くの大地を抉り、雇われ御者は悲鳴を上げて泣きそうになる。
だが艦の方もジン達の接近を察知し、敵の攻撃から庇って遮りつつ横腹のハッチを開けた。馬車はそこへ駆け込む。
格納庫に馬車が入ると、すぐにハッチは閉められた。ジン達は急いで馬車から飛び出す。
格納庫にはヴァルキュリナもいて、出て来たメンバーの中にクロカがいるのを見て声を上げた。
「彼女を連れてきてくれたか!」
「あ……シ、シシ、お久しぶり」
作り笑いを浮かべるクロカ。ヴァルキュリナとは知人のようだが、クロカの方はあまり親しみを感じていないようであった。
だがそんな事を気にせず、ジンはヴァルキュリナへ訴える。
「これ以上町に近づけないでくれ。あそこが巻き込まれる」
その脳裏では、魔王軍に襲われて負傷し、犠牲者まで出したハチマの街の人々を思い出していた。
(俺がそんな事を気にするなんてな。転移前には考えた事も無かったのに……)
自分の変化に自分で違和感を覚えるジン。
とはいえ、戦闘に巻き込まれた被害者を目の当たりにしたのがこの世界に転移した後しか無いのだ。そう思えばおかしくはないのかもしれない。
だがそこまで考えるほどの余裕は今のジンには無かった。
一方、ヴァルキュリナは難色を示す。
「まだ補給班が戻っていない。置いていくわけにはいかないから、この戦闘から逃亡はできなくなる。何が何でも勝ってもらう事になるぞ。そんな保証ができるのか?」
「おいおい、アニキが負けると思ってるのか? 白銀級には前に勝ったんだぜ」
抗議するのはゴブオだ。だがそれをジンは圧し留めた。
「それがわかって攻めてくる相手だからな。誰にも勝ちは保証できねぇ」
ジンの言葉に、一瞬、気まずい沈黙が下りた。
それを破ったのはクロカの笑い声。
「シシシ……だったら『ダメだった時は責任とってハラキリする』とでも約束すれば?」
どこか馬鹿にしたような言い方である。
だがそれを聞いたジンは――
「なんだ、そんな事でいいのか。わかった、それでいこう」
町を利用して建物を盾にした方が……地形効果として活用した方が圧倒的に楽である。
だがそれをしないばかりか、自分の命をかけるとまで言い出した。
なぜそんな事を言うのか、実はジン自身にもわからない。
(どう考えても俺らしくねぇ……)
そう思うが、確かに己が言ったのだ。
クロカにして見れば「そこまでできないだろ?」と言うからかい半分だったのである。それがあっさりと受け入れられた。
「え……マジデ?」
彼女が目を丸くするのも仕方ないだろう。
「ちょ、ちょっと、ジン!」
ナイナイが焦る。それも仕方ない事だろう。
だがヴァルキュリナは頷いた。
「了解した。ではジンの提案どおり、町にはこれ以上近づかない。補給班は敵を撃退した後に改めて合流を待つ。これが私の判断だ」
「いや、逃げられない状況で負けたらどうせ艦も落ちて死ぬし……」
クロカが焦りながら言う。
だがジンは笑いながら肩を竦めた。
「悪いな、ドワーフ娘さんよ。乗った早々腕を発揮する暇なくお終いかもな。そうなったらあの世で思う存分殴ってくれ」
「ふざけんな! 私はまだこの世に未練あるっつーの!」
怒鳴るクロカ。青筋を浮かべたままヴァルキュリナへ向き直る。
「ねぇねぇちょいと! COCPは貯まってるね? アイテム作るよ!」
今度はジンが驚く番だ。
「今この場でか!? そんなバカな……」
しかしすぐに思い直した。
(……わけでもねぇのかよ? 魔法がある世界だ、そういう物だと言われたらそうなのかもしれねぇ)
クロカはポケットから羊皮紙を取り出した。
「ほれ、私が準備している物リストだ。ここに書いてある物なら一つ30秒で作れるから!」
羊皮紙を渡されたジンはそれにざっと目を通す。
その頭上から、恐る恐る声をかけるリリマナ。
「ねぇねぇ……ジン、負けたら本当に死んじゃの?」
「そういう事になったみたいだな」
羊皮紙から顔を上げずに答えるジン。
リリマナは一瞬唇を噛むと、必死な声をあげた。
「私、そんな事させないよォ!」
言われてジンは視線をあげる。妖精の少女と目が合うと――その一生懸命な気持ちが見えて――フッとほほ笑んだ。
「ああ。頼りにしてるからよ」
「ウン!」
勢いよく頷くリリマナ。
それから何度か艦が揺れた頃。
ジン達はようやく準備を済ませ、ケイオス・ウォリアーの操縦席にいた。通信をブリッジに繋ぎ、モニター越しにヴァルキュリナへ伝える。
「待たせたな! こちらジン、出るぞ!」
ハッチが開き、ジンのBカノンピルバグが飛び出した。ナイナイ機も、ダインスケン機も。
着地して戦闘態勢をとると……眼前には十以上の敵機の姿。
『うわ……今日の敵部隊は数が多いね』
逃げる艦を追いかけてくるのは、犬頭の機体だ。
「猛獣型ケイオス・ウォリアーの中でも、この犬型の奴は生産し易いんだよ」
リリマナの説明を聞きながら、ジンは己のスピリットコマンド【スカウト】で敵の能力を探り、モニターに映し出す。
魔王軍兵 レベル10
Bダガーハウンド
HP:4000/4000 EN:170/170 装甲:1200 運動:95 照準:145
格 ダガーショット 攻撃2500 射程1―4
射 ワイルドバイト 攻撃2600 射程P1
性能的には、今までで最弱といって良かった。
「数は多いが質は伴ってねぇな。連携を強めて粘り強く戦えばなんとかなるだろうよ」
弱いといってもさほど大きく劣っているわけではない。油断は禁物である。
だが油断をしなければ、既に戦い慣れてきていたジン達が後れをとる事もない。
Cパンゴリンは町から逸れた方に移動し、ジン達3機はそれの周りを固めながら戦う。
「敵軍、北北東! 60秒後に距離5! 砲撃用意!」
ブリッジから指示を飛ばすヴァルキュリナ。何人ものクルーとともに操縦する艦は、戦況を把握・予測する能力も高い。それに基づいた指示をいかに出せるかが、この世界の艦長達の【指揮官】スキルで表されている。
指示を聞きながら目標を定め、仲間の攻撃を援護して攻撃を重ね、敵の攻撃からは互いに庇いあう。ジン機の砲撃が敵を撃ち、ダインスケン機の爪が敵を裂く。ナイナイ機はそれらを的確に援護し、艦は遠くの敵を砲撃で、肉薄してきた敵をゴブオの騎獣砲で撃った。
数は多くても各機バラバラに攻めてくる雑兵は着実に数を減らし――最後の機体がやがて倒れた。
(呆気ないな。数が多いとはいえこんな無策で攻めるなんて不自然……)
ジンが嫌な予感を覚えていると、戦闘MAPに新たな敵影が出現する! しかもさっきよりさらに多数が。
「増援か! 一気に出てきて勝負をかける気だな……」
その声を笑う者があった。
『ククク……戦力の逐次投入は悪手だからな。相手がぶつかる気になったらこちらの全てを出す。それがこのワシ、魔王軍親衛隊最強の戦士・マスターファングの戦法よ!』
声の主は増援のうちの一機。ジン達から最も遠く離れた敵陣の最奥、そこに他とは違うアイコンが表示されている。
ジンはそれに【スカウト】のコマンドを放った。
マスターファング レベル15
Sマチェットウルフ
HP:17000/17000 EN:200/200 装甲:1800 運動:100 照準:155
ブラックアイアンフィールド
射 デッドハウリング 攻撃3200 射程1―6
格 ヘッドバット 攻撃3500 射程P1
格 ブレードファング 攻撃4200 射程P1
ブラックアイアンフィールド:2000以下のダメージを無効化するバリア。
やはり白銀級機。胸部や腕部の鎧は量産機より厚く装飾も多く、両手には山刀。その頭は狼のそれで、長い牙が剝きだしている。
(今度はバリア持ちか。ある程度の火力が無ければ絶対に勝てないときやがった)
嫌気がさしながらもジンはステータス画面を切り替える……敵パイロットの能力欄へと。
マスターファング レベル15
格闘183 射撃178 技量200 防御161 回避91 命中121 SP80
ケイオス4 気力+(味方撃墜) 気力限界突破2 ガード2
気力+(味方撃墜):味方が撃破されると気力が余分に上昇
気力限界突破2:気力上限が160
ガード2:気力130以上で被ダメージ-15%
(確か……気力はふつう150が最大値だよな。なるほど……)
「数を出してくるわけだ。量産機を蹴散らしたら、親衛隊は気力限界突破すると。しかもバリアと防御系技能を併用する気満々か……」
敵隊長のステータスを確認してうんざりするシン。
一方、敵――マスターファングは声高に言った。
『そうだ。部下を倒される怒りと悲しみがワシを強くする。我が部隊の血を流した者ども、それ以上の血で償ってもらうぞ!』
「だったら捨て駒前提の戦い方をさせんな! スジが通ってねぇ!」
ジンは怒鳴ったが、もちろん敵は戦法を変えたりはしないのだ。
『どうしよう……敵を倒すほど、親衛隊が強くなっちゃうんだよね?』
「だからって倒さないわけにいかないよォ!」
うろたえるナイナイ、悲鳴みたいな声をあげるリリマナ。
動揺する声を聞きながらジンは檄を飛ばす。
「固まれ! 陣形を組んで援護し合いながら戦え!」
ここまでもその戦い方はしているが、あえてジンはそう指示を出した。
動揺するなと。自分達の戦法を変えるなと。それを伝えたかったからだ。
しかし敵に合わせ、多少の調整はする。敵の増援が真正面から数で圧そうとするが――
「場所を変えるぞ。ここだ!」
味方へ戦闘マップの座標を指示するジン。北から迫る敵の正面からズレた場所――増援の南西へ自軍を誘導した。
そんなジン達を追って、敵は北と東から襲い掛かって来る。そして両軍激突――!
『撃つよ! いっけぇ!』
僅かに速く迫っていた北側の敵へ、ナイナイ機のMAP兵器が炸裂した! インパルスウェーブに包まれた空間内で、高周波振動が敵機を砕き、耐えた機体も半壊させる。
そこへジン、ダインスケン、母艦からの攻撃が追い打ちをかけた。
だが東から脇腹をつくように残り半数が突っ込んでくる。先陣の、そして北側の部隊の仇をとらんと。
それを再び、MAP兵器・インパルスウェーブが迎え撃った。
(グフフ……勝った。大量のENを消費するMAP兵器を二発も撃った。通常戦闘も考えれば、既に一度は補給装置を使っているだろう)
後方で戦闘を窺いつつ、マスターファングは一人ほくそ笑む。
(しかし補給装置を使えば操縦者の気力は低下する! だから一つの戦闘で何度も補給し続けては、気力制限のある強力な武器は使えない!)
ケイオス・ウォリアーの表示によれば、一度の補給で気力は10低下する。
防戦しながら補給機と連結し、ENタンクや弾倉を交換する作業が、気力の持続に穴をあける故に。
機体に循環している異界流の流れが妨げられる故に。
スタミナ回復魔法の応用で造られた機能が操縦者の精神を鎮めてしまう故に。
それら故に、対象機操縦者の気力を減じる反作用がケイオス・ウォリアーの汎用補給装置にはある。
よって気力制限のある武器を持つ機体、気力が一定以上で発動するスキルの習得者は、むやみやたらと補給装置に頼る事はできないのである。
だからマスター・ファングは笑っているのだ。
(奴らの合体技……その威力でワシを倒すには5発は必要だ。ワシの高まった気力とスキル、この機体の耐久性があればな。だがやつらの機体のEN……180では最大でも4発、ましてやあれだけMAP兵器を撃っていれば3発でもギリギリだろう! だがあれ以上補給を繰り返せば気力が下がって合体技は使えん! やつらの通常武器ではガードスキルとバリアの二重防壁は破れん! 奴らには――もはやワシを倒す術は無いのだ!)
勝ちを確信するマスターファング。
戦闘マップから、彼以外の魔王軍兵士が全て消えた。
マスターファングは笑いながら言う。
『よくもやりおったな。部下達の怨念を受けるがいい』
彼の機体が重々しく歩き出した。ジン達の方へと。
だが歩きながら彼は予想外の事に気づく。
『むう? おかしい……気力が思ったほど高まらん。160に達している筈なのに、なぜ150しかないのだ?』
「MAP兵器でまとめて消された分は、一匹ずつ認識して怒ったり悲しんだりし難いんじゃねぇか?」
ジンはそう言ってやったが、別に確信があるわけではない。
ただ彼が遊んでいたゲームシリーズも、プログラムの都合上、MAP兵器で敵をまとめて倒しても他のキャラの気力には影響しない作品が多かった。ただそれだけだ。
だがマスターファングにはまだ余裕があった。
『小賢しい。しかしこれだけの気力でも、ワシの機体を鋼の塊にする事は可能だ!』
彼の防御系スキル・ガード(レベル2)の発動気力は130である。150なら十分にクリアしているのだ。
『グフフ……残弾もENも既に消耗しているだろう。MAP兵器まで派手に撃ったのではな。貴様らが合体技でなかなかの火力を出す事は知っているが、ワシを倒せるまで撃てねば意味があるまい!』
Sマチェットウルフが、いよいよ射程内に踏み込もうとしていた。
そしてジンのとった行動は。
「いくぞリリマナ!」
「任せて!」
二人そろって――「「ウィークン!!」」
敵の気力を低下させるスピリットコマンドの重ねがけである。
しかしマスターファングは笑っていた。
『その手段はお見通しよ。だが貴様らが飛ばせるのは2発程度のはず。130も気力が残ればワシのスキルは発動する……なにぃッ!?』
笑い顔が凍り付き、驚愕に歪む。
【ウィークン】により、4度もの脱力感がマスターファングを襲ったのだ!
ジンのレベル上がり、SPが増えていたせいもある。
そしてジンがSP回復アイテムをリリマナに用意してもらったからでもある。
「なんだ。意外と美味いじゃねぇか」
SPが50回復する【ミッドナイトポーション】の瓶を、ジンはドリンクホルダーに戻した。黒いポーションはコーラのような味だった。
『おのれ、卑怯な奴らめ! だがワシはまだ負けたわけではない!』
歯軋りしながらも吠えるマスターファング。
ジン達の――というよりMAP兵器担当のBバイブグンザリの消耗次第では、自機Sマチェットウルフを倒しきるほど合体技を出す事はできないだろう。そうなればバリアのある自分の勝ちだ。
その上、合体技は参加するメンバーがいてのもの。一機でも撃墜すればもはや使えない。
マチェットウルフが両手の蛮刀を振り上げる。
格 ブレードファング 攻撃4200 射程P1―1
二刀の刃と二本の牙が敵を八つ裂きにする獰猛な攻撃! それはナイナイのBバイブグンザリを襲った!
炸裂!
「ふん……結構痛いじゃねぇか」
だがその四つの斬撃は、割り込んだジンのBカノンピルバグが食い止めていた。
モニターに表示される情報をジンは読み取る。
(防御して威力を半減させても2000以上のダメージかよ。流石は白銀級、真正直に撃ちあうとやられるな……)
そのジン機の陰でナイナイが叫ぶ。
『今度はこっちが! トライシューっト!』
動きの止まったマチェットウルフへ撃ち込まれる光の輪。一秒と間をあけず続いて炸裂する砲弾と爪手裏剣。
叩きだされたダメージは……4800以上!
三発の同時攻撃が炸裂した瞬間、ウルフの装甲表面は黒く変色し、射撃を弾き返そうとした――これがこの機体のバリア機能である――が、一体となった威力はそれを完全に貫いた。
(ふん、やっぱり限界以上のダメージは全く防げないタイプのバリアか)
予想通りの結果を確認するジン。「減少」ではなく「無効化」と表示された時点でそんな気はしていた。これも昔遊んだゲームと同じだった。
「おのれ! だがまだ……」
『ゲッゲー』
怒りに燃えるマスターファングへ、今度はダインスケンが合体攻撃を放った。完璧な三機同時射撃がさらに白銀級機を撃つ! 再び強烈な攻撃を受けてのけぞるマチェットウルフ。
だが青銅級機なら一撃で倒される威力の攻撃を、それも二度も受けても、白銀級機は倒れないのだ。
『今度はこちらの番よな!』
マスターファングが吠え、マチェットウルフが口から反撃の衝撃波を放つ!
射 デッドハウリング 攻撃3200 射程1―6
だがそれは――Bクローリザードが身を翻して避けた。
ダインスケンのスピリットコマンド【フレア】によって。
(ぐっ……だが他の操縦者全員がそれだけの回避をできるわけでも……)
そう考えるマスターファングの前で――
ジン機とナイナイ機はしかけてこず、合体技に参加できる間合いで機会を伺っていた。
母艦Cパンゴリンは運搬作業用アームを伸ばし、援護防御でダメージを受けたジン機を修理していた。修理・補給装置として使えるアイテム【レスキューマシンナリー】は母艦に積み替えたのだ。
避けられない・耐えられない機体、撃墜されてはいけない母艦。それらはアシスト以外しない、直接ぶつかるのは生存能力のある機体だけ。そういう戦法である。
クローリザードがくいくいと人差し指で「かかってこい」と挑発する。【フレア】をもう何度か使うSPが残っている事は明らかな態度だ。
『貴様ら! 姑息な戦い方しかできんのか!?』
「お前と違って、身内に犠牲者を出したくないからよ」
怒鳴るマスターファング、悪びれないジン。
激怒したマスターファングは再び蛮刀で斬りかかった。今度はジンのピルバグへと。
今度は母艦が割り込んで食い止め、その陰からジンが反撃した。
「対応は臨機応変、かつ作戦通りにな。ほらよ……トライシュートォ!」
三機同時射撃が三度、白銀級機を抉る!
もはや残りHPは3000未満。
しかし、マスターファングは……この期に及んで笑っていた。
『よくやった……だがワシを倒しきる事はできなかったな。あと一撃……そのENはあるか? 無かろう? ならばこちらのバリアを貫ける攻撃はもう無い。ワシの勝ちだ!』
確かにBバイブグンザリにはもう20程度しかENが残っていない。MAP兵器で大量に、通常射撃武器でも少しずつENを消費する以上、他の2機より遥かに消耗は激しい。
そのグンザリが腰部カバーを開け【リカバータンク】を取り出した。ENが250回復するアイテムである。ENを回復したグンザリは、空になった【リカバータンク】を再びしまった。
なおアイテムでのEN回復は補給装置と違い気力が低下しない。
どうやら「ENがまだ残っていた」判定のようだ。
『なんでそんなに回復消耗品が好きなんじゃあ!』
「別に好きじゃねぇ。数値を上げる強化パーツで強いブツが手に入らないだけだからよ」
怒鳴るマスターファング、悪びれないジン。
『いくよ! トライ、シュートッ!』
ナイナイの声とともに三発の弾がマチェットウルフを貫く!
『な、なんという! もっと部下を連れてきていれば……!』
その呟きを残し、白銀級機・Sマチェットウルフは爆発した。
「勝ったぜ。ありがとよ」
戦闘MAPから敵の識別アイコンが全て消えてから、ジンは母艦に通信を送った。
『ああ。町へ補給班を迎えに行くとしよう』
ヴァルキュリナが事務的な口調で返信する。
が……艦が向きを変える中、遅れて通信が続く。
『……ジン。貴方なら勝ってくれると、期待はしていた』
気のせいか。声はいつもより気持ち柔らかかった。
「俺が勝ったわけでもないだろ。文句言ってやれ、ダインスケン」
『ゲッゲー』
ジンが言うとダインスケンが応えた。
徐々にコウキの町へ近づく艦へ、ジン達の乗った馬車がまっしぐら。時折飛んで来る敵の射撃武器が近くの大地を抉り、雇われ御者は悲鳴を上げて泣きそうになる。
だが艦の方もジン達の接近を察知し、敵の攻撃から庇って遮りつつ横腹のハッチを開けた。馬車はそこへ駆け込む。
格納庫に馬車が入ると、すぐにハッチは閉められた。ジン達は急いで馬車から飛び出す。
格納庫にはヴァルキュリナもいて、出て来たメンバーの中にクロカがいるのを見て声を上げた。
「彼女を連れてきてくれたか!」
「あ……シ、シシ、お久しぶり」
作り笑いを浮かべるクロカ。ヴァルキュリナとは知人のようだが、クロカの方はあまり親しみを感じていないようであった。
だがそんな事を気にせず、ジンはヴァルキュリナへ訴える。
「これ以上町に近づけないでくれ。あそこが巻き込まれる」
その脳裏では、魔王軍に襲われて負傷し、犠牲者まで出したハチマの街の人々を思い出していた。
(俺がそんな事を気にするなんてな。転移前には考えた事も無かったのに……)
自分の変化に自分で違和感を覚えるジン。
とはいえ、戦闘に巻き込まれた被害者を目の当たりにしたのがこの世界に転移した後しか無いのだ。そう思えばおかしくはないのかもしれない。
だがそこまで考えるほどの余裕は今のジンには無かった。
一方、ヴァルキュリナは難色を示す。
「まだ補給班が戻っていない。置いていくわけにはいかないから、この戦闘から逃亡はできなくなる。何が何でも勝ってもらう事になるぞ。そんな保証ができるのか?」
「おいおい、アニキが負けると思ってるのか? 白銀級には前に勝ったんだぜ」
抗議するのはゴブオだ。だがそれをジンは圧し留めた。
「それがわかって攻めてくる相手だからな。誰にも勝ちは保証できねぇ」
ジンの言葉に、一瞬、気まずい沈黙が下りた。
それを破ったのはクロカの笑い声。
「シシシ……だったら『ダメだった時は責任とってハラキリする』とでも約束すれば?」
どこか馬鹿にしたような言い方である。
だがそれを聞いたジンは――
「なんだ、そんな事でいいのか。わかった、それでいこう」
町を利用して建物を盾にした方が……地形効果として活用した方が圧倒的に楽である。
だがそれをしないばかりか、自分の命をかけるとまで言い出した。
なぜそんな事を言うのか、実はジン自身にもわからない。
(どう考えても俺らしくねぇ……)
そう思うが、確かに己が言ったのだ。
クロカにして見れば「そこまでできないだろ?」と言うからかい半分だったのである。それがあっさりと受け入れられた。
「え……マジデ?」
彼女が目を丸くするのも仕方ないだろう。
「ちょ、ちょっと、ジン!」
ナイナイが焦る。それも仕方ない事だろう。
だがヴァルキュリナは頷いた。
「了解した。ではジンの提案どおり、町にはこれ以上近づかない。補給班は敵を撃退した後に改めて合流を待つ。これが私の判断だ」
「いや、逃げられない状況で負けたらどうせ艦も落ちて死ぬし……」
クロカが焦りながら言う。
だがジンは笑いながら肩を竦めた。
「悪いな、ドワーフ娘さんよ。乗った早々腕を発揮する暇なくお終いかもな。そうなったらあの世で思う存分殴ってくれ」
「ふざけんな! 私はまだこの世に未練あるっつーの!」
怒鳴るクロカ。青筋を浮かべたままヴァルキュリナへ向き直る。
「ねぇねぇちょいと! COCPは貯まってるね? アイテム作るよ!」
今度はジンが驚く番だ。
「今この場でか!? そんなバカな……」
しかしすぐに思い直した。
(……わけでもねぇのかよ? 魔法がある世界だ、そういう物だと言われたらそうなのかもしれねぇ)
クロカはポケットから羊皮紙を取り出した。
「ほれ、私が準備している物リストだ。ここに書いてある物なら一つ30秒で作れるから!」
羊皮紙を渡されたジンはそれにざっと目を通す。
その頭上から、恐る恐る声をかけるリリマナ。
「ねぇねぇ……ジン、負けたら本当に死んじゃの?」
「そういう事になったみたいだな」
羊皮紙から顔を上げずに答えるジン。
リリマナは一瞬唇を噛むと、必死な声をあげた。
「私、そんな事させないよォ!」
言われてジンは視線をあげる。妖精の少女と目が合うと――その一生懸命な気持ちが見えて――フッとほほ笑んだ。
「ああ。頼りにしてるからよ」
「ウン!」
勢いよく頷くリリマナ。
それから何度か艦が揺れた頃。
ジン達はようやく準備を済ませ、ケイオス・ウォリアーの操縦席にいた。通信をブリッジに繋ぎ、モニター越しにヴァルキュリナへ伝える。
「待たせたな! こちらジン、出るぞ!」
ハッチが開き、ジンのBカノンピルバグが飛び出した。ナイナイ機も、ダインスケン機も。
着地して戦闘態勢をとると……眼前には十以上の敵機の姿。
『うわ……今日の敵部隊は数が多いね』
逃げる艦を追いかけてくるのは、犬頭の機体だ。
「猛獣型ケイオス・ウォリアーの中でも、この犬型の奴は生産し易いんだよ」
リリマナの説明を聞きながら、ジンは己のスピリットコマンド【スカウト】で敵の能力を探り、モニターに映し出す。
魔王軍兵 レベル10
Bダガーハウンド
HP:4000/4000 EN:170/170 装甲:1200 運動:95 照準:145
格 ダガーショット 攻撃2500 射程1―4
射 ワイルドバイト 攻撃2600 射程P1
性能的には、今までで最弱といって良かった。
「数は多いが質は伴ってねぇな。連携を強めて粘り強く戦えばなんとかなるだろうよ」
弱いといってもさほど大きく劣っているわけではない。油断は禁物である。
だが油断をしなければ、既に戦い慣れてきていたジン達が後れをとる事もない。
Cパンゴリンは町から逸れた方に移動し、ジン達3機はそれの周りを固めながら戦う。
「敵軍、北北東! 60秒後に距離5! 砲撃用意!」
ブリッジから指示を飛ばすヴァルキュリナ。何人ものクルーとともに操縦する艦は、戦況を把握・予測する能力も高い。それに基づいた指示をいかに出せるかが、この世界の艦長達の【指揮官】スキルで表されている。
指示を聞きながら目標を定め、仲間の攻撃を援護して攻撃を重ね、敵の攻撃からは互いに庇いあう。ジン機の砲撃が敵を撃ち、ダインスケン機の爪が敵を裂く。ナイナイ機はそれらを的確に援護し、艦は遠くの敵を砲撃で、肉薄してきた敵をゴブオの騎獣砲で撃った。
数は多くても各機バラバラに攻めてくる雑兵は着実に数を減らし――最後の機体がやがて倒れた。
(呆気ないな。数が多いとはいえこんな無策で攻めるなんて不自然……)
ジンが嫌な予感を覚えていると、戦闘MAPに新たな敵影が出現する! しかもさっきよりさらに多数が。
「増援か! 一気に出てきて勝負をかける気だな……」
その声を笑う者があった。
『ククク……戦力の逐次投入は悪手だからな。相手がぶつかる気になったらこちらの全てを出す。それがこのワシ、魔王軍親衛隊最強の戦士・マスターファングの戦法よ!』
声の主は増援のうちの一機。ジン達から最も遠く離れた敵陣の最奥、そこに他とは違うアイコンが表示されている。
ジンはそれに【スカウト】のコマンドを放った。
マスターファング レベル15
Sマチェットウルフ
HP:17000/17000 EN:200/200 装甲:1800 運動:100 照準:155
ブラックアイアンフィールド
射 デッドハウリング 攻撃3200 射程1―6
格 ヘッドバット 攻撃3500 射程P1
格 ブレードファング 攻撃4200 射程P1
ブラックアイアンフィールド:2000以下のダメージを無効化するバリア。
やはり白銀級機。胸部や腕部の鎧は量産機より厚く装飾も多く、両手には山刀。その頭は狼のそれで、長い牙が剝きだしている。
(今度はバリア持ちか。ある程度の火力が無ければ絶対に勝てないときやがった)
嫌気がさしながらもジンはステータス画面を切り替える……敵パイロットの能力欄へと。
マスターファング レベル15
格闘183 射撃178 技量200 防御161 回避91 命中121 SP80
ケイオス4 気力+(味方撃墜) 気力限界突破2 ガード2
気力+(味方撃墜):味方が撃破されると気力が余分に上昇
気力限界突破2:気力上限が160
ガード2:気力130以上で被ダメージ-15%
(確か……気力はふつう150が最大値だよな。なるほど……)
「数を出してくるわけだ。量産機を蹴散らしたら、親衛隊は気力限界突破すると。しかもバリアと防御系技能を併用する気満々か……」
敵隊長のステータスを確認してうんざりするシン。
一方、敵――マスターファングは声高に言った。
『そうだ。部下を倒される怒りと悲しみがワシを強くする。我が部隊の血を流した者ども、それ以上の血で償ってもらうぞ!』
「だったら捨て駒前提の戦い方をさせんな! スジが通ってねぇ!」
ジンは怒鳴ったが、もちろん敵は戦法を変えたりはしないのだ。
『どうしよう……敵を倒すほど、親衛隊が強くなっちゃうんだよね?』
「だからって倒さないわけにいかないよォ!」
うろたえるナイナイ、悲鳴みたいな声をあげるリリマナ。
動揺する声を聞きながらジンは檄を飛ばす。
「固まれ! 陣形を組んで援護し合いながら戦え!」
ここまでもその戦い方はしているが、あえてジンはそう指示を出した。
動揺するなと。自分達の戦法を変えるなと。それを伝えたかったからだ。
しかし敵に合わせ、多少の調整はする。敵の増援が真正面から数で圧そうとするが――
「場所を変えるぞ。ここだ!」
味方へ戦闘マップの座標を指示するジン。北から迫る敵の正面からズレた場所――増援の南西へ自軍を誘導した。
そんなジン達を追って、敵は北と東から襲い掛かって来る。そして両軍激突――!
『撃つよ! いっけぇ!』
僅かに速く迫っていた北側の敵へ、ナイナイ機のMAP兵器が炸裂した! インパルスウェーブに包まれた空間内で、高周波振動が敵機を砕き、耐えた機体も半壊させる。
そこへジン、ダインスケン、母艦からの攻撃が追い打ちをかけた。
だが東から脇腹をつくように残り半数が突っ込んでくる。先陣の、そして北側の部隊の仇をとらんと。
それを再び、MAP兵器・インパルスウェーブが迎え撃った。
(グフフ……勝った。大量のENを消費するMAP兵器を二発も撃った。通常戦闘も考えれば、既に一度は補給装置を使っているだろう)
後方で戦闘を窺いつつ、マスターファングは一人ほくそ笑む。
(しかし補給装置を使えば操縦者の気力は低下する! だから一つの戦闘で何度も補給し続けては、気力制限のある強力な武器は使えない!)
ケイオス・ウォリアーの表示によれば、一度の補給で気力は10低下する。
防戦しながら補給機と連結し、ENタンクや弾倉を交換する作業が、気力の持続に穴をあける故に。
機体に循環している異界流の流れが妨げられる故に。
スタミナ回復魔法の応用で造られた機能が操縦者の精神を鎮めてしまう故に。
それら故に、対象機操縦者の気力を減じる反作用がケイオス・ウォリアーの汎用補給装置にはある。
よって気力制限のある武器を持つ機体、気力が一定以上で発動するスキルの習得者は、むやみやたらと補給装置に頼る事はできないのである。
だからマスター・ファングは笑っているのだ。
(奴らの合体技……その威力でワシを倒すには5発は必要だ。ワシの高まった気力とスキル、この機体の耐久性があればな。だがやつらの機体のEN……180では最大でも4発、ましてやあれだけMAP兵器を撃っていれば3発でもギリギリだろう! だがあれ以上補給を繰り返せば気力が下がって合体技は使えん! やつらの通常武器ではガードスキルとバリアの二重防壁は破れん! 奴らには――もはやワシを倒す術は無いのだ!)
勝ちを確信するマスターファング。
戦闘マップから、彼以外の魔王軍兵士が全て消えた。
マスターファングは笑いながら言う。
『よくもやりおったな。部下達の怨念を受けるがいい』
彼の機体が重々しく歩き出した。ジン達の方へと。
だが歩きながら彼は予想外の事に気づく。
『むう? おかしい……気力が思ったほど高まらん。160に達している筈なのに、なぜ150しかないのだ?』
「MAP兵器でまとめて消された分は、一匹ずつ認識して怒ったり悲しんだりし難いんじゃねぇか?」
ジンはそう言ってやったが、別に確信があるわけではない。
ただ彼が遊んでいたゲームシリーズも、プログラムの都合上、MAP兵器で敵をまとめて倒しても他のキャラの気力には影響しない作品が多かった。ただそれだけだ。
だがマスターファングにはまだ余裕があった。
『小賢しい。しかしこれだけの気力でも、ワシの機体を鋼の塊にする事は可能だ!』
彼の防御系スキル・ガード(レベル2)の発動気力は130である。150なら十分にクリアしているのだ。
『グフフ……残弾もENも既に消耗しているだろう。MAP兵器まで派手に撃ったのではな。貴様らが合体技でなかなかの火力を出す事は知っているが、ワシを倒せるまで撃てねば意味があるまい!』
Sマチェットウルフが、いよいよ射程内に踏み込もうとしていた。
そしてジンのとった行動は。
「いくぞリリマナ!」
「任せて!」
二人そろって――「「ウィークン!!」」
敵の気力を低下させるスピリットコマンドの重ねがけである。
しかしマスターファングは笑っていた。
『その手段はお見通しよ。だが貴様らが飛ばせるのは2発程度のはず。130も気力が残ればワシのスキルは発動する……なにぃッ!?』
笑い顔が凍り付き、驚愕に歪む。
【ウィークン】により、4度もの脱力感がマスターファングを襲ったのだ!
ジンのレベル上がり、SPが増えていたせいもある。
そしてジンがSP回復アイテムをリリマナに用意してもらったからでもある。
「なんだ。意外と美味いじゃねぇか」
SPが50回復する【ミッドナイトポーション】の瓶を、ジンはドリンクホルダーに戻した。黒いポーションはコーラのような味だった。
『おのれ、卑怯な奴らめ! だがワシはまだ負けたわけではない!』
歯軋りしながらも吠えるマスターファング。
ジン達の――というよりMAP兵器担当のBバイブグンザリの消耗次第では、自機Sマチェットウルフを倒しきるほど合体技を出す事はできないだろう。そうなればバリアのある自分の勝ちだ。
その上、合体技は参加するメンバーがいてのもの。一機でも撃墜すればもはや使えない。
マチェットウルフが両手の蛮刀を振り上げる。
格 ブレードファング 攻撃4200 射程P1―1
二刀の刃と二本の牙が敵を八つ裂きにする獰猛な攻撃! それはナイナイのBバイブグンザリを襲った!
炸裂!
「ふん……結構痛いじゃねぇか」
だがその四つの斬撃は、割り込んだジンのBカノンピルバグが食い止めていた。
モニターに表示される情報をジンは読み取る。
(防御して威力を半減させても2000以上のダメージかよ。流石は白銀級、真正直に撃ちあうとやられるな……)
そのジン機の陰でナイナイが叫ぶ。
『今度はこっちが! トライシューっト!』
動きの止まったマチェットウルフへ撃ち込まれる光の輪。一秒と間をあけず続いて炸裂する砲弾と爪手裏剣。
叩きだされたダメージは……4800以上!
三発の同時攻撃が炸裂した瞬間、ウルフの装甲表面は黒く変色し、射撃を弾き返そうとした――これがこの機体のバリア機能である――が、一体となった威力はそれを完全に貫いた。
(ふん、やっぱり限界以上のダメージは全く防げないタイプのバリアか)
予想通りの結果を確認するジン。「減少」ではなく「無効化」と表示された時点でそんな気はしていた。これも昔遊んだゲームと同じだった。
「おのれ! だがまだ……」
『ゲッゲー』
怒りに燃えるマスターファングへ、今度はダインスケンが合体攻撃を放った。完璧な三機同時射撃がさらに白銀級機を撃つ! 再び強烈な攻撃を受けてのけぞるマチェットウルフ。
だが青銅級機なら一撃で倒される威力の攻撃を、それも二度も受けても、白銀級機は倒れないのだ。
『今度はこちらの番よな!』
マスターファングが吠え、マチェットウルフが口から反撃の衝撃波を放つ!
射 デッドハウリング 攻撃3200 射程1―6
だがそれは――Bクローリザードが身を翻して避けた。
ダインスケンのスピリットコマンド【フレア】によって。
(ぐっ……だが他の操縦者全員がそれだけの回避をできるわけでも……)
そう考えるマスターファングの前で――
ジン機とナイナイ機はしかけてこず、合体技に参加できる間合いで機会を伺っていた。
母艦Cパンゴリンは運搬作業用アームを伸ばし、援護防御でダメージを受けたジン機を修理していた。修理・補給装置として使えるアイテム【レスキューマシンナリー】は母艦に積み替えたのだ。
避けられない・耐えられない機体、撃墜されてはいけない母艦。それらはアシスト以外しない、直接ぶつかるのは生存能力のある機体だけ。そういう戦法である。
クローリザードがくいくいと人差し指で「かかってこい」と挑発する。【フレア】をもう何度か使うSPが残っている事は明らかな態度だ。
『貴様ら! 姑息な戦い方しかできんのか!?』
「お前と違って、身内に犠牲者を出したくないからよ」
怒鳴るマスターファング、悪びれないジン。
激怒したマスターファングは再び蛮刀で斬りかかった。今度はジンのピルバグへと。
今度は母艦が割り込んで食い止め、その陰からジンが反撃した。
「対応は臨機応変、かつ作戦通りにな。ほらよ……トライシュートォ!」
三機同時射撃が三度、白銀級機を抉る!
もはや残りHPは3000未満。
しかし、マスターファングは……この期に及んで笑っていた。
『よくやった……だがワシを倒しきる事はできなかったな。あと一撃……そのENはあるか? 無かろう? ならばこちらのバリアを貫ける攻撃はもう無い。ワシの勝ちだ!』
確かにBバイブグンザリにはもう20程度しかENが残っていない。MAP兵器で大量に、通常射撃武器でも少しずつENを消費する以上、他の2機より遥かに消耗は激しい。
そのグンザリが腰部カバーを開け【リカバータンク】を取り出した。ENが250回復するアイテムである。ENを回復したグンザリは、空になった【リカバータンク】を再びしまった。
なおアイテムでのEN回復は補給装置と違い気力が低下しない。
どうやら「ENがまだ残っていた」判定のようだ。
『なんでそんなに回復消耗品が好きなんじゃあ!』
「別に好きじゃねぇ。数値を上げる強化パーツで強いブツが手に入らないだけだからよ」
怒鳴るマスターファング、悪びれないジン。
『いくよ! トライ、シュートッ!』
ナイナイの声とともに三発の弾がマチェットウルフを貫く!
『な、なんという! もっと部下を連れてきていれば……!』
その呟きを残し、白銀級機・Sマチェットウルフは爆発した。
「勝ったぜ。ありがとよ」
戦闘MAPから敵の識別アイコンが全て消えてから、ジンは母艦に通信を送った。
『ああ。町へ補給班を迎えに行くとしよう』
ヴァルキュリナが事務的な口調で返信する。
が……艦が向きを変える中、遅れて通信が続く。
『……ジン。貴方なら勝ってくれると、期待はしていた』
気のせいか。声はいつもより気持ち柔らかかった。
「俺が勝ったわけでもないだろ。文句言ってやれ、ダインスケン」
『ゲッゲー』
ジンが言うとダインスケンが応えた。
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